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起きて!

 柔らかな朝の光が、カーテンの隙間から降り注いでる。

 外には鳥だと思われる鳴き声が、チュンチャアアアアアアン、チュンチャアアアアアアンと鳴いている。

 それを聞きながら、チュンちゃんて誰だと思って、秀人はごろりと眠る方向を変えた。

 いつもよりもふかふかで寝心地の良いベットだなと思いながら、秀人は幸せそうにむにゃむにゃする。

 そして、柔ら布団から体を起こす事の苦労について、秀人は寝ぼけた頭で延々と考えていたが、


「秀人、起きて!」


 美少女に布団をめくられました。

 はっきり言おう。

 美少女に踏まれるのはご褒美だという意見には、秀人は完全には否定をしない。

 だがしかし、この朝の心地の良い眠りの中でまどろむ、幸せで温かな布団の中という究極の楽園を破壊しようとするその野蛮かつ卑劣な行為について、その存在が美少女のように見えたとしても、百年の恋が醒めてしまうような感覚を覚えて怒鳴りつけた挙句、再びその温かな幸せに包まれたいと思ってしまうのは男として最低とか言う言葉では語りつくせない、人間としての持っている当然の素晴らしい権利について、一筋の疑問を投げかけているのではないかと思いつつ……お腹が空いた感覚を覚えて、秀人は体を起こした。

 霞む目を軽く擦ってから、目の前の頭をポニーテールにした銀髪の美少女に秀人は目を合わせて、にっこりと笑う。


「寝ぼけた秀人って結構可愛いのね」

「……可愛い?」

「そうそう。ちょっと幼い感じがして、本当はもうちょっと幸せそうに眠っている秀人の寝顔を見ていたかったのだけれど、食事は温かい方がいいから」

「ああうん、そうか……。でもノエル姫、普通可愛いと言われて喜ぶ男なんていないぞ?」

「そうなの? 私は可愛いと思ったから、言っただけだけれど……秀人がいやならこれからは言わないようにするわ」


 そんな、何処か悲しそうなノエル姫。

 悪い事をしたかなと思うも、可愛いといわれるのは、男として悲しいように思える。

 それに、可愛いわねというのは、皮肉として、そんな事も分らないのとか、生意気とか、年齢相応じゃないわねとか、そういう悪意のこもった悪い意味があるのだ。

 使い方やその人の性格によって意味が変わるのだ。

 とはいえ、このノエル姫は良い意味で、裏表の無い性格なのでそのままの意味だろう。

 だから可愛いというのは褒め言葉なのだろうが……この、恋愛対象ではない愛玩用の縫いぐるみのような感覚はいただけない。

 もっとこう、きゃー、秀人様素敵ー! みたいな……。


「秀人、さっきから黙っているけれど、そんなにああ言われたのが嫌だった?」

「いや、少し寝ぼけていてぼんやりしていた。……朝食ってそれか?」

「うん、秀人たちは食べなくても大丈夫らしいんだけれど、味覚はあるから楽しんだって。そう、田中正樹が言っていたわ」

「そうなのか。そういえば、田中正樹は何処行ったんだ?」

「なんでも『新しい装置キター!』と叫んで、私が朝食を運ぶのを手伝った時に、飛び出してきたわ」

「そうなのか。確か昨日言っていた、魔物を探査するレーダーみたいな装置が、今日手に入るとか何とか」

「え! そんなものが出来るの? へー、それは便利ね」

「ただ試作品と言っていたから、どの程度精度が良いのか分らないが、使う事に……」


 そこまで言って、秀人は、ある事に気がついた。

 それは、ノエル姫がポニーテールをしていることと、ドレスではなく、物語に出てくるような女の子冒険者ぽい格好をして、剣をさしておく場所に昨日貰ったなんか凄そうな銃を入れていたのだ。 

