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これは、某大賞に応募した、本作の修正版です-9

それから、カミーユも同行という事で周辺に“賎しき者共”を秀人達は狩続けた。

 “賎しき者共”探査レーダーの巣がどんどん消えていくが、やはり幾つか現れるものもあり、そこら辺を今度調べていこうかという話にもなった。

 ついで、カミーユの言っていたとおり、何故か、その魔法陣の欠片を手に入れていることは異世界貿易会社ゴランノスポンサーは知っており、新たな調べるものが来るぞー、と目を輝かせていたらしい。

 本当に純粋の魔法や技術があの人達好きなんだなと思う、そんな一幕だった。

 そしてメアは、ついでだからと色々雑用を申し付けられて、早くノエル姫の所に戻りたいと王様に泣きついたらしい。

 しかし、じゃあこれをやったら、と新たの仕事を申し付けられてそれが終わってから戻ってくるそうだ。

 一応カミーユから、その魔道研究所へ行く地図はもらったのだが可哀想なので、待っていてあげよう、という話に秀人達はなった。

 更に付け加えるなら、神話の時代かと思うような地図で、正樹がうんうんうなりながら照らし合わせていたら、ミリーがやってきて、酷く鮮明な写真のようなものをくれた。

 どうやら魔族の衛星写真もどきらしい。

 それで何とか場所の特定が出来た。

 本当に魔族ってなんなんだろうと突っ込みを入れたかったが、秀人は黙った。

 この世界にはこの世界のルールがあるのだろう。

 とはいえ目の前でミリーが正樹に抱きつきながら、

「情報をあげたのだから、情報料を頂戴? 正樹の体で」

「ひいいいいいいい」

 悲鳴を上げて逃げていく正樹。それを追いかけるミリー。

 いつもの光景に嘆息しながらその日も、“賎しき者共”を狩りに行ったのだった。


 メアを待つついでに周辺の散策と巣の狩りも行った。

 その“賎しき者共”の種類に、最近色々と種類が増えてきた。

 お陰で秀人は、ご褒美なのだけれど、今はうんうんうなる羽目になっている。

 そこで正樹が部屋に駆け込んできた。

「ひいいい、鍵、かぎっ、かぎー、……よし、助かった……」

 焦ってドアに鍵をかける正樹。そしてすぐにスマホのようなものを取り出して、

「援軍求む。援軍求む。援軍求む。援軍求む。援軍求む。……撤退は許可できない、だと? ふ、ざ、け、る、なぁああああああ。うううう、もう嫌だ。もう……うっうっ」

 なにやら追い詰められたような正樹。

 流石に放っておくのもなんだったので、秀人は声をかけた。

「どうしたんだ正樹」

「秀人……ミリーにホテルに連れ込まれそうになった」

「……いつもの事じゃないか」

「うっかりミリーが可愛いなって思って見てたら、ホテルに連れ込まれそうになったんだぞ!」

「……ごめん。何が問題なのか分らない」

 本人達が愛し合っているというか、ミリーに絆されているから別に良いんじゃないだろうかと秀人は思うが、そこで正樹は沈痛な表情で、

「18歳以下の未成年者がそういう事したら罰せられるんだぞ!」

「……えっと、親の同意云々は別にして、確か、結婚できるのは男は18歳で女は16歳だったか?」

