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これは、某大賞に応募した、本作の修正版です-3

 

 ノエル姫は、先ほどの銃を手に抱えて、走っていた。その顔には満面の笑みが浮かんでいる。

「良い物が手に入ったわ! こんな武器初めて。うふふふふふ」

 そう呟きながら軽やかに階段を駆け上り、地上に出たノエル姫は、そのまま自分の部屋に戻ろうとして隠れた。

「まったくノエルには困ったものだ。もっと大人しい娘であって欲しいのだが」

「まるで男性のようですからね」

「本当に何処で育て方を間違えてしまったのか……」

「ですが奥方様にとても良く似ていらっしゃる。あの活動的な所とか」

「そうなんだよな……というか今妻は何処にいるんだ?」

「この前、『“賎しき者共”の巣を破壊したよー、もう一つ巣があるからそこ取り崩してから帰ると思うわ』だそうです。国民思いのとても良いお妃様であると、評判ですよ」

「でもやっぱりノエルにはああなって欲しくない。もう少し、お付のメアのようにほんの少しでいいから……」 

 愚痴を零しながら歩いていく父とその側近の様子を見て、ノエル姫は気づかれなかった、と息を吐いてから……先ほど話していた内容を思い出して頬を膨らませた。

「なによ、お父様ったらそんな事を言って……大人しい、メアを見習えって、嫌になるわ。でも良いもん。今日はこんな良い物が手に入ったし……これさえあれば、秀人についていってもいいよね」

 そう口に出すと、再びノエル姫の顔に笑みが戻ってくる。

 特に秀人と口に出した瞬間が酷く甘い響きがあったが、それにノエル姫は気づかなかった。

 そういった事に気づかない程度にノエル姫はまだまだお子様だった。

 そんなノエル姫は、周りに人がいない事を確認してから、足早に自分の部屋へと駆け出したのだった。


 そんなわけで、秀人はてくてくとゆっく入りとした足取りで、階段を上っていった。

「下るのはそこそこ楽だったんだが、上りはきついな。エレベーターは無いのか?」

「あ、あるんだった。でもそうすると下まで戻らないといけないよ。あそこの階からの直通だからね」

「……良い設備だな」

「とはいえ、あの三人、健康のために上に出る時はいつも階段使っていて、必要な機材やら何やらを運び込む時だけ使うんだって」

「そうなのか」

 そんな他愛も無い話をしながら上がっていく二人。だが一向にノエル姫の姿は見えない。

「良い玩具が手に入った状態なんだろうな。やっぱり付いて来るのかな……」

「え? 秀人としては嬉しくないのか? 結構好みだろ? 秀人の」

「……何で知っているんだ?」

「そういうキャラが好きだったじゃないか」

 と、正樹が野次馬根性丸出しでら秀人をからかってくるので、秀人は別の話題を振る。

「……やっぱりこれは夢なのかな。まあ考えても今はわからなそうだから、後で考えるとして……よくあるゲームのパターンだと、その……異世界貿易会社ゴランノスポンサーか? そいつが真の黒幕なんじゃないのか?」