 これは、つまり、


「……ノエル姫は、俺たちについてくる気なのですか?」

「そうよ。嫌なの?」

「いえ……王様には相談したのですか?」

「ええ、メアと一緒であれば、良いって」

「……そうですか。それで今日も、メアさんと?」

「いえ、メアは私が旅に出る準備が忙しくて。今日は私だけかな。だから秀人、早くご飯を食べて行こう!」


 そう、秀人は楽しくて嬉しそうなノエル姫に急かされて、さりげなくノエル姫に腕を引っ張られた時に手が胸にあたるという嬉しい展開がありもしたのだが、その時にノエル姫が真っ赤になってごめんなさいといっていたので、秀人としては嬉しいと思う反面悪い事をした気持ちになった。

 そして美味しい朝食を楽しみ終わった頃、田中正樹が戻ってきたのだった。






 王様に言われたその魔物住処に向かって、秀人と正樹がノエル姫に案内されながら歩いていた。

 現在歩きながら、その魔物探知何チャラの説明を、正樹から受ける事になっていた。


「じゃーん、これが、持ち運び簡単☆“魔物探知レーダーver56.2”です!」

「試作品、そんなにあるのか?」

「そう! 異世界貿易会社ゴランノスポンサー開発部が満を期してお送りする、魔物探知レーダー……ゴウロクさんが作った二番目の試作品です」


 どうやらゴウロク→56という人が二番目に作った試作品だから、56.2らしい。

 そんなどうでも良い知識は放置して、秀人はそのレーダーを見た。

 四角い金属製の額縁に、不透明だが光沢の有る白く四等分に刷るように線を引かれた青いガラスがはめ込んである……第一印象は、それだった。

 正樹が額縁の一端に有る赤い石に手を触れると、その青いガラスに波紋が走って、濃さの異なる黄色い光が点滅する。

 その様子に、よし、大丈夫そうだと正樹は呟いてから、


「この、白い二本の線が交差する場所が現在地、そしてそこを中心に確か最大1km範囲が見えるはず。ただ、距離が離れるにしたがって、感度が低下するから……例えばこの、遠い場所と近い場所、同じくらいの黄色い光だろう?」

「ということは、遠い場所の方が強い“賎しき者共”がいるって事か?」

「もしくは大量にいるか、だね。あと、最新の地図が手に入ったよ」


 そう言って、正樹は一枚の表面がつるつるとした地図を取り出した。


「……なんで神話の時代から現代の地図に変わっているんだ? 等高線とかはいりまくっているし」

「地図って言うのは、自分の国が攻められないようにする為の防御には欠かせないからね。そして敵に渡るのを恐れる。けれどこういった状況なので、うちの会社が頑張って作りました」

「……提供してくれなかったのか? その色んな国が」

「うん。危機よりも、自分達の保身が大切らしい。ただ、彼らの測量技術はまだまだ甘いので、こっちで作った方が早かったかな。色々な概念も含めて、異界の知識が蓄積されているからね」

「……夢と希望に溢れた異世界がどうしてこうなったって気がするが、それで、これで探して潰していけばいいのか?」

「そうです。そして、外れた場所を記録して、そのデータを送って欲しいそうです」


 まさに試作品といった風だが、確かに表示されている黄色い点は多いなと、秀人が数え始めると、ノエル姫がそれを覗き込んだ。


「へー凄いね。これ全部、“賎しき者共”なの?」

「いえ、多分違うものも混ざっているかと。“賎しき者共”の放つ魔力と似た物は出来るだけ排除しているのですが、それでも取りこぼしが多いですし、遠くになればなるほど微弱になるので、区別がしずらくなりますから」

「確かに遠くなるほど、数が多くなっているわね」

「周辺の魔力がノイズとして拾われて、場合によっては干渉してきて誤って表示される……」

「良く分らないんだけれど」

「んーと……この装置自体を動かすのにも魔力が要りますが、それ以外にも周辺の魔力を間違って読み取って、誤って“賎しき者共”の巣を表示してしまう現象です」


 なるほどと頷くノエル姫。それに今度は秀人が、


「だったら、もっと強い“賎しき者共”を表示するようにして、範囲を狭めたらどうなんだ?」

「強いものだけにすると全部消えてしまうし、範囲を狭めると逆に弱いものもノイズとして大きく現されて見にくくなったりとか……実用性の面で、あまりよくなくて、今の所これ位が妥当だろうって話になったんだ」

