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これは、某大賞に応募した、本作の修正版です-5

「これからは、一生懸命ノエル姫に使えさせていただきます!」

 ノエル姫の、いつもと変わらないその行動に、メアが感動してそうなった。

 流石にこの展開は無いだろうと思ったが、世の中、想像する以上の事が起こる事もある。

 とはいえ、秀人はぼやくように、

「怪しげな組織がっていうのも、ないのか?」

「この世界全体に広がる、怪しい巨大組織があると? その利益は?」

「異世界からの侵略者。でもってこの世界の資源を……」

「無難な考えだけれど、うちの利益確保のために色々やっているので、他の世界はそう簡単に手出しできないんだよね」

「……やっぱりお前達なんじゃないのか? 異世界貿易会社ゴランノスポンサー」

「だーかーら、違うってば。うちじゃないよ。だからその汚名を晴らすためにも僕達が頑張っているんじゃないか」

 とはいえ相変わらず秀人は妖しいと思いながら、別の切り口で聞いてみる。

「“賎しき者共”はこの世界に広く、同時に現れたのか?」

「うん“賎しき者共”は、ある時世界で一斉に現れたんだ。僕達がこの世界に来て暫くしてからだけれどね」

「……お前達が、この世界に来た事が原因とか?」

「時間差がありすぎるから違うだろうって事らしい。その影響が蓄積されている様子も今の所無いらしい。そもそも他の異世界では起こっていないのに、この世界だけって理由が分らないんだよね」

「……他の世界に、“賎しき者共”はいるのか?」

「少なくとも、うちの会社と接点のある世界には無い。だからそれ以外の世界かな」

「そんなにあるのか? 異世界」

「アボガドロ数よりは遥かにあるかな」

 そこで、支度を終えたノエル姫がいつものように入ってきて、

「それで、秀人達は今日はどうするの?」

 そこで秀人はチラッと正樹を見ると、

「待機していてくれって。そのメアの仲間達から話をもう少し聞きたいから。あと、周りを散歩するのはいいって」

「そうなの? 私の弓の出番は?」

「……近いうちに用意しますよ」

「そう。じゃあ待っているわ。あと、秀人、二人で何処か行かない?」

 話を聞いていた秀人に、ノエル姫はそう声をかけたのだった。


 現在秀人は眠気が吹っ飛んで、同時に自分が何かを聞き間違えたのではないかという衝動に駆られた。

 なので、秀人はノエル姫に、

「ノエル姫、今、何とおっしゃられましたか?」

 敬語になってしまうのも仕方がない。

 だって、初めてなのだ。

 異性と二人で出かけるという、伝説のイベント。

 その名は、“デート”。

 すでに都市伝説ではないかという疑いの眼差しを持ちながら、けれどどこかで希望的観測を持ち続けて幾星霜。

 とうとう、そう、とうとうやってきたこの俺の時代がぁあああああ。

 ……。

 そこまで考えて、秀人はまだ舞い上がるな、まだデートと確定したわけではなく、そう、そう、例えばお買い物の荷物持ちをお願いしたいなというお姫様からのお願いとか、護衛してくれという話なのだという解釈も成り立つ事に気づいた。

 所謂、解釈の相違というやつで、それは秀人の望んだ意味ではないという悲しい現実が目の前に、それこそ切り立った崖の上と下のような差があると如実に示されているという……そろそろ秀人は自分でも何を考えているのかわからなくなってきた。

 そんな顔を赤くして慌てて聞き返す秀人に、ノエル姫が、

「秀人と二人っきりで散歩したいなって」

「ぜひ、お供させていただきます」

 そんな即座に答える秀人に、ノエル姫も何処か嬉しそうだ。そこで、メアが、

「では私がお供を。二人きりなど危険です! 男は野獣なのです!」

「秀人は大丈夫だよ。そうだよね?」

 速攻で大きく秀人は顔を縦に振る。

 その様子を冷たい目で、メアに見られたが、そこで正樹が

「あ、メアからも事情聴取するから今日一日ここで待機だって」

 そんな正樹を恨めしそうに見るメア。けれど正樹は正樹で、

「君達のおかげで今日は徹夜だよ。文句を言われる筋合いはないよ」

「……この世界に突然やって来て、変な技術を振りかざして……お前達の方が、“賎しき者共”よりもよほど危険に私には見えるわ!」

「あのね……例えば、君みたいな一般人が、王様と対等に出来ると思う? 出来ないだろう? けれど、王は確かに怖い存在かもしれないが、同時に君達を守る存在でもあるだろ?」