「嫌だなー、僕が黒幕なわけないじゃないか」

「お前が黒幕と言っていないぞ? 異世界貿易会社ゴランノスポンサーが黒幕なんだ」

「うん、それも無いよ」

「それは証明できるのか?」

「秀人が納得出来る証明が出来るかどうかはわからないね。やっぱり信頼関係って重要なんだ」

「信頼できるだけの要素が何処にも見当たらない件について一言」

 半眼で見ると、正樹は酷いっと、演技をしてみせてから、

「じゃあこの話はどうだろう。一応僕達も異変について調べているし、さっきみたいに、異変に遭遇した場合に効率的に対処する武器を作っているだろう? それとか」

「……異変作り出して武器売りつけとか、まんま武器商人じゃないか」

「……確かにそうも取れるよね。あれ? 本当にうちの会社が黒幕(笑)なのか?」

「……この件も保留だな。というかなんでこんな所で働いてるっぽいんだ? 正樹は」

「期間限定のアルバイトのようなものかな。で、今度、新しいゲームが発売されるから、お金が必要になって、このようなアルバイトをしたわけです」

「所で俺にもそのアルバイト料って支払われるのか? 勇者だかなんだかの」

「契約に無い事は、やらないと思う」

「……」

「……」

「止めた。帰せ、家に帰せ」

「……分った、後で上司と相談して見るよ」

「よろしく。それと、アルバイトって、どうやって募集しているんだ?」

「世の中知らない方が良い事もあるよ」

 そう答えて、正樹はそこで話を止めたのだった。


 城に戻ると、今日泊まる部屋に案内された。ちなみに正樹と同じ部屋だった。

 そして案内された部屋にいた少女は、確かノエル姫のお付のメイドで、

「確か、メアさん、だったか?」

「は、はい……えっとベットのシーツを取替えに来ておりまして、本当はもう少し時間があれば、花瓶の花も取り替えたかったのですが……」

「ああ、いいって。突然の事だから」

「あ、ありがとうございます。で、では失礼いたします」

 そう、慌てて去っていく行くメア。それを見ながら秀人が、

「ああいうドジっ子ぽいのが人気なのか?」

「……切れると怖いよ」

「え?」

「切れると怖いんだ」

「……何があったかは聞かないが、そうなのか」

「思い出したくないから彼女の事は言わないでくれ。あ、そうそう、さっき連絡が来て、ほら……」

 正樹が、ガラスの板のようなものを取り出した。手のひらよりは少し大きいが、

「この世界の、スマートフォンみたいなもので、但し、文章のやり取りしか出来ないんだ。それに少し時間がかかるし」

「魔法的な原理は聞いても仕方が無いから良いとして……どれどれ? 『“賎しき者共”の場所を探知する装置の試作品が完成しましたので、明日お送りします』だと?」

「これで、手軽に奴らの巣が潰せるよ」

「……攻略本を見ながらゲームをする感じか?」

「分った所を潰していくだけだから、作業ゲー、かな?」

「……勇者って格好良くて楽しい職業なんじゃないのか?」

「見かけが楽しそうなものなんて幾らでもあるよ。それで……」

 このまま旅に出させられそうになって、秀人はもう少し魔法の使い方とか威力といった説明が欲しいように感じた。なので、

「正樹、近隣に“賎しき者共”の巣があるか確認して、この道具を試してみるのは駄目か?」

「そうする? だったら“賎しき者共”の場所を探して、その周辺に人が入れないようにしてもらった方が良いね。……王様にお願いしてくるわ」

「あー、俺から行った方が良いか? 俺が思いついたし」

「それもそうだね……あれ、王様?」

 正樹が部屋のドアを開けた所で王様が歩いていた。

 なので、二人はその場でお願いをして、それに王様は、

「だったら、近くで巣がありそうな場所は一つ分っているぞ。ではそのように手配しておこう」

 そう、秀人と正樹は言われたのだった。 


 柔らかな朝の光が、カーテンの隙間から降り注いでる。

 外には鳥だと思われる鳴き声が、チュンチャアアアン、チュンチャアアアアンと鳴いている。

 それを聞きながら、チュンちゃんて誰だと思って、秀人はごろりと眠る方向を変えた。

 いつもよりもふかふかで寝心地の良いベットだと思い、秀人は幸せそうにむにゃむにゃする。

 そして柔ら布団から体を起こす事の苦労について、秀人は寝ぼけた頭で延々と考えていたが、

「秀人、起きて!」

 美少女に布団をめくられました。

 はっきり言おう。

 美少女に踏まれるのはご褒美だという意見には、秀人は完全には否定をしない。

 だがしかし、この朝の心地の良い眠りの中でまどろむ、幸せで温かな布団の中という究極の楽園を破壊しようとするその野蛮かつ卑劣な行為について、その存在が美少女のように見えたとしても、百年の恋が醒めてしまうような感覚を覚えて怒鳴りつけた挙句、再びその温かな幸せに包まれたいと思ってしまうのは男として最低とか言う言葉では語りつくせない、人間としての持っている当然の素晴らしい権利について、一筋の疑問を投げかけているのではないかと思いつつ……お腹が空いた感覚を覚えて、秀人は体を起こした。

