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桃と料理人 - 希望が丘駅前商店街 -  作者: 鏡野ゆう
本編

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第二十四話 肩こり同盟へようこそ in 黒猫

少し時間を遡ること数か月。

Blue Mallowが開店して二週間ほど経ってからの出来事。


たかはし葵さんの作品【Blue Mallowへようこそ】とのコラボ作品です。

ゲストとして白い黒猫さんの【透明人間の憂鬱】よりユキ君、杜さん、澄さんが登場しています。

「仕事中にたまに蒸気で温めるやつを使ってるんですけどね。消費量が半端ないので経費で落ちないかなって画策中なんです」

「あれは気持ち良いですよね、私も目が疲れた時に使っています。そのまま爆睡しちゃうことが多いんですけど」

「私も!!」


 夜になって黒猫で澤山さんと待ち合わせると、カウンター席に座ってさっそく肩こりの対処療法を二人で披露しあっていた。大体のところは似たような感じで眼精疲労には目を温めるのが良いというところまでは大筋で同じ。とにかく細かいパーツを組み立てる澤山さんの場合、目もだけど肩こりが酷いようでアクセサリーを作るのって細かい作業の連続で大変なんだなあって改めて感心しちゃっているところ。


「澤山さんは肩こりと目の疲れとどちらが深刻です? 私、最近はモニターの見過ぎで目が辛いです」

「私はお店を開店してからアクセサリーを作る数が爆発的に増えたものですから、目の疲れもですけど肩こりが……」

「あ、ちょっとこのままあっち向いてもらえます?」

「?」


 座っていた椅子をクルリと回して澤山さんをあちら側に向かせると、両肩に手をおいた。


「澤山さん、あ、璃青さんと呼んでいいです? 璃青さん本当にガチガチですよ。ちょっと触っただけで素人の私でも分かる」

「ですよねえ……本当に辛いんです。酷い時は吐き気がするぐらい」

「それ分かります~~。ちょっと揉んであげますね、きつくすると逆に痛くなっちゃうからあまり力を入れないようにして」


 そう言って手に少しだけ力を入れた。本当にカチカチで鉄板でも入ってるのかって感じだよ、これはかなり辛いに違いない。


「気持ち良いですか?」

「はい、すっごく。やっぱり肩こり経験者の揉み方は違いますよね、気持ち良いツボを心得ているというか、力加減が分かっていると言うか」

「そうなんですよね。うちの旦那さんはこの微妙な感じが分からないらしくて」


 揉んでくれるのは凄く嬉しいし有り難いんだけど、何処か場所がずれているって言うか何か違うって言うか。多少マシにはなるもののスッキリという感じとは程遠いのだ。そしてしばらく璃青さんの肩を揉んでいて気が付いたことがある。指先に力をいれて動かしているせいで血行が良くなったせいか、自分の肩こりも幾分かマシになっているってこと。人の肩を揉むと自分の肩こりが改善されるなんて、これは意外な発見かもしれない。


「どうです? 少しはましになりました?」

「はい、とっても!! 桃香さんは?」

「私の場合、今日は肩こりよりも目の方が疲れちゃって。こう……目に良いって言われるブルーベリーをぐりぐり目に擦りつけたいぐらいです」


 そんな私達の話をカウンターの向こう側で黙って聞いていたユキ君なんだけど、何故かさっきからバックヤードでごそごそとしている。今夜は週末じゃないし黒猫さんの営業時間からすればまだ早い時間だからお客さんは少ないけれど、持ち場を離れて何をしているんだろう? しばらくして彼がグラスを手に戻ってきた。


「こっちが澤山さんので、りんご、人参、生姜入りのスムージー。そしてこっちが桃香さんのでブルーベリー、ストロベリー、ヨーグルト入りのスムージーです」

「「……?」」

「ユキ君の特別裏メニューというところかな。提供先第一号は確か、安住君だったか」

「昌胤寺さんの?」

「そうだよ。彼が怪我をした時にね。まあユキ君のちょっとした気紛れサービスって感じだから遠慮しなくて良いよ」


 二人していきなり現れたメニューにない飲み物に戸惑っていると、マスターの杜さんが少しだけおかしそうに微笑みながら説明してくれた。


「どうして二人のグラスの中身、別々なの?」

「澤山さんの方に関しては肩こりが酷いようなので、根本的に飲み物で肩こりが解消されるというわけではないですが血行が良くなれば少しは改善されると思って生姜入りを。そして桃香さんの方は目の疲れということで」

「ああ、なるほど。それでブルーベリー」


 納得したように璃青さんが頷いた。


「目に擦り付けるより飲んだ方が絶対に良いでしょう?」

「確かに」


 璃青さんはオレンジ色のスムージーを、私は紫色のスムージーをそれぞれ口にした。うん、美味しい。璃青さんは?って尋ねると同じような答えが返ってきた。二人でそれぞれのを交換して飲んでみた。うんうん、こっちも美味しい。