「うん。なのに……うっ、う」

「……要するに、正樹はミリーに絆されかけているのが怖いんだな」

「……はい。というか一人で抱えているのが辛いから、話聞いてくれ」


 あまりにも悲痛な表情で言われて、秀人は仕方がないとうなづいたのだった。


 ホテルに連れ込まれそうになり、正樹はその場から慌てて逃げ出した。

「待ちなさい正樹!」

「待てといって待つわけ無いだろううう、いやだああああ」

 そう叫び声をあげながら逃げ回って、そして気がつけばミリーの姿も見えず、そして声も聞こえなくなる。

 だがやはりどこかに潜んでいる気がして、正樹は警戒するように見回す。

「気のせいか……」

 そう一人呟き、正樹は宿へと歩いていく。

 宿は込み入った路地の中にある。

 しかも人通りがあまり多くは無く、薄暗い細い路地が幾つもある。

 そこを正樹は歩いていったのだが、そこで暗がりから細い手が伸びてきた。

「ええ!」

 普通、女の子に起るパターンじゃ無いのかと思ったら、ミリーだった。

 しかも体のバランスを崩して、正樹は路地で尻餅をついてしまう。

 そしてそんな正樹をミリーは壁に押し付けて、そのまま正樹を跨いで座り逃げられないようにする。

 しかもすぐに薄い光を通す程度の布を自分と正樹にかけた。

 じっと見つめるミリーの顔は真剣で、正樹は胸が高鳴ってしまう。

 そんなミリーが口を開いた。

「私、正樹の事、愛してる」

「あ、うん。知ってる。いつも聞いているから」

「私、正樹の事好きだよ」

「あの、ミリーさん、もしもーし」

「私、一所懸命我慢しているんだよ? 本当は正樹の事が欲しくて欲しくて欲しくて欲しくてたまらないのに、それでも我慢して……ねえ、正樹はいつか私の想いに答えてくれる?」

「えっと、それはですね……」

「私は、期待していい? いつか正樹が私を選んでくれるって。その可能性があるって、信じていい?」

「えっとあの……」

「ホテルに連れ込もうとしたの、いつもよりは連れ込まれてくれたよね。私は、期待していい?」

「う、え……」

「私、正樹の事が好きだよ? 愛してる。でも……正樹は私を拒んでばかり」

 そう悲しげな表情で俯くミリーに正樹は、酷く悪い事をしているような、そんな感情を覚えて、

「あの、そういうわけでは……」

「ずっと思い続けるのは辛い。でも、私正樹を諦める事を考えるともっと辛くて……」

 そういうミリーの瞳から、一筋の涙と……てに隠そうとしてる目薬が見えた。

 怖い。

 女って怖いと思いながら、正樹は、

「ミリー、目薬見えているよ」

「……残念ね。ちょっとは絆された?」

 ミリーがペロッと舌を出して、いい加減にしてくれと嘆息する正樹の頬に手を当てた。

 そのまま、ミリーは自身の白く細くて長い指で、正樹の唇をなぞって、

「そろそろ、キスの一つくらい私にしてくれても良いんじゃない?」

「……恋人じゃ無いのに出来ないよ」

「あら、キスすれば恋人なのかしら」

「そうじゃなくて……ミリーはもっと、自分を大切にするべきだ。こんな風に確かに自分からぶつかっていくのは良いけれど……僕みたいな異世界人を選ばなくたって、もっと良い相手が居るだろう!」

