自己紹介。
お弁当のにおいがたちこめる、12時20分。
廊下には、昼食を早々とすました生徒たちがまばらにたまり始めていた。
中山アキラが、今日もまた甲高い笑い声を響かせて、
昨日みた面白いテレビの話で周りを盛り上げていた。
生ぬるい9月の空気は、お弁当のにおいに膜をつくり、しっとりと鼻にこびりつく。
アキラが好きなハンバーグのにおいも、お腹が満たされた後ではただしつこいだけだ。
ここは東京のど真ん中。
青山の一等地にそびえたつ青明高校。
都内でも屈指の有名私立高校ではあるが、
夏に冷房をつけない学校としても有名であった。
今年の夏は記録破りの猛暑続きで、9月に入るというのに外は熱気で煮えたぎっていた。
そんな朦朧とした暑さの中、学校の周りをベンツやBMWの高級車が排気ガスをブンブン吹かしながら、外気をさらにヒートアップさせていた。
「クーラーくらい、実費でいいからつけさせてくれ。」
おそらく、全生徒が思っている願いであった。
アキラは、けだるそうに廊下の脇の棚に腰をかけて足をブラつかせながら、
残り30分の休み時間の使い道はないか考えていた。
「な? まじあちーよな。今時、公立だってクーラーくらいついてるだろ」
アキラの隣でそう答える川島比呂は、汗ばんだシャツの襟をパタパタと仰いでは、アイロンの折り目のついたバーバリーのハンカチで額から染み出る汗を拭きとっていた。
確かに、髪が首元まとわりつく不快感は耐え難く、最高気温が38度を超える日は、
病欠で学校に来ない生徒がクラスの3割ほどになるのも納得できなくはなかった。
でも、私はこのクーラーがない学校を気に入っていた。
というか、このご時世にあえてクーラーをつけない、という学校のスタイルを誇らしく思っていた。
ここの学校の校長先生は特に古風な考え方の持ち主のようで、全校朝礼では、
「学生諸君。この物資で恵まれた21世紀、人は贅沢にマヒをしているとしか思えない。
私がまだ小さいころ、第二次世界大戦の終戦で危機的に貧しかった。
日々の食事で必至だった。それが今はどうだろう。
テレビ、パソコン、携帯電話、スマートホンの普及、、人間の暮らしは日に日に便利に
なっていくが、その一方で日に日に加速していく大気汚染や環境破壊で地球は悲鳴をあげている。
地球は無限ではない。地球はゴミ捨て場でもない。
地球はみんなの家なんだ。
君たち諸君、一人一人の力で何かできることはないか。
私は、そう考えられる健全な学生であってほしいと思う。」
っと、まあ、こんな感じで時々ポエムが入るんだけど、
馬鹿真面目な校長の気質が、なんとなく私はいいと思っていた。
クーラーが有ろうが無かろうが、時代はずれだろうが何だろうが、
その古臭い頑固さがこの都会の中で妙に透き通ってみえた。
私の名前は名高かおり。
鹿児島県出身。0型。おとめ座。
育ての親はおばあちゃん。
産みの親は女優。
お父さんはいない。
姉妹もいなくて、一人っ子。
1か月ほど前からここ、東京に移り住み始めた。
もろもろ、複雑な家庭環境あり。。。ってやつ。