 霞む目を軽く擦ってから、目の前の頭をポニーテールにした銀髪の美少女に秀人は目を合わせて、にっこりと笑う。

「寝ぼけた秀人って結構可愛いのね」

「……可愛い?」

「そうそう。ちょっと幼い感じがして、本当はもうちょっと幸せそうに眠っている秀人の寝顔を見ていたかったのだけれど、食事は温かい方がいいから」

「ああうん、そうか……。でもノエル姫、普通可愛いと言われて喜ぶ男なんていないぞ?」

「そうなの? 私は可愛いと思ったから、言っただけだけれど……秀人が嫌ならこれからは言わないようにするわ」

 そんな、何処か悲しそうなノエル姫。

 悪い事をしたかなと思うも、可愛いといわれるのは、男として悲しいように思える。

 それに、可愛いわねというのは、皮肉として、そんな事も分らないのとか、生意気とか、年齢相応じゃないわねとか、そういう悪意のこもった悪い意味があるのだ。

 使い方やその人の性格によって意味が変わるのだ。

 とはいえ、このノエル姫は良い意味で、裏表の無い性格なのでそのままの意味だろう。

 だから可愛いというのは褒め言葉なのだろうが……この、恋愛対象ではない愛玩用の縫いぐるみのような感覚はいただけない。

 もっとこう、きゃー、秀人様素敵ー! みたいな……。

「秀人、さっきから黙っているけれど、そんなにああ言われたのが嫌だった?」

「いや、少し寝ぼけていてぼんやりしていた。……朝食ってそれか?」

「うん、秀人たちは食べなくても大丈夫らしいんだけれど、味覚はあるから楽しんだって。そう、田中正樹が言っていたわ」

「そうなのか。そういえば、田中正樹は何処行ったんだ?」

「なんでも『新しい装置キター!』と叫んで、私が朝食を運ぶのを手伝った時に、飛び出してきたわ」

「そうなのか。確か昨日言っていた、魔物を探査するレーダーみたいな装置が、今日手に入るとか何とか」

「え! そんなものが出来るの? へー、それは便利ね」

「ただ試作品と言っていたから、どの程度精度が良いのか分らないが、使う事に……」

 そこまで言って、秀人は、ある事に気がついた。

 それは、ノエル姫がポニーテールをしている事と、ドレスではなく、物語に出てくるような女の子冒険者ぽい格好をして、剣をさしておく場所に昨日貰った凄そうな銃を入れていたのだ。 

 これは、つまり、

「……ノエル姫は、俺達についてくる気なのですか?」

「そうよ。嫌なの?」

「いえ……王様には相談したのですか?」

「ええ、メアと一緒であれば、良いって」

「……そうですか。それで今日も、メアさんと?」

「いえ、メアは私が旅に出る準備が忙しくて。今日は私だけかな。だから秀人、早くご飯を食べて行こう!」

 秀人は楽しくて嬉しそうなノエル姫に急かされ、さりげなくノエル姫に腕を引っ張られた時に手が胸に当るという嬉しい展開もあったのだが……その時にノエル姫が真っ赤になってごめんなさいと言っていたので、秀人としては嬉しいと思う反面悪い事をした気持ちになった。

 そして美味しい朝食を楽しみ終わった頃、正樹が戻ってきたのだった。


 王様に言われた魔物住処に向かって、秀人と正樹がノエル姫に案内されながら歩いていた。

 現在歩きながら、その魔物探知何チャラの説明を、正樹から受ける事になっていた。

「じゃーん、これが、持ち運び簡単☆“魔物探知レーダーver56.2”です!」

「試作品、そんなにあるのか?」

「そう!! 異世界貿易会社ゴランノスポンサー開発部が満を期してお送りする、魔物探知レーダー……ゴウロクさんが作った二番目の試作品です」

 どうやらゴウロク→56という人が二番目に作った試作品だから、56.2らしい。

 そんなどうでも良い知識は放置して、秀人はそのレーダーを見た。

 四角い金属製の額縁に、不透明だが光沢の有る白く四等分に刷るように線を引かれた青いガラスがはめ込んである……第一印象は、それだった。

 正樹が額縁の一端に有る赤い石に手を触れると、その青いガラスに波紋が走って、濃さの異なる黄色い光が点滅する。

 その様子に、よし、大丈夫そうだと正樹は呟いてから、

「この、白い二本の線が交差する場所が現在地、そしてそこを中心に確か最大十キロメートル範囲が見えるはず。ただ距離が離れるにしたがって、感度が低下するから……例えばこの、遠い場所と近い場所、同じくらいの黄色い光だろう?」