 つい声を荒げてしまう正樹に、ミリーは目を丸くして、それから本当に嬉しそうに笑った。

「正樹のそういう真面目な所、私は好きだよ?」

「……ありがとう」

 照れながら、どう答えたら良いのかわからずお礼を言う正樹。

 そんな正樹に、ミリーは今までに無い凶悪な笑みを浮かべて、

「……絶対に貴方を逃がすつもりなんて無いから。覚悟なさい?」

「ひいいいいいいいい」

 その笑みがあまりにも恐ろしくて、けれど鮮やかで、正樹は必死になって逃げてきたのだった。


「ということがありまして、もう僕はどうすれば……」

 そんな事を言われてもどうすれば良いのか秀人は分らなかった。

 どう考えてもミリーは諦める気配はないし。

「……そこまで女性に愛されるなら本望じゃないのか? 男として」

「人事のように言うな! うう。じゃあ参考までにノエル姫との付き合い方とか教えてというか……何に悩んでいたんだ? 入ってきたとき秀人は頭を抱えていたけれど」

「……思い出させないでくれ」

「……僕も恥ずかしい話を聞いてもらったんだから秀人のにも相談に乗るよ!」

 野次馬根性丸出しの正樹に、秀人は嘆息して、ポツリポツリと話し始めたのだった。


 今回はカミーユは付いて来ていなかった。

 それは良いとして、最近“賎しき者共”の形が変わってきた。

 ついこの前は、トカゲやら蛇やらといった動物のようなものが多かったのだが……。

「透明なゼリー状の何かって……あれもそうなのか?」

「うん、ゲームに出て来そうだよね。あれ」

「……だんだんゲームっぽくなってきた感じがするな」

 そうぼやきながら、いつものように秀人は剣を振るう。

 簡単にざくざく切れて動かなくなるゼリー状の物体。

 プルプル感が本当のゼリーのようで、少し摘んで食べてみたい衝動に駆られるが、変なものを口にして何か起こると面倒なので秀人は諦めた。

 とはいえ数が多く、ミリー達の手助けもあって何とか処分していくも、奴らがぴょんぴょん飛び跳ねるのでそれを追いかけながら倒していく。

 ちなみにこのゼリーもどきは、人間を襲うというよりも、人間に引っ付くのが好きらしい。

 そんな人畜無害な奴、放っておいても良いんじゃないかという秀人の思う秀人だが、

「……こいつらに引っ付かれて数日放置すると、巨大化するんだ。それで、宿主から離れてその辺を飛び跳ねてものを壊すんだ」

「……修理費も馬鹿にならないって事か?」

「そういう事。なので気の毒だけれど、潰しておかないと」

 そんなわけで、剣でざくざく、魔法で燃やすという作業をえんえんと繰り返していた秀人達だが、

「ちょ、やだってばあああああ」

 そんなのノエル姫の声が聞こえたのは、随分とその“賎しき者共”を秀人が倒した後だった。


 ノエル姫が、自分に引っ付いたゼリー状の“賎しき者共”を引き剥がしていた。

 けれど幾つものゼリー状の物体がノエル姫の服の上から張り付いて、もぞもぞ動いている。

 しかもそのうちの一匹が服の中に……。

「もう、嫌だってぇえ……」

 秀人は怒りが湧いてきて、ノエル姫のほうに向かって走りよる。

 そしてすぐさまそのゼリー状の“賎しき者共”を引き剥がして、助けようとする。

