これは、某大賞に応募した、本作の修正版です-2
「どうもー、異世界貿易会社ゴランノスポンサー、の田中正樹です。説明に参りました!」
現れた人影は、魔法使いっぽい格好をしていた。
何故魔法使いっぽいかと言えば、秀人は現実に魔法使いには会った事が無いし、これからも会う事は無いだろうという程度に科学文明に毒された健全な男子高校生だからだ。
なのでゲームや小説といった物語の中でしか、秀人は魔法使いとは面識が無いのである。
そして、その目の前の魔法使いっぽい格好をした男は、秀人のクラスメイトであり、おそらくはこの世界でこんな目にあっている原因とも言える人物、田中正樹だった。
そんな彼を見ながら、秀人は頭痛がしたように頭を押さえて、
「……早く目覚めるんだ俺。こんな悪夢のような展開は沢山だ」
「残念、これは夢じゃないんだなー、これが。でもまあ、僕達には夢みたいなものだけれどな」
「……一応聞いてやる。夢みたいってどういう事だ?」
「ああ、こちらの時間で100年が、僕達がいた現実では1秒なんだわ。だからうとうとっとしたその僅かな時間がこの世界の出来事なのさ!」
「……これは夢だ。夢……」
そう嘆く秀人の肩が、軽く叩かれた。
振り向くとノエル姫が居て、困ったような顔をしている。
「秀人もこの世界が夢だと思っているの?」
「いや……常識的な展開だと、そうだな……例えば王国が危機に瀕しているので、異世界から勇者を召喚しましたとか?」
「? 今の話だとそうでしょう? この国が危機に瀕していたから、あの異世界貿易会社ゴランノスポンサーに技術協力をお願いをして、貴方という勇者を藁人形を使って召喚したの」
「あれ? 魔道研究所から藁人形が飛ばされたような話では?」
「最終的な部分での魔力の注入は、うちの魔道研究所でやらせてもらったの」
「……普通、その魔道研究所……魔法使いの研究所とか、そういうのが勇者を召喚しないのか?」
「……それだけの技術がうちの国には無いのよ。だからぼったくりの、異世界貿易会社ゴランノスポンサーに力を借りざる終えないわけ」
そう、ずけずけと言うノエル姫。
結構きついお姫様だが、装ったりせずはっきり言う頼もしいタイプの女性らしい。
こういうタイプの女の子も結構好みだよなと、秀人の中で好感が少し上がる。と、
「随分な言い草ですね。こっちだってアフターサービスやら何やら入れると、そんなに儲けがないのに……。それに今まで何人も魔力が足りなくて勇者召喚に失敗しているし、成功したのも気に入ってもらえないし」
成功したのにそちらの都合で文句を言われてこっちだって大変なんですという風に、チラッと正樹がノエル姫を見ると、ノエル姫が嘆息して、
「だったらこれは、げーむだー、って勝手に行って自滅するような奴をどうして選んだのよ。しかも近隣の村で、女の子に手をだそうとした馬鹿が居て、苦情が来ているじゃない!」
「うちの世界は異世界だからモテモテになれるかも、って人が結構多いのでしょう。……きっとこの世界をよく知らないから、夢があるんですよ。ほら、知らない事はよく分らないから、夢とか希望があるように見えるでしょう?」
「こっちは遊びじゃないんだから! もうちょっとまともなのを呼びなさいよ!」
そこで少し苛立ったような口調になるノエル姫に、田中正樹はにやっと笑い、
「今回はどうですか?」
「……まあ、良いんじゃないかしら」
ちらちらと、ノエル姫は秀人を見る。
その表情は何処か気になる異性を、目を合わせるのが恥ずかしいけれど見たいかな? といったように見えて、やっぱりこれは恋愛フラグなのかと秀人は真剣に考えようとした。そこで、田中正樹が秀人の方を向いて、
「えっと、秀人には、何から説明をしようか」
「……まずは夢で無いと仮定して、初めから」
「分った。まず、ここに来る前の昼休みに、あの変な契約書を渡しただろう?」
「ああ、ノート線が引いてある紙に、鉛筆書きで『異世界で勇者になりたいと思いませんか? 明るく楽しい、そんな職業です。アットホームなこの会社ならではの数々のサポートも受けられて、とっても安全。さあ、この名前欄に自分の名前を書いて、契約成立ぅ!』と、魔法少女っぽいキャラが書かれたいかにもな紙か」