「ということは、遠い場所の方が強い“賎しき者共”がいるって事か?」

「もしくは大量にいるか、だね。あと、最新の地図が手に入ったよ」

 そう言って、秀樹は一枚の表面がつるつるとした光沢のある地図を取り出した。

「……なんで神話の時代から現代の地図に変わっているんだ? 等高線とかは入りまくっているし」

「地図っていうのは、自分の国が攻められないようにする為の防御には欠かせないからね。そして敵に渡るのを恐れる。けれどこういった状況なので、うちの会社が頑張って作りました」

「……提供してくれなかったのか? その色んな国が」

「うん。危機よりも、自分達の保身が大切らしい。ただ、彼らの測量技術はまだまだ甘いので、こっちで作った方が早かったかな。色々な概念も含めて、異界の知識が蓄積されているからね」

「……夢と希望に溢れた異世界がどうしてこうなったって気がするが、それで、レーダーに表示された場所を地図に記載して、潰していけば良いのか?」

「そうです。そして、外れた場所も記録して、そのデータを送って欲しいそうです」

 まさに試作品といった風だが、確かに表示されている黄色い点は多いなと、秀人が数え始めると、ノエル姫がそれを覗き込んだ。

「へー凄いね。これ全部、“賎しき者共”なの?」

「いえ、多分違うものも混ざっているかと。“賎しき者共”の放つ魔力と似た物は出来るだけ排除しているのですが、それでも取りこぼしが多いですし、遠くになればなるほど微弱になるので、区別がしずらくなりますから」

「確かに遠くなるほど、数が多くなっているわね」

「周辺の魔力がノイズとして拾われて、場合によっては干渉してきて誤って表示される……」

「良く分らないんだけれど」

「んーと……この装置自体を動かすのにも魔力が要りますが、それ以外にも周辺の魔力を間違って読み取って、誤って“賎しき者共”の巣を表示してしまう現象です」

 なるほどと頷くノエル姫。それに今度は秀人が、

「だったら、現在の設定で拾う“賎しき者共”よりも、もっと強い“賎しき者共”を表示するようにして、範囲を狭めたらどうなんだ? 遠くだと区別しづらいなら……」

「強いものだけにすると全部消えてしまうんだ。そして範囲を狭めると逆に弱いものも大きく現されて見にくくなったりとか……実用性の面であまり良く無くて、今の所これ位が妥当だろうって話になったんだ」