 けれどそれに抵抗するかのように“賎しき者共”は、ノエル姫の服の中に潜り込んだ。

「や、ちょっと……スカートの中に……」

 流石にそこまで秀人は手出しできないのだが、もぞもぞと顔を赤くするノエル姫をどうすることも出来ず、」秀人は見ていることが出来なかった。

 間違っても、ちょっとエロい事になっていて健全な高校生である秀人がどきどきしたからとかそんな理由では断じてない。

 そこで、ゼリー状の“賎しき者共”を、ノエル姫は引き剥がした。そして、

「よくもやってくれたわね」

そう言って、“賎しき者共”を手で握りつぶした。

 そしてふうっと微笑んでから、秀人の方を見て、

「秀人、助けてくれてありがとう」

「あ、うん、まあ……多少は」

 その様子を見ながら、秀人は一応にっこりと微笑むも……。

「もしかして、俺がノエル姫を守ろうとするのって間違いなのかなって」

「いや……ノエル姫、もともとあんなだよ?」

「そうなると、俺が守っていたら油断してノエル姫が怪我をする可能性もあるのかな」

「うーん、そこまでは自己責任かな。でも今回の事で、秀人がある程度頑張れば、ノエル姫は自分の身が確実に守れるくらいには強いって分っただろう?」

 秀人は素直に頷けなかった。

 やっぱり、ノエル姫が好きなので良い所を見せたかった、という個人的な感情が大きい。と、

「それで、随分とエロいノエル姫が見られた感想は?」

「な、何の事かな、正樹」

「いやいやいや……ミリーもそれくらい可愛げがあれば良いんだけれどな」

 そう嘆息する正樹に、秀人はふと気づいた。そういえば、

「涙を流す時に目薬って、そんな見える形でもっているのかな」

「……あ」

「あのミリーさんが、そんな手抜きするか?」

「……いやいやいや、だって、そうなるとまるで僕が気づくように……」

「……逃げ道用意してくれていたんじゃないのか?」

「……女って怖い」

「怖くないだろう? ミリーさん、それだけ正樹の心を尊重してくれているんじゃないか」

 けれど秀人のその言葉に正樹は嘆息して、

「……怖いよ。本気で惚れそうだから」

「……そうだな。俺も、ノエル姫に本気になりかけているから……こんな事で悩んでいるんだろうな」

 二人して黙る。

 頭では色々分っているのに、気持ちが言う事を聞かなくなっていくのだ。

 まったく厄介で、それでいてこんな感情が無ければ良いと思えないのが更に厄介だった。

 そこで、正樹のスマホもどきがちかちかと光り、面倒そうにそれを正樹が見て、

「あー、秀人の武器の検査しておくって。壊れてないか」

「何処にいくんだ?」

「今宿の前にいるって」

 そう言われて、秀人は窓から外を見た。

 そこには、黄色い服を着た男が見て取れたのだった。


 正樹がその黄色い服を着た男を紹介する。

「メンテナンス係のキイロさんです。皆には、“ドクターイエロー”と呼ばれています」

「そうなんですか……」

 突込みを入れたい気分になりながらも彼に渡して、秀人は様子を見る。と、

「やはり、君の魔力は大きすぎるようだ。負荷がかかっていて……まあ、ちょっと部品を変えれば大丈夫そうだし、予備の武器が一杯あるから良いだろう。魔道研究所は多分制圧できる」

