これは、某大賞に応募した、本作の修正版です-7
流石に外で立ち話はなんなので、宿に戻る事にした。
デートコースはあと二つ行きそこねたが、流石にこの状態の正樹を放っていくのも気が引けるので、秀人は宿に戻る。
ちなみに正樹はミリーから逃げ出そうとして、縄でぐるぐる巻きにされて虜囚のように引きずられ、現在はベットの上に転がされていた。
もっとも、その状態で正樹はミリーに縄の端を握られて転がされていたのだが。
そこらへんに突っ込みを入れていても話は進まないので、秀人は先ほどのエル姫に聞いた魔王の娘という言葉について考える。
魔族と聞いて、肌の色が変に緑色だったり、頭に角でも生えているのかと思っていたら。
蜂蜜のように柔らかな金色の髪に、青い瞳。
特に変な部分が見当たらない。
それに秀人は首をかしげて、
「……普通じゃないか。魔族と人間て何処が違うんだ?」
「瞳が赤くて知能指数のようなものが異様に高いんだ。なので、この世界の魔族の技術が、異様に発達しているという……」
と、その状態で正樹が説明した。けれど、
「ミリーさんの瞳、青色じゃないか?」
「カラーコンタクトよ。分らないの?」
「……この世界にカラーコンタクトがあるのか? 正樹」
ミリーの答えに明らかに異世界の技術だろうと突っ込みを入れたかったのだが、そんな秀人に正樹が、
「……魔族の文明レベルって、魔法とか使っているから少し違うんだけれど、僕達の文明レベルと似ているんだ」
「ええ! そうなのか?」
「うん。お陰で、GPSモドキを仕込まれたり監視カメラモドキを仕込まれたり……魔族の国では大変だった。ちょっと女の子とお話しただけでも……ガクガクブルブル」
震えだす正樹。よほど恐ろしい事が合ったらしい。
随分と怖いお姫様だなと思いながら秀人はミリーを見ると、にっこりと正樹に微笑み、
「あら、貴方が私のものになるって頷いて、公的な文書にサインしてくれたら何時だって、心を広くそこそこ自由にさせてあげるわよ?」
「……僕、異世界人なんです。なのであんまり苛めると、異世界に帰ってしまいますよ?」
「あら、じゃあ次は、異世界貿易会社ゴランノスポンサーに幾らお金を積めばいいのかしら」
「え?」
正樹が疑問符を浮かべてミリーを見た。
そんな顔を蒼白にする正樹にミリーは微笑み、
「私から逃げられるとでも思っているの?」
言い放ったミリーの言葉に、正樹は灰になってしまいそうなくらい真っ白になった。
それを気の毒に思うも、恋愛は当事者同士の事なので放って置いて、正樹はミリーという魔王の姫君に問いかけた。
「どうしてこちらにいらしたのですか? ミリー姫は」
「ミリーさんでお願い! そしてここに来たのは正樹に会いに、という理由だけでは駄目かしら」
「そうなんですか」
「そうそう」
「……」
「……」
「……冗談を鵜呑みにされると困るんだけれど」
「冗談だったのですか、すみません!」
ミリーにじと目で言われて、秀人は慌てて謝る。
そんな素直な秀人にミリーは少し好感を持って、くすりと微笑みながら、
「そもそも正樹の件だけなら、正樹を私の国に呼び寄せてしまえば問題ないわ。だって、国内であれば……色々できるでしょう?」
色々の意味が凄く気になったが怖いので秀人は聞かないことにした。
世の中には知らないほうが良い世界があると嘆息しつつ、
「は、はあ。では、どのようなご用件で?」
「“賎しき者共”が、魔法陣の誤作動によって呼び出されていると聞いて、こちらの世界の魔法、とりわけ魔方陣関係に詳しい私が呼ばれたの」
「……お姫様じきじきに、ですか?」
「魔族を人間と一緒にしないでくれる? こう見えても魔力戦闘能力、そして知識において、魔族の中でも優秀なのよ? それに、実際に現場に行ったほうが色々とお得だし」
