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これは、某大賞に応募した、本作の修正版です-8

 さてさて、秀人達は暫くここを拠点にする旨を異世界貿易会社ゴランノスポンサー開発部の女性達に話すと、

「試し打ちには丁度良いんじゃない?」

「色々頑張ってやったものねー」

「そうそう、“賎しき者共”だけに設定はしてあるけれど……」

 そこで、彼女達は少し黙ってうーん、と考えてから、

「……一応矢を打った後は、矢と“賎しき者共”の間には入らないようにしてね」

「……入ると何が起こるのでしょうか」

 不安を覚えて、秀人が問いかけると、

「万が一の事が起こらないように。こういった矢とかの魔道具は、確かに“賎しき者共”を攻撃するようにはできているけれど、だからといって適当に扱うのは良くないわ」

「危険なものを扱っている自覚を持てと?」

「うん、ほら、薬品とか危険なものが多いでしょう? それがどういった性質を持つのかを知らないと危ないでしょう? 危険なものを扱っている自覚や知識を持ちながら、何が起こるかを推定して防備して、正しく取り扱う……結局、自分の身を守るのは自分でしかないからね」

「……説明書は、ありますか?」

「それは新開発の矢だから無いわね。でも試し打ちは何度かしたから後は実践によるかな」

 と言われてしまった。そして秀人はノエル姫を見て、

「危ないからその矢は……」

「試し打ちして大丈夫だったんだから大丈夫でしょう。でも、さっきの話を聞くと、前の矢よりも強いように聞こえたけれどどうなんですか?」

 けれどそのノエル姫の問いに、異世界貿易会社ゴランノスポンサー開発部の女性達は笑うのみだった。

 つまり前回よりも火力が上がっていることになる。でも、そうなってくると、

「……俺、必要なんだろうか?」

「良いじゃない。秀人が怪我をする可能性が減るんだし」

「それは、そうなんだけれど……ちょっと良い所をノエル姫に見せたいというか……うわぁあ」

 ノエル姫が抱きついてきた。しかもとても嬉しそうに、

「なに? 何で私の前で格好付けたいの?」

「う……うう……ごめんなさい!」

「あ! ちょっと待ちなさいよ!」

 秀人は判りきった答えを言うのが恥ずかしくて逃げ出した。それを楽しそうにノエル姫が追いかけていく。

 その様子を見ていた正樹が、

「ふ、未熟者め」

 と、偉そうに言っていた。ちなみにそれはミリーが何故か正樹の隣から席を立って何処かに行ってここにいなかったからであって……。

 ちなみにそのミリーは現在気配を消して後ろから忍び寄っていた。

 そしてそのまま正樹を後ろから抱きしめて、ミリーはくすくす笑いながら、

「本当にねー。この程度で声を上げるなんて、お子様ね……正樹?」 

 ちなみにミリーは現在悲鳴を上げようとした正樹の口を塞いで、楽しそうに笑っていたのだった。


 そんな一連の事があり、一向は宿へと戻りつかの間の休息を得た。

