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これは、某大賞に応募した、本作の修正版です-4

 布団のぬくもりは気持ちよく、何故、この心地よい朝という眠りから目を覚まさなければならない時間が来るのかと秀人は思って、悲しく別れ難い思いに曝されながら目を覚ました。

 まずは背伸びをして、それから靴を履いて……隣のベットを見ると正樹が気持ち良さそうに寝息を立てていた。どうやら彼は、寝相が悪いらしい。

 とはいえもうそろそろ起きていい時間なので、秀人は放っておく事にした。

 そこで、以前正樹が持っていたスマートフォンもどきが、ぶるぶると震えだして、

「起きて起きて! 起きて起きて!」

「ふあーい……ぐぅう」

 見知らぬ女の子の声で、起きて起きてと着信メロ?が鳴っている。

 けれど正樹は寝ぼけた返事をしながら、再び布団に潜り込む。

 だが相変わらずその音というか声は続いている。 

「起きて起きて! 起きて起きて!」

「わかってるよ……純子ちゃん……は!」

 そこで、秀人が半眼で見ている事に気づいたらしい。

 正樹は慌ててその着メロ?を消し、蒼白な顔で秀人を見た。

「……聞いたな」

「聞きたくて聞いたわけじゃない。聞かされたんだ」

「……はあ。さて、起きるか」

 ベットから起き上がって正樹と同様秀人も靴を履く。

 そして昨日の内に集めておいたリュック……もっとも正樹に手渡された荷物を確認して再び詰め直しただけだが……を手に取った。

 中にはタオルや下着、この世界の貨幣のようなもの、食料(謎の肉を干した物)と水(普通の人間のふりをする関係上入れておいてください、と注意書きが書かれている)が入っていた。

 そんなわざと古ぼけたように作られているリュックサックを背中に背負う。

 軽くて良かったと思いながら、そういえば……。

「正樹、移動は馬車か何かか?」

「そうだね。一応、異世界貿易会社ゴランノスポンサーの馬車風の車もあるけれど、そっちの方が目立たなくていいよね。後は徒歩かな」

「徒歩……ものすごく歩くんじゃないのか?」

 そんな二つ先の駅まで歩きましょうとか、そんなレベルでは済まない気がして秀人は聞いた。

 それに正樹は少し考えてから、

「……短い場所は徒歩。とはいえ野宿をする事もあるかな……」

「……ノエル姫はどうするんだ?」

「お外でお泊りって喜んでいたよ。結界張って寝ればいいかな。ただ、基本馬車で移動の方が、色々と都合がいいんだ。それも乗合馬車ね。それで戦闘に巻き込まれるのが目的かな」

「……何でだ? 民間人は巻き込まないようにした方が良いんじゃないか?」

「……この世界の人達の感情とか、僕達の世界とあまり変わらないんだ。その内説明するよ」

 ぼかして逃げた正樹だが、あまり知らない方が良い気がしてとりあえず秀人は、知りたい事は聞けたので秀人は頷いた。

 そして城を出ると、門の所でノエル姫とメアという付き人と、王様が達が門の前にいた。

「もう、待ちくたびれたわ」

「ノエル姫は、随分と元気ですね」

「まあね。堂々と城を出れるし」

 そんな嬉しそうなノエル姫のすぐ傍で、メアが、

「あ、あの……よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 そう、秀人が答えると、メアが恥ずかしそうに微笑む。