「……それでもお姫様が来る理由が分らないのですが」
「……暇で」
「……」
「ノエルちゃんなら私の気持ち分るよね!」
半眼になった秀人に、ミリーはノエル姫に助けを求めた。すると、
「わかるわかる! お城の中って退屈だものね!」
「さっすが親友! 話が早いわ! というわけで私もこれから一緒に旅をする事になるからよろしく!」
その言葉に、正樹はひいいいと声を上げて、
「止めて下さいミリー。大体、この前言っていた、競争の無い社会での競争の激化、関連の問題はどうなったのですか!」
「ん? ああ、あれね。要は、問題がある事自体が分らなかっただけなのよ。例えば、aは本来五つの事をしないといけないのに、bは三つすれば良いと思っていれば……bはどうなると思う?」
チラッと正樹にミリーは聞くと、
「……三つで完璧だと思うし、それ故に、やっていない事、できていない事が分らなくなる、かな」
「しかも注意されても、言っている意味が分らない。だって三つでbは完璧だと思うから」
「それで、何をなさったんですか?」
「疑問を持たせる訓練と、五つの事をしないといけないって教えておけば良いだけの話。お陰で、見かけというか、言葉だけの美麗字句が並んで聞こえは良い物が選ばれて、中身は問わない風潮になってしまっているのが少しは改善されたかも」
「でも、導き出される過程が異なれば、同じ出発点でも異なる解が出て来るでしょう? 五つ覚えさすだけじゃ問題があるでしょう? そこらへんの問題解決のために、ミリーは戻って別の人を……ぎゃああ!」
「ふふふ、それは思考の過程を学ばせるだけで終わり。そこもきちんと考えて手は打ったから……残念ね、正樹。貴方は私から逃げられないようね。本当に可哀想」
くすくすと笑いながら、ミリーは正樹の頬を撫でる。
その様子を見ながら、これは正樹はミリーから逃げるはと思いながら……秀人は話を変えた。
「所で、ミリーさんはどの程度強いのですか?」
「数十匹の“賎しき者共”なら、簡単に消し炭にできるくらいかしら。でも、ノエルを連れて行く程度に戦力に余裕があるなら、私がいても邪魔にならないと思うわ」
「ちょっとミリーちゃん、その言い草酷くない?」
「仕方がないわよ。私、こう見えてもミリーちゃんよりずっと魔力が強いし。でも、弓を貰ったんでしょう?」
さらっと、持っていないのにノエル姫の武器を言い当てるミリーに、秀人たちがぎくりとしていると、ミリーは肩をすくめて、
「情報は私達にとっても重要なの。とりわけ貴方達の様子は注意深く観察されている」
「……怖いですよ」
「そう? でも悪い話ばかりではないわ。それ故に何時でもこちらは手出しできるし……人間よりも早く援護できるわ。特に、姫である私がいるから」
つまり、彼女を受け入れる事で即急に魔族の援助を受けられるといっている。
どうするんだと正樹を秀人が見ると、正樹がとても嫌そうな顔をして、
「……分ってます、それくらい。はあー、それでも嫌だから抵抗しただけです」
「そう! じゃあこれから私とホテルに行きましょう!」
「いやぁああああああ」
正樹の悲鳴が木霊して、その日は結局、正樹に秀人はミリーと二人っきりにしないでくれと泣きつかれて、デートが中止になったのだった。
次の日の朝。
何故か正樹が秀人のベットの下で隠れるように寝ていた。
ちなみに正樹のベットは、いかにも正樹が眠っているかのように膨らんでいる。
昨日の夜からそういった対策をしていたので、秀人としては不審に思う点も無いというか……女の子に迫られているのにこんなに羨ましくない人間は初めてだと、秀人は冷静に思っていた。