「なるほど」

「しかも前なんて、すぐ傍で魔法を使うだけで使い物にならなくなるから、近くに来たら電源落とさないといけなくて」

「敵の動きが知りたいのに電源を落とさないといけないなんて、本末転倒じゃないか。難しいんだな」

「そうそう、色々難しいんだ。特に周辺の違う魔力を拾うのをどう解決するかが、特に難しくて……一番確実なのは、目で見て確認する事なんだよね」

「目で見えるから、確かにそこにあるよな……」

「そういう事。だからこれは見当をつける位の気持ちで使うのが良さそうだ」


 そこできりよく話を終えて、草原の先にある目の前のあれらを見て、レーダーを確認する。

 秀人が魔力をこめれば発動する魔法装置に手をかけて構え、ノエル姫は、自分の出番がきた事に喜びながら銃を構える。

 一方、正樹はレーダーが実測と違うかどうかを確認していた。


「一応動いているみたいだし、これは正しいみたいだね」

「おい、正樹、お前魔法使いで、俺よりも長くこっちにいるんだろう? だったらお手本を見せろよ!」

「いや、僕頭脳労働派の魔法使いなんだ。それに秀人は色々道具を試すチャンスでしょ。というか、こっちの確認を最優先にしてくれって言われていて……アルバイトは辛いよ」


 駄目だこいつ、と秀人は諦めて“賎しき者共”を警戒する。

 この前と同じ、トカゲもどきだったのが幸いだ。

 数は前回よりも多い、5、60匹だろうか。

 そう秀人が考えて、こちらから攻め込んだ方がいいかと剣に道具を持ち替えようとする。

 そこで、ノエル姫が銃を構えて、“賎しき者共”へと発砲した。

 乾いた音を立てて、その玉は丁度“賎しき者共”の中心部の虚空で破裂し、それらを煙で覆う。


「やったか!」


 ノエル姫のその台詞に、秀人は嫌な予感を覚えた。

 やがて、先ほどの煙幕が晴れて、そこには、二倍に大きくなったトカゲもどきがいた。


「なんで!」

「あー、強化魔法が当っちゃったんだね」

「何、平和に解説しているのよ!」


 そう田中正樹に突っ込みを入れながら、ノエル姫は再び三発ほど銃を撃つ。


 トカゲもどきの筋肉がムキムキになりました。

 トカゲもどきは火を噴けるようになりました。

 トカゲもどきの手が、石のように硬く強化されました。


「何で敵を強くしてんのよ!」


 涙目でノエル姫が正樹に食って掛かった。

 けれど、正樹は相変わらず冷静にそのレーダーを確認しながら、


「ランダムだから、たまたまそういうのが続いただけだろうから、もう一発……」

「出来るわけ無いでしょう……秀人?」


「……俺が、なんとかする」


 秀人は、剣を使うには彼らのスピードが速くなりすぎて、ノエル姫が危険だと判断した。

 他の二人よりも、三歩ほど前に出て、昨日貰った魔法装置をかざして魔力をこめる。

 頭の中に、ゲームの選択画面のようなものが浮かんできて、秀人はとっさに攻撃魔法の一番上にある魔法を選択する。


「火竜砲? あんまり強そうじゃないが、これだ!」


 それを選択するよう念じると、秀人の前方に秀人と同じ高さの直径の円……ゲームに出てくるような魔法陣が生じて、輝きだす。

 そのまま轟音とともに炎が渦巻き、まっ直ぐに広がるように伸びていく。


キシャアアアアア


 トカゲモドキの断末魔が響いて、けれど聞こえた後も炎は暫く止む事はなく秀人はその光景をぼんやりと見ていた。


 やがて、炎がすうっと、唐突に消えた。

 その先には、一直線上に枯れ果てた草原と、そして山に穴が開いており、オレンジ色の夕日が顔を覗かせていた。


「え?」


 その光景に、秀人は疑問符しか浮かべる事しか出来なかった。

次回更新は未定ですがよろしくお願いします。

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