 確かに可愛い子だな、と、秀人が思っていると、

「……秀人。なんだか私に対してと感じが違う気がする」

「そうか? そういうつもりは無かったが……ごめん」

「べ、別に謝らないでよ。ただ、やっぱり女の子らしくないのかなって、私」

「これだけの美人さんを、男だと間違える方がおかしい。それにノエル姫の場合、活発なだけでしょう?」

 そこで嬉しそうな顔をしたノエル姫だが、そこで不安そうな王様が近寄って来て秀人を連れて少し離れる。

「……勇者秀人。頼むから、ノエルを調子に乗らせるような言動は止めてくれ」

「でも、あれくらい普通ですよ? 女の子だって活発ですし」

「……いやまあ、まだ出会ったばかりだからそう思うのだろう。ほどほどにしておいてくれ」

 王様に秀人は釘を刺された。けれど秀人としては、あの程度普通だと思う。

 けれどそう言われる何か理由があるのかもしれないと思い、王様には秀人は頷いておいた。

 そして乗合馬車の停留所まで行き、四人は乗り込んだのだった。


 秀人は、“賎しき者共”と戦っていた。

 それも魔法で一発、殲滅……ではなく、何故か剣を使って。

 “賎しき者共”レーダーに、近くに巣があるなと呟いた正樹。

 ここで途中下車するのかと思ったら、何やら変な装置を取り出した。

 それをいじって暫くして、この乗合馬車は“賎しき者共”に囲まれたのだ。

 すると、正樹が、

「勇者ヒデトの出番だと、さあ伝説の剣を使って打ち倒そう」

 と、叫んだ。

 そして現在、秀人はその“賎しき者共”に一人で立ち向かっていたのである。

 後ろでは乗合馬車二一緒に乗っていた人達が怯えながら、そして、ノエル姫にメア、正樹が傍観している。

 敵の個体は三体なので、秀人一人で十分だった。

 俊敏に動き回る、狐のような顔つきの、足が八本ある怪物だった。

 この“賎しき者共”は、この前のトカゲもどきと同じく、ワニのように口が大きく裂けて牙がむき出しになりぼとぼととその歯の隙間から唾液が零れ落ちていた。

 さっさと倒すかと、剣もどきに触れて力をこめると、秀人の背丈ほどの大きな剣になる。

 持てるのかな、と不安に思いながら秀人は持ち上げると箸を手で持っているような軽さだった。

 そうすると逆に強度に不安はあるが、大丈夫だろう、それにもしもこれが駄目なら素手で戦えばいいと思って、秀人はその“賎しき者共”に突進する。

 走ってくる順番から、左端の一体に秀人は焦点を定める。

 二番目に走りよる“賎しき者共”が右側にいるのを横目でちらりと確認して、秀人は左から右に剣を薙いだ。

 相変わらず、豆腐の、それも絹ごし豆腐の感覚を手に感じる。

 けれど、その秀人の剣は確実にその“賎しき者共”に一撃を加えていた。

 ぼとぼとと音を立てて、足のやや上辺りを真っ二つにされて、その“賎しき者共”地面に転がる。

 地面に転がってびくびくと痙攣しているのを秀人は確認して、すぐさま次の“賎しき者共”に目を移す。

 その剣先を更に右側に薙ぐ。

 一番目と二番目の位置から、すぐに二番目を攻撃できるよう、もしくは切り返せるようにと判断して左から横に薙いだのだ。 

 縦に真っ二つにした方が確実にとどめを刺せる気もしたが、その分持ち上げ、横に移動させる動作が必要になるため、初心者の秀人にはこちらの方が良いだろう自分で刹那に考えた。