「あの魔法少女キャラ、アールちゃんていうんだ。現在、マスコットキャラとして数々のグッズ販売に力を入れ……怖い顔で見られているので、続けますが、それは本物の契約書です。名前を書いた時点で契約が成立して、異世界に召喚となります」
「……流石にこれは無いだろう、これは」
「んー、でも、法的な効力は無くても、魔法的な効力はあるわけだ。とまあそんなわけで、秀人には勇者をやってもらいたいんだ」
「……危険じゃないのか?」
そもそも勇者となると何かと戦うわけで、大怪我をしたりするわけである。
加えるなら、秀人はごく普通の一般高校生である。
そんな秀人の心の内を表情から読み取ったのだろう、正樹が、
「この世界の僕達は、藁人形だって前に話しただろう?」
「藁人形の割りに、随分肉体っぽい感覚があるし、手だってこう関節が動くじゃないか」
手をふらふらと揺らし腕を曲げて見て、どう考えても藁人形じゃないよなと秀人は確認する。
そんな秀人に、正樹は、
「この世界の、僕達の元となる藁人形は、大体十センチくらいの大きさなんだ。それを、魔力で覆って体を作って、意識をこちらに飛ばしているんだ」
「魔力? この世界の? そうなると、少なくとも触れれば簡単に倒せる程度の魔力というか強度は俺の体にはあるって事か……」
ただ、藁人形に与えられた魔力、という観点から考えれば、
「でも、俺という藁人形にそんな魔力を与えられるなら、それだけの魔力を持った奴がこの世界にいるって事だろう? なら、十分この世界の住人で問題ないんじゃないのか?」
わざわざ、秀人を召喚する理由が分らない。
魔力という観点では、その魔法使いか何かよりも魔力が低いモノしか作る事が出来ないだろうから、そう躍起になって呼ぶ理由が分らない。
自分達が怪我をしたくないという理由で戦闘ロボットが欲しいのであれば、勇者である必要は無い。そもそも人型で感情がある必要も無い。となると、
「それとも他に何か特別な理由があるのか?」
例えば勇者だけしか使えない剣とか防具とか、伝説のほにゃららとか……高校生の今でも、その単語はわくわくするし、そんな物語の主人公になってみたい気がする。
けれど、田中正樹は首を左右に振り、
「いや、その秀人が持っている魔力はもともと僕達の世界の住人が持っているものだ。召喚の際に、一気にその藁人形に注入されるんだ。ちなみにその魔力は、良く分っていないけれど僕達の世界では使えない力なんだ」
「……まさかその魔力を使い切ると、元の世界に戻れないとか……」
そんな恐ろしい予想が頭をよぎって秀人は問いかけるも、それに正樹はおかしそうに笑った。
「まさかー、漫画か何かの読みすぎだよ。魔力が無くなればこの世界の体も消失するから、自動的に元の世界に逆戻りだ」
「いま、お前が言うなと叫びたかったんだが……。それで、今の俺達の状態を簡単に説明するとどうなるんだ?」
「そうだね……今のこの状態は、異世界に転生して新しい人生を送っているようなものだけれど、意識はあるから異世界に旅行して居る、そんなどちらとも言える状態さ」
一応もっともらしい話を聞いている気がする。そしてそうなると秀人を選んだ理由は、
「で、その魔力があるから俺を選んだと?」
「そうそう。というより、この世界で言う魔力の検査は、あっちでもやれるにはやれるんだけれどさ、随分と失敗しちゃってこれ以上は赤字になるって事から、片っ端から送り込んで、この世界に存在できる奴らなら良いか、ってなった」
「ようするに、片っ端から送り込んで、ここに存在できるだけの魔力がある奴は残ると」
「うん。そうそう」
「性格とか考えないとまずいんじゃないのか?」
「基本的に人格なんてあやふやなものは、選んで呼ぶなんて出来ないからね。だから魔力が強いからという理由の召喚が多いんだ」
「つまり?」
「単純で数値化できる、例えば魔力が強いといった一つだけのパラメータという単純さ。かつ、魔力が強いって事で対象が少ないから、召喚対象を設定しやすいともいえる。それらの理由から……簡単に言うと、誤認識してぶれる要因が少ないので、償還に成功しやすいんだ。分ったか?」