「ユキ君って凄いね。これってレシピがあるわけじゃないでしょ?」

「何となく経験って言うか閃きって言うか」

「ほんとーに私の周りにいる男子って無駄に女子力高い……」

「女子力?」


 私の言葉に璃青さんが首を傾げる。


「そうなんですよ。うちの旦那さんは板前さんで私よりお料理も上手だしクッキーとかケーキだって簡単に作っちゃうんですよ。しかも炊事洗濯掃除も私よりそつなくこなしちゃうし。で、そのお父さん、広場にあるお魚屋さんの御主人なんですけどね、魚も簡単にさばけちゃってお料理も上手で。で!! 目の前にいるユキ君でしょ? もう自信無くしちゃう」

「すみません……」

「ユキ君は謝らなくても良いんだよ。諸悪の根源は嗣治さんなんだから」

「誰が諸悪の根源だって?」


 多分その時の私、髪の毛が逆立って二十センチぐらいは椅子から飛び上がったと思う。


「つ、嗣治さん?!」

「何だ、俺じゃ悪いのか」

「そうじゃないけど、どうして?」

「飯も食わずに飲んだくれているんじゃないかと心配になって来た」

「そんなことしません~~。今日は璃青さんと女子会で男子はお邪魔ですぅ」


 私の抗議を物の見事に無視した嗣治さんは私がちゃんと食べたかっていうことと、目にしたスムージーのことをユキ君に尋ねている。


「無視してるぅぅぅ」


 璃青さんはそんな私の様子に笑いをこらえている様子だ。


「笑い事じゃないですよ。肩こり談義に何が悲しくて肩こり知らずの男子を参加させなきゃいけないんです?」

「仲良しなんですね、旦那さんと」

「仲良しって言うか何て言うか……」


 嗣治さんってば心配し過ぎ。そりゃ初めて会ったのが行き倒れていた私なんだから仕方ないんだろうけど黒猫さんに来てまで行き倒れになんてならないよ。


「モモ」

「なあに?」

「ほどほどにして戻って来いよ。モモは明日が休みだからノンビリ出来るかもしれないが、澤山さんはそうじゃないだろうから」

「分かってるよう」


 シッシッって手を振ると、嗣治さんは苦笑いしてから璃青さんに挨拶をして再度ユキ君にお礼を言ってからお店を出て行った。良かった、また猫掴みされて問答無用で連れ戻されるかと思っちゃったよ。


「何しにきたんだろう」

「そりゃ新婚なのに奥さんが誰かと飲んでいるって聞けば心配になるのは当然でしょ?」


 澄ママが笑う。


「でも今夜は璃青さんと一緒って言ってあるのに」

「璃青さんがどんな人かってのも確かめたかったのかも」

「えー……璃青さんを男の人だと思っていたとか? 私、黒猫さんの隣にできたお店の人だってちゃんと説明したのに」


 雑貨屋さんのオーナーさんで女の人だよって説明してあったんだけどな。もしかして忘れてた?


「そうだ、二人とも肩こりが酷いなら林整骨院で整体マッサージしてもらうと良いわよ?」

「ここの上にある林さん?」

「ええ、私もたまにあそこでお世話になっているの。予約が必要だけど一度お試しで行ってみたらどうかしら」


 澄ママに相手先の電話番号を教えてもらうと、璃青さんと時間が取れる時に一緒に行きましょうって約束をして第一回目の肩こり談義はお開きとなった。



+++



「ただいま~~」

「なんだ、早かったな」

「嗣治さんがほどほどにって言ったんじゃない」


 自宅に戻ると嗣治さんはキッチンで包丁を研いでいた。初めてそれを見た時、包丁って自宅で研ぐものなの?!って驚いて尋ねたら、買ったところにもっていって研いでもらう人もいるって教えてくれた。切れなくなったら買い換えるものだと思っていた私にとってはちょっとカルチャーショック。


「俺のせいなのか?」

「そんなことはないけど。璃青さん、明日もお店開けるし頼まれていた作りかけのアクセサリーがあるからって言ってた」

「そうか。そうだ、モモ」

「んー?」


 嗣治さんが冷蔵庫の中から紫色の何かが入ったグラスを私に差し出してきた。


「あれ? これって」

「試しに飲んでみろ」

「うん」


 グラスを受け取って一口飲む。やっぱり、さっきユキ君が作ってくれたスムージーと同じ味……よりちょっと甘さ控え目かな。


「両方とも東名君から材料を聞いておいたから。明日から毎日飲めよ」

「え、本当に作ってくれるの?」

「その為に聞いたんだ」


 こういう経緯で千堂家の朝ご飯に紫色のスムージーが加わることになったのだ。

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