昨日の夜といえば夕食時が凄かった。メアが料理のセッティングをするのはいつもの事だったが、
「秀人、あーん」
と秀人がノエル姫とやっていると、ミリーが目を輝かせて、
「正樹、あれ私達もしましょう! だから口をアーンと開けて!」
「……お断りします。切実な意味で!」
「酷い! あんまりそういうこと言われると、私だって傷つくわ?」
「……白いスープの色が、青色になっているけれど、それについての釈明は」
「……せっかく一服持ったのにばれてしまいました。残念ね……」
そんな酷く残念そうなミリーと、石のように固まっている正樹。
そこでノエル姫が
「ミリーちゃん、ちなみにそれ何入れたの?」
「痺れ薬。痺れて動けない正樹を介抱するのって良いじゃない? ほら、異世界人は風邪を引かないから、こう、風邪の時に看病して好感度アップというのをやろうかと」
「なるほど……秀人を看病か……いいな」
それを聞いていた秀人は、ヤンデレは感染するというわけの分らない言葉を思いついたのだがそれは良いとして。
「秀人、食事を取るのを止めようか」
「でもお腹がすくぞ?」
「人間の生理現象を忘れないようにつけている機能だから、結構どうにでもなるんだ。睡眠も含めて。だから……」
「ノエル姫は俺の嫌がる事、しないと思うし、今のミリーさんの行動だと、正樹が気づく事前提でやっているからもう少し信頼してあげても良いんじゃないのか?」
「……ちょっとでもデレたら、なし崩しで最後まで行ってしまいそうで怖いんです」
「……そうだな」
どういう意味の、ミリーがむくれるたのは良いとして、結局楽しい夕食は終わった。
その後、部屋のドアや窓になにやら装置を設置して、正樹は自分のベットを偽装して、秀人のベットの下で寝ていた。
そして、次の日の朝に戻るわけだが……秀人は何となく目が覚めて、けれど起きる気にもなれなかった。
ぼんやりする目で古びた天上を見ていると、部屋の鍵がかかっていたはずのドアが音も立てずに開いた。と、
カシャガシャカシャガシャカシャガシャカシャガシャ
大きな音が鳴り響いた。
「きゃあ!」
可愛らしい女のこの声。言わずもがな、ミリーとそしてノエル姫、そしてメアだった。
その二人の方を見て、秀人が、
「どうしたのですか二人そろって」
「ミリーちゃんと、秀人と正樹の寝顔を見に来ようと思って」
「……そういうわけだ、秀人。今すぐ姫様のために寝ろ」
そう短剣を突きつけられた秀人。眠った振りをしないと、強制的に眠らせるぞとメアに囁かれる。
怖かったので、秀人は諦めて寝たふりをする。
目を瞑っていると、ふわりと甘い、女の子の香りを感じて……額に柔らかいものが当った。
ちゅっ
そんな音が聞こえて、秀人は顔を真っ赤にして目を開く。顔面一杯にノエル姫の顔が広がっていて、
「おはよう!」
「……おはようございます」
照れたように顔を赤くして秀人は答えた。でも、女の子に額にキスって……それで起こしてもらえるなんて、もしやこれは本当に秀人の作り出した願望の夢世界なのではないかと悩んでしまう。
そんな秀人達に、ミリーがとことこと正樹(偽装)の方に向かって歩いていって、そのまま飛び込むように抱きついた。だが、
「! 偽物!」
「はははは、愚か者めが! こうなると予測してすでに手を打っておいたわ!」
「く、最近は特に頭を使うようになったわね。入り口にも、ブザーがついているし」
「そういう点で君を信用しているという事だよ」
秀人のベットの下から正樹が現れる。悔しそうなミリーに、正樹は勝利の微笑を浮かべる。
それを見ながらノエル姫に抱きつかれている秀人は、この二人、以外にお似合いなんじゃないだろうかと思ってほうっておいたのだった。