「なるほど」

「しかも前なんて、すぐ傍で魔法を使うだけで使い物にならなくなるから、近くに来たら電源落とさないといけなくて」

「敵の動きが知りたいのに電源を落とさないといけないって、本末転倒じゃないか。難しいんだな」

「そうそう、色々難しいんだ。特に周辺の違う魔力を拾うのをどう解決するかが、特に難しくて……一番確実なのは、目で見て確認する事なんだよね」

「目で見えるから、確かにそこにあるよな……」

「そういう事。だからこれは見当をつける位の気持ちで使うのが良さそうだ」

 そこできりよく話を終えて、草原の先にある目の前のあれらを見て、レーダーを確認する。

 秀人が魔力をこめれば発動する魔法装置に手をかけて構え、ノエル姫は、自分の出番がきた事に喜びながら銃を構える。

 一方、正樹はレーダーが実測と違うかどうかを確認していた。

「一応動いているみたいだし、これは正しいみたいだね」

「おい、正樹、お前、俺よりも長くこっちにいるんだろう? だったらお手本を見せろよ!」

「いや、僕頭脳労働派の魔法使いなんだ。それに秀人は色々道具を試すチャンスでしょ。というか、こっちの確認を最優先にしてくれって言われていて……アルバイトは辛いよ」

 駄目だこいつ、と秀人は諦めて“賎しき者共”を警戒する。

 この前と同じ、トカゲもどきだったのが幸いだ。数は前回よりも多い、5、60匹だろうか。

 そう秀人が考えて、こちらから攻め込んだ方がいいかと槍に手をかける。

 そこで、ノエル姫が銃を構えて、“賎しき者共”へと発砲した。

 乾いた音を立ててその玉は丁度“賎しき者共”の中心部の虚空で破裂し、それらを煙で覆う。

「やったか!」

 ノエル姫のその台詞に、秀人は嫌な予感を覚えた。

 やがて、先ほどの煙幕が晴れて、そこには、二倍に大きくなったトカゲもどきがいた。

「なんで!」

「あー、強化魔法が当っちゃったんだね」

「何を暢気にに解説しているのよ!」

 そう田中正樹に突っ込みを入れながら、ノエル姫は再び三発ほど銃を撃つ。


 トカゲもどきの筋肉がムキムキになりました。

 トカゲもどきは火を噴けるようになりました。

 トカゲもどきの手が、石のように硬く強化されました。


「何で敵を強くしてんのよ!」

 涙目でノエル姫が正樹に食って掛かった。

 けれど、正樹は相変わらず冷静にそのレーダーを確認しながら、

「ランダムだから、たまたまそういうのが続いただけだろうから、もう一発……」

「出来るわけ無いでしょう……秀人?」

「……俺が、なんとかする」

 秀人は、槍を使うには“賎しき者共”の向かってくる速度が速すぎて、正樹の話を鵜呑みにするなら、異世界人である自分達はまだ良いが、ノエル姫は危険だと判断した。

 他の二人よりも、三歩ほど前に出て、昨日貰った魔法装置に手をかざして魔力をこめる。

 頭の中に、ゲームの選択画面のようなものが浮かんできて、秀人はとっさに攻撃魔法の一番上にある魔法を選択する。

「火竜砲? 難易度っぽい印があんまり強そうじゃないが、これだ!」

 それを選択するよう念じると、秀人の前方に秀人と同じ高さの直径の円……ゲームに出てくるような魔法陣が生じて、輝きだす。

 そのまま轟音とともにその円陣の中心部に炎が渦巻き、まっ直ぐに広がるように伸びていく。

キシャアアアアア

 トカゲモドキの形をした“賎しき者共”の断末魔が響いて、けれど聞こえた後も炎は暫く止む事はなく……秀人はその光景をぼんやりと見ていた。

 やがて、炎がすうっと、唐突に消えた。

 その先には、一直線上に枯れ果てた草原と、そして山に穴が開いており、オレンジ色の夕日が顔を覗かせていた。

「え?」

 その光景に、秀人は疑問符しか浮かべる事しか出来なかった。


「暗くなる前に帰ろうか。一応いいデータも取れたし」

 そう、田中正樹がそのレーダーから顔を上げて言った。それに秀人はぼんやりとした頭が、急に冴えた。

「どういう事だ! 何だアレ!」

 先ほど空けてしまった山の穴。

 それを指差しながら秀人は叫ぶが、正樹はしばし考えてから、

「日が沈んでしまうと、あたりが真っ暗になって危険なんだ。道路に街灯があるわけではないからね。だから、戻ってから色々と話をしないかい?」

「! ……そうだな。はあ、驚いた」

「本当にね。さあ行こう、ノエル姫も」

 そう、まだ呆然としているノエル姫に正樹が声をかけた。

 ノエル姫は、はっとして頷き、それから秀人を見る。その視線が秀人には堪らなく怖かった。

 こんな恐ろしい力を見せ付けたのだから、きっと彼女には秀人が化け物のように映っている事だろう。

 別に異世界であるし、秀人の帰る場所はあの世界であっていずれその世界に帰るのだ。

 もしも嫌なら逃げ帰ってしまえば良いのだ。そのまま忘れてしまおうと布団にもぐって、いつものように学校生活を送ればいい。

 そう秀人は自己弁護するように、大した事じゃないと頭の中で考える。

 けれど、それはそう思われたくないという気持ちの裏返しでしかなく、そういった軽蔑の眼差しをノエル姫から秀人は受けたくなくて顔を背けた。

 そんな秀人の様子に、ノエル姫は、

「何を気にしているの?」

「……いや、山に穴が開いたから、俺は……もしかしたら人を巻き込んだとか……」

「……あそこには人は住んでいないわよ。いっその事あの山を跡形もなく消してしまってもいいわ。そうすれば迂回路を取らなくて済むようになるし」

「えっと……あの、俺が怖くないのでしょうか」

「さっきの魔法の事? 今更よ。異世界貿易会社ゴランノスポンサーが異常な事を引き起こすのには慣れているわ。むしろ今は頼もしいくらい」

「そ、そうですか……え?」

 清々しいまでに現実主義なノエル姫が、そこで秀人の腕に抱きついた。

 ふにょっと柔らかい感触が当っているようないないような気がしなくもなかったりしたのだが、彼女いない暦=年齢の秀人には、夢のような出来事だった。

 やはり夢なのだろうかと、秀人は再び悩みこもうとした所で、

「どうしたの? 考え込んでる? 頼もしい勇者さん」

 そう言われてしまうと、ノエル姫が気にしていない事を秀人が考えていても仕方がないので、別の疑問を口にする。

「……でも、なんで急に“賎しき者共”が増えたのでしょう」

「それが分れば苦労はしないわ。お陰で、魔道研究所も壊滅的なダメージを負うし……あそこ、秀人みたいな異世界の人の召喚も研究していたから上手く行けば、今頃は異世界貿易会社ゴランノスポンサーを通さずに呼べたかもしれないのに」