「魔道研究所はそんなに“賎しき者共”が多いのですか?」

「うちの職員が逃げ帰ってくる程度に」

「……」

「まあ、うちの職員は君ほど魔力は無いから、それを考えれば君ならできるだろう」

「……俺達は良いですが、彼女達もついてこようとしているのですが……」

「こちらさんの武器も持たせてあるから。それに援護してくれる人間がいないときついぞ?」

 納得は出来ないがそう言われてしまうと、秀人もうなってしまう。

 やはりノエル姫は置いていくべきでは……と。

「いざとなったら二人は連れて逃げ帰るから秀人は安心していれば良いよ」

 そう正樹が付け加えて、それ以上秀人は何も言えず、そのドクターイエローさんに装置やら何やらを直してもらったのだった。


 ノエル姫の母であるカミーユはお城にそろそろ帰ろうかといっていた頃。

 ようやく戻ってきたメアは、ノエル姫に抱きついた。

「姫様~、ようやく戻って来れました」

「……メア、どうしたの?」

「貴方様のお父様が大量に、雑用を……」

「……何やってるのかしら、お父様」

「しかもなんか機密という判子の付いている書類まで手渡されたんですよ! もっと違う相手に渡せと! 何で私なんですか……」

「……その場にいた中で一番信頼が出来て、一番その文書を持っていかなそうな相手がメアだったのでしょう」

「……なるほど。ですが止めて下さい。渡した後に確認しているのを見て、背筋が凍りつきかけましたよ!」

「……というのは冗談で、多分、便宜上押してあるだけだと思うの」

「そうですよね、そうですよね! うちの国、そんなに危機管理がなっていないはずありませんよね!」

 そうメアが何処かほっとしたように涙ながらに言っていた。

 それを聞いていた秀人が、何となく、メアの方がまだ信頼できる相手だったという前半の下りが本音のような気がして、お城は怖い所だなと思った。

 さてさて、メアが戻ってきたはいいのだが、

「確かメアは、短剣を使うのが得意だったよな」

「ええ、そうですけれど……それで?」

「正樹、俺の持っているあの武器の一つ、短剣をメアに貸しても良いか?」

 その秀人の問いに、正樹は顔を上げて、

「分った。一応確認を取ってみるわ……ぽちぽちぽちっと」

 スマホもどきになにやら文書を入力をしている正樹に、断られなくて良かったと秀人が思っているとメアが、嘆息するように、

「私なんかにそんな武器を渡してしまって良いのかしら」

「かまわないですよ。だって貴方はノエル姫が大切でしょう?」

「ええ。我が主の姫ですから」

「俺にとっても、ノエル姫は大切な人だから、少しでも、もしもの時に備えておきたいのです」

「……そんな危険な場所にノエル姫を連れて行くのか?」

 そんな何処か険しい表情のメアに、秀人は小さく笑って、

「じゃあ、メアが説得してくれるんだな」

「え?」

「いやー、そういう流れになっていてどうしようかと思っていた所だったんだ。かといって俺も、ノエル姫に嫌われたくないから、じゃあメアに説得を任せた」

「ま、待って。何で私が……」

「ん? ノエル姫を危険な場所に連れて行くのは嫌なんだろう?」

「そ、それは、まあ……」

「俺には無理だったし、カミーユさんからも、もし付いていったらよろしくって言われていたから」

「姫様……」

 頭が痛くなったようにメアはカビに額をごんとつけた。

「それでもしも俺に何か合った時は正樹のサポートで全力で逃げ帰る事になっているから。でも、来ない方が危険が無いと思うだろう?」

「それは、まあ……」

「ミリーさんもいるし、ノエル姫の強力な弓もあるけれど、戦力が大いに越したことは無い。だからその場合も考えて、正樹に短剣をメアさんに使わせてもらえるようお願いしたんだ。もっとも、メアが、ノエル姫を説得できれば何の問題もないんだけれどね」