「何が言いたいのか分らないわ」

「力が強い弱いで考えるのではなく、有益かどうかでも考えて欲しいな」

「お前達が我々の世界に有益だと?」

「そちらにも旨みがあるんだから有益だと思うけれど」

「信用できるか」

「出来れば信用して欲しいけれど、それはゆっくりとで良い。今は、君からお話を聞く事の方が先だからね」

「私が素直に話すと思うのか? その考え自体が浅はかだと思わないのか?」

「へー、うん。いいよ。ふーん」

 とか何とか言って、正樹がメアに何事かを囁くとメアが顔を蒼白にして大人しくなった。

 それを確認してから、秀人とノエル姫はこの部屋を後にしたのだった。


 外に出たのは良い。

 昼間のせいか人が多く、そこら中にカートで花やアクセサリー、果物、野菜が売られている。

 現在秀人はノエル姫に手を引かれながら、町を歩いていた。

 理由は、この町に秀人は来て事がなく、手を放して道に迷わないようにと、ノエル姫に握られたのだ。

 柔らかくて、温かくて、そして少し小さいノエル姫の手が、秀人の手を握っており、

「次はあそこのアクセサリーのお店を見に行きたいな」

 と、微笑みながら、嬉しそうにはしゃぐ可愛いノエル姫。

 秀人は、そんなノエル姫の笑顔に魅せられながら、やっぱりこれってデートだよなと思ってしまう。

 途中、クレープのような甘いお菓子を買って、二人で食べあいながら、やがて公園のような場所に出た。

 座れるベンチのようなものもあり、そこで一息つこうかという話になる。

 そしてベンチに座ったままでもノエル姫は、秀人の手を放さなかった。

 だから、秀人も無下に振り払うわけにも行かない……という理由で自身を納得させながら、秀人はノエル姫の手を握っていた。

 そしてそのまま暫く無言で二人でいる。

 空は、上空では風の流れが速いのだろうか、白い綿菓子のような雲がみるみるうちに流されていく。そこで、ノエル姫がポツリと、

「ごめんね、私ばかり楽しんでしまって」

「いえ、でも、はしゃぐノエル姫も可愛かったし……それを見ているのも、俺は楽しかったというか……」

 そんなノエル姫に気を使わせてしまったと、秀人は慌ててそういうも、そこでのエル姫は、

「……秀人、私ってそんなに可愛いかな」

「……えっと、その……俺にはそう見えました」

「じゃあ、秀人の前だから、私は可愛くなっているのかな」

「え、あの……」

 それはどういう意味かと聞こうとして、秀人はそれを言わせるのは失礼なんじゃないかと思って口をつぐむ。

 多分、ノエル姫は秀人の事が好きなのだ。

 それが分らないほど秀人は鈍感ではない。けれど、

「俺、異世界人で、この世界では藁人形らしいです」

「うん、知ってる。いずれ元の世界に帰っちゃうんだよね」

「僕の帰る場所は、あちらですから」

「帰る場所があるから、帰っちゃうんだよね。はあ……よし、決めた!」

 そこで、ノエル姫はすくっと立ち上がり、新緑の色をした瞳が面白そうに瞬いて秀人を見た。

「……秀人、この世界に居る間、秀人は私の恋人というのはどうかしら」

「え? でも姫様は、許嫁とか……」

「私があまりにも落ち着きないから、皆断られてしまったわ。それに、どうせ帰ってしまうのだから、ほんの少し秀人がこの世界にいる時間を頂戴?」

「あ、ええっと……」

「……皆散々私の事を言うからさ、秀人のその素直に真っ直ぐに褒めてくれた事……嬉しかったんだ」

「あの、その程度の事で?」

「駄目かな。それに、彼氏も、私も一度経験して見たいし……それが秀人だったら嬉しいな?」

「ぜひ、お受けさせていただきます!」 

 秀人は、異世界だという言葉が頭を過ぎったが即座に頷いた。

 活発で可愛くて美人なお姫様恋人……物語のように出来すぎた設定だが、一応この世界には秀人達と同じように感情があるのだ。

 つまり、ある種の現実的なイベントなのである!。

 そんなノエル姫は、秀人のその答えに、それはそれは嬉しそうに微笑んだのだった。


 でも、そういえばデートってどうやるのだろうと秀人が考えて、

「ノエル姫。あの、腕を組んでもいいですか?」

「うん。こうで良いんでしょう?」

 秀人の腕に、ふにょっと何か柔らかいものが当った。

それが何かわかって慌てて秀人は、慌てて腕を放すようノエル姫にお願いする。

「ノ、ノエル姫、あの、すみません、手を繋ぐだけにして……」

「何でよ。いいじゃないこうやって、腕をこうして、ぎゅって」

 むにゅっと更に柔らかいものが腕に当る感触が有る。

 それに、恋愛初心者の秀人が耐えられるはずもなく、顔を真っ赤にして、

「お願いです。俺が耐えられないんです!」

「何がよ。そんなに私がくっつくのが嫌なわけ?」

「いえ……あの、胸が……」

「……ご、ごめんなさい。私、全然そんなつもりじゃなくて……皆こうしているから、こうなのかなって」

「あ、いえ。そ、そうですよね」

 お互い顔を真っ赤にして黙ってしまう、ノエル姫と秀人。

 暫く立ったまま、気まずい雰囲気が流れて……。

 そこで、変な男達に絡まれた。

 全員が何処かしこにピアスをしていて、服も破けた服に、奇抜なセンスのものが色々とついている。秀人は、この世界の流行のファッションなのかもしれないと考えるも、道行く人はそうではなかった。