大体の話と理由は分ったので、秀人は頷いた。納得できるかどうかは別として。
そして、後は何を話していなかったかなと、正樹は腕を組んでそこでああと頷いた。
「あと、この世界の話……勇者と、うちの会社の関係についてだな」
そう聞いて、説明って眠くなるよなと、ぼんやりと秀人は思っていると、正樹は地図を取り出した。
「これが、この世界地図なんだ」
そう言って差し出した黄ばんだ紙には、世界地図のような大陸やらデフォルメ感満載の山や湖や川と、巨大な海蛇やら何やらが描かれていた。
趣としては、古代の神話やら何やらを放り込んだような地図。
正直、何これ、と、科学文明に毒された秀人は思った。と、
「この世界について分ってくれた?」
「……日本を太らせたような世界だな。メタボは体に良くないぞ?」
「ははは、そうだね。それで、僕達が居るのはこのあたり。この、ヨークト王国だね」
そこには金色の模様があり、おそらくこれがこの世界の文字だろうと思うのだが……何故か読む事も、意味も分ってしまった。
「……見た事がないただの柄のように思えるのに、何で俺は読めるんだ?」
「凄いでしょ! わが社の開発した、自動翻訳魔法! ……ただ時々変な風に誤訳するから、それは気をつけないといけないんだけれど……こうやって今この世界の人達と話せるのも、全部その自動翻訳魔法のお陰なんだ!」
ご都合主義的な展開……と言ってしまうのも簡単なのだが、こうやって話したり出来る時点で、どういう原理かは分らないが凄いとは思う。
思うのだが、やっぱり夢なんじゃないかなと秀人は思えてしまう。
そんなに便利なものが、簡単に出てくるものだろうか。
以前聞いた話だが、世の中を動かしているのは、ここまでしか出来ない物の積み重ねによるという。便利になった今の世の中、奇妙なほどに科学による万能感が支配するが、それだけ複雑でより多くの人間自身が理解できない分、科学と人間の関わりが薄くなる。
そんな科学と人間の乖離が、万能感という夢を見せるのだ。だから、
「この翻訳機能の問題点は何かあるのか?」
「……誤変換かな?」
「……どの程度致命的なんだ?」
「……相手を口説く時、往復ビンタを食らう感じ?」
「問題ないな。今の所恋愛フラグは……即急に改善してくれ」
ちらっとノエル姫を見てこっそりと正樹に秀人はお願いする。そんな秀人を見て正樹は、
「あー、秀人も一応サンプルでさ。それで問題があるなら修正していく形かな」
「……仕方がないな」
そう嘆息してノエル姫を秀人が見ると、目が合った瞬間にっこりと微笑んだ。
可愛い、凄く可愛い。
うおおおおお、とちょっとだけ心の中で思いながら秀人は、必死で別の話題に思考を逸らそうとして、そういえば地図の話をしていたのだったと思い出した。
「それで、話を地図に戻すが……他にも幾つか国はあるな」
「うん。でも今は異変の影響で、行き来するのが難しくて……やっぱりある程度安定した国でないと色々問題が多くて。それで、秀人が勇者として召喚されたわけだ」
「その異変が、あのトカゲもどき、か?」
「トカゲ? んー、多分そうなんじゃないかな。実の所、“賎しき者共”の種類はまだ良く分っていないんだ。発生原因もね。世間では、魔王が復活しただの何だのって言っていたけれど、魔王の方も、そんなものは知らない! という状態で」
それを聞いていて秀人は変な顔をした。
「……居るのか? 魔王」
「いるよ。もともと、この世界は大まかに二つに分かれていたと見せかけて、色々裏で繋がっていたけれど、その二つ、つまり、人間と魔族に分かれて敵対関係にはあった。ただ彼らは魔法力も強くて魔法技術もあるからね。とはいえ、色々彼らも問題を抱えていて……けれど、彼らなら自力で異世界の人間を召喚出来るんじゃないかな」
「……召喚で思い出したんだが、そういえば、何であんな良く分らない草原みたいな場所に呼び出されたんだ? 呼び出される場所は指定が出来ないのか?」
「いや、この国の魔道研究所があの“賎しき者共”に襲われてね。召喚に必要な藁人形を何とか壊されないようにしようとして、出来た分だけ緊急避難という打ち上げをしたんだ。それで、たまたまその時の風向きが複雑で、四方八方に散らばってしまって……その内の一つが、秀人になったわけさ」
