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泡沫の光

過去作品第六弾目です。

泡沫の光

光が浮かぶ夜の草原に

泡沫のように現れては消えゆく光の群れ

それは物語になるはずだったもの


白いワンピースを着た少女が泣いている

「ごめんなさい……貴方たちの物語を……貴方たちの想いを……紡げなくて……ごめんなさい……」

涙とともに

少女は泡沫の光に謝り続ける

幾度も謝り続ける


少女が泣き止む時はいつなのか

一瞬に似た永遠の中で

少女は泡沫の光に向けて

涙とともに謝り続ける


少女がいつの日か

謝り終える時まで


夜の帳が降りきった深き闇の時間

魔王はただ独り酒を呑む


浴びるように酒を呑んでも

酔うことのない身体

眠りを欲することのない精神

独りの夜を悲涙と酒で過ごす


彼女の喪失に嘆き

彼女を殺した人間を屠ったあとも憎み

彼女との約束を反故してしまったことに

自らを苛ませる


彼女を思い出すために

彼女に懺悔するために

自身の悲しみを癒すために

魔王は独り酒を呑む


涙を流しながら

太陽の光が魔王の部屋を差す時まで


私が何をしたというのだろう

世界は私の心を残酷な刃で抉る


それでも

ほんの少しだけの

ささやかな幸せを望むことすら

私には許されないのか


世界は私から大切なものを

全て奪いゆく


それでもなお

私を生かせていくなら


私は死を選ぼう


一人の少女が倒れた私に

問いかける


――貴方はどうして死を選ぶの?

無慈悲過ぎる世界に絶望したから……

――でも絶望するまでは希望が会ったはず

希望……こんな私にもあったかな……?

――焦らないでいいからゆっくりと思い出して


少女の言うとおりに

世界に抉り続けられた心の中を

沈んでいくかのように

深く深く潜ってゆく


やがて私は辿り着く

幸せと希望に満ちていた記憶を

何故忘れていたのだろうか

楽しかったあの日々を


少女が私を見て笑っている


――思い出した?

ああ思い出したよ

好きだった思い出を

――涙が出てるよ

思い出したことが嬉しくて

泣いてるんだよ

――そろそろ行かないと

どこへだい?

――貴方がいる世界に

貴方が戻らなければならない世界に

さよならだね

――きっとまた会えるよ

貴方が気づいていないだけで

ならまた会える日を楽しみにしているよ

――さようなら

さようなら


やがて少女の姿がぼやけて

私の意識は途切れた


――あの日とは元の世界に戻れたかな……?


少女は寂しそうな表情で

大空を見上げる

幾つもの光で覆われた光空(こうや)


この世界は

無慈悲な世界に打ちのめされ

絶望したものが導かれる世界


先ほどの青年もまた

この世界に導かれた哀れな青年


少女は青年のような人間に

希望を掘り起こし

元の世界に戻すための存在


少女はずっとその役目を果たし続ける


世界が役目を終える時まで


《終》

二編目にある魔王は、深夜の時間帯での生活を切り取った断片的なものです。

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