泡沫の光
過去作品第六弾目です。
1
泡沫の光
光が浮かぶ夜の草原に
泡沫のように現れては消えゆく光の群れ
それは物語になるはずだったもの
白いワンピースを着た少女が泣いている
「ごめんなさい……貴方たちの物語を……貴方たちの想いを……紡げなくて……ごめんなさい……」
涙とともに
少女は泡沫の光に謝り続ける
幾度も謝り続ける
少女が泣き止む時はいつなのか
一瞬に似た永遠の中で
少女は泡沫の光に向けて
涙とともに謝り続ける
少女がいつの日か
謝り終える時まで
2
夜の帳が降りきった深き闇の時間
魔王はただ独り酒を呑む
浴びるように酒を呑んでも
酔うことのない身体
眠りを欲することのない精神
独りの夜を悲涙と酒で過ごす
彼女の喪失に嘆き
彼女を殺した人間を屠ったあとも憎み
彼女との約束を反故してしまったことに
自らを苛ませる
彼女を思い出すために
彼女に懺悔するために
自身の悲しみを癒すために
魔王は独り酒を呑む
涙を流しながら
太陽の光が魔王の部屋を差す時まで
3
私が何をしたというのだろう
世界は私の心を残酷な刃で抉る
それでも
ほんの少しだけの
ささやかな幸せを望むことすら
私には許されないのか
世界は私から大切なものを
全て奪いゆく
それでもなお
私を生かせていくなら
私は死を選ぼう
4
一人の少女が倒れた私に
問いかける
――貴方はどうして死を選ぶの?
無慈悲過ぎる世界に絶望したから……
――でも絶望するまでは希望が会ったはず
希望……こんな私にもあったかな……?
――焦らないでいいからゆっくりと思い出して
少女の言うとおりに
世界に抉り続けられた心の中を
沈んでいくかのように
深く深く潜ってゆく
やがて私は辿り着く
幸せと希望に満ちていた記憶を
何故忘れていたのだろうか
楽しかったあの日々を
5
少女が私を見て笑っている
――思い出した?
ああ思い出したよ
好きだった思い出を
――涙が出てるよ
思い出したことが嬉しくて
泣いてるんだよ
――そろそろ行かないと
どこへだい?
――貴方がいる世界に
貴方が戻らなければならない世界に
さよならだね
――きっとまた会えるよ
貴方が気づいていないだけで
ならまた会える日を楽しみにしているよ
――さようなら
さようなら
やがて少女の姿がぼやけて
私の意識は途切れた
6
――あの日とは元の世界に戻れたかな……?
少女は寂しそうな表情で
大空を見上げる
幾つもの光で覆われた光空を
この世界は
無慈悲な世界に打ちのめされ
絶望したものが導かれる世界
先ほどの青年もまた
この世界に導かれた哀れな青年
少女は青年のような人間に
希望を掘り起こし
元の世界に戻すための存在
少女はずっとその役目を果たし続ける
世界が役目を終える時まで
《終》
二編目にある魔王は、深夜の時間帯での生活を切り取った断片的なものです。