「く……いいだろう、私が、姫様を絶対に説得してみせる!」

 それをぱちぱちと手を叩いて秀人が応援して、メアが、今までの話を聞いていてちょっとむすっとしたようなノエル姫に向かって説得する事、約5分。

「そんな事を言うメアなんてだいっ嫌い!」

「姫様!」

 ノエル姫部屋にこもってしまった。

 しかも鍵をかけられて、部屋の中に入ることも許してもらえなくなっている。

 そして、メアは秀人をギロッと睨み付けてつかつかと傍までやってきてから、

「いいわ、貴方がのいうとおり、姫様を守ってやる。その短剣で」

「助かる。ありがとう」

「……別にお礼を言われるまでもない。私は姫様の従者なのだから」

「それでも、メアのその答えは嬉しい。その、俺、ノエル姫が大好きだから」

 その言葉に、ほんの少しだけメアの瞳が揺れた。

 もしや俺のモテ期! とかちょっとだけ秀人は思ってしまったが、そんな事を考えてしまった自分がなんか悲しかった。

 そこで、との隙間からノエル姫が半眼で秀人を見ていた。そしてポツリと一言、

「……浮気者」

「! ち、違う、俺はノエル姫一筋……」

 けれど再びその部屋の扉は硬く閉ざされ鍵がかけられてしまう。

 焦った秀人が慌てて言い訳をしている頃、正樹が許可が出たよー、と言ってきて、それでメアに短剣を渡した後、ノエル姫を約一時間にわたり説得したのだった。


 さて、次の日魔道研究所に行こうとした秀人達だが、言わずもがな、ありとあらゆる彼女の母親カミーユの罠を突破してノエル姫が合流してきた。

 その道中でも、さくさく“賎しき者共”を秀人は倒し、これ以上は連れて行けないといわれて途中から徒歩になる。

 現れた、巨大な灰色の建物。

 周りは確かに整地されているが既に放置されて暫く経っている為か雑草が随分と生えている。

 生命のたくましさにある種の感動を覚えながら、現れた“賎しき者共”を倒して。

「入り口は何処なんだ?」

「確か地図によると、こっちだね……。でも、カミーユさんが入り口を塞いだような事を言っていたからな」

「“賎しき者共”が外に出ないようにか……」

「まあ、蹴破って、現れる奴らを片っ端から倒していくという作業ゲーというか、駆除していって、魔法陣の欠片をミリーに見てもらえばいい……ミリー?」

 ミリーは少し眉を寄せて、その建物を見つめている。

「ミリー?」

「……まずいわね?」

「え?」

「今までの比じゃない位大きくて強いものを呼び出そうとしている気がする」

 そう、呟いたのだった。


 ミリーの何時に無く深刻そうな表情に、秀人が、

「どれくらいの大きさなんだ?」

「とても大きいとしか。でも、早めにそのまだ機能している魔方陣をそうにかしないとまずいかも」

「壊すだけで止まら……ないか。そうだな、魔法陣が機能した状態で破片になっても、それは機能し続けるんだったか?」

「そう、だから見つけ次第解除しないとね。魔力が複雑に干渉しあっているのを感じるから」

 それを聞いた正樹が慌ててスマホもどきで連絡を取っていた。

 そんな正樹を見ながらミリーに秀人は、

「でも、魔族は“賎しき者共”が何処から現れるのかも分るのか?」

「距離が近くて、その持っている魔力の量によるわね。そこら中に広範囲に散らばったら私だって分らないわ。既に機能が停止している場合だってあるし」

「なるほど。でも良く分りますね」

「魔族は繊細なの。でも、貴方や正樹が、それが分らないのも不思議よね」

「……きっと藁人形なので、感覚が鈍いのでしょう」

「その割には、正樹、前に私の胸に手が当った時……正確には当ててやったんだけれど、顔を真っ赤にして、『や、柔らかいものを押し付けるな!』って、逃げていって可愛かったのだけれど」

 ミリーの言うその情景が、ありありと目の前に浮かんで秀人は少しだけ正樹が気の毒に思う。

 いや、そういった事に対して、正樹も秀人も健全な男子高校生なので嬉しい事は否定出来ない。

 そしてそれが好意を寄せている相手ならば、嬉しさ累乗である。

 だが、嬉しいとはいえ、そういった事に耐性が無く、物語の中くらいでしか今まで無かった事を鑑みれば、刺激が強すぎるのではないだろうかと秀人は思うわけである。と、

「あら、貴方も同じ意見なの。初心ねー、まあ、正樹のそういう所が美味しそうなのだけれど」

 けれど連絡に忙しい正樹は、ミリーのその発言に気づいておらず、必死に連絡を取っていた。

 その様子を見て、ミリーはしょぼんと肩を落とした。

 どうやら正樹に相手にされないのは悲しいらしい。

 加えて正樹が絡まなければこの人、ただの普通の女の子ではないかと、秀人はミリーの認識を改めた。

「……まあいいわ。多分応援を待っているよりは、まず中に入って“賎しき者共”を少しでも多く処分して、その魔法陣の破片を探しやすいようにしないと」

「解除には時間がかかるのか?」

「数分程度はかかると思う。しかも集中するから、“賎しき者共”の襲撃があると面倒だから」

「分った。……そうなってくると……ノエル姫」

 そこで秀人がノエル姫を呼ぶ。やって欲しい事があったからだ。

「何? 私が手伝える事、ある?」

「ああ、所で弓矢は後どれくらいある?」

「えっと……250かな」

「……猫の矢、そんなにくれたのか、あの人達……100本以下になったら、使うのを止めて欲しい」

「……100本あれば、私の身が守れるだろうから?」

「ああ、ただ事態が事態だから、初めの内は弓で一気に“賎しき者共”を殲滅してそれから漏れたものを俺が叩いていく事にする」

「秀人の魔法で一掃した方が楽なんじゃない? ほら、以前山に穴を開けた……」

「その爆風で、魔法陣の欠片が散らばると回収がやっかいだから、威力を抑えざる終えない。確かにそれを一発でも撃てば、ここは跡形も無く消し去ることが出来るんだけれどな……」