 そして、ざっと剣が風を切る音と共に、容易に二番目に襲ってきた“賎しき者共”を切り裂いた。

 べちゃっと今度は音をたててその“賎しき者共”が地面へと転がる。

 そこで、三匹目が急に臆したようにきびすを返すも、秀人は剣を放り投げて串刺しにする。

 そのまま“賎しき者共”は動かなくなったのを見て、秀人は近寄り剣を抜く。

 もしもの事も考えて、それぞれに一撃を与えて完全に止めを刺してから、秀人は振り返り、正樹達の元に戻り、未だに“賎しき者共”に怯えている一般人に気づいて、

「えっと、倒しましたから、もう大丈夫ですよ?」

 そういうと、そこでようやく皆の顔に笑顔が戻る。

 そして、そこで正樹が、

「この方は、“賎しき者共”が現れた異変を突き止めるために旅をしている、勇者ヒデトです!」

「そ、そうなのですか。ああ、ありがとうございます」

「今はまだ旅に出たばかりですが、いずれはこの、勇者ヒデトのお陰でこの異変が解決するでしょう!」

「「おおおおおお」」

 何やら、羨望の眼差しで秀人は見られる。

 それが気恥ずかしくて、けれど感謝されて慕われているのは分るので、

「……頑張らせていただきます。よろしくおねがいします」

 そう、秀人は答えたのだった。


 そんなこんなで、ミシルの町の宿に着いてから。

 女子部屋と男子部屋の二部屋を頼み、現在男子部屋の方に四人は集まっていた。

 秀人の隣にはノエル姫が座っており、秀人ににこっと微笑んだ。

「秀人、凄かったね。でも、次は私に弓を使わせてね?」

「……ノエル姫が安全な場合には、よろしくおねがいします」

「もう、一緒に援護してとか戦ってっていってくれないの?」

「いえ、やっぱり……格好良い所を見せたいですし」

「誰に?」

「ノエル姫に……なんて、ははは」

 冗談と誤魔化そうとした秀人だが、ノエル姫にきらきらした目で見られた。

「やっぱり秀人は素敵。私の事、女の子扱いしてくれるし、優しいし……よし、私も頑張るぞ!」

 ノエル姫がやる気を出すのを微笑ましく見ながら、秀人は彼女の父親に念を押されていた事を思い出した。

 けれど、まあ、これくらいなら良いかなと自分に甘く秀人は考えて、ノエル姫から目の前の正樹とメアに目を移した。

 その正樹は顔を青ざめさせており、メアはいつも通りほんわかしていた。

 けれど正樹が少しでもメアから逃げ出そうとしているその様子に、そういえばメアは切れると怖いといっていた事を秀人は思いだした。 なので、メアを秀人は見てみるが、

「どうかなさいましたか?」

「あ、いえ、可愛いなと」

「ふふ、ありがとうございます」 

 はうっ! そんな事は無いです、と焦ったような態度ではなく、そう大人な対応をされてしまい秀人はあれっと思いながら黙った。

 ドジっ子ってもしかしてこのメアはわざとしているのではないかという疑惑が浮かんできて、秀人は考えるのを止めた。

 ノエル姫も秀人を睨んでいるし。

 そしてようやく本題を秀人は正樹に聞いた。

「それで、どうして一般人がいると都合がいいんだ?」

「人間て、見えない所でも良い事をするのが大切だっていうけれど、見える場所しか評価してもらえないんだ。希に気づく事もあるけれど、アピールしないと」

「つまり?」

「同じするなら、そういう風に見える人がいる所でやらないと、勇者は何もしていないじゃないかって事になるんだ。これだと、不安を抑えるという意味での勇者の存在意義が無くなってしまうから」

「なるほど。でも、そんなに倒していないんだが良いのか?」

「倒しているだけましだ。どうでも良い、見かけの良さそうな事ばかり言ったりやったりしていて、本当の意味で必要な部分は大変そうだからとやら無い奴等よりは、ましだからね」