そして次の町に行く途中の以前のトカゲや蛇もどきに加え、狐やら狼のようなものが追加された。
しかもその分戦闘能力が増えており、かつ、“賎しき者共”は小さな巣が無数にある状態だったのだが……。
「消し炭にしてくれるわあぁぁぁ!」
「しっねぇぇぇえぇ」
ミリーとノエル姫がノリノリで倒していく。
ミリーは自分で言っていただけに、本当に強いらしく“賎しき者共”を狩っていく。
なんだか、ノエル姫がミリーという親友と合流した事で、色々と容赦がなくなっている、秀人にはそんな気がした。
とはいえ先ほどから6個ほど、巣を倒しているが、その全てが二人によって消滅さられていた。
秀人に出番が無いとはいえ、結局は“賎しき者共”が倒されているので問題はないはずだ。
でも、この置いてきぼり間はなんだろうと秀人が思っていると、木陰に“賎しき者共”の取りこぼしが一匹いることに秀人は気づいた。
ノエル姫が油断していたのか、その“賎しき者共”がノエル姫に襲い掛かろうとしていたので、
「ノエル姫、伏せて!」
叫び、秀人は襲い掛かってくる“賎しき者共”を剣で一刀両断する。
「気をつけてください、ノエル姫。怪我をしない範囲でと、以前お願いしたでしょう?」
「……ごめんなさい」
「それに矢も、もうあまり無いのでこの辺で」
「……はーい」
残念そうなノエル姫。
けれどノエル姫は、秀人の言う事を聞いて大人しくなる。
本当になんでこんなに素直で活発な良い子がもてないんだろうなと秀人は思っていると、そんなノエル姫を見ていたミリーが、
「ノエルちゃん、随分しおらしくなっているけれど……」
「……そう? 私はそんなつもり無いけれど」
「……愛は人を変えるか。よし、正樹~」
駆け寄ってくるミリーに、魔物探知レーダーを見ていた正樹は逃げ出した。
しかし今の話だと、自分の前ではノエル姫は大人しいらしい。
それは、秀人がノエル姫にとって特別な人であるという事で……そう考えると、秀人は赤面してしまいそうになった。
そして、運が悪い事に秀人はノエル姫に気づかれてしまった。
「どうしたの? 顔真っ赤だよ?」
「え? ああうん。何でもないよ」
「嘘だね。それで、どうして?」
秀人は正樹のように逃げ出した。そんな、何処かお気楽な勇者ご一行は、それから一時間も経たないうちに、次の町へとたどり着いたのだった。
町に着くと、秀人達の馬車が兵に囲まれた。
おのおのに武器を持ち、一糸乱れぬ統率感。
馬車に乗っていたほかの乗客が怯える中、その人は現れた。
「ノエル? いるかしら?」
「お母様!」
他の乗客がえっという顔で、ノエルを見た。
ついでに秀人もノエル姫を見て、それからその、ノエル姫のお母様を見る。
ノエル姫と同じ艶やかな黒髪で、瞳の色は青。
ノエル姫は髪の色は母譲り、瞳の色は父譲りらしいと秀人は思う。
そしてノエル姫の母は、ノエルを成長させた美人の熟女といった感じで、これは将来安泰だなと秀人は思うも、きっとその頃にはこの世界には秀人はいないんだろうなと気づいて、もやもやした。
それは良いとして、ノエル姫の母親が単身で秀人たちの方にやって来て、
「ノエル、元気にしていたかしら」
「はい、カミーユお母様」
「それで、彼氏が出来たんだって?」
直球で来られて、秀人は噴いた。
そんなごほごほと咳き込む秀人に、カミーユが見て、くすりと妖艶に微笑んだ。
「はじめまして。貴方が勇者秀人ね。噂は聞いていてよ?」
「……まだそれほど何かをしたわけではないのですが」
ここに来て一週間もたっていない。けれど、
「安心させるための宣伝もかねているから、そこら中で話を流しているのよ。だから貴方の事はすでに知っているわ」