「分った。任せて」

「よろしく。あと、ミリーさんとメアには、取りこぼしの処理をお願いします」

 ミリーとメアは頷き、後は秀人はどうしようかと考える。

 先日メンテナンスを受けたものの、剣ばかりに頼って負荷がかかりすぎてしまったかもしれない。

 そうなると戦闘中に折れてしまう可能性も否定できない。

 となると使っていない、そして当初考えていた槍を使う時が来たか! そう秀人は思う。

 槍であれば、攻撃範囲も広いので取りこぼしか少なくなるかもしれないし、範囲が広い分、対応までの時間を長く出来る。

 素人である秀人だから、その分普通の予想しか出来ない。

 本当にこういった力が無かったらどうなっていたんだろうとぞっとしながら、槍を取り出す。

 それと同じ頃に、正樹が顔を上げた。

「……援軍送っておいてくれるって。ただ先にこっちが先発隊で、ある程度“賎しき者共”を処理しておいてくれって。それと、ミリー姫とノエル姫は至急戻るようにと……」

「「嫌よ」」

 そう口をそろえる二人に、正樹は本当に深々と嘆息して、

「……ただ可及的速やかに行動を起こさないといけない関係上、説得が不可能な状態という現場の判断で連れて行くことになりました……後は自己責任だよ?」

「「はーい」」

 元気良く二人のお姫様は答えて、正樹は、ミリーにお礼といって抱き付かれそうになって、逃げ回っていたのだった。


 正樹が、捕まってミリーが抱きついて、それから。

「まずは、あの扉を俺が破壊するから、ノエル姫はすぐにあそこに向かって矢を放って下さい」

「入り口付近に集まっている可能性があるから……分ったわ」

「よろしく」

 そう言って、秀人は槍を取り出して、軽くくるくるまわしてみる。

 以前使用していた剣と同様に、重さに関しては軽く、振り回すには良さそうだ。

 そして、金属の扉が閉じられたそこに、秀人は駆け出す。

しゃっ

 風を切る音と共に、入り口の扉が幾つもの金属片となって重い音を立てて地面に落ちる。

 その入り口から建物の中は暗く、けれど幾つもの赤く爛々と輝く瞳が秀人達を見ていた。

 そこでノエル姫が矢を放つ。

 可愛いネコさんマークの矢が秀人の前に落ちて、以前と同じようにもわもわっと煙が現れ出でて、猫達が現れる。

 けれど今度の猫達は自分の顔に良く似た顔の縫いぐるみのようなものを何処からともなく取り出して、飛び掛ろうとする“賎しき者共”にぶつけ始めた。

にゃあにゃあにゃあにゃあ 

 猫の鳴き声の大合唱と共に、“賎しき者共”に猫が次々と投げ入れられて、その度に大きな爆発が起こる。

 一部、魔道研究所の壁がぼろぼろになっていたがそれは仕方がないとして……。

 その猫爆弾?攻撃が何時まで続くんだろうというくらい長い間続き、そこでふっと猫達が消えた。

 全部倒せたかどうか分らないので、少し待って様子を見る。

 けれど幾ら待てども音はしない。

「今ので全滅したらしいな。さて……じゃあ、明かりの魔法かなにか探すか」

 秀人は魔法が使える箱を使い、明かりの項目を探す。と、

『明かりの魔法:熱さを感じない、熱エネルギーの無駄となる熱を発生させない究極の光魔法! さあ、君も勇気を出して叫ぶんだ! シャイニーングッゥゥゥウゥウウ……』

 秀人はその説明を途中で読むのを止めて発動させた。

 ふわりと秀人のすぐ傍に光の玉が浮かび上がり、試しに、前へいけと念じると、ひゅんと飛んでいたった。

「頭にライトとか付けたり、懐中電灯を使わないのは便利だな。じゃあついでに……100個くらい作って飛ばしていけば問題ないだろう」

