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幼戦歌  作者: 如月英梨
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初陣

眩しい太陽が空に輝いて町を照らしていた。

涼しいくらいの陽気なのだが、コーレンス王国は熱気で気温が2~3度上がっているように思えた。

町の至る所は男達のやる気で満ちていた。

というのも、今日が争奪戦の当日だからだ。

数ヶ月に1度のペースで開催されている争奪戦は毎回、独身男性の熱気とやる気で満ちていた。

20代前や20代の者には笑顔と少しばかりの緊張が見え、婚期を逃した30代前や30代の男性には緊張よりも焦りがが(うかが)える。

無論、それはローリータナベスタの女性達にも言える事だが、争奪戦では自ら捕まることは出来ないので、男性が自分を捕まえてくれるのを待つしかないのだ。

焦っている割には矛盾した決まりだが昔からの決まりであり、その決まりを変えたら変えたで、婚期を逃した男性陣や女性陣が目の色を変え暴走するのは目に見えているので、無暗に変えることは出来ない。

この決まりは、こういった暴走を防ぐ役割も果たしている。


場所は変わり、ローリータナベスタ。

ローリータナベスタでも同様の熱気に包まれていた。

「わたし、絶対今回で結婚相手見つけるんだから」

「私だってそうよ。あの人に絶対奪ってもらうんだから」

町の至る所では、こういった会話が繰り広げられていた。

しかし見た目が小学生なので少しばかり異様である。



「やはり当日は熱気に溢れるな」

「そうだね~」

ドロレスとクララが王室で話し合っていた。

ドロレスは頭には白と黒のヘッドドレスと丈の短い黒を基調としたフリルが沢山あしらわれているビスチェ・ドレスに身を包んでいた。

クララは涼と会った時とはデザインの違う薄桃色のワンピースに身を包んでいた。

「クララは今回の争奪戦、どう挑む?」

「今回はりょーくんの初陣だからね。それを見ようかなって。もちろん参加するけどね」

「そうか。まあ、クララと私はまだ若いからな。焦ることもないだろう」

「ロリちゃん17歳だもんね。わたしのが年上なんだよ?」

「昔からの付き合いだろう。細かいことは気にするな」

「だね」

ドロレスはこの若さで国を任されている。

ドロレスの父親は早くに他界している為、母独りである。

その母親もドロレスには結婚のこと以外には特に何も言わないので、ドロレスも至って自由にやっている。

「しかし、結婚に関して母が結構言ってくるのでな。焦っていなくとも別の圧力があるのだ」

「大変だね」

「ふむ。クララのご両親はどうしているのだ?」

「お父さんとお母さんは今は旅行中なの。だからわたし独りなんだよね」

「相変わらず仲の良いご両親だな」

「わたしはそのお陰で自由にやらせてもらってるけどね」


それから少しして、争奪戦まで後2時間となった頃、ドロレスは椅子から立ち上がりご飯を頬張っているクララに声をかける。

「そろそろ出発するぞクララ。皆で行くからな。少しばかり時間を要する」

クララは頬張っていたご飯を飲み込んでから返事をする。

「じゃあ、みんなに声かけないといけないね」

「うむ。マイクの準備だな。国全体に流す」

ドロレスは城から町全体が見える場所に移動した。

城のメイド達に用意させたマイクをスタンドに立て、一息置いてから言葉を紡ぐ。

「これより争奪戦に向かう。皆、我々の国とコーレンスの間にある草原に向かう。私について来い」

その言葉を受けて国中から歓声が起こる。

そして皆はドロレスを先頭に、コーレンス王国へ向かった。


コーレンス王国側も同様に草原に向かう準備をしていた。

既にリオンが国民に声をかけているので、暫くすれば準備が整うだろう。

涼の家にはそのリオンがやって来ていた。

「さて、いよいよ涼さんの初陣です。ルールは前にお教えした通り簡単ですから、後は実際に見て下されば分かります」

「上手くできますかね……」

「大丈夫ですよ。何も殺し合いをする訳ではありませんから。クララさんも居るでしょうから、クララさんを狙って行動すればいいだけですよ。捕まえ方は自由ですからね」

「はい……」

「さて、そろそろ向かいましょうか」

涼はリオンに連れられて争奪戦に向かった。




***




草原には爽やかな風が吹き抜け、空には太陽が笑っている。

しかし、その草原の北東と南西には熱気が渦巻いていた。

ローリータナベスタとコーレンスの面々である。

ドロレスとクララは先頭に居た。

リオンと涼も先頭に居る。

お互いに距離がある為、開始の合図は赤い旗を用いて行う。

「皆、意中の相手が居ることだろう。居ない場合は新たに見つける事だ。時間は1時間だ。健闘を祈るぞ」

ドロレスは赤旗を挙げた。


「さて、こちらもそろそろ行きましょうか涼さん。時間は1時間ですので精一杯戦って下さい」

「分かりました」

涼はリオンの言葉に深く頷いた。

「皆さんも頑張って下さい。無論、私も頑張ります」

リオンも赤旗を挙げた。

互いの旗が挙げられた瞬間、争奪戦が開戦した。


そして、皆は各々に散っていく。

涼は圧倒され、少し固まっていた。

リオンに声をかけられ、我に返った涼はリオンと共に行動する。

彼方此方(あちらこちら)で男性の声があがっている。

その中には悲鳴ような声も混じっていた。

「何ですかあれ? 大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ。いつものことですから」

涼は走るリオンの後ろをついて行く。

狙いはもちろんドロレスとクララである。


「リリアちゃん! 結婚してくれええええええ!!」

「寄るな! 汚らわしい!」

「ぐはっ!」

男は草原に散る。

「リリアちゃああああああん! なら俺と結婚してくれ! うおおおおおお!!」

「寄るなと言っている!」

「その気が強い感じがたまんねぇ!」

「くっ……ならば……」

「俺にはそんなもん効かない!」

「散れ! 童貞!」

「ぎゃああああああ! 言わないでええええええ!!」

その男もまた草原という名の戦場に散る。

精神的な死傷者が出た。

「すまんな。狙ってくれるのは有り難いが私も負けられないんだ」


また別の場所で……

「30前の男の本気を見せてやる!」

顎に髭を生やし筋肉質でガタイの良いダンディーな男が一人の女性と対峙し叫ぶ。

「あんた、そんなこと言ってるけどいつになってもアタシを持って帰ってくれないじゃない! だからアタシも30手前になってんのに! いつまで待たせるの!

