第十五話 青い子もお祝いにやってきた
桃キーボ君は白い黒猫さんが描かれたものをお借りしてします♪
「……」
休みの日に嗣治さんに言われたお肉を買いに出た時、何故かバイトのお兄さんがお釣りを渡してくれる時にニヤニヤしながら視線を私の後ろの方に向けていたので、何の気なしに振り返ったらキーボ君が体を左右に揺らしながらいつものようにすぐ後ろに立っていた。その頭にはいつものベレーではなく桃がチョコンと乗っている。だからこの子が一号さんなのか二号さんなのか分からないよ。
二人で並んでいる時は二号さんの方が少しだけ背が高くて頭の上に乗っているベレー帽が赤いので分かるんだけど……この子はどっち? そう思いながら目玉のところにあるであろう覗き穴をじっと覗いてみる。けど何故だか見えない。
「えっと一号さん二号さん、どっち?」
だいたいこういうことをするのって二号さんなんだけど、最近の一号さんはやんちゃな二号さんに感化されたのかたまにはっちゃけたことをするので油断が出来ない。それに確か二号さんの中の人、昌胤寺の恭一君は陸上自衛官で、ちょっと複雑な部隊に所属しているとかで駐屯地に戻ってから暫く帰ってきてないとか聞いているし。ってことは一号さん? 確か黒猫にいるユキ君だよね、中の人って。
「ユキ君、だよね?」
そう尋ねた途端にキーボ君は何やら激しく体を揺すって踊りだした。……もしかしてこれは否定のダンス? ってことはユキ君じゃないのかな? じゃあ誰が入ってるんだろ? そんなことを思いながらちょっと困って桃キーボ君を眺めていると、おかしそうに笑いながら魚住の方から雅治お兄さんがこちらにやってきた。
「この動きどう考えてもいつもの一号じゃないね。多分、中に入ってるのは……別の、黒猫のバイト君かな」
先程までの動きとはまた違った動きをしている。どうやら肯定のダンスみたい。一号君は妙な踊りをしながら手にしていたボードを私に押し付けてきた。
「あ……」
それはモモニャンとツグニャンのウェルカムボード。モモニャンは桜子さん達が仕立ててくれた振袖姿、そしてツグニャンは紋付袴姿で並んで立っている。黒猫ママの澄さんはとっても器用で、キーボ君がつけている小物全てが澄さんの手作りなのだ。多分このボードも澄さんが作ってくれたのだろう。
「どうやら二次会で使う為のウェルカムボードが一足早く出来上がったってとこだな、それを見せに来たらしい」
「ありがとうございますぅ~~、すっごく可愛い。嗣治さんに見せてきても良いです?」
キーボ君は盛大に踊りながら雅治お兄さんの周りを回りだした。そしてお兄さんに何やら話しかけている様子。お兄さんも耳を傾けてウンウンと頷いている。
「完成品だけどちゃんと額縁に入れたいから嗣治に見せるのはもうちょっと待って欲しいらしい。とにかく今日は桃香さんに見せたかったって言ってる」
「そうなんですか。有難うございます。じゃあ正式に頂ける日を楽しみにしてますね」
不思議なダンスを踊りながらボードを受け取って行ってしまうキーボ君を見送りながら、ふと頭に浮かんだことが口から零れ落ちた。
「もしかして結婚式にもキーボ君って出席するんでしょうか?」
「まさか」
「ですよね」
その時は知らなかったんだよ、二号君が昌胤寺の本堂に鎮座しているなんてこと。そして中の人が入っていない状態で、こっちに帰ってこれなかった恭一君の代理としてちょっと離れた場所からこちらを見守ることになるだなんて。どんだけキーボ君は住人扱いされてるんだかって少し呆れてしまったのも事実なんだけどね。ま、それはもうちょっと先の話。
「ところで式の準備は進んでいるのかい?」
「はい。先ずは新居の方をってことで契約も終わって今週末にお引越しです」
「そうだったのか? 言ってくれれば手伝いに行かせたのに」
「いえ、嗣治さんはともかく私の方はそれほど運ぶものがたくさんあるわけじゃないので、業者さんと私達で大丈夫ですよ」
最近のお引っ越し業者さんって、そこまでやってくれるの?みたいなところまでお任せ出来ると知ってちょっと驚いているのだ。そして今まで住んでいたお部屋に関しては、問答無用で嗣治さんのところ共々ハウスクリーニングの業者さんにお願いしてしまった。嗣治さんは最後までそんなの贅沢だとか渋っていたんだけれど、嫁は旦那の言うことに大人しく従うものですって言ったら黙ってしまった。まあ、その日の夜の逆襲が凄かったけれどね。
「そうなのか? でもオヤジ達が知ったらまたアレコレ言わないか?」
「その点はほら、ツンデレなので……」
私の言葉に納得したように頷くお兄さん。
「桃香さんもあの二人に挟まれて苦労すると思うけど、よろしく頼むな」
「大丈夫です、二人とも本当は仲良くしたくて仕方がないみたいですから」
「だと良いんだけどねえ……」
そんな訳でその週末には新居にお引越しを済ませた私達。無事に新居で年越しをして、気が付けば結婚式まで二ヶ月を切っていた。