なくしてしまったもの
私は何かをさがしている。
真っ暗な部屋の中をずっとさがして歩いている。
「なにをさがしてるんだっけ」
一瞬さがしているものを思い出す。
ドキンと心がはねる。
その時おもった。
「私は大切なものをさがしてるんだな」
なくちゃいけないもの。
絶対になくしちゃいけないものをさがしてるんだ。
ふと私は上を見上げた。
上にあるかもしれないと思ったから。
でも、なかった。
あったのは光だった。
光は私に降り注ぐ。
とてもあたたかいひかりだった。
「あったかい…」
そのとき、私は自分が泣いていることに気づいた。
自覚すると、次から次へどんどん涙があふれてきて、止まらなくなってしまった。
私はどうしたらいいのかわからなかった。
「どうしたら…いいの…っ」
私はしゃがみこんで泣きじゃくった。
―――――…
何かがおちた。
音はしないけれど、落ちたのが分かった。
私は泣くことをやめて、落ちたものを見に行った。
落ちていたのはおもいでだった。
落ちた場所の上を見ると、どんどんおもいでがおちてくる。
私は喜んだ。
私がさがしていたものはこれだった。
大好きな人とのおもいで。
フラれて、必死に忘れようとしたおもいで。
なかなか忘れることができなかったおもいで。
忘れたくても忘れられなかったおもいで。
私は大好きな人に会いに、夢から戻った―――。