なるほどと、秀人は思う。召喚と言うと普通、魔方陣みたいなものがあってその中に呼ばれるイメージがある。あるのだが……。
「藁人形さえ出来れば召喚ができるのか?」
「うん、藁人形に複数の魔法の工程を経て召喚という下りになるのだけれど、あの時はそれが終わって後は召喚されるのを待つだけの状態で、あの“賎しき者共”に襲われてね。それで打ち上げたんだ」
「ということは、気がついたら水とか海の底とか、森の中の可能性だってあったんじゃないか!」
「良かったな。あんな場所で。ここにも近いし」
「良くないだろう!! それで他にも俺みたいな奴らが居るかもしれないんじゃないか。そいつらどうするんだよ!」
「だから、この体は魔力で作られたものなんだって。この世界で死ぬというか、魔力が尽きる状態になればば自動的にもとの世界に戻るから。戻れば悪夢を見たで終わりだし」
「それは……安心、か?」
「そうそう。特に、秀人は今までに見た事がないくらいこの世界で使える魔力を持っているから、性格的にも勇者として最適だろう」
「何で俺の魔力量を知っているんだ?」
「事前に状況を、ほら、ノエル姫のお付のメイド、メアに聞いていたんだ。それで、身体の強化も魔力量に影響を受けるから、今迄で一番かもって事に」
それで少し登場が遅くなったのだろうと、秀人は思いながら、更に聞きたい事としては、
「勇者って……異変を探るのか?」
「まずはそれだね。というかあまりそういった異変があると、僕達の会社も営利企業だから撤退するしかないんだ。でも……」
そこで、ノエル姫が割って入ってきた。
「こいつらの会社が欲しい、この世界でしか取れない希少な石が二種類あるのよ」
「どんなですか?」
「赤い石と青い石でね。片方は、合成するのにかかる費用よりも、ここでその石を手に入れた方が得なのだそうよ。そして、もう一つはまだ合成出来ないので、原石から採取するより他は無いんだって」
「……それは気の毒に」
それを狙って、この変な貿易会社が来たのかと秀人は気の毒に思ってしまうも、ノエル姫は首を振り、
「いえ、違うは秀人。それがあったお陰で、こういった形で私達は異世界貿易会社ゴランノスポンサーに協力を仰ぐことが出来た。とても幸運だったわ。それに、それらは私達にとって綺麗でも何でもないただの石だから」
価値の無い石が、彼女達を救うきっかけになったらしい。
世の中どう転ぶか分らないものだが、こんな風に感情だけに流されない、芯の通ったノエル姫を見ていると、その前向きさが秀人には眩しく見えて、
「なるほど。そういった事情もあるのか……じゃあ、俺も少し頑張って見ようかな。ノエル姫のために」
そう秀人に言われてノエル姫は顔を朱に染めた。
「な! 何言っているのよ……」
「変な事、俺は言ったか? なんだか頑張っているノエル姫様が凄く輝いて見えたから、俺も頑張ろうかなって」
「そ、そうなの……わ、分っているんだから。で、でも……ありがとう」
そんな恥ずかしそうに微笑むノエル姫。勘違いして慌てたノエル姫も可愛いが、こう素直なノエル姫も可愛い。今までに傍に居なかったタイプの女の子だなと秀人は思った。
そんな秀人に、正樹が、
「それじゃあ、大体説明はこれでいいかな? 良いよね?」
「……何で説明をそこで終わらそうとしているんだ?」
「いやいや、そんな事はありませんよ」
そう目を泳がせる正樹。怪しいと秀人が思っていると、ノエル姫が現れて、
「こいつ、前に『説明は、自分の責任を回避するためにするものだ』って言っていたわよ?」
「ノエル姫、何でそんな事を秀人に言うんですか! 僕の信頼と実績が!」
と言い出した正樹に秀人は半眼で、
「そんなものは無い。ここに連れてこられた時点で」
「酷い! ……いや、多分大まかな説明はしたんだけれど、後は細かい事項だからその都度にするしかないんだ」
「へー、まあいい。それで次はどうする?」
「次はまず武器とかかな」
それうを聞いて秀人は眉を寄せる。
「素手であいつ等倒せたぞ? 柔らかかったし」