「お、おう。……でも勇者って、そういうのなのか」

「どの道、僕のサポートも含めて、秀人の力やノエル姫の弓やらで、無敵のチート装備だから怪我人はほぼ出ないだろう」

「う、うん、そうだな」

 なんだか正樹の目が据わってきたので、秀人はそこで話を止める。

 代わりに別の質問をした。

「それで、馬車で正樹は何か変なものを使っていただろう。そうしたら“賎しき者共”が現れた気がするんだが」

「うん。呼んだからね」

 あっさりと頷く正樹に秀人の目が険しくなる。

 そんな、“賎しき者共”を操られるって……前は出来ないと言ったのにこんなに簡単に矛盾が生じる。そうなってくると答えは、

「……やはりお前らが黒幕か。操れないんだろう?」

「ち、違う、そうじゃなくて……。ほら、呼ぶだけだし、呼ぶ道具もまだ試作段階だし」

「それを信じろと?」

「操れるだけの“賎しき者共”の知識は僕達にも無いよ。あんなもの初めてだって皆言っているし」

「……でも呼び寄せるんだろう?」

「呼び寄せるというか、“賎しき者共”の感じる、所謂“人間の気配”を強めて集めるだけだから」

「……確かにそれだと操るとはいえないか」

「そうそう。で、どうしてこれを使うのかというと、“賎しき者共”の巣が街道沿いにあるとは限らないじゃないか」

 言われてみればたまたま襲われただけで、街道近くに奴らがいるとは限らない。だが、

「でも餌が人間なんだろう? だったら街道沿いにいるんじゃないのか?」

「遠すぎるとその“賎しき者共”は人間を探知が出来ないようなんだ。そして移動する事もあるけれど、だからといって街道近くに辿り着けるかは別なんだ」

「……その現れる場所に規則性は無いのか? “賎しき者共”の巣は」

「今の所見つけられてはいないな。唐突に現れるから。そんなわけで、あちらから出て来た所を叩くのが良さそうだって話になったんだ」

「今の所もっともらしく聞こえるな」

「納得してもらえて嬉しいよ。ともあれまだこれも試作品。なので呼び寄せ機の力がどの程度の“人間の気配”の大きさで、どの程度の魔力量の“賎しき者共”を呼び寄せられるのかが、こうやって実際に使う事で確認できる。また、探知レーダーには移動と魔力量が反映されているのかを確認が出来る。そうすれば更に問題点が修正されて装備が良くなるんだ」

「一石二鳥という事か。でも、その呼び寄せ機も試作品なのか……」

「奴らが現れたのはつい最近なんだから、仕方が無いじゃないか」

 そうむっとしたように正樹はコップに手を伸ばして、けれど飲む必要が無い事を思い出したのか手を引いた。それから、正樹は秀人に、

「それで、他に何か聞きたい事があるかい?」

「……伝説の剣て言っちゃっていいのか?」

「……この世界に時空操作系の魔法があるかは知らないけれど、そうでないと劣化していて使えないだろうからね、昔の武器は。加えて、本当に存在するか分らなくて、偽者を掴まされる可能性のある武器よりも、技術の進歩の面でも、最近の技術で作られた剣なり何なりの方が安全でも実用面でも良いだろう」