 そして、実力を見るためというノエル姫の母カミーユ及び兵と共に秀人達は街道沿いに歩いてやってきた。

 正樹が方角を確認してから、

「じゃあこの辺で良いかな」

「……その道具は何?」

 カミーユの問いに、これは“賎しき者共”を呼ぶ機械だというと、何でそんな便利なものがあるのよ! 私達は森の中まで分け入って苦労したというのに! と正樹は怒られた。

 そんな事を言われても一応これも試作品なので、正規のものではないと言い返すと、お得意様への贈り物として寄こせと奪われそうになりながら、正樹が逃げ回っていた。

 といった経緯は良いとして、今度の“賎しき者共”は兎のような形をしていた。

 ただし耳が三本あるが。

 とはいえ、以前よりも炎の魔法やら何やらを使い、現れると同時に森林火災である。

 しかも魔力のようなものが以前よりも感じる。

 とりあえずは、凍らせてから倒すかと秀人が考えていると、ノエル姫が、

「早速だけれど私の矢を使ってみたいわ!」

「ノエル姫……どうぞ」

 ここでノエル姫を説得したりする時間は無い。

 それほどまでに、秀人達にその“賎しき者共”の距離が迫っていた。

 そして、ノエル姫が楽しそうに猫のマークのついた矢を引き、そのまま“賎しき者共”へと打ち込む。

 その矢は“賎しき者共”の手前の地面に突き刺さり、そして白い煙が回りに広がり鳴き声がした。

にゃー

 数十匹という色とりどりのとても可愛い猫ちゃんが、一列に“賎しき者共”の前に現れたかと思うとそのまま口を開けて、自分の背丈の数倍とも言うべき火柱を放出した。

 猫レーザー? 猫火炎放射? などというわけの分らない言葉が秀人の頭を駆け巡る。

 轟音と共に、“賎しき者共”の悲鳴が聞こえて……その炎が収まり、猫ちゃんがふっと消える頃には、“賎しき者共”の影も形もなくなっており、代わりに木々が燃えていた。

「氷の魔法を……」

「ついでに、結界を張って酸素の供給量を減らそう。確か物体に張り付くように結界を張る魔法があったはず。確か、“透明なラップの魔法”だったかな……空気が入らないバージョンの方」

「……酸素の供給とか、この世界の法則は俺達の世界と同じなのか?」

「似ているから応用が利くんだよ。早く!」

 そう正樹に急かされて、氷の魔法を発動させると同時に、変な結界の魔法を秀人は発動させた。

 変な結界の方は、食品の鮮度を保つのに便利と書かれていたが、それってこの中にいれる必要があるのだろうかという疑問を抱くものの……そういえば秀人が使っているのはマッチに火をつける魔法だったと思い出した。

 使えれば良いかと割り切って、秀人はその魔法によりどうなるかを確認する。

 確かに、凍らせ損なった火も消えているようだった。

「……そういえば、火に水をかけて火が消えるのって、水が気体になるときに体積が膨張するから、それによって酸素と結びつけなくならからだったよな……水の冷却効果ではなく」

