刹那玻璃の頭の中の妄想は、このすべて…から得ております。
「はぁ!?なんだ?これは!?」
何かを読んでいた、孔明が、珍しく叫ぶ。
「どうしたの?兄様」
弟の均が、小さな手で食事の支度をしている琉璃の手元をハラハラしつつ見つめ、答える。
「どうしたも、こうしたも…何なんだ!?私をなんだと思ってるんだ!!」
「どうしたんだ?あぁ、琉璃。衣が新しく届けられたんだ。後で取りにおいで?」
月英は微笑む。
栗色より金に近い髪の色と、瞳を持つ青年には到底見えない美女である。
「あ、あいっ!んっと、んっと…ありがとうごじゃいましゅ!!」
「いいのいいの、毎回私が趣味なんだから」
「れも…一杯…りゅーりがんばっておしゅごとしましゅ!!」
琉璃の言葉に、3人は振り返り、
「駄目!!」
「絶対に駄目!!」
「まだ弱ってる体を何だと考えている?許さないから」
3人の大好きなお兄さんたちのお手伝いをしたかったらしく、拗ねはしないが、うりゅっと瞳が潤むのを、孔明は気がつき駆け寄る。
「い、言い方がきつかったね!!ごめんね!!あのね?琉璃はまだ、完全に良くなってないでしょ?」
「大丈夫でしゅ!!動けましゅ…ふわわっ!!」
よろけかかった琉璃を抱き締め、
「ほら。まだまだだよ?もうちょっと元気になったら、お勉強したりしようね?」
「あいっ」
食事を終え、一息ついた均は、思い出したように兄を見る。
「そう言えば、兄様。さっきの便りって何?」
「…なんか…作者の企みで、えっと、『光源氏』か『小野篁』か、『安倍晴明』か『源義経』って言う…ここから東にあると言う、蓬莱の国に後世作られた物語の人物や、歴史上の人物になってこいと、無茶ぶりを…。しかも、は、はぁぁぁ!?でなければ、琉璃を月に送り返す…ってどう言うことだ!!」
横から覗き込んだ均は、
「『竹取物語』これは、最古の物語らしいね。…ふーん…竹の節の中にいた小さな赤ん坊を、老夫婦が育てて…美女に育った姫を一目見ようと人が群がるのを拒むように隠れ…5人の貴公子に求婚されて…難題を押し付けられるのか…。でも、5人とも失敗して、最後に皇帝が求婚するけれど、満月の夜に、月から迎えに来た使者とともに、帰っていった…って、悲恋じゃん」
「で、光源氏…『源氏物語』って言う、世界最古の女性の手で書かれた長編小説。紫式部と言うのは、花の名前だが、本人の通称だな。元々は藤原と言う姓を持つ、高級女官。当時珍しいこの国の詩歌や書物を読みこなした才女。父親の役職の式部…当初は藤式部が通称だったが、彼女の描いた若紫と言う女の子を、主人公の光源氏が連れ去り、自分好みの女人に育て上げる。が、恋の遍歴に、出自に、父親の妻である藤壺の女御との密通に、生まれてきた子供の親について、苦悩する…。とはいっても、結構はまるな…描写は細かいし、行事や政治上の駆け引きなども面白い。でも、若紫…紫の上を失ってからは…すぅっと消えていく感じだな。恋の遍歴の数よりも…本当の恋を失ったと思い知らされた男の末路…。凄いな…これは、傑作だ」
ぶつぶつと呟く月英だが、
「孔明?光源氏やるか?」
「やりませんよ!!失礼な!!私は、これでも一途なんです!!」
「ふーん残念。あ、ここにも…『伊勢物語』…『昔男ありけり』恋の遍歴だな。でも庶民の生活とか面白そうだ…や…」
月英に、
「やりません!!人をなんだと思ってるんですか!!」
「う~ん…じゃぁ、安倍晴明!!陰陽師だそうだ。その腕はかなり優れていて、有能だったらしい。百鬼夜行と言って、こっちで言う鬼を見ることができて、権力者同士の嫌がらせの呪詛を破ったりしていたそうだ」
「月英は私に何をやらせたいんですか!!私は普通の一般の男ですよ!!私の周囲の女性って、姉たちしかいないでしょう!!」
月英は首をすくめるが、
「小野篁…へぇ…地獄…閻魔大帝の側近として…昼間は宮廷に出仕して、夜には鬼を捉える仕事をしていたらしい。お前やれ!!」
「無茶ぶりもいい加減にして…」
返事が億劫になったのか、ため息をつく。
「何で、そんなのが出てくるんです…」
「ん?小野篁、結婚した相手は妹だったらしい。でも異母妹…そのために、地獄に堕ちる異母妹を救うために交渉して、仕事をしているらしい…とかいている」
「…作者の趣味全開だよね。変な人だよ。趣味良くないし…」
均は呆れがおである。
ちなみに目を通していたのは、源義経の資料…。
「それに…『古事記』に、『古今和歌集』、『万葉集』、『日本書紀』…それが駄目なら『ギリシャ神話』?とか、『北欧神話』、『アーサー王伝説』に『ドルイド信仰』に『ヒンズー教』に、『仏教』に…この人変だよ!!絶対変!!しかも、今勉強したいのは、キリスト教の教皇のことについてとか、魔法は本当にあるのか…って…変人?」
「だろうなぁ…何かを答えるためには知識が必要。嘘っぱちのこの私たちの世界すら、曖昧さを無くすために、結構あれこれ情報収集してたんだろう?でも…変と言えば変」
月英も頷く。
「しかも…記念の日だって言うのに、こういう不毛な話を書く…この図太さに感心するな」
「そうそう」
均は頷く。
「まぁ…戦闘で、血みどろおめでとうは嫌だったんでしょ…って、兄様何してるの?」
「『今昔物語』これは面白い。それと、『とりかえばや物語』も、ありえない展開と、ちょっと強引な話の持って行き方は、源氏物語の完成度に劣るが…楽しいかもしれないな…う~ん…欲しいなぁ…」
ぼんやりと呟くのは没頭している証拠である。
「…なんだかんだ言ってもはまってるのは兄様じゃない。ホントに兄様、影響受けてるよ!!」
「う~ん…」
孔明さんたちは、夜まで話を続けたのだった。