 悔しそうに言うノエル姫だが、今の話からふと、秀人は、

「……俺のような異世界の人間が、呼ばれる事が分ったから、あそこか襲撃された可能性があると?」

「……わからない。“賎しき者共”を操れる方法は、少なくとも異世界貿易会社ゴランノスポンサーには分らないらしいから」

 それを聞いて秀人は、わざと出来ない事にしておいて、本当に異世界貿易会社ゴランノスポンサーが黒幕なんじゃないかと思いはしたのだが、そんな秀人に釘をさすように正樹は、

「うちじゃないからね。黒幕は」

「でも操り方が分らないって、異界の技術でも無理って……」

「僕達の技術の限界も考えて欲しい。絶えず陰謀論に曝される僕達の身にもなって欲しいよ」

 と、やれやれといったように正樹が答える。

 お前達が怪しすぎるからだと秀人は叫びたかったが、彼らの言い分も分るので秀人は口をつぐむしかなかった。

 そんな話をしているうちに、三人は城へと辿り着いたのだった。


 城に着いた途端、ノエル姫は武器庫へと駆け出した。

 ついでに秀人は、先ほど秀人の使った凶悪な威力の魔法に関して、正樹から説明を聞こうとすると、

「せっかくだから彼らに説明してもらった方がいいかも。作った本人だし」

 正樹に言われ、秀人も階段に向かおうとして……正樹が別方向に歩いていくのに気づく。

「正樹、何処に行くんだ? そっちに階段は無いぞ?」

「いや、エレベーターを使おうと思って」

 秀人は黙って正樹についていった。

 そして、外に置かれた用具箱のようなものに手を触れると、チン、と音がして自動的に開く。

 それに乗り、地下のあの研究室にたどり着くと、丁度ノエル姫がその階についた所だった。

 彼女は唐突に壁から現れた秀人と正樹を見て、頬を膨らませた。

「ずるい! 私は頑張って階段で降りてきたのに!」

「まったく、若い者は……」

 そう、この前もいたおじさん達も溜息をつく。けれどノエル姫は、そんなおじさん達に気づいて起ったように自分の銃を突き出して、

「酷いです! これ撃ったら敵が強化されたんですよ!」

「え! ああ、確かにそんなものも入れたけれど……何発か撃てば攻撃魔法になるだろう?」

「四発撃って外れたんですよ! それにそこにいる田中正樹に言ったらもう一発撃ってみたらって……失敗して、敵が強化されたらどうするんですか!」

「あー、流石に次は当ると思うから、試しに今動いているあのネズミの玩具を撃ってみろ」

 そうおじさん達に、流石にたまたまだろうという風に言われたノエル姫は、むっとしながらもネズミの玩具に銃を向ける。

 そして引き金を引く。

 乾いた音を立てて、ネズミの玩具が煙に包まれて……以前に比べて倍以上の速さで玩具は動き回る。

 それを見たノエル姫は、半眼でおじさん達を見る。

 おじさん達はしばし沈黙してから、何やら紙を取り出して調べ始めた。

 そして数枚めくってから、ふっと優しげに微笑み、

「すまない、一発しか攻撃魔法は入っていなかった」

 そう、答えた。それに怒って暴れそうなノエル姫を抑えてから秀人が、

「すみません、俺の魔法で山に穴が開いたのですが」

「え? 本当に? 何の魔法で?」

「火竜砲という魔法です」

 その言葉にしばしおじさん達は悩み、少し離れた場所でなにやら相談してから秀人達の方に戻ってきて、

「……君の魔力は潜在的にものすごい事が分った。そうだな、目に映る範囲内を攻撃したいのであれば、それこそ……あの魔法を使う装置に、それぞれの技名について説明があったはずだが、読んだかい?」