 つまり秀人の感覚からしても、この世界の彼らは逸脱しているのである。そんな彼らが、

「昼間から可愛い彼女といちゃいちゃ、楽しそうですなー……ぐへっ!」

 因縁をつけた男の一人に、ノエル姫が膝蹴りを加えた。

 突然の事で秀人はその光景を呆然と見ることしか出来ない。

 そんなノエル姫に、蹴りを加えられた男は痛そうに呻いてのエル姫を睨み付ける。

「この尼!」

「兄貴、大丈夫ですか!」

「この尼、兄貴に何しやがる!」

 そんなワンパターンな台詞を繰り返されて、何だこれと秀人が思っていると、

「うるさい。秀人との楽しい一時を邪魔するな」

「この…… やっちまえ!」

 見下すようにノエル姫が告げると、その不良達はノエル姫に襲い掛かる。

 気がつくと秀人は動いていた。

 ノエル姫の前に出て、彼らの突き出してくる拳を捕らえて蹴りを加えたり……彼らの攻撃があまりにも軽いので、簡単ではあった。

 同時に自身の力がこの世界では強化されている事を秀人は思い出して、出来るだけそっと叩いてみる。

 大男が後ろに吹き飛んだ。

 リーダー格の男だったはずだ。

 その様子を見て、秀人は驚いたが、周りにいる舎弟?はもっと驚いたらしい。

 それにひいっと声を上げて、リーダーを置いて逃げ出した。

 だが、そこで周りの草むらから武装した人達がぬっと現れて彼らを拘束する。

「な、何だよ。なんで俺らが……」

「そ、そうだ、攻撃してきたのはあいつらで……」

 けれど無言で拘束し、リーダー格の気絶した男も担ぐように連れて行く。

 それを見ていた秀人は、はっとしてその連れて行く男達を見た。

「あの、どちら様でしょうか」

「ノエル姫の、影ながらの警護を。いつも大抵こんな展開になって、全員をぼこぼこにしますので」

「は、はあ。ノエル姫は強いんですね」

「……警備が手薄になりますが、勇者ヒデト様とお力があれば大丈夫でしょう。それでは、仕事がありますので」

「……ご苦労様です」

 そうとしか秀人は言えなかった。

 これでは、秀人が何もしなくても大丈夫なわけで、そうなってくるとノエル姫を守ろうとした自分てなんだろうと思って……しばし黙考する。

 そんな秀人に、ノエル姫が後ろから抱きついた。

「秀人! ふふ、私の事を守ってくれたんだ」

「あ、はい。でも、ノエル姫でどうにかなったんですよね?」

「まあ、あの程度はね。警護もいるし」

「……そうですか」

 そんながっかりしてしまう秀人に、更にぎゅうとノエル姫が抱きついて、

「……だからって、放っておかれるよりも、秀人が頑張って守ろうってしてくれたのは嬉しかったよ。本当に、私の元許嫁共は……」

「……そういうものなのですか?」

「そういうものなの。でも、これからは大丈夫だから、それほど私の事を気にしないで。私の理想は秀人と一緒に戦ったりそういう事出来る事だし」

