何だアレ
「暗くなる前に帰ろうか。一応いいデータも取れたし」
そう、田中正樹がそのレーダーから顔を上げて言った。
それに秀人はぼんやりとした頭が、急に冴えた。
「どういう事だ! 何だアレ!」
先ほど空けてしまった山の穴。
それを指差しながら秀人は叫ぶが、正樹はしばし考えてから、
「日が沈んでしまうと、あたりが真っ暗になって危険なんだ。道路に街灯があるわけではないからね。だから、戻ってから色々と話をしないかい?」
「! ……そうだな。はあ、驚いた」
「本当にね。さあ行こう、ノエル姫も」
そう、まだ呆然としているノエル姫に正樹が声をかけた。
ノエル姫は、はっとして、頷いて、それから秀人を見て、その視線が秀人にはたまらなく怖かった。
こんな恐ろしい力を見せ付けたのだから、きっと彼女にも秀人が化け物のように映っている事だろう。
別に異世界であるし、秀人の帰る場所はあの世界であっていずれその世界に帰るのだ。
もしも嫌なら逃げ帰ってしまえばいいのだ。
そのまま忘れてしまおうと布団にもぐって、いつものように学校生活を送ればいい。
そう秀人は自己弁護するように、頭の中で考える。
けれど、そういった軽蔑のまなざしをノエル姫から秀人は受けたくなくて顔を背けた。
そんな秀人の様子に、ノエル姫は、
「何を気にしているの?」
「……いや、山に穴が開いたから、俺は……もしかしたら人を巻き込んだとか……」
「……あそこいら辺は人は住んでいないわよ。いっその事あの山を跡形もなく消してしまってもいいわ。そうすれば迂回路を取らなくて済むようになるし」
「えっと……あの、俺が怖くないのでしょうか」
「さっきの魔法の事? 今更よ。異世界貿易会社ゴランノスポンサーが異常な事を引き起こすのには慣れているわ。むしろ今は頼もしいくらい」
「そ、そうですか……え?」
清々しいまでに現実主義なノエル姫が、そこで秀人の腕に抱きついた。
ふにょっと柔らかい感触が当っているようないないような気がしなくもなかったりしたのだが、彼女いない暦=年齢の秀人には、夢のような出来事だった。
やはり夢なのだろうかと、秀人は再び悩みこもうとした所で、
「どうしたの? 考え込んでる? 頼もしい勇者さん」
「でも、なんで急に“賎しき者共”が増えたのでしょう」
「それが分れば苦労はしないわ。お陰で、魔道研究所も壊滅的なダメージを負うし……あそこ、秀人みたいな異世界の人の召喚も研究していたから上手く行けば、今頃は異世界貿易会社ゴランノスポンサーを通さずに呼べたかもしれないのに」
そう、悔しそうに言うノエル姫だが、ふと、秀人は、
「……俺のような異世界の人間が、呼ばれる事が分ったからあそこか襲撃された可能性があると?」
「……わからない。“賎しき者共”を操れる方法は、少なくとも異世界貿易会社ゴランノスポンサーには分らないらしいから」
それを聞いて、本当に異世界貿易会社ゴランノスポンサーが黒幕なんじゃないかと秀人は思いはしたのだが、そんな秀人に釘をさすように正樹は、
「うちじゃないからね。黒幕は」
「でも操り方が分らないって、異界の技術でも無理って……」
「僕達の技術の限界も考えて欲しい。たえず陰謀論に曝される僕達の身にもなって欲しいよ」
と、やれやれといったように正樹が答える。
お前達が怪しすぎるからだと秀人は叫びたかったが、彼らの言い分も分るので秀人は口をつぐむしかなかった。
そんな話をしているうちに、三人は城へとたどり着いたのだった。
城についた途端、ノエル姫は武器庫へと駆け出した。
「せっかくだから彼らに説明してもらった方がいいかも。作った本人だし」
と、正樹に言われて、秀人も階段に向かおうとして……正樹が別方向に歩いていくのに気づいて、
「正樹、何処に行くんだ? そっちに階段は無いぞ?」
「いや、エレベーターを使おうと思って」
秀人は黙って正樹についていった。
そして、外に置かれた用具箱のようなものに手を触れると、チン、と音がして自動的に開く。
それに乗り、地下のあの研究室にたどり着くと、丁度ノエル姫がその階についた所だった。
彼女は唐突に壁から現れた秀人と正樹を見て、頬を膨らませた。
「ずるい! 私は頑張って階段で降りてきたのに」
「まったく、若い者は……」
そう、この前もいたおじさん達も溜息をつく。
けれどノエル姫は、そんなおじさん達に自分の銃を突き出して、
「酷いです! これ撃ったら敵が強化されたんですよ!」
「え! ああ、確かにそんなものも入れたけれど……何発か撃てば攻撃魔法になるだろう?」
「四発撃って外れたんですよ! それにそこにいる田中正樹に言ったらもう一発打ってみたらって……失敗して、敵が強化されたらどうするんですか!」
「あー、流石に次くらいは当ると思うから、試しに今動いているあのネズミの玩具を撃ってみろ」
そうおじさん達に、流石にたまたまだろうという風に言われたノエル姫は、むっとしながらもネズミの玩具に銃を向ける。
そして引き金を引く。
乾いた音を立てて、ネズミの玩具が煙に包まれて……以前に比べて倍以上の速さで玩具は動き回る。
それを見たノエル姫は、半眼でおじさん達を見る。
おじさん達はしばし沈黙してから、何やら紙を取り出して調べ始めた。
そして数枚めくってから、ふっと優しげに微笑み、
「すまない、一発しか攻撃魔法は入っていなかった」
そう、答えた。
それに怒って暴れそうなノエル姫を抑えてから秀人が、
「すみません、俺の魔法で山に穴が開いたのですが」
「え? 本当に? 何の魔法で?」
「火竜砲という魔法です」
「……君の魔力は潜在的にものすごい事が分った。そうだな、目に映る範囲内を攻撃したいのであれば、それこそ……あの魔法を使う装置に、それぞれの技名について説明があったはずだ」
「切羽詰っていたので気づきませんでした」
「ふむ、それの中にマッチに火をつけるレベルの魔法とか、弱いものがあるからそれを使った方がいいかもしれない。というか、それに登録してある説明書を読んでくれ。それで問題があれば対応するから」
そう言われてしまえば、秀人は頷くしかない。
ただ渡す時にそこら辺も説明して欲しかったのにと思う。
そこで、ノエル姫がおじさん達に、
「もっと他の武器、武器は無いの?」
「……何か試作品はあったかな……弓があったから、それでいいか?」
「……いいわ。一応弓だって私は使えるもの。それでその矢なんだけれど……」
「とりあえず百本。この小さい箱を振れば出て大きな矢になり、かつ、この箱には残りの矢の数が自動的に表示される!」
「もし無くなった場合は?」
「お近くの異世界貿易会社ゴランノスポンサー開発部まで」
「……何処にあるのよ。ここ以外」
「あー、正樹が知っている」
そう言うと、正樹が頷く。
ノエル姫はその武器と正樹を見比べて、これだけあれば良いかと頷いたのだった。
次回更新は未定ですがよろしくお願いします。