「……切羽詰っていたので気づきませんでした」

「ふむ、それの中にマッチに火をつけるレベルの魔法といった、弱いものがあるからそれを使った方が良いかもしれない。というより、それに登録してある説明書を読んでくれ。それで問題があれば対応するから」

 そう言われてしまえば、秀人は頷くしかない。ただ渡す時に説明して欲しかったのにと思う。

 そこで、ノエル姫がおじさん達に、

「もっと他の武器、武器は無いの?」

「……何か試作品はあったかな……弓があったから、それでいいか?」

「……いいわ。一応弓だって私は使えるもの。それでその矢なんだけれど……」

「とりあえず百本。この小さい箱を振れば出て大きな矢になり、かつ、この箱には残りの矢の数が自動的に表示される!」

「もし無くなった場合は?」

「お近くの異世界貿易会社ゴランノスポンサー開発部まで」

「……何処にあるのよ。ここ以外」

「あー、正樹が知っている」

 そう言うと、正樹が頷く。

 ノエル姫はその武器と正樹を見比べて、これだけあれば良いかと頷いたのだった。

 ホクホク顔のノエル姫だが、それにおじさん達は不安を覚えたのか、二人ほどのおじさんがノエル姫に、

「ノエル姫、使い方の説明もありますので隣の部屋で、試し射ちをしましょう」

「……こう見えても弓の使いっぷりはそれなりなんだからね」

「それはぜひ拝見したいですね。それにデータも取りたいし」

「別にこの弓に魔力を通しながら矢を放てばいいだけでしょう?」

「そうですが、威力がどの程度可の確認もさせていただきたいので……」

「……これ、異世界人用なの?」

「はい。ですから確認を」

「……まあいいわ」

 そうノエル姫が頷いて隣の部屋に入っていった。

 そんな彼らを見送りつつ、秀人は正樹に視線を移した。

「それで、どうなんだそのレーダー」

「今確認中。ただその“賎しき者共”の巣の数を記録しているんだけれど、どんどん増えている気がするんだよな……」

「……故障したか」

「というか、秀人の魔法の影響では増えていないよ。この試作品を送ってくれた人のデータを見直していて、やっぱり増えている気がするよなって」

「測定している場所が違うんじゃないか?」

「そうだね。でも大体数は似ていてね……特に、魔道研究所周辺が多いんだよな……」

「それって、意図的にそこを狙ってきているって事か?」

「さあ。他の国でも、そういった研究所周辺に“賎しき者共”の巣が多いんだよね。ただ、それは僕達にはそういう風に見えているだけで、まったく別の理由があるのかもしれない。現状ではまだ、魔道研究所周辺に多いとしか言えないな」

 そこまで秀人と話して、正樹は紙に何やら文字を記入しておじさんに渡した。

 それを見ておじさんは、すぐに何やら書いて、考え始める。

 それをぼんやりと見ていた秀人だが、せっかくの暇な時間なので先ほど言われた魔法の使い方の説明を見ることにした。

 ズボンの端につけておいたキーホルダーもどきのうち、魔法を使うための箱に手を触れると、以前見たようなゲームのような攻撃魔法の選択肢が頭に浮かぶ。

 よく見ると、選択肢を数秒それに決めようかどうしようかと迷った、他よりも白く輝いた状態にしておくと、その下に魔法の説明について現れる。

 なので先ほど使った、火竜砲なる魔法を調べてみる事にした。

 以前と同じように選択して、発動させずにそのままにしておく。と、

『火竜砲:前方直線型攻撃魔法。有効射程範囲、術者の半径30m未満。術者の手を中心に、直系10cmほどの魔法陣が出現し、その中心の円と同じ幅の炎が一直線状に放出されて、相手を攻撃します』

 その説明を読みながら、秀人は先ほどの事を思いだす。

 自分の背丈ほどある魔法陣に、段々と広がるように真っ直ぐに放出される炎、そして遠くの山をも貫く射程。

 流石にこれは無い。

 どう考えてもパワーアップとかを超えていて、これはアレだ、チートという奴だ。

 俺、最強、世界を手中に収める事も出来るんだぜ! と、秀人は心の中で考えてみたが、何でそんなラスボスみたいな生き物にならないといけないんだと思い、興味が無いなと一蹴した。