「……えっと、俺の力はチートじみているから、一緒は難しいかなと」

「守られるだけよりは、一緒に歩いていきたいの! 分らないかな、もう!」

「でも、好きな人は守りたいかなって……えっと、別にノエル姫に戦うなと言っているのではなくて、あう、それで、ただ自分のみを守っていれば良いじゃなくて……上手く言えない」

 そう照れくさげに頬をかく秀人。だが、

「……言ってよ」

「……え?」

「……言葉で言って欲しい」

 ノエル姫が、秀人の背に顔をこすり付けてくる。

 今更ながら、背中い胸が当っている事に気づいて、秀人は顔を赤くして、けれど一生懸命考えて、

「……自分の身が守れる範囲で、一緒に歩んで欲しい。だって、ノエル姫が、好きな人が怪我をしたら悲しいから」

「……80点」

「後の20点は?」

「……私が戦ったり危険な事するなって言う。でも、理由は分るし、それが悔しいから80点」

「何だよそれ。……ノエル姫?」

 そこでノエル姫が、秀人から体を放す。代わりに秀人の手を握り、

「行こう。もうこの話は無しで。せっかくこんなに天気が良いし」

「……そうだな。こんなに天気も良いし、湿っぽい話はなしで。……それで、次は何処に行きますか?」

 それに、喉が渇いたわ、とノエル姫が言うので、つい自動販売機を探してしまう秀人だが、ノエル姫に引っ張られて、公園の外の喫茶店に向かったのだった。


 散々遊んで戻ってくると、メアがどんよりしていて、田中正樹が輝いていた。

 そして田中正樹は秀人が戻ってきたのを確認して、にこにこ嬉しそうに笑いながら、

「……面白い事が分ったんだ」

「何が分ったんだ?」

「彼らは、“賎しき者共”が出現する場所に数回遭遇していたんだ」

「知ってるが……それがどうかしたのか?」

「結構前から、自前でこの国の魔道研究所は異世界償還の魔法の研究をしていたのは前に話したよね?」

「ああ。でも失敗なんだろう? 召喚出来なかったから」

「そうだね、でも……失敗だと思われていた、が正しいかな」

「どういう事だ?」

 そこで、正樹が何やら紙を取り出した。

 紙にはゲームか何かに出てくるような魔法陣ぽい絵が描かれていた。

「これは?」

「失敗作の魔方陣。ようやく一つだけ出してもらえてね。というか、失敗作の資料がこれ一枚しかなかったのもあるけれどね。魔道研究所が襲われた事で」

「なるほど。でも失敗作を調べてどうするんだ? 失敗だったんだろう?」

「正確には、失敗作だと思われていた、という事なんだ」

 その言葉に秀人は、そういえば魔道研究所の周辺に“賎しき者共”が多いと聞いたのを思い出して、

「まさか、別の場所に召喚していた、と?」

「そう、飲み込みが早いね。幾つかの要因を計算して、出現ポイントを割り出してみたら、その地点に一致してしまったんだ。その時期に使われていた他の魔法陣の資料が分れば、更に確実な証拠が分るはずなんだ」

