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5.忍務


 その日は珍しく、星明りさえない曇った夜だった。

 二人は師匠から請け負った忍務をこなすために朝早くから屋敷を出た。

 今日こそ綺麗にこなしてみせるぞ、と意気込む義仲の背を見ながら、巴は妙な胸騒ぎかしていた。朝起きた時から感じていたものだ。簡単なはずの忍務に、何故か私の長年培ってきた勘が危ないと告げていた。

 山を三つほど超えた先、二人が忍び込む城が見えた。堀はそう深くなく、また塀もさほど高くはない。情報によればそこには忍はおろか、腕のたつ侍さえいない。

 巴はその城を前に、自分の勘が鈍ったんだと思いこむことにした。どう考えても〝何か〟があるとは思えない。巴は、そう自分に言い聞かせるようにして義仲の後を追った。

 門が見える位置まで近づくと、そこには篝火の横に門番が二人ほど立っていた。寝ずの番に慣れていないのか、二人とも何度も欠伸を噛み殺して眠気に耐えている。何度か首が傾きそうになるのを耐えているその姿に、思わず隣の義仲が小さく声を漏らす。


「はは、楽勝だな。」

「油断するな。お前はいつもその油断が、」

「命取り、だろ? 分かったよ。」


 軽口を叩いて義仲が木の上から降りた。続いて巴も同じように降りた。

 義仲は肩をならしながら目の前の城を見た。その表情は、今まさに楽しくて仕方がありません、といった表情だ。その表情に、思わず巴がお前は狩りをしにきた獣か、と漏らす。義仲はその言葉に苦笑した。


「で、どうやって忍び込むんだ? またこの前のか?」

「まさか。今回は一応城だぞ?」

「じゃあどうするんだ?」

「……良い風だな。こちらはおまけに風上だ。」


 巴がそう言いながら手に持つものを義仲に見せると、義仲は全てを理解したように頷いた。一を聞いて十を知る。これぞ良い忍というものである。


「じゃあ、お前がやるんだな?」


 楽しくなってきたのか、不謹慎にも深い笑みを浮かべて義仲が巴に言った。いつもならお咎めを喰らうはずのそれに、巴もまた深い笑みを浮かべた。


「――もちろん。」


 その表情に、義仲は心中でお前も俺と対して変わりないよ、と言った。


「「敵襲だ―!」」


 門の辺りで大きな爆発音がした。

 そのあとに聞こえた大声に反応し、あちこちから火が灯る。まばらに点いていく篝火を見るに、城内はそうとう混乱している様子だった。

 その混乱の中、二人は門の内側に潜みながら敵兵がこちら側に集まってくるのを待った。

 久々に声を張り上げたからか、咳き込みたくなるのを巴がぐっと抑える。その横で小さく笑う、義仲を睨みつけながら。


「何だ、敵襲?!」

「おい、門番の二人が眠りこけてるぞ!」

「お前ら何があった?!」


 敵が騒いでいる間、二人は気配を消してそのまま城内に入っていった。外の騒ぎに集中している雑兵たちは、そんな二人に全く気付かなかった。

 しかし。影が闇を走り抜けている丁度そのとき。別の影が闇に降り立った。その影は走り去る二つの影を目で追った。二つの影はそれに気づかない。

 降り立った影の後ろに、更に多くの影が降り立った。影たちは、同じ色をしたその影を見つめてその場を去る。

 雲が光を遮って、沈黙した。


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