 さて、そんな理由で流石にあれは嫌なので、他の魔法は無いかなと探していくと、あった。

『小さき炎は胸を焦がし、やがてその想いはかの想い人へと燃え上がり、向かっていく求めるしかない可哀想な恋という檻に囚われた虜囚達の叫び!“恋人達の炎”:この魔法は、マッチに火をつける程度の効果があります。さあ君も大きな声で技名を叫びましょう。ちなみに、技名を叫ばないと発動しないぞ☆』

 ちなみに、“恋人達の炎”にラバーズ・ファイアーなる振り仮名が振られている。

 その呪文というのは、どうやら、小さき炎は~ “恋人達の炎”までらしい。

 しばし無言で考えてから、何で威力が弱い魔法はこんなに恥ずかしい事になっているんだ? いや、たまたま作った人が遊び心で入れただけだと、秀人は何に対してか言い訳をする。

 というよりも、このおじさん達が考えたのだろうかと、この文章を考えている彼らを想像して……世の中には考えてはいけない世界があると秀人は理解した。

 なので次に行こうと、次の弱そうな呪文を探す。

『お前は一つ勘違いをしている。そう、自分が目の前の相手よりも強い、という事だ。そんなお前は、我が冷気の前に朽ち果てるしかないのだ!“氷結の結晶”:この魔法は、ジュースに入れる氷を一つ作り上げる魔法です。格好良く片目を手で隠して、片方の手を前にして叫ぶのだ! ちなみに、技名を叫ばないと発動しないぞ☆]

 今度の魔法は、フリーズ・クリスタルと読むらしい。

 何だこの罰ゲーム、と思いつつ、もしも戦いで、これをノエル姫の前でやる事になるのかと考えると……酷い、酷すぎる、そう涙ながらに秀人は思った。

 確かに戦闘だからと割り切って、使っていれば慣れるかもしれない。

 そして昔の自分であれば、おお、格好良いとなったかもしれない。

 だが今の自分は、男子高校生なのだ。

 いいか、小学生やら何やらではなく、高校生なのだ。

 そんな絶望的な思いにかられながらも、秀人は必死になって他のまともそうな呪文を探す。

 けれど、そのどれもが先ほどと同じようなものだった。

 だから全てを見終り秀人は絶望したような表情で、傍にいた異世界貿易会社ゴランノスポンサー開発部のおじさんに、

「あの、あの呪文を口に出して叫ばないといけないのですか?」

「? 呪文? 何の話だ?」

「いえ、ですから……」

「使いたいその魔法を選択して、発動させようとすれば終わりだぞ?」

「……技名は?」

「技名って、ああ、登録された名前か? アレは分類上付けられただけだから。そういった説明文はうちの若者がやっていたはずだが、何か変な事を書いてあったのか?」

「えっと……はい」

「仕方のないやつらだな……」

 そう嘆息するおじさんに、秀人は良かったと胸をなでおろす。

 これを叫ぶのは恥ずかしすぎるのだ。

 でも、どうしてこんな使えなさそうな呪文ばかり……と考えて、あまり使わないだろうから、こう遊び心を入れたのだろうと秀人は推測する。

 あまり驚かせないで欲しいと、秀人は嘆息した。

 そこで、ノエル姫が現れる。

 ノエル姫はにこにこ笑っているのとは対称的に、おじさん達は真っ青だった。

 そんなおじさん達がポツリと呟く。

「物理法則を操る人だった」

 意味が分らないが、そこでノエル姫は、

「ね、何処を撃っても的の中心に当るでしょう?」

「……良かった、ホーミング機能付けておいて。これで敵だけに当る……」

「……なんだ、弓の機能なのか」

 と、ちょっと残念そうなノエル姫。そんな彼女の言葉と、おじさん達の言葉の意味がよく分らずに秀人は、正樹に小さな声で聞く。

「物理法則を操る人だった、ってどういう意味だ?」

「……うちの世界でもいるだろ? 物理法則を操る人」

「そんな超能力者みたいな人間がいるのか」

 秀人が納得しかけたところで、正樹が違うと付け加えた。

「出来る事と出来ない事が分っていないんだ」

「……なるほど」

 どうやらノエル姫の弓の才は、壊滅的らしい。

 そんなノエル姫は、新しい弓という玩具を手に入れて、可愛くはしゃいでいる。

 けれど、ホーミング機能があるから大丈夫だろう、最前線に出さなければと秀人は考える。 

 そして秀人達は、次の日に出発する事から、その場を後にしたのだった。

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