「は、はあ……」
「それで、ノエルはどう?」
「その……とても魅力的で可愛らしいお姫様だと思います」
「随分とじゃじゃ馬でしょう? そこいら辺はどうだったかしら」
「……この程度は普通な気がしますが」
「……ノエル、この子はゲットしておきなさい。貴方がアレだけなのに、この子それでも良いって言っているわよ!」
実の母なのに酷い言われようのノエル姫だと秀人は思ったが、当のノエル姫はそれでかまわないらしい。
大きく頷いて、秀人に腕を絡めて抱きついてくる。
ああ、また柔らかい感触が……と秀人が思っていると、カミーユは、
「それで、こちらの話も伝えておきたいから場所を移動しましょう?」
そう秀人達に告げたのだった。
さて、宿に着いた秀人たちだったが。
「ミリーちゃんも相変わらず可愛いわね。またマサキをおきかけまわしているの?」
「ええ、だって私の人選の伴侶ですもの。ねー、正樹?」
ミリーに腕を組まれて正樹が必死に放せぇぇええ、と逃げようとしている。
かといって振り払う様子が無いあたりが、まあアレだなと秀人が見ていると、
「相変わらずね、そっちは。……所で勇者秀人だったかしら。あの魔道研究所に、ノエルを連れて行かないでもらえるかしら」
「え?」
「あと、ミリーも止めなさい、お姫様なんだから」
さらっと、カミーユが告げた。それにミリーとノエルがカミーユを見て、きっと睨む。
「お断りしますわ、お母様。私、こう見えても秀人の役に立っていますから」
「カミーユ様、私とて魔族ですわ。その中で戦闘能力が強いのに、何故そのような事をおっしゃられるのか分りかねます」
そんな二人の自分よりも幼い姫に、カミーユが嘆息して、
「……実戦経験の無い娘達を放り込むには、あそこは“賎しき者共”が強くて、多すぎる」
「大丈夫よ、秀人達が強いもの」
「他人任せにできないでしょう。それにその秀人達が負けても、彼らは死なないけれどあなた達は死ぬわよ」
「で、でも……」
「異世界人が強いからといって、何千匹も相手に一人で無双なんてできないでしょう」
「……秀人なら出来るもん」
「そうやって人任せにするのもいけないわ。迷惑がかかるし、守ってもらう事で、秀人達を危険に曝す事になるわ」
「で、でも……お母様」
「でもじゃありません。わがままを言うのは止めなさい!」
そう叱られてノエル姫がしょぼんとしてしまう。それを秀人がどうなだめようかと思っているとミリーが、
「でも私の場合、魔法陣を検分仕事がありますから」
「貴方以外の方も幾らでもいますよね? その程度には、魔族の力を熟知しておりますわ、こちらも」
「……そもそも、秀人や正樹の力を過小評価しすぎです、カミーユ様は」
「何ができて何ができないのかわかっているつもりよ?」
「つもりなだけで、貴方は本当に正樹や秀人の力を知っているの?」
「求められる事と出来る事の違いが分っていなのは、ミリー姫、貴方ではなくて? そもそもこの二人は戦闘に熟知している訳ではないのでしょう?」
「戦闘に熟知しているといった概念は、彼らには無意味だわ。彼らの力は圧倒的過ぎる。そうでしょう? ノエルちゃん」
そう同意を求めるようにノエル姫にミリーが話を振る。それにノエル姫は頷き、
「秀人の力は、正樹のもの以上に強いです。多分正樹の力はお母様が知っているのと同程度ですから、比較したとしても桁違いに大きい」
「確かに力の強い異世界人の勇者を呼びましたが、だからといって素人でしょう?」
「……確かに、秀人は素人ですが、それを補うだけの力があります」
「話にならないわ。事態が一刻を争うというこの時期に、育てる時間も余裕もないから、初めから魔力の強いものをお願いしたけれど、それでどうにかなるのかしら」