結婚したいけど出来ない男女のぶつかり合いも起こっている。

争奪戦は色々な意味で修羅場と化していた。

リオンと涼は他の女の子達には目もくれず、一直線にドロレスとクララのもとへ二人並んで走る。

涼はただ右も左も分からないので、見る余裕が無いだけのように見える。

「涼さん」

「はい。何でしょうか?」

リオンは走りながら隣の涼に声をかける。

「クララさんは手強いですよ。くれぐれも油断されないように」

「わ、分かりました」

ドロレスとクララは涼達の少し前方で複数の男性に取り囲まれている。

それを見たリオンは急に立ち止まった。

「どうしたんですか?」

隣を走っていた涼はリオンの少し前で止まり、疑問を投げかける。

「あれだけ囲まれていては捕まえるのは難しいですから、少し減るまで待ちましょう」

「待つんですか?」

「お二人は一緒に居るみたいなので、まず捕まえるのは不可能でしょう」

「えっ?」

その時、前方から鈍い音と共に(うずくま)る男が見えた。

「おっ……おおお……」

「相変わらず容赦ねぇ……」

その時、また一人の男がクララに両手を広げて向かって行く。

「お、おい! そんな無防備な!」

隣に居た男が向かっていた男に叫ぶ。

しかし男は止まらずに向かって行く。

「がら空きだよ!」

ファイティングポーズをとっていたクララは姿勢を低くして、向かって来た男の懐に滑り込み右アッパーを放った……股間に。

「ぐああっ!!」

「言わんこっちゃない……」

「クララさんに股間を……ふふ……ふふふふふ……」

男は満足そうに微笑んで倒れた。

「ロリちゃん。大丈夫?」

クララは前方の男達を見据えたまま同じく男達に向いて背後に居るドロレスの背中に問いかける。

「問題ない。この状況には慣れている」

「さすがはロリちゃん」

「本気でやるのは良い事だが、クララの場合は少し手加減した方が良いぞ」

「そう?」

ドロレスの言葉にその場に居た男達が一斉に頷いた。

「ええ!? みんなまで!」

「ははははは。皆も同じ意見のようだな」

「むぅ~……」

クララは頬を膨らませて男達を睨む。

「相変わらずクララちゃんの膨れっ面は可愛いなぁ~」

「うんうん。分かるよ分かるよ」

「あのほっぺた突っつきたいなぁ」

クララの威嚇も空しく男達の間には癒しの空気が流れていた。

暫く和やかな空気が流れた後、みんな戦闘体勢に移行する。

「さあ、続けようか。次は誰かな?」

ドロレスは男達に視線を走らせる。

一瞬目が合った筋骨隆々の男がニヤッと笑い、前に歩み出た。

134センチのドロレスから見ると巨人にも見えるほど大きい。

「次は俺が行く」

「おおー! ガルドさんだ!」

「一人ずつくるとは君達も律儀だな」

「お持ち帰りー!」

そう叫ぶや否や、ガルドと呼ばれた男はドロレスに向かって行く。

ドロレスは焦る様子もなくガルドに問う。

「君、頭に塵が付いているぞ。取ってやろう」

「本当か! 頼む」

ガルドは姿勢を低くして頭をドロレスに向ける。

その一瞬、ドロレスの顔が不敵な笑みを浮かべたように見えた。

「ぶべぇ!!」

「「「ええー!!!」」」

何かの力によってガルドが吹き飛び見ていた全員が声をあげる。

ガルドは顔面で数メートル地面を滑って止まり、動かなくなった。

「君達は本当に騙しやすいな。誰も引っ掛からないような嘘にさえ引っ掛かるとは」

ドロレスは右手の甲を(さす)りながら言う。

どうやらドロレスの裏拳がガルドの顔の右側面に炸裂したようだった。

「さて、次は誰かな?」

ドロレスは再び男達を見回すが男達は半ば引いている。

「ロリちゃんも他人のこと言えないくらいのことしてるじゃん!」


一方、それを見ていたリオンは笑っているが涼は唖然としていた。

目の前であんなものを見せられては当然の反応だろう。

