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第二・五話 桃香、休日にも尋問される

 お休みの日、珍しく早く目が覚めたから久し振りにお買い物に出た。先ずは駅前のデパートに行ってちょっと気になっていた服を見たり靴を見たり。女子力が圧倒的に少ない私だって可愛いお洋服とかバッグとか靴はそれなりに好きなんだよ。ただ見て満足しちゃうからなかなか買うところまでいかないだけで。


「あ、今日のご飯どうしよう……」


 最近は嗣治さんに店前で待ち伏せされて捕まるのでめっきり自宅で夕ご飯を食べることが少なくなった。だから冷蔵庫の中が全然増えないし減らないし変わり映えがしない状態で、元々そんなに作る方じゃなかったけど、なんだか更にダメダメだよねって感じになりつつある。あ、もちろん夕飯のお代は払わせてらってます、念のため。


「ちゃんと食べなきゃなんだよね……」


 地下のお惣菜売り場を覗いてみることに。どれもこれも美味しそうなんだけど私てきには味が濃いのが多いかなあ……。そう言えば嗣治さんが作るご飯って私にはピッタリな味の濃さで凄く美味しく感じるな、いつからかな、そんなふうに感じるようになったのは。


「むー……」


 グルグルと売り場を回りながら悩んだけど特に食べたいと思うものがなくて、結局はケーキ屋さんでプリンを買っただけだった。これはおやつだから、うん。おやつね。これを昼ごはんにするつもりはない。そんなことを考えてから誰に向けて言い訳してるんだろっておかしくなっちゃった。


「おい、飯は買わないのか」

「ひゃ……!!」


 いきなり後ろから声をかけられて飛び上がった。お、思わずプリンの入った箱を落とすところだったよ、このプリン、高いんだよ?! そして振り返れば嗣治さんがしかめっ面で立っていた。


「あ、お珍しいですね、こんなところで会うなんて」

「……」

「料理する人なのにお惣菜を買いに来たんですか? もしかしてお休みとか。そりゃお休みの日までお料理したくないですよね」

「……」


 ひー、目つきが怖いよお……。


「ま、まさか尾行したとか言わないですよね?」


 黙って私のことを見下ろしていた嗣治さんが溜息をついた。そして私の持っている箱を指でさす。


「知り合いに頼まれて同じプリンを買いに来たんだよ」

「あ、そうなんですね。ここのプリン美味しいですからね、早く行かないと売り切れちゃうかもしれないですよ。じゃあ私はこれで帰るので」

「待て」


 行こうとした私はいつもの猫掴みで引き留められる。もう、私は猫じゃないのに……。嗣治さんはお買い物をしているお客さんの邪魔にならないように壁際にまでやって来てから私のことを離した。


「さっき惣菜売り場をウロウロしていただろ。ってことは昼飯か晩飯に食うものを買おうとしていたんじゃないのか?」

「え、まあそうなんですけど、いまいち食べたいものが無くて……」

「まさかとは思うが、それが昼飯とか夕飯とかってことはないよな?」


 そう言って再び箱を指さした。


「まさか~~! いくら私でもこれ食べてもお腹いっぱいにはならないと思いますよ」


 な、なんだか行動を見透かされてる?


「じゃあ昼飯はどうするつもりなんだ?」

「あのう、こんなところで尋問始めなくても……」

「……」


 あう~~……


「特に何も考えてないです。まあ帰ってから考えようかなあ……とか」


 私の言葉に嗣治さんがわざとらしく腕時計を見た。普段のお仕事中には腕時計はしてないからちょっと珍しい仕草を見た気分。……じゃなくて、どうしてそこで腕時計を見るかな。


「もうとっくに十二時過ぎてるよな。そのまま食べずにそのプリンをおやつとか称して食って、それで食べた気分になるんじゃないだろうな」


 うえ?! 完全に行動パターンを見透かされている……!!


「い、いやあ、そんなことないですよ? 私だってそれなりにご飯は食べなきゃいけないって分かってますし」

「……ちょっと待ってろ」


 嗣治さんはそう言うと私から少し離れた場所に移動してジーンズのポケットから携帯を取り出すと、電話をかけて誰かとお話している様子。ここで黙って立ち去ったりしたら怒られるかな……。そんなことを考えていると電話が終わりこっちに戻ってきた。


「行くぞ」

「行くぞって何処へ?」

「飯を食いに」

「あのう、お知り合いへのプリンは?」

「用事が出来て行けないと言っておいた」

「えー? でもプリン、相手の人は楽しみにしているんじゃ?」

「そうだな、売り切れていたらそのプリンを貰って帰るか」


 私が持っていた箱を指さした。えええ?!