「秀人の魔法は、山に一つ穴をあけました」
「……冗談でしょ?」
「秀人、そうだよね?」
話を振られて、秀人は頷いた。それにカミーユは少し黙ってから、
「はい、その程度はできます」
「……信じられないわ」
「でも、事実ですから。俺も驚いています」
その言葉に、カミーユは少し悩んでから正樹の方を見て、
「“賎しき者共”の探知できる装置で、ここ周辺の“賎しき者共”はどれくらい?」
「ざっと三十ですかね」
今まででとくに多い量を言われて、秀人が正樹のほうを見ると正樹が肩をすくめて、
「ここ、魔道研究所が近いから。でも、この程度、秀人なら余裕だろう?」
「……強めんじゃないのか?」
「そうだね……じゃあ、カミーユ様に同行して貰って、“賎しき者共”の強さを確認してもらって、ついでにどう戦うかの参考にさせてもらおう。それに、その秀人の力を見せる事で、カミーユ様も含めて納得してもらえばいい。ミリーとノエル姫の二人が同行するかについてはね」
「そうだな……」
「それでいかがですか? カミーユ様」
正樹に話を振られて、カミーユは嘆息した。
「いいわ。どうせ無理だとは思うけれど」
ノエル姫とミリーが顔を合わせて、そして両手でお互いの手をパンとたたいた。
そこでカミーユは、正樹を見てからにたっと笑い、
「そういえばミリー姫は、正樹をまだ追い掛け回しているようね」
「中々強情で折れてくれなくて。ただ力を与え続ければいつか折れるでしょう?」
「ただ反撃を食らう可能性も上がるけれどね?」
「あら、正樹が反撃してくるのなら、それはそれで私は満足ですわ?」
ちらりと正樹をミリーが見ると、正樹が再び逃げ出した。
何をやっているんだと思って秀人が見ていると、ノエル姫が秀人の腕にぎゅっと抱きついた。
「……ノエル姫」
「……秀人は強いし、私だって……あ、異世界貿易会社ゴランノスポンサー開発部に行って矢を補給しておかないと」
「じゃあ今から行っておいた方が良いな。正樹!」
そう呼ぶと、正樹が秀人に振り返り、その油断を利用してミリーが正樹に抱きついたのだった。
そんなわけで正樹の案内で、この町の異世界貿易会社ゴランノスポンサー開発部を探しに行ったのだが……。
そこはお化け屋敷のような建物だった。
崩れかけた屋根に壁。雑草で覆われた庭。木々は野放図に伸びて、その上空をカラスのような黒い鳥が優雅に飛んでいる。
そこでふわりとその鳥らしき羽が地面に落ちて、そのまま砂と一緒に風に飛ばされていく。
人の住んでいない朽ち果てた建物といった風情で、あまり入りたくない。
そんな躊躇くする秀人だが、正樹は躊躇わずに壊れた門を開き中へと入っていく。
それを秀人は慌てて追っていく。
やがて家の入り口にたどり着く。そこには一枚の紙が張られていた。
『人が住んでいます。お化け屋敷ではありません。探検と称して勝手に入らないでください』
その文を読み、秀人は正樹の方を見ると、
「子供って好きだろう? そういうの」
「……分らないでもないが、こんな壊れた家にあるのか?」
「外はアレだけれど、中は綺麗なもの……もの……」
言葉を濁す正樹に、秀人は、
「……汚いのか?」
「……ちょっと待って、一応連絡しておくわ」
そう呟いて、正樹がスマホもどきを取り出して、なにやら書き込んで送信していた。
すると、ばたばたと中から階段を駆け上がる音が聞こえて、
「人くるって、リビングだけとりあえず片付けないと!」
「とりあえず押入れに詰め込んでおけば良いかしら」
「じゃあ私はお茶の準備してくる!」
どたんばたん、ずがががが、ほぶほぶずががが、だんだんどどどろん、どかん。
明らかに尋常ではない音が響いて、それからしーんと静まり返る。