「そうそう、それそれ。でもまあ……このノエル姫の矢、えげつないな」

「そうだな。男性の作ったものよりも可愛くて容赦が無いとか……素敵な女性の方々だ」

 ある種の達観を覚えて秀人は呟く。

 けれどそれを聞いていたノエル姫が、

「秀人、何で私以外の女性を褒めるの?」

「え? 今の多分褒めていません」

「そう? そう……ならいいけれど……」

 そう、腕に抱きついてちょっと不機嫌そうなノエル姫。

 これは、恋愛にありがちな嫉妬というものですか! とちょっと秀人が嬉しく思っていると、そこで嘆息する声が聞こえた。

「……ノエル、貴方が倒したら秀人の強さが分らないでしょう?」

「で、でもお母様。私もまだこんなに威力があるとは知らなくて……」

「相変わらずあそこは予想を超えることをしでかすわね」

「それに、秀人はちゃんと魔法を使ったじゃないですか!」

「後始末をできるだけの力と頭がある事は分ったけれど、肝心の戦闘能力が分らないわね」

「うう、でもこの矢さえあれば自分の身は守れるよ?」

「約束は約束だから……なんですか? 勇者秀人」

 そこで、すみませんと秀人は声をかけてから、

「もう少し先にまた新しい巣があるようで、そちらの方が大きい魔力の反応がありますから、そちらで判断していただけませんか?」

「……好きな相手を、危険に曝す気?」

「好きな相手だから守れる所しか連れて行きません」

 そう、秀人は言い返して、ノエル姫は目を輝かせたのだった。


 ノエル姫がご機嫌だった。

 その理由が良く分らず、秀人はノエル姫に問いかけると、

「だって私の事守ってくれるって言ったし、私が一緒に戦いたいって言ったらそうさせてくれるでしょう? 秀人は私の味方だもん」

 秀人としては、好きな相手を危険な場所に連れて行くような酷い人間ではないと、言い返しただけのつもりだったのだが……このように好意的に取られてしまった。

 ここまで好意的に取られてしまうと、逆に秀人としてもこう……愛おしくて堪らなくなる。

 こんな可愛いくて、良い子が俺の彼女。

 そう思うと、何が何でも守ってあげたいと思ってしまう。

 一方ノエル姫も、秀人好き好き状態で、とろんとしながら頬を染めて秀人の腕に抱きついている。

 そんな二人を羨ましそうにミリーは指を咥えながらじっと見て、くるりと正樹の方を振り返る。

 その気配を察知し、正樹は警戒するようにミリーを見た。そして、

「正樹~、私疲れちゃった。おんぶ~」

 そう抱きついてくるミリーをささっと、正樹は避けるも、それすらも計算のうちとミリーは笑って正樹の腕に抱きつく。

「しまったぁあ、放せぇえ」

「良いじゃないたまには素直にやらせてくれても。ノエルちゃん達はあんな感じなのに、何で私に正樹はデレてくれないの?」

「……だから、恋人にはなりませんと僕は言っているでしょう」

「ハニートラップだと思っているの?」

「え?」

 その言葉に正樹はえっと声を上げて、少し黙ってから、

「そうだね。その可能性も……」

「考えていなかったって事ね。じゃあこの美少女でお姫様の私の何処に、正樹が嫌な要素があるわけ?」

「だから尻に敷かれそうな所だって言っているじゃないですか!」

「世の既婚男性で、尻に敷かれていない男性の方が珍しいと思うけれど」

「でも、もっとこう……守ってあげたくなるような、そんな大人しくて清楚な女の子が良いです」

「……そんな人形みたいな都合のいい相手が良いの? 正樹は」

 珍しく真剣な瞳で、ミリーが正樹に問いかける。

 それに、正樹のほうも珍しく戸惑ったように顔を背けて、

「いや、そういうわけじゃ……」

「じゃあ、なってあげようか。正樹の、清楚で大人しい……貴方に都合の良い女に」

 そう、ミリーが何処か優しげな微笑を浮かべて、正樹の手を掴み、自分の手を重ねた。

 そんなミリーに、正樹は少したじたじしながらも、困ったように頬をかいて、

「別に、わざわざそうなるように、女の子に理想を押し付けたりはしないよ」

「そうなの? 残念。頷いたら、すぐにでも既成事実を作ってやったところだったのに」

 悪戯っぽく笑うミリーとは対照的に、正樹は引きつった笑いを浮かべて、

「……なんで?」

「あら、この私のそこまでの演技をさせるのだから、伴侶人なって当然でしょう?」

「……悪魔の契約に、サインする所だったのか。危なかった……」

「仕方がないから今のまま、押していく事にするわ。……正樹が私に落ちるまで」

「ひいっ」