「あ、あの……」

「何でしょうか?」

「あれ、絶対に死にますよ?」

「大丈夫ですよ。あれくらいで死ぬような人ではないので」

「あれくらい!? いやいやいや! あんなの絶対に致命傷ですって!」

「しかし、今まで死者は出ていませんからね。大丈夫ですよ」

「でも、別の意味だから大丈夫って言ってませんでしたか?」

「別の意味でも、ですね。肉体的や精神的になどですね」

「これじゃあ、本当の死傷者出てますって!」

「細かい事は気にしないで下さい」

涼の抗議は相変わらず軽く流される。

その間もドロレスとクララはどんどん男達を倒していく。

数十人いたと思われる男達も気づけば3人になっていた。

結婚したいのに出来ない。

その理由は、結婚相手を片っ端から倒していくという争奪戦そのもののような気がする。

普通にお見合いなどをした方がいいのではと思うが、何故この世界の住人はこんなことを始めたのだろう。

色々な考えが頭に浮かぶ涼であったが深くは考えないようにした。

今は落ち着いているが暴走したら自分もあれに近いかもと思う涼であった。

ただ、見ている限りでは馬鹿なのかなとも思うような行動ばかりをとる男達。

「幼女に言われたら断れないのは男の(さが)だろうな。いや……それは俺だけか?」

涼は独りでブツブツと何かを呟いている。

「涼さん。そろそろ行きますよ」

「え? あ、はい」

リオンの呼びかけで我に返った涼はリオンについてドロレスとクララの所へ向かった。


「クララ」

「何? ロリちゃん」

「本命が来たようだぞ」

「?」

クララはその言葉に首を傾げたが、涼の姿を見た瞬間「あ~」と納得した。

「そういうロリちゃんもじゃない」

「ふん。そうだな」

リオンと涼が到着した時にはドロレスとクララの周りには男達の屍が多数転がっていた。

「ようやく来たか。待ち草臥(くたび)れたぞ」

「お待たせしてすみませんでした」

「では、私も本気で行かせてもらうぞ」

「望む所です」

リオンとドロレスは互いにぶつかりあった。


涼とクララはというと。

「りょーくん久しぶり~♪」

「久しぶり」

クララは涼にてくてくと歩み寄ってくると少し見上げて微笑む。

「おう……何という破壊力……」

「元気そうで何よりだね」

「お陰様で」

「話し合いもこれくらいにして、わたし達もそろそろやる?」

「お、おう……。お手柔らかにお願いします」

「おっけ~♪」

そう返事するとクララはすぐにてくてくと涼から距離を取った。

いちいち行動が可愛いクララに涼も見惚れてしまう。

「じゃあいっくよ~」

クララは合図と共に一気に涼に詰め寄った。

「なっ!?」

一瞬の出来事に驚く涼の腹部に軽く拳を入れる。

「ぐっ……」

軽く入ったはずのクララの拳は予想以上に重く、涼は苦痛に顔を歪める。

見惚れていたのもあるがそれ以前に動きが素早いクララ。

相手が女の子ということもあり、対処できない涼にクララは遠慮しなでねと声をかける。

「そうは言うけどなぁ。女の子相手に……」

「結婚は本気と本気でぶつかって、お互いの気持ちを伝えるの。今のりょーくんには何も感じないよ」

「しかし……」

「もう! これは結婚がかかってるんだよ! 本気でぶつかり合ってこそでしょ! 結婚生活は試練の連続だって言うじゃん。なら、これくらい乗り越えないとダメだよ。お互いにね」

「くっ……」

涼は尚も手を出せない。

幼女は愛でるものという涼の考えからすれば今の状況は非常に厳しいようだ。

「今回は無理そうだね。まあ、初めてだし仕方ないね」

涼の意識はクララのその言葉を最後に途切れた。

文章力や表現力の乏しい私では戦闘の表現は難しいです……

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