 そう呟くと同時に、秀人の周りにぽぽぽぽと灯りが浮かび上がったのだった。


灯った明かりを中に放り込んで、秀人は駆け出した。

 それに付いていくように、ノエル姫、メア、ミリー、正樹の順にかけていく。

 入った中の通路は大きく、左右に部屋が幾つもあるが、その暗い部屋に明かりを放り込むと何も声しない部屋とする部屋がある。

 入ってきた明かりに反応して、“賎しき者共”が声を上げているらしい。

 それを確認して、秀人はその部屋に飛び込んで処分していく。

 そして暫く繰り返していくと、また大量の“賎しき者共”が現れて、ノエル姫に頼んで矢を撃って貰う。

 再び矢が落ちた場所から煙が舞い上がり、今度は巨大化した猫が、“賎しき者共”を踏みつけて蹂躙している。

 歩くたびに悲鳴を上げて倒されていく“賎しき者共”だが、それでも漏れてくる相手が居るので、それを秀人が大雑把に倒して、その数匹の取りこぼしをミリーとメアが処理していく。

 そのまま一気に突っ切ると、壁に突き当たる。

 そしてすぐ傍には上に上がる階段が存在していた。

「正樹、この場所……というか壁の向こうで何か大きな音がするんだが」

「そこは大きな広い空間になっていて、そこで魔法陣の実験をしていたらしい。ただ、そこで秀人達の藁人形の最終工程はやってもらっていたから……それを逃すために吹き飛ばしたときにどの程度、魔方陣も散らばったか分らないんだけれどね」

 それを聞いて今度は秀人はミリーの方を向いた。

「この奥の広場から、その大きなものを呼び出そうとしている魔力を感じるのか?」

「……確かにそっちもあるけれど、上の方に変に強いものを感じるわ」

「正樹、ここは何階まであるんだ?」

 その問いかけに、正樹は眉を寄せて“賎しき者共”探査レーダーから顔を上げる。

「上に五階かな」

「となると、ミリー、幾つ位上に感じる?」

「最上階かも」

 それを聞いて、正樹がミリーが問いかける。

「ミリー、そんなに強い気配を感じる?」

「ええ? あら、正樹、私の事を疑うの?」

「いや……機械の故障かどうか迷っていて。……一万超えたんだ」

 その意味を秀人は瞬時に考えて、

「今までは千もいっていなかっただろう?」

「うん、でも突然現れて……」

「じゃあとりあえず、最上階には俺一人で行く。正樹、この明かりってどれくらいもつんだ?」

「数時間は。はじめの魔力で形成されてだんだん小さくなっていくから……」

「じゃあこの明かりの半数を出口まで並べておくから、二十分立っても俺が戻って来れなければ逃げろ」

「でも一万程度じゃ、秀人の敵じゃないんじゃないか?」

「そんな高い数値今まで無かったんだろう? 念には念をって事だ」

 そう言って秀人が駆け出す。

 一方ミリーがその“賎しき者共”の探査レーダーを覗き込んで、一言。

「今まで計測した事が無いのなら、この値が正しいかどうか分らないんじゃない? 過大評価なら良いけれど、過小評価であったなら……」

「……しまった」

「秀人の判断は正しかったかも。ちょっと様子を見ましょう……もっとも、秀人くらい力があればすぐに戻ってくるわよ、だからノエルちゃん、そんなに心配しなくても大丈夫」

 そう心配そうなノエル姫に、ミリーは付け加え、メアも、

「そうです姫様。彼はきっと大丈夫ですから!」

 それにノエル姫は頷いて、不安そうに階段を見上げたのだった。


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