 最後のミリーの言葉は、正樹の耳元で病んだようにミリーが告げたため、正樹は悲鳴を上げた。

 と、そこでひと段落した正樹の元に、カミーユが近づいてきて、

「ちょっと、うちのノエルがあの勇者の男にべた惚れしているんだけれど」

「ああ、はい。なんだか、ものすごく好きですよね、ノエル姫」

「どうするのよ。異世界人でしょう? 彼」

「下手すると追って来かねませんね」

「気楽に言ってくれるわね。でもまあ秀人の方もノエルの方も、期間限定だと割り切っているみたいだから仕方がないか」

「別れがあるからこそ恋の炎は燃え上がる、みたいな感じですかね」

 そんな人事のような台詞に、カミーユは半眼になり、

「それで、貴方の方もミリー姫をどうするの?」

「……いざとなれば逃げ帰りますから、大丈夫です」

「そう? じゃあ逃げ帰る前に色々と事を運んでおかないとまずいわね」

「何をする気なんですか?」 

「女の子の秘密」

 正樹は、暫くこの世界にいるふりをして、逃げ帰ろうとこの時決意したのだった。 


 さて、それから少し歩いた所で、“賎しき者共”を呼び寄せた。

 今回は先ほどの兎のようなものではなく、蛇やトカゲもどきが混在している。

 ただ個体数が多い。

 今まで一番多いのではないかという量で、レーダーで368体と表示されていた。

 面倒くさいと思いながらも、ノエル姫の母親を説得するためなので、秀人は“賎しき者共”に向かって目を向ける。

 そして、それに向かって凍らせる魔法を使い、足止めをしておいてから剣を取り出して秀人は突進していく。

 “賎しき者共”が攻撃しようとする前に、秀人は切り裂き、取りこぼしが内容に気をつけて倒していく。

 その時、速く走りたいと望めば異様に動く速度が上がって、周りの動きがスローモーションのようになる。

 動体視力も上がっているのかもしれない。

 なんにせよ、敵と戦うには素人である秀人では、これくらいの力がないとといてもではないがやっていけない。

 そして、秀人はいつものように“賎しき者共”を倒して、残った肉片を炎で焼いて処分する。

 一応これで実力は見せられただろうと思って振り返ると、カミーユが呆然としてその様子を見ていた。

 近づいていっても、彼女は秀人に気付かない。なので秀人は、


「すみません、終わったのですが……」

「え? ええ、そうですか。ああうん。確かにいなくなったわね……」

 カミーユは、そう呟いて、少し考え込んでから、

「……秀人。まさか貴方がこれほどまで強いとは思わなかったわ」

「それは……そうですね。俺も驚いています」

「でもね、私も一人の親として、ノエルの事が心配なの」

「つまり、ノエル姫はお留守番だと?」

「できればそうして欲しいけれど……でもあの子の事だから抜け出して付いていくわね」

 カミーユは、親なりにノエル姫の性格を熟知しているらしい。

 それで悩んで、嘆息してからカミーユは、

「出来るだけこっちに引き止めるようにはするけれど、それでも無理で付いて行ってしまった時は娘をよろしく」

「はい。全力で守らせていただきます!」

 秀人の言葉にカミーユが微笑み、そしてそれを聞いていたノエル姫が、カミーユに怒ったように文句を言っていたのだった。


 その後、“賎しき者共”の巣を、計8個ほど戦うと書いて作業ゲーと読む……といった駆除作業をやった秀人達。

「後は方向が違うから、また後でにしよう。暗くなる前に戻った方がいい」

 との正樹の提案で、秀人達は宿の戻る。が、

「何でお母様もこの宿に?」

「あら、娘の事が気にならない母親がいると思って?」

「いえ……うう。でも……ええいい、いいや。秀人!」

 悩んでから、ノエル姫は秀人の傍に走っていって隣に座る。

 そのままノエル姫は肩を寄せてきて、

「……お母様がいる前だから、どうしようかと思ったのだけれど……やっぱり秀人にくっ付いていていたいなって」

「えっと、そうですか……」

「何よ、嬉しくないの?」

「いえ、とっても嬉しいのですが、ちょっと恥ずかしいというか照れるというか……」

「恥ずかしくないわ。私は何時だってお母様に見せつけられてきたもの」

「そうなんですか……」

 随分ラブラブなお妃様なんだなと、秀人はカミーユを見て、それからノエル姫を見る。

 秀人にくっついてノエル姫は幸せそうに笑っていて……その表情に秀人はどきどきした。

 そんな秀人達を羨ましそうにミリーが見て、正樹をちらりと見ると、正樹とミリーの目が合う。