「でも、どうして“賎しき者共”が召喚されたんだ? もっと違うものを呼べば良かったのに」

「違うものというよりは……まずは何かを召喚出来る様にというのが当初の目的で、“賎しき者共”を呼ぶつもりはなかったらしい」

「なるほど。選んで呼び寄せるだけの魔法技術がこの世界にはないと」

「うん。ただ、その魔法陣の概念が僕たちのものとは違う概念で作られたから、見たうちの会社の人は、なるほど、賢いなと驚いていたらしい」

「そうなのか。それで、次はどうするんだ?」

 何となく行く場所の目的が決まった気がして、秀人は尋ねると、

「魔道研究所を目指す事になりそう。ただ、襲撃もあって今まで以上に大量の“賎しき者共”がそこに集まっているみたいで、先発の人達も……彼らの場合別の理由があるのだけれど、引き換えして今城に戻ろうとしているらしい」

「じゃあ、その人達に話を聞いた方が良いな」

「うん。ちなみに、その人達にノエル姫のお母さんがいるけれどね」

「え……」

 秀人はえっと思った。

 現在ノエル姫とお付き合いする事になっている状態で、ノエル姫の母親に会うのである。

 別に特に問題はないはずなのだが、それを考えると緊張してしまう。

 それが分っているのか、正樹がにまにま笑って秀人を見ている。

 そんな秀人に、ノエル姫が肩を叩いて、

「秀人、お母様にも気に入られるように頑張ってね?」

「……はい」

 そうノエル姫に言われて、秀人は更に重圧を感じて、何とか話題を変えようとして……そこで気づいた。

「魔道研究所にそんなに“賎しき者共”が多いって……最後の方は、進歩しているから、特に強い魔法陣というか、大量に召喚するようなものになっていたりするんじゃないのか?」

「……そうらしい。最近やけに“賎しき者共”がこの国周辺で増えた気がするし」

「そういえば、ノエル姫と出会った時に沢山の“賎しき者共”に襲われていたよな。確かそれまではあんなに多くなかったって……」

「……早めに調べたほうが良さそうだね。その魔法陣が、襲撃された事によって破壊されて機能停止しているならまだしも、まだ機能していれば面倒だから」

 その正樹の言葉に頷きながら、秀人は何か引っかかるものを感じた。

 それが何だろうと先ほどの話しをまとめて考えてみて、

「でも、そういえば、そうなってくるとこの国周辺以外でも“賎しき者共”が現れているのはどういう事なんだ?」

「……技術って、他でも大抵同じようなものを研究していたりするんだよね」

「なるほど、だから一つの会社がある技術を発表すると同じようなのが幾つも他の会社から出てくるわけだ。となると他でも同じような失敗をしていると?」

「そうそう。とまあ、多分そういう事だから、国家機密にもなるそちらの方は僕達ではどうにも出来ないので、まずは魔道研究所のお掃除かな」

「ところで、その魔道研究所って何処にあるんだ?」

「地方の森に近い場所かな。都市近郊は土地の値段が高いから、というのと、色々資源が調達しやすい場所が良いから。でもここからはそんなに遠くない」

 近いらしい事を聞いて、良かった楽でと思いながらも、そうなってくると、

「その魔道研究所は、その……死体は転がっているのか?」

「運の良い事に、全員怪我はしたものの命に別状はないって」

 それに秀人はほっとした。やっぱりそういうものを見るのは、秀人は精神的にきつい。

 そこまで話して、大体それで良いかなと思っていると、メアと目が合った。

 けれどすぐにぷいっとそっぽを向かれてしまう。それを見ていた秀人が正樹の傍で、

「おい、メアに何したんだ」

「えっとまあ、色々と。ついでに秀人が言っていたように、危ないから勘違いしないように善意で丁寧に、“賎しき者共”が貴方達の力では召喚出来ませんよって説明したんだ。善意で」