「駄目ですよ!! これは私の大事なおやつと夜食用のプリンなんですからね!!」


 これは私のプリン!! 絶対に駄目だから!!


「とにかく相手は問題ないから気にするな。それより問題はそっちの飯の問題だ」

「……大丈夫ですよ、ちゃんと食べますって」

「今まで自発的に食べていたものがどんなものか聞かされている身としては信用できん」

「……お昼ご飯を作ってもらっている身としてはこれ以上お世話になるのは申し訳ないんですけど」

「一日二日増えたところで同じだろ、今更らしくない遠慮するな」

「遠慮とかそう言うことじゃなくて」

「……」

「ご一緒します……」


 嗣治さんが宜しいとばかりに頷いた。



+++++



「それでどうして食べたいものが見つからなかったんだ? あれだけ色々と売っていたら何か一つぐらいありそうだろ」


 嗣治さんがお箸を止めて尋ねてきた。


 お昼ご飯を食べに入ったのはデパートの真ん中へんの階にあるお蕎麦屋さん。ここのお蕎麦、お店で手打ちをしてるから美味しいって評判なんだって。時間的にお昼を過ぎていたのでそこそこ空いていて直ぐに座ることが出来た。


 何にしようか迷ったんだけど嗣治さんがかやくご飯と天ぷら蕎麦を頼むって言うから私はざる蕎麦とかやくご飯を頼むことにした。本当はざる蕎麦だけにしようかなって思ったんだけど、目の前に座っている人がそれだけじゃダメだって顔をするんだもん。


「そうなんですけど食べたいなって思えるものがなくて。何回か買ったことはあるんですけどね、どれもこれも味付けが濃かったり脂っぽかったりするんですよね。だから胸焼けしちゃうっていうか」

「なるほどな。食べないわりには舌が肥えているわけだ」

「同僚にはただの偏食だって言われてますけど……」


 味付けに関しては育った環境にも関係しているんだと思う。あまり人に話したことはないけれど私は大学に行くまで児童養護施設で育った。施設で出されていた食事って栄養士さんが献立を決めていたもので、味付けも教科書通りな感じでそれだとちょっと子供にとっては薄味に感じるものだったみたい。それは同じ施設にいた同い年の子もよく言っていた。だけど私は物心つくころからそれで育っていたし、他の子が言うほど薄いとは感じてなくて逆に社会に出てから濃い味のものが溢れかえっていることに驚いちゃったクチなんだよね。


「だがとうてつでは普通に食べてるよな」

「だって食べないと嗣治さん怒るじゃないですか……」

「それは俺が出す料理が不味いってことなのか?」


 だからその怖い顔はやめて下さい……。


「違いますよ、嗣治さんや徹也さんが出すお料理は美味しいです。ちょっと量が多いけど」


 量が多いからなかなか食べ終わらなくて大変なんだよ。残すと色々と言われるから頑張って食べているけど、このままだと私、太っちゃうんじゃないかなあ……。


「多いのか」

「多いです。もう少し少ない方が良いです」

「なるほどな」


 何がなるほどなんだろう。


「普通にお店のメニューを見せてもらって私が選ぶんじゃダメなんですか?」

「……」


 何でそんな有り得ないって顔をしてこっちを見るのかな。ちゃんとバランス良く選ぶくらい私にだって出来ると思うんだけど。


「まあ、そのうち選ばせてやるけど今は駄目だな」

「えー……」

「もう少し俺が出す飯の中身を見て勉強しろ」

「……分かりましたあ」

「あと、休みの時でも食べたいものが見つからなかったら店に来いよ? 少なくともモモが考えているよりバランスの良いものは出してやれるんだから」


 最初の頃の大豆バー発言がいけなかったのか、放っておいたらそんなものばかり食べていると思われていそう。確かにそれに近いけどさ、それだって最近はたまにしかないんだよ? お昼はともかく夜はとうてつさんに寄るから普通に食べているし。たまには粗食でも問題なくない?


「分かったな」

「分かりましたあ……」

「なんだ、その渋々な返事は」


 そんなに心配しなくてもちゃんと食べますよ~って呟いたら信用できんって断言されちゃうし。何だか嗣治さんから見た私の食生活って本当に信用度がゼロって感じだよね。

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