 ちょっと期待するようにミリーがじっと正樹を見ると、正樹が嘆息してから、ミリーの手を握った。

「これだけで、我慢してださ……え?」

 別にただ正樹から、ミリーの手を握っただけである。

 それだけでミリーは顔をかあっと赤くして、緊張したようにこわばらせて、そして正樹と繋がった手をじっと見て……そのまま俯いてしまう。

 てっきり、正樹大好きとくっ付いてくるかと思ったのに、それどころか酷く大人しくなってしまった。

 こんなミリーは正樹は初めてで、どうしようかと思っているとミリーが顔を上げた。

 いつもの余裕がある感じではなく、何処か花が綻ぶような控えめな、けれど鮮やかな微笑で正樹をミリーは見て、

「初めてだね、正樹が自分から手を握ってくれたの」

「あ、え……そうだったっけ」

「そうだよ。でないと私、今日の日付を正樹が初めて手を握ってくれた記念日にしていないもの」

「……やっぱり手を放すわ」

「やーん、もう少し……だめ?」

 お願いするように小首を傾げて可愛らしい仕草で、ミリーは正樹を見た。

 その表情に、正樹はどきどきしてしまい……そんな感覚を覚えて逃げ出してしまったのだった。

「ちょ、酷いわ正樹ー!」

 それをミリーが追いかけていく。

 後には、秀人とノエル姫、カミーユが残される。

 そんないつものような正樹達に秀人がふと疑問に思ってノエル姫に、

「いつもあんな感じだったのか? 正樹とミリーさんて」

「うん、そうよ? ミリーちゃん、正樹が大好きだから」

「そうか……というか、魔族は異世界貿易会社ゴランノスポンサーとの繋がりが随分強いように感じたけれど」

「そうだよ、魔族が異世界貿易会社ゴランノスポンサーとの繋がりが一番強いかも。ただ理由としては、魔族の知識レベルの高さによって、異世界貿易会社ゴランノスポンサーを許容出来た所が大きいの」

「……話を理解できる程度の知識を持ち合わせていたって事か?」

「それもあるけれど、異質なものをどの程度許容できるかという話。もっとも、魔族の場合も異世界貿易会社ゴランノスポンサーが現れたお陰でそういった方向に、話が持っていかれた部分があるらしいのよね」

 異質なものの許容。

 良く分らないが、それがあったから逆にこの世界では秀人のような異世界人も許容できたのかと思うが、

「でも、普通自分とは違うものは受け入れにくいんじゃないのか?」

「そうだね。同じは居心地が良いけれど……残念ながら、共通点があるだけで皆違うんだよ。でも、違う事に気づかなかったし、同じ事ばかりを求めていたのが、ついこの前までの魔族内での敗因だったの」

「同じものばかりか……変化に乏しいな」

「そう、同じであろうとするから異質なものが排除され、同じものがずっと続く事で、変化に対応できなくなってしまった。ようは同じであるって事は、進歩が無いってこと」

「同じままで維持は出来るのか?」

「もちろん出来ないわ。同じことの繰り返しだから、それがどうやって出来たのか見直さずに同じ作業を繰り返して、結果として色々な必要な知識やら技術やらが欠けていく現象が起こったらしいわ。なんでも、伝言ゲームってあるでしょう?」

「えっと一つの文章を伝言していって、最終的にどうなるかって奴か」

「そうそう、大抵それをやった場合、最後に伝えられる話は、途中幾つか抜けているか、違う話になっているでしょう?」

 確かにと秀人は思う。

 以前にやった伝言ゲームでは『花畑を摘みに行きました』が、『花畑で蜂蜜を取ってきたぜ』といったまったく違う話になっていたりする。となると、

「なるほど。それじゃあ、何度もはじめの文章を見直さないといけないな」

「ええ、見直して、そうするとその時はまだ出来なかったものや新たに分った事で、その改善が出来るようになる……んだけど、そこに別の問題もあったらしい」

「どんな問題だ?」

「a→bと暗記していただけでは、それ以外のことが起こるって考えられない。違うものが存在する事自体が考えられないの」

 以前正樹が、そんなような事を言っていた事を思い出しながら秀人は、

「……要するに、aという町から馬車に乗って出発してbの町に行く場合、その方角が違えば、cの町についてしまうって事か」

「そう、方角という要因が変わっただけで別の結果が導き出せる。確かに覚えないといけない事があって、それが大切なのも分るけれど……更に考えるならば、その知識に上乗せする形でこういう要因があると変わってきますよという事を学ぶ必要がある。そこまで考えないと、行きたい場所にもいけなくなるわね」