「……確かにそれはそうだよな。昔よりも、携帯電話だって進歩しているし」

「そうそう。いざとなったら新しい伝説の剣を作ってしまえばいい。そうだ秀人、その剣に名前をつけておくと良いかもしれない」

「……そうだな」

 そう答えて、秀人は夢も何も無い話を終わらせた。

 けれど先ほど言われた事を秀人も一応は考えて見る。

 確かに名前を付けて勇者としての秀人が使えば、この剣は伝説の剣になるような気がしなくもない。

 でもそうなった場合、『俺の伝説の剣、○○○○の力を受けてみろ!』と叫んで突進する羽目になりそうである。

 嫌過ぎるだろう、常識的に考えて。

 なので、これから名前について聞かれたらはぐらかしてしまうと秀人は決める。

 それらの話の後は城から持ってきたお茶菓子と、この世界の茶葉のお茶を楽しみながら四人で雑談して終わる。

 そして……その夜の出来事だった。


 皆が寝静まった深夜。

 秀人は目が覚めた。

「緊張しているのかな。ちょっと外の空気でも吸ってくるか」

 そう背伸びをして、秀人は部屋の外に出ようとして、部屋のドアを開けるとばったりとメアに会った。

 三つ網の髪を下ろしているためか、その雰囲気がいつもと違う気がして、秀人は少し悩んでから、

「メアさん、ですか?」

「ええ、そうですけれど」

 そう答えてくすくすと笑う。 

 その様子が何処となく悪役というか悪女っぽく見えて、部屋のドアを開けたまま秀人は少し考えてから、

「俺達の部屋の前にいたという事は、何か用事があったのでしょうか」

「ええ、貴方に会いに。勇者秀人様?」

 にいっと妖艶に笑って、そっと秀人の腕に自身の腕を絡ませようとして、それに気づいた秀人はささっと避けた。

 そんな捕まえ損ねた秀人を見てメアが、

「こんな美女に言い寄られて、鼻の下を伸ばさないわけ?」

「いや……何ていうんでしょう、もっと清純な子が好みなんです」

「つまらない男ね。あのじゃじゃ馬のノエル姫が、貴方にはやけにしおらしいから、どんな男かと思って様子を見に来たのに……普通っぽいというか、影が薄いというか」

「良識と常識があるだけです。それで、用件は何ですか?」

「……私達の方に来ない?」

 怪しげな勧誘をされて、秀人は黙った。

 そして天井の方を見上げて、これはアレですか、悪の親玉みたいな奴に、俺達の方に来ないかと誘われているとか、はたまた敵対勢力に勧誘されているとかそういうパターンですか、と秀人は考えて、

「ちなみに、私達というのは、どういう方々ですか?」

「そうね……“賎しき者共”を、この世界に呼び込んでいる者達かしら」

「そんなものに協力しろと? しかも突然言われても……」

「貴方の力を最大限生かせるように“賎しき者共”を呼んで、それを打ち倒してみせる。そうすればこの世界の人間たちはどうなるかしら」

 面白そうに笑うメア。

 そうすれば確かに、こう、理想的な勇者が出来上がるだろう。

 ただ、秀人は自分で火をつけて、水をかけるといったマッチポンプは好きではない。

 それにそんな事をする暇があるのだったら早く元の世界に戻りたい。

 この世界で良い思いが出来るといっても、秀人の体は所詮藁人形だか何だかがこの世界の本体であり、擬似的にしか体験できない。

 なのだが、試しに秀人は聞いてみる事にした。

「それで、どんな良い思いができるんだ?」

「この世界の勇者になって酒池肉林、それこそ私を抱いてもいいわ」

「それで断ったなら?」

「そうね……すでに、勇者がこの町にいると分っている。そして、勇者がいる場所に“賎しき者共”が現れるとすでに噂を流しておいた。どういう意味か分る?」

 勇者である秀人のいる場所に“賎しき者共”が現れる。→お前のせいで! ……以下略。

 無料でやるには割に合わないなと、秀人は考えていると、

「ちなみにすでにその準備は終わっているわ。後は……」

「所で、ノエル姫はお前がそういう存在だって知っているのか?」

「知らないわ、だって私、その機関のスパイだもの」

「それを俺がばらさないとでも?」

「あら、貴方、私と取引しないつもり? 大勢の人が死ぬかもしれないのよ? 何処から攻撃してくるか分らないのだから。ああ、あのレーダーがあるから平気なのね? ふふ、でも幾つもの方向から同時に攻撃されたならどうかしら。そんなで未然に防げるとでも?」

 いかにも自分達の勝利を確信した微笑みのメアに、秀人は、この人何か思い違いをしているなと思いながら、

「そうだな……俺、そこまで責任持てない」

「……は?」

「だって俺、この世界に連れてこられてわけもわからず手伝わされて、勇者にされただけだし」

「で、でも、私たちの方が凄く良い思い出来るわよ? ノエル姫なんかよりも美人の女の子侍らせて……」

「結局この世界では、俺が経験できるものって、リアリティのある疑似体験にしか過ぎないんだよな。それならゲームで良いよなって話だよな」

「! な、何を言って」

「というわけだから、正樹、捕まえてくれ」

「はーいっと」

 ひょっこり現れて正樹に、メアは捕縛された。

 とりあえずローブで手足をぐるぐる巻きにしてから結界を張って閉じ込めておく。

「く、苦しい……死んじゃう……」

 そうメアがか細い声を上げるも、正樹がふうっと嘆息して、

「この縄は特殊で、そんなに苦しくないように、けれど動けなくなるように自動で縛り上げるんだ。なんでも、縛り上げるのが不器用な人がいて、その人専用で作ってあげたうちの会社の素晴らしい発明品なんだ」