「秀人が会ったその“賎しき者共”はそうだったかもしれないけれど、もっと体の固い、そうじゃない奴らだっているかもしれないだろう? そもそもそんな体術に慣れている訳じゃないんだから、そういった体の固い相手の攻撃を受けたらどうなる?」
ぐちゃっとつぶれたホラー映画の一般人が頭に浮かび、秀人は顔を蒼白にしながら、
「……想像するのが怖い」
「だろう? だからその危険を回避するには武器は必要だ。腕が壊れるのと武器が壊れるのは、全然違うだろう?」
「なるほど……まともな事を言っているような気がする」
「と、いうわけで次は武器を探しに行きましょう」
と、王様に武器庫で最近の武器を下さいと言っている正樹。木刀とかそんなものでないので、安心といえるかもしれないと秀人はぼんやり思った。
とはいえ、自分の心に秀人は嘘をつけない。 なので戻ってきた正樹に秀人は、
「……伝説の武器とかそういったものは無いのか?」
「古い武器は劣化するからね。伝説の何チャラは維持するだけで精一杯だし、技術の進歩もあるから新しい物の方が良いよ。ここ二年くらいのものが良いんじゃないかな」
「ロマンも何も無いな」
「魔法があるだけ夢と希望があるかもよ」
そう、正樹は肩をすくめたのだった。
「じゃあ私が武器庫に案内するわ」
そう言い出したノエル姫に彼女の父親は真っ青になって、
「……ノエル、ノエルは私の大切な娘なのだ。悪さをしないでくれ、頼むから」
「別に武器庫の案内するだけなのに、何故お父様はそんなに不安そうなのですか?」
「……今まで何回入り込んで、あそこから武器を持っていった」
「……そのような事もありましたが、過去です。今日はただご案内するだけです」
「……そうすれば、堂々と武器が見る事ができるからな。……はあ。駄目だと言って、こっそり忍び込まれて武器を持っていかれるよりは今行かせてしまった方がましか」
そう嘆息する王様だが、許可の出たノエル姫は嬉しそうだった。そして、
「じゃあ私が案内するわね! 何処にどんな武器や防具があるのかは私は全部把握しているから、頼りにしてね!」
「……はい、ありがとうございます」
そう秀人は答えながら、このお姫様、活発だなー、と思っていたのだった。
城の一角にある、白くて青い屋根の建物が、武器庫らしい。
しかも地下十階まであるとか。
その代わり見た目はごく普通の二階建ての、ちょっと大きめな体育館といった風情である。
やっぱり地下深くの方が、外に出すのは危険な武器……みたいなものがあるのではないかと秀人は思っていると、
「地下三階までしか使っていないの。取りに行くのも点検するのも手入れするのにも面倒だから。それで、どんな武器が良い? やっぱり剣とか?」
「そうだな……槍がいいな」
「槍? 槍が良いの?」
「だって敵にあまり近づかなくても良いじゃないか。離れた場所で相手を倒せるなら、その分僅かな時間でも判断するのに回せるだろう?」
「なるほど。でも嵩張るわよ?」
「背に腹は変えられないさ。安全第一主義なんだ」
そう答えるも、ノエル姫はやっぱり剣の方がいいと思うんだけれどな、とか、秀人にお似合いの剣がとか、どうせ勇者なんだし、やっぱり剣じゃないととか、色々言っていたがやっぱり槍だよなと秀人はマイペースに選んでいた。
ちなみにそんな秀人にノエル姫が途中頬を膨らませて怒っていた。
美人はどんな顔をしても可愛いな、と、ほのぼのしながら秀人は歩いていて、そこで一向に正樹が話に入ってこない事に気づいた。
くるりと後ろを見ると、少し離れて歩いているその姿を見つける。
「おーい、正樹、俺、槍にしようと思うんだが」
「あ、うん。僕はそれでいいと思います。槍は地下じゃないし」
「……地下?」
「あ、いや、地下には剣が一杯あって……そうだ、槍を使って回り込まれた時用に、短剣を用意しませんか」
「そうだな。それもいいな」
「でしょう! 短剣はこの階にありましたし、じゃあ……」
そんな何処かほっとした正樹に、秀人はにっこり笑ってノエル姫を見ると、彼女も微笑んでいた。秀人の意図が分ったらしい。けれど一応、秀人は声を出して、
「ノエル姫、ちょっと地下に見に行って見ましょうか」
「そうですね。私もそういう気分だし。あと、私には敬語を使わなくて良いわ、秀人」
「やめてぇぇぇぇ」