「でも同じ事だけやっているのは楽だよな」

 ロボットのように同じ作業をする。

 別の意味で疲れるが、深く考えなくてすむという点では気楽で良いかもしれないが……ノエル姫はその言葉に頷きつつも、

「ただ、その余裕があると、今度は相手をどう蹴落とすか考える時間が出来ちゃうのよね」

「……となると真面目に色々考えてやっていたら、そいつらに蹴落とされるんじゃないのか?」

「だから進歩が止まるのよ。でもまあ、異世界貿易会社ゴランノスポンサーがはいってきて、でもさ、蹴落とす事に時間を割いたやつは結局話についていけないわけ」

「自然淘汰される、か」

「という効果があったんだって。そして、それを切欠に人間の方の国も、異世界貿易会社ゴランノスポンサーと関係を持つようになり、結果として秀人達を召喚する協力を取り付けられた部分もあるかな」

「……面白い関係だな」

「ただの侵略者じゃないからね。お陰で双方怪我もせずにすんでいるわ」

 そんな肩をすくめるノエル姫に、面白い関係だなと思って秀人は聞いている。

 しかし今の話を聞いていて思うことといえば、

「感情論であまり話さないんですね。あ、いや、女性だからとかそういう意味でなく……結構男女共に感情論で話す事が多いから……」

「楽だしね。ようは好きか嫌いか、聞こえが良いか悪いかだから。現実でどうするかというと、利害関係がぶつかるから、綺麗事だけじゃやっていけないのよ。本当は私だって、もっと感情だけでやっていきたいわ。それこそ……秀人を元の世界に返したくないくらいに、好きなんだよ?」

 いきなりそう告白されて、ノエル姫がじっと見つめてきて、その緑色の瞳に吸い込まれてしまいそうな感覚に秀人は陥る。

 頷いてしまいたい。

 ずっとここにいると、そう答えたい感情が湧き上がって……そこで、カミーユが、

「ノエル、あまり秀人を困らせてはいけないわ」

「……わかっています。お母様」

「あと、ノエルは感情的に色々やっていると、私は思うけれど?」

「私だって考えています! ぷう!」

 頬をノエル姫が膨らました。

 それでその時は笑って話は終わったが……秀人は思いがけず、ノエル姫が自分が思う以上に好きになっていることに気づいたのだった。


 さてさて、秀人が思いがけず自分がノエル姫に夢中になっていることで心なしか悩み始めたのはいいとして。

 ふとノエル姫がそこで呟いた。

「そういえばメアを今日は見かけないけれどどうしたのかしら」

 けれどその疑問に答えたのはカミーユだった。

「あの子には今ある事をお願いしているの」

「ある事? というより私のメイドを何でお母様が勝手に使っているの?」

「ん? だって娘のものは母親のものでしょう?」

「……意味が分らない。それよりもメアは……」

 そこでカミーユがにまー、と笑って、

「実は、ちょっとしたものを城の魔法使いに届けてもらっているの」

「ちょっとしたもの?」

 そこで周りを見回して、ミリーと正樹がいないのを確認してからカミーユは、

「“賎しき者共”を召喚する魔法陣のかけら。やや発動中」

「「……」」

 ノエル姫と共に、秀人も何を言われたんだろうとしばし考えてから、秀人が、

「……“賎しき者共”を召喚していたのですか?」

「ええ。ただ残っていた魔力も弱いし欠片だったから、それほど強くて大量のものではなかったから」

「……じゃあ、その発動中の魔法陣がそこら中に散らばって、色々召喚している……」

「そうね、この国はそうらしいわ。そしてその魔法陣の破片だけれど、それほど仰々しく運ばないで、かつ“賎しき者共”に遭遇しても生き残れる程度に戦闘能力があって信頼できる者に預けたかったの」

「……カミーユさんの兵にはいらっしゃらなかったのですか?」

「その兵が急ぎで行ったら、いかにも何か特別なものが見つかりましたといっているようなものでしょう? その点メアであればノエルのメイドだから、ノエルがまたなんか無茶したんだろう……で、終わりでしょうからね」