「……この」

「それで、うちの会社の人に連絡しておいたから、このメアって子の組織もすぐに分るし、もし本当に“賎しき者共”をこの世界に呼べるなら、その発生ポイントも吐かせれば観測出来る」

「ふ、ふざけるな、お前、前から生意気……」

「いやー、こっちが本性だと思わなかった。だから切れた時怖かったけれど、うんうんそうか……」

 正樹の余裕に、秀人は色々と突っ込みたい衝動にかられたが、それよりも、

「……こんな深夜に連絡して連絡がつくのか?」

「うーん、夜行性の人も沢山居るから、問題ないだろうね。……おお、来た来た。確認してすぐに対応するよ。ヒャッホー、だって」

「……喜ぶ所なのか?」

「え? 嬉しいだろう? これで原因が分れば対策立てられるし、その情報を真っ先に手に入れられれば、うちの会社の商品も売り込めるし、このレーダー+予想出現地点の算出だって出来るんだ。良いことずくめじゃないか」

「……そうだな。それで、こいつらが準備した“賎しき者共”はどうなんだ?」

「今のところレーダーに変化は無い。もともとそこそこ大きな町だから、獣や魔物といった害あるものが入ってこないようになっているし、そう簡単に攻撃は仕掛けられないと思うけれど」

 そう正樹が説明するのを聞いて、メアは、

「そんな余裕ぶっていられるのも今のうちだ。今回我々が全力を尽くして、強い“賎しき者共”を召喚したからな。こんな町の結界は、紙も同然だ」

「……自分は大丈夫だと思っているのか?」

「召喚主である我々を奴らは襲わない!」

「こんな事を言っているけれど、区別がつくのか?」

 そう秀人がメアを指差して、正樹に聞くと、少し正樹は悩んでから、

「“賎しき者共”にも種類がいて、人間のにおいに敏感じゃないのもいるからね。それで無視されたんじゃないかな。後はその種類の“賎しき者共”が誤認するものや嫌がるものを身に着けていたとか」

「じゃあ早めにこいつらの仲間を捕まえて、勘違いを正しておいた方が良いんじゃないか? でないと危険だから」

「それもそうだね。追加でその話を書いて送っておくわ」

 そう言って、正樹はなにやらスマホもどきに打ち込んでいた。


 結局、その“賎しき者共”は夜が明ける時間になっても、メアの言うようにこの町を襲う事は無かった。


 徹夜明けの朝の光が眩しい。

「眠い……」

「僕もだよ。はあ、嫌になる」

 そう嘆息する正樹。

 メアは縛られたまま眠っている。気楽なものである。

 結局、軍も派遣してもらいすぐさまメアの仲間とも思える奴らを捕縛した。

 ついでに彼らのその、謎技術を確認しているらしい。

 あと彼らの組織についてだが……。

「なんか、確かにそこそこ大きいけれど、世界に影響を与えるレベルではないらしいね」

「……そうなんだ。それで、そいつら本当に“賎しき者共”を呼べるのか?」

「さあ。ただ、召喚に必要な魔法関係の知識はあるみたいだから、もしかしたなら出来ているのかも」

 それを聞いて秀人がイメージしたのは、薄暗い研究室で、おかしな笑い声を上げている天才何チャラのイメージだった。なので、試しに正樹に、

「あれか、一人の天才科学者がー、うんぬんみたいな、中二病心をくすぐる狂気の天才がいて、みたいな?」

「あれ面白いよね。現実には、複数人でやらないといけないから、会話やらなにやらせざる終えないし。ほら、うちの開発部の人達みたいに」

「ああ……うん。言われてみればそうだな。一人で出来る事ってたかが知れているし」

「そうそう、例えば、パソコンだって中にあるのは、元をただせば金属だったり、半導体だったり、色々な物が組み合わさっている。その部品の全て一人で作るのは難しいからね。とはいえ、関連する知識は自然に必要にはなってくるけれど」

