作業ゲー
ノエル姫は、先ほどの銃を手に抱えて、走っていた。
その顔には満面の笑みが浮かんでいる。
「良い物が手に入ったわ! こんな武器初めて。うふふふふふ」
そう呟きながら軽やかに階段を駆け上り、地上に出たノエル姫は、そのまま自分の部屋に戻ろうとして隠れた。
「まったくノエルには困ったものだ。もっと大人しい娘であって欲しいのだが」
「まるで男性のようですからね」
「本当に何処で育て方を間違えてしまったのか……」
「ですが奥方様にとても良く似ていらっしゃる。あの活動的な所とか」
「そうなんだよな……というか今妻は何処にいるんだ?」
「この前、『“賎しき者共”の巣を破壊したよー、もう一つ巣があるからそこ取り崩してからかえると思うわ』だそうです。国民思いのとても良いお妃先であると、評判ですよ」
「でもやっぱりノエルにはああなって欲しくない。もう少し、お付のメアのようにほんの少しでいいから……」
愚痴を零しながら歩いていく父とその側近の様子を見て、ノエル姫は気づかれなかった、と息を吐いてから……先ほど話していた内容を思い出して頬を膨らませた。
「なによ、お父様ったらそんな事を言って……大人しい、メアを見習えって、いやになるわ。でも良いもん。今日はこんな良い物が手に入ったし……これさえあれば、秀人についていってもいいよね」
そう口に出すと、再びノエル姫の顔に笑みが戻ってくる。
特に秀人と口に出した瞬間が酷く甘い響きがあったが、それにノエル姫は気づかなかった。
そういった事に気づかない程度にノエル姫はまだまだお子様だった。
そんなノエル姫は、周りに人がいない事を確認してから、足早に自分の部屋へと駆け出したのだった。
そんなわけで、秀人はてくてくとゆっく入りとした足取りで、階段を上っていった。
「下るのはそこそこ楽だったんだが、上りはきついな。エレベーターは無いのか?」
「あ、あるんだった。でもそうすると下まで戻らないといけないよ。あそこの階からの直通だからね」
「……良い設備だな」
「とはいえ、あの三人、健康のために上に出るときはいつも階段使っていて、必要な機材やら何やらを運び込む時だけ使うんだって」
「そうなのか」
そんな他愛も無い話をしながら上がっていく二人。
上がっていくが一向にノエル姫の姿は見えない。
「良い玩具が手に入った状態なんだろうな。やっぱり付いて来るのかな……」
「え? 秀人としては嬉しくないのか? 結構好みだろ? 秀人の」
「……何で知っているんだ?」
「そういうキャラが好きだったじゃないか」
「……やっぱりこれは夢なのかな。まあ考えても今はわからなそうだから、後で考えるとして……よくあるゲームのパターンだと、その……異世界貿易会社ゴランノスポンサーか? そいつが真の黒幕なんじゃないのか?」
「嫌だなー、僕が黒幕なわけないじゃないか」
「お前が黒幕と言っていないぞ? 異世界貿易会社ゴランノスポンサーが黒幕なんだ」
「うん、それも無いよ」
「それは証明できるのか?」
「秀人が納得出来る証明が出来るかどうかはわからないね。やっぱり信頼関係って重要なんだ」
「信頼できるだけの要素が何処にも見当たらない件について一言」
半眼で見ると、正樹は酷いっと、演技をしてみせてから、
「じゃあこの話はどうだろう。一応僕達も異変について調べているし、さっきみたいに、異変に遭遇した場合の効率的に対処する武器を作っているだろう? それとか」
「……異変作り出して武器売りつけとか、まんま武器商人じゃないか」
「……確かにそうも取れるよね。あれ? 本当にうちの会社が黒幕(笑)なのか?」
「……この件も保留だな。というかなんでこんな所で働いてるっぽいんだ? 正樹は」
「期間限定のアルバイトのようなものかな。で、今度、新しいゲームが発売されるから、お金が必要になって、このようなアルバイトをしたわけです」
「所で俺にもそのアルバイト料って支払われるのか? 勇者だかなんだかの」
「契約に無い事は、やらないと思う」
「……」
「……」
「止めた。帰せ、家に帰せ」
「……分った、後で上司と相談して見るよ」
「よろしく。それと、アルバイトって、どうやって募集しているんだ?」
「世の中知らない方が良い事もあるよ」
そう答えて、正樹はそこで話を止めたのだった。
城に戻ると、今日泊まる部屋に案内された。
ちなみに正樹と同じ部屋だった。
そして案内された部屋にいた少女は、確かノエル姫のお付のメイドで、
「確か、メアさん、だったか?」
「は、はい……えっとベットのシーツを取替えに来ておりまして、本当はもう少し時間があれば、花瓶の花も取り替えたかったのですが……」
「ああ、いいって。突然の事だから」
「あ、ありがとうございます。で、では失礼いたします」
そう、慌てて去っていく行くメア。それを見ながら秀人が、
「ああいうドジっ子ぽいのが人気なのか?」
「……切れると怖いよ」
「え?」
「切れると怖いんだ」
「……何があったかは聞かないが、そうなのか」
「思い出したくないから、彼女の事は言わないでくれ。あ、そうそう、さっき連絡が来て、ほら……」
正樹が、ガラスの板のようなものを取り出した。手のひらよりは少し大きいが、
「この世界の、スマートフォンみたいなもので、ただ文章のやり取りしか出来ないんだ。それに少し時間がかかるし」
「魔法的な原理は聞いても仕方が無いからいいとして……どれどれ? 『“賎しき者共”の場所を探知する装置の試作品が完成しましたので、明日お送りします』だと?」
「これで、手軽に奴らの巣が潰せるよ」
「……攻略本を見ながらゲームをする感じか?」
「分った所を潰していくだけだから、作業ゲー、かな?」
「……勇者って格好良くて楽しい職業なんじゃないのか?」
「見かけが楽しそうなものなんて幾らでもあるよ。それで……」
「なあ、近隣にそういう巣があるか確認してから、この道具を試して見るのは駄目か?」
「そうする? だったらその周辺に人が入れないようにしてもらった方が良いね。王様にお願いしてくるわ」
「あー、俺から行った方が良いか? 俺が思いついたし」
「そうだね……あれ、王様?」
正樹が部屋のドアを開けた所で王様が歩いていた。
なので、二人はその場でお願いをして、それに王様は、
「だったら、近くで巣がありそうな場所はひとつ分っているぞ。ではそのように手配しておこう」
そう、秀人と正樹は言われたのだった。
次回更新は未定ですがよろしくお願いします。