「……何故そこを強調する」

「……善意が、その人にとって善意として取られるかは別の話なんだ。でも」

「でも?」

「僕が寝不足だから、今の説明でメアが苛立ったとしても、僕はザマーミロとしか思えない……そんな僕の心の広さって素晴らしいと思うんだ」

「……分った。もう寝ろ、正樹。お前は良く頑張った」

「はあ。そうさせてもらうよ。所で、明日は少し先に進むと思うから、その次の次の町で、多分ノエル姫のお母さんと会う事になるから」

「ああうん……分った」

「他に何かあるかね? ないんだったら僕は寝るけれど」

「そうだな……そういえば、この体が以上に丈夫で力があるみたいなんだが、普通にスプーンとかもてるのはどうしてだ?」

「意識すれば弱くは出来る、そういう便利な体なんだよ。僕達の魔力で出来ているし」

「今一原理が良く分らないが、そういうものか」

「そういうものだよ。駄目だ、眠すぎる。結界張って寝るから、後は好きにしてくれ」

「おう……分った」

 そう秀人が答えると、正樹は自分のベットに潜り込んで結界を張り、すぐに穏やか……ではない寝息を立てていたのだった。


 夕食は、ノエル姫とメアだけでとってもらう事にして、秀人も眠る事にした。

 先ほどの話もあるし、誘惑も含めた襲撃での寝不足……そもそも藁人形なのになんで睡眠が必要なのかも含めて突っ込みたい事もいっぱいある。

 だがそれよりも、秀人が一番疲れた原因は、

「デート、か」

 ベットにごろんと転がり、秀人は手を天井に手を伸ばした。

 人生初の異性の、それも可愛い美少女でお姫様とのデート。

 この手が、ノエル姫と繋がっていて、胸がむにゅっと……そこまで考えて、秀人は恥ずかしくなり声にならない悲鳴でじたばたした。

 いや、確かに柔らかかったといえば柔らかかったのだが、そう、柔らかくて、ええっと……。

「柔らかい以外の選択肢はないのか。俺に」 

 自分の駄目さ加減に、ちょっとだけ秀人は落ち込んだ。

 確かに一番印象的な出来事だったから仕方がないといえば仕方がないのだが、あの後の、ノエル姫の笑顔も台詞も、全てが秀人に向けられて、それを思い出して秀人は胸が高鳴りそわそわするような感覚に見舞われる。

「ノエル姫、愛してる」

 そう、試しに秀人は口に出してみるが、酷く恥ずかしくて頭を抱えた。

 確かにノエル姫が好きなのだが、それをこう口に出すとのた打ち回るほどに恥ずかしいのだ。

 これでは、そう簡単に好きとか愛しているなんて、その場の雰囲気に流されないと言えない。

 改めて言うと、死にそうなほどに恥ずかしい。

 なのに……恥ずかしいのに、その言葉と共にノエル姫の事を思い出して、好きという感情が溢れ出て幸せな気分になるのだ。

「寝よう。もう、寝よう。俺はもう駄目だ。よし、結界を張って……」

 そう思って、魔法を使うための箱に触れて、防御の力が弱い魔法を探す。と、

『小石を受け止める防御魔法:ぴーちくぱーちくぶふふのぶー、のったりらんけてれれいおいおいお非じゅいhふきhbgtでそ;:」っこうぎゅftdrt』

 魔法の名前が説明で、効果の部分が良く分らない言葉の羅列になっている。

 いい加減ネタが切れたのかと思って、秀人はぼんやりとしながらその言葉の羅列を読み込み、

『……gふゆtfgcdstyつjbjくいゆいんjmn……貴方の事が好きなんです」

 秀人は、最後の文を読んで、いっそ止めを刺せと思った。

 考えるのをやめようと思っていたのに、ここで出て来るとは思わなかった。

 もう嫌だと恥ずかしくて死にそうになりながら、秀人はその魔法を選択して防御の結界をはって眠りに付いたのだった。


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