やがて、とっとっとっとと足音がして、
「いらっしゃい、異世界貿易会社ゴランノスポンサー開発部へ。正樹さんに、秀人さん、それにノエル姫に、ミリー姫ですね」
にこにこと優しげな白衣を着た黒髪の女の人が現れる。
先ほどの焦った様子など微塵も感じられないその姿に、有る意味感動を覚えていた秀人は……玄関先のコートをかける部分にかけてある、二つの物体に目が行った。
一つは色々な色の絵の具が飛び散ったような、何か恐ろしい事でもあったのではないかと思わさせられる作業着で、もう一つはブラ……即座に秀人は顔を背けた。
けれどその様子にその人は気づいたらしく、さあと顔を青ざめさせてそれを即座に後ろに隠した。
そのままにこにこと微笑みながら、その女の人は居間に秀人達を案内する。
先ほどのブラ……では無くもう一つの服が何か恐ろしい事があったのかと思って、秀人は問いかけた。
「あの作業着、なんだか凄い事になっていましたが、以前ここで何かあったのですか?」
「ん? ああ、あれね。ほら、実験しているとやっぱり薬品とか飛ぶでしょう? だから、あんなふうに汚れちゃうの」
「え? その白衣は?」
「見かけ用? 日頃使ってないからこんな風に綺麗なの」
「でも実験の写真だと透明な液体とかをいじっているような気が……」
「写真を撮るためだったら、よく、水をろ過したりするよね。そうすれば器具洗わなくてすむし」
世の中にはまだまだ知らない世界があると秀人が納得すると、また二人女性が現れて、
「異世界貿易会社ゴランノスポンサー開発部へようこそ。ここでは私達が開発しています」
「えっと、レーダーのアップデートと、矢の追加補充だね。ここでお茶飲んで待っていてくださいね」
そうドアを開けて居間に案内される。
綺麗に片付いた部屋に、ソファーやら観葉植物やら……綺麗なものである……と周りを見渡した秀人は、押入れがすこし膨らんでいるのを見て、見なかった事にした。
正樹は、レーダーを渡してから、ミリーの隣に座る。
そして、異世界貿易会社ゴランノスポンサー開発部の三人のうちの一人がこちらの今に残った。そういえばと秀人が、
「異世界貿易会社ゴランノスポンサー開発部って、どうやって人を募集しているのですか?」
「普通に、ネットの就職活動サイトにあるわよ?」
「あるんだ、募集するところ……」
「国内での理系の仕事が少ないから、こうやってとうとう異世界まで来ちゃったの。ま、一番にこの世界に出てくる、っていのはその分野で主導権を握れるからね。まあ、その辺の話は置いておいて、お茶とお菓子、どうぞー」
そうすすめられたクッキーとお茶は甘くて美味しかった。
そんな感じで、それでもノエル姫やミリーにとっては彼女の仕事が興味があるらしく色々聞いていた。
ちなみに、正樹はこっそりと逃げようとして、ミリーに捕まっていたのだった。
そんな雑談をしていると、先ほどの女性二人がレーダーと矢を持って現れた。
その矢にをノエル姫は受け取りながら、
「この矢で攻撃するんだよ」
「わー、ありがとうございます。? 何だかちょっと前と違いますね」
「うん、見かけに拘ってみたから」
けれどその矢の形は、途中にネコのマークが付いているだけで以前とそれほど変わりない。
それを見て、うーんと眉を寄せるノエル姫に、異世界貿易会社ゴランノスポンサー開発部の女性達は、使ってみてからのお楽しみだと笑う。
ついでにレーダーの精度が上がったらしい。
良く見ると個体数まで表示されているが……。
「100以上がほとんどじゃないか」
「頑張れ秀人。この世界の未来は君の手に!」
そんな煽りはいらないと秀人は思って、正樹のその言葉に嘆息したのだった。