そんな叫ぶ正樹を尻目に、秀人達は地下へと向かったのだった。
「そういえば最近、地下から呻き声や話し声が聞こえるというお化けの噂があったわね」
「……それと正樹がどう関係しているんだろうな」
服を引っ張られながら、正樹は地下は駄目ー、とか叫んでいるが、やがて地下八階に差し掛かった所で声が聞こえた。
「だーかーら、ここをこうしないと。で、こうしてー」
「しかしこうしたほうがこうでこう……」
「いやだが……おや、正樹さんに、皆さん……って、ノエル姫!! 早く迷彩モードに……」
三人の男が焦ったようにじたばたしていた。けれどそこで、パタンと動きを止めて、
「今更隠しても仕方がないな。我々三人は、異世界貿易会社ゴランノスポンサーの社員でして、ここでちょっと強めの剣とかを作っていたのです」
「何故こんな所に」
「君は誰かね? ……もしや君が秀人君か?」
「ご存知なのですか?」
「さっき連絡が来たからね。ようやくまともな異世界人召喚ができたって」
「ですが、まったく関係のなさそうな俺にやらせなくてもいいのでは?」
「いや、今までで一番の成功例なんだ。君みたいにこちらで使える魔力は我々はそんなに多く無くてね……」
「百歩譲ったとして、俺は魔法の使い方も分らないんですよ?」
そこでしばし三人が顔を見合わせて、ぽんと手を打った。
「じゃああの試作品が使えるんじゃないのか? 自動魔法装置“ネコネコ12.5号”」
「魔力を加えるだけで、発動するからな。魔力の加え方は、箱に手を触れて、魔力入れと念じるだけで良い。便利だぞー。あと、試作品の剣、短剣と槍も持っていけ」
「これ、キーホルダーになっていて、普段は飾りだから邪魔にならない。ズボンのあたりにでもつけておけ」
そう言って、変なキーホルダーを渡された。
秀人はそれを見ながらどうしようかと思うが、三人は人の良い笑みを浮かべながら、
「「「自信作だからな。頑張れよー」」」
見かけは普通っぽい魔法のかかった剣やら槍やらのレプリカにしか見えない武器を見ながら秀人は悩む。
「いいのか? これ」
その問いかけに嘆息しながら正樹が答える。
「彼らが良いといっているからいいでしょう。それとばれてしまいましたが、そこで目を輝かせているノエル姫。丁度良い廃墟が無かったのでこっそりここをお借りしていました」
「それはかまわないわ。だから私にも何か頂戴!」
そんな事どうでもいいから何かくれと言い出すノエル姫。けれど、
「んー、お姫様に簡単に使える武器は何かあったか?」
「銃とかどうだ? 離れた場所でも、力が無くてもバンバン撃てるし。引き金引くだけで簡単だし」
「だが玉が百発しかないぞ?」
「それで良いです! それ下さい!」
一生懸命なノエル姫。それにしょうがないなといったように、彼らはノエル姫に銃を渡す。
やけに嬉しそうなノエル姫を見て、秀人がふと不安にかられて、
「あの銃はどういったものなのですか?」
「あれは、適当に引き金を引けば、ランダムに炎の塊やら雷やらの魔法が飛び出すんだ」
「ランダム、ですか?」
「試作品で、こんど、ランダムに使ったらどうかというのを試そうとしている最中だったんだ。もっとも調べた結果、暴発やらなにやらは起こらなかったから大丈夫だろう」
「……そうなのですか」
「引き金を引けば勝手に発射される、いわば水鉄砲のようなものだから、女の子でも簡単に使えるし、後ろの方から援護が出来るだろう」
「あの、ノエル姫は、俺と一緒に旅を出るのですか?」
そんなささやかな秀人の疑問に、全員が沈黙した。
そして、逃げ出そうとしているノエル姫に目を向ける。
「危険だから止めた方が……」
「私が貰ったんだもん。渡さないわああああ」
そう、俊敏な速さで階段を上っていってしまった。
それを見上げながら、そこにいた彼らがにこやかに秀人の肩を叩く。
「あのお姫様の事だから、絶対についてくるから頑張れ」
そう言われた秀人は、武器の管理ってこれで良いのかなと思いはしたが、それはあくまで秀人のいた世界の一地域の倫理観なのだと思って、秀人は考えるのをやめたのだった。
そして、貰った武器が予想以上に凄い事に秀人が気づくのは、もう少し後だった。