「……お母様」

 そこでノエル姫がはあっと嘆息するも、そんなノエル姫にカミーユが真剣な表情をした。

「……私は、異世界貿易会社ゴランノスポンサーをそこまで信頼していないのよ。それに、メアは異世界貿易会社ゴランノスポンサーがそれほど好きでないしね。だから彼らに渡す可能性が低いでしょう」

「……俺がいる前でそんな事を話しても良いのですか?」

「かまわないわ。急ぎの馬で別ルートで送ったから、今頃城の近くまで来ているだろうし。そこにいる、魔道研究所の魔法使い達に渡してもらえば終わりだし」

「……正樹とかいてもかまわないんじゃ」

「貴方の場合、遠距離の人間との連絡手段が無いようだから。そういったのは全部正樹に任せているのでしょう?」

 言われてみれば、秀人は“賎しき者共”と戦っていただけで、“賎しき者共”に関する話などの連絡は全部正樹に任せきりだった。

 けれどそれを見ていたとは思わず、秀人は驚きながらもカミーユに同意する。

「……確かにそうですね」

「それに貴方はノエルの味方だし」

「……味方だといっても、彼らに告げ口してしまうかも」

「それは無いわ。あなた、異世界貿易会社ゴランノスポンサーが黒幕の可能性を捨てきれないでしょう?」

 そう言われて秀人は、先ほどのノエル姫の話や、援助してくれる異世界貿易会社ゴランノスポンサー開発部の方々を思い出して、

「……最近、異世界貿易会社ゴランノスポンサーが黒幕なんて生易しいものなのかなって思いました」

「あら、じゃあなんなのかしら?」

「現実的な競争相手。仲が悪くは無いけれどライバルのようなそんな関係かと」

 黒幕で、裏で手を引くよりも厄介な、一方的に攻撃してくるわけでもなく、攻撃されるわけでもない。

 けれど、彼らに完全に任せるのは難しく、こちらも情報や知識が欲しくて……それこそ、人間同士の駆け引きであり、武力を使わないある種の戦いである。

 それを聞いたカミーユはしばし沈黙する。

「……」

「……あの、何か間違った事を言ってしまったでしょうか」

 その沈黙に耐え切れず、秀人がカミーユに問いかけると、

「合格!」

「え? えっと……え?」

「わけの分らない陰謀論に行かなかったのは良いわ。だって物事は、そんな簡単に善と悪では分けきれないもの。黒幕などという前に、利害関係から考えていかないと。それで黒幕と決め付けていたら、貴方にはノエルは任せられないわね」

「は、はあ。……では異世界貿易会社ゴランノスポンサーに渡さずに、自分達で調べる理由は?」

「そんなもの、こちらで調べてから相手に渡すのよ。こちらは調べていないといってね。相手の実力も分るし、相手がどういった事に弱いのかも分るし。……どの道、異世界貿易会社ゴランノスポンサー側も、素直に出してくるとは思っていないわよ」

「……そうですか。……じゃあ別に俺が言うかどうか警戒する必要が初めから無いですね。つまり、俺が、そういった陰謀論にすぐに走るか、異世界貿易会社ゴランノスポンサーを黒幕だと思っているかを知りたかったと、そういう事ですか?」

「ええ。ある程度信頼関係がないと、こちらも信用できないわ」

「なるほど……。それに、異世界貿易会社ゴランノスポンサー、癖があるけれど、悪い人達ではないようなんですよね」

「そうなの。でもだからこそ、こういった関係が築けているわけ」

 そこに人がいて、感情があって、だからこそこういった関わりが出来るのだろうと秀人は思う。そして一度言葉を切り、カミーユは、

「とまあそういうわけで、これから他の国とも交渉して、示し合わせて中断してみて個体数の変化を確認する必要があるからそっちもやらないといけない。暫く立て込んで私も忙しくなるから……ノエルの事をよろしく。秀人さん。貴方ならノエルを任せられるわ」

「はい」

 その日、秀人はノエル姫の母親に認められたのだが……本人は後で気づくこととなる。

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