「そうだよな。イメージは怖いな。となると……コミニュケーション能力が問題か」

「どうだろう。基本、コミュニケーション能力なんて、そうせざる終えない場所に投入されれば、やらざる終えなくなるのにね」

「そうなのか? そうなると研究室に閉じこもってって言うのは……」

「学生はまず無い、そんな一人一部屋なんてお金が学校には無いし。社会人としてはまず無い、というか一人で一つの研究室もててってよほど優遇されているだろう? そうなってくると、有益なものを作るから社内の人と話す事もけっこうあるだろうから、その時点で、コミニュケーション能力が無いと無理だろうね。つまり一人の狂気の何チャラは、物語にしか存在しない面白生物というわけだ」

 言われてみれば当たり前の事だが、本当に現実にはロマンが無い。

 だが今の話となると、秀人は考えて、

「……じゃあ、コミュ障ってどんななんだ?」

「さあ。実際に会った事は無いから知らないけれど、単に『こいつコミュ障だな』って言っている嫌な奴と話したくないだけなんじゃないかな。他にあるとすれば、話したり出来ない状況に追い込んでおいてそういうレッテルを貼る、とか」

「どんな風に?」

「言ったら重箱の隅をつつくようにあら捜しをする……そんな感じで、徹底的にその人を否定する言動を繰り返す。そうする事で自分が優越感に浸れたり、優秀になりそうなのを潰す事で自身が安泰になるからね。しかも、怒鳴ったり色々すれば、その分教育したように見せかけられて、ストレスも発散、その時間仕事もしているように見えるんだ」

「……何かあったのか?」

「さあ?」

「……お前も大変だな」

「良い人も一杯居るんだけれど、変なのもいるんだ。えっと何について話していたんだっけ。ああ、コミュ障か。あとは……あれだな」

「あれって?」

「人間て結局自身の知識を基にして話しているんだ。無意識の内に」

 意味が分るが、それがどうしてコミュ障に繋がるかわからず、秀人は聞き返した。

「つまり?」

「幼稚園児の集団に、そうだな、火力発電の構造やら専門的な話をして伝わると思うか?」

「そうだな……せいぜい、お湯を沸かして羽をを回すと電気が発電されます、くらいなんじゃないのか?」

「多分ね。それで、火力発電が作れるように、幼稚園児達に理解させて仕事をさせる事は可能か、そもそも会話は成立するのか」

「……よほどの天才なら出来る、か? でも、それが導き出される思考過程や知識は、暗記だけで務まるのか?」

「問題が起こった場合に対応できないし、問題に気づかないだろうね」

 そんな夢も希望も無い話をしていると、なにやら正樹のスマホもどきが、ちかちか光る。

「あ、連絡が来たよ。やっぱり動作しないものだって。呼べたのも偶然らしい。とりあえず全員を牢屋に放り込んで、ついでに再教育する事になったって。とはいうものの、それを使ってもまったく呼び出せないので全員意気消沈だそうだ」

「そうか。じゃあ、メアも牢屋行き?」

「どうだろう。ノエル姫のお世話に適任がいるかどうか……」

 秀人達の部屋のドアが開いて、ノエル姫が立っていた。

 彼女の目の前には、メアが縛られて転がっている。

 それを見てノエル姫が嘆息して、

「メアが何かしたの?」

「いえ、“賎しき者共”を呼ぶ事が出来る怪しげな組織があって、そこに俺が勧誘されて、しかもこの町に“賎しき者共”をけしかけたとか何とか」

「そうなの」

「驚かないんですね、ノエル姫は」

「んー、まあ、スパイみたいのはそこら中にうろうろしているのが城だから。今更かしら。それよりも、支度をして欲しいからメアを起こしてもらえる?」

「……はあ」

 秀人はそう、気の抜けた返事しか出来なかった。

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