これは、某大賞に応募した、本作の修正版です-1
これは、某大賞に応募した、本作の修正版です。落ちたので悲しくなったので暫く放置していましたが、差し替えの代わりに、追加で乗せる事にしました。理由は携帯で読みやすいように弄る気力が、暑すぎてないからです。というか暑過ぎだよ今年の夏……。
本作は異世界トリップものがはやっているらしいから、という理由で作った作品です。ありがちな内容のテンプレっぽいものを作ろうと思ったのですが、以前主人公が何もせずにもてるとか、鈍感がと叩かれていたり、リアリティが(現実的に考えて)と、よく叩かれているのを目にしまして、10年以上前に試しにそういったリアリティが(現実的に考えて)を追求して趣味で書いていた時に失敗した経験を生かして、今回再チャレンジしてみました。
そして主人公のキャラは、高校生ぽさを意識して書いております。
楽しんでいただければ幸いです。
桐山秀人(16)は悩んでいた。
ごく普通の高校生活を歩んでいた秀人だったが、友人の田中正樹が渡してきた変な走り書きに自分の名前を書いた事が、そもそもの間違いの始まりだったのだ。
「……空には、ドラゴンぽい物もさっき飛んで行ったし、周りは草とか木とかだし……夢か」
現実逃避をしながら、桐山秀人はしばし悩んで、頬を引っ張る。
むちゃくちゃ痛い。
だがしかし、夢の中で痛いと思う事も有り得るのではないだろうか。
はっきり言って元気良く、よっしゃー、異世界に来たんだぜ、やりたいようにやるんだぜ!という気持ちが全然湧いてこない。
むしろ怖くて体が震えている。
それを考えると物語のヒーローは、よほどの精神力の持ち主なのだろう。
「でもいつまでも、ここにいるわけにはいかないよな。まずは人の居る場所を探して……もしくは水を得られる場所を探さないと」
この世界が本当に夢かどうかは分らないし、自分の元いた世界と同じ決まりというか、法則で動いているかは分らない。
それでも、もしもの事を考えるなら動く方が賢明かもしれない。
何しろ日本の山やら何やらで遭難すれば、ヘリで捜索等がなされるかもしれないが、ここはそんなものがあるかどうか分らない世界である。
そもそも、正体不明の場所に秀人が行った事すら皆が知らないだろうから捜索も成されないかもしれない。となると、自力で人がいる場所、もしくは人の行き来がありそうな場所に行く必要があるだろう。
そう思いながら、秀人はそのまま真っ直ぐ歩いていくと……道に出た。
アスファルトで包装されていない土が剥き出しの道だった。
そこそこ人の行き来があるのだろうか、雑草があまり生えておらず、車輪の跡が見て取れる。
間違ってもタイヤの跡など無い。
さて、次はどちらに行こうかと秀人は悩み、傍にあった木の棒を立てて、どちらに倒れるかを決める。
パタンと倒れて山の上の方をさしたので、秀人は反対の方向に歩き出した。
単に山を登るのが嫌だったというだけでなく、わざわざ好き好んで山の上なんかに、皆住みたくないのだろう……と色々考えたからである。
決して面倒だったわけではない。
そんなわけで、秀人は道を下っていた。
代わり映えのしない風景どころか、どんどん森が深くなっているような気がする。
悲鳴が聞こえたのは、諦めて登るかと秀人が考え始めたそんな時だった。
「きゃー!」
「悲鳴を上げている暇があったら、持っている棒で叩きなさい! メア!」
「だ、だって、姫様……」
「もう、貸して! 馬車の御者のおじさんも隠れていて! 邪魔だから!!」
快活な少女の声がして、それと同時に幾つかの、何かが倒れる音がする。
巻き込まれる危険もあって、秀人はこっそりと様子を見ながら道の端を歩き、木の陰に隠れるように歩いて行く。
その先で見たのは、豪奢な馬車と、その馬車に群がる二足歩行のトカゲのような生き物だった。
それが数十匹も群がっており、それに向かってドレスを着た少女が突進していく。
棒を振り回し、2、3匹同時に倒すだけでなく、同時に火の玉のようなものを呼び出して燃やしていく。
アニメの魔法少女か何かを彷彿とさせるその姿に、秀人は魅入られる。
「本当に異世界なのかも……あっちが終わったら、話を聞こう。言語は何故か理解できるから」
そう秀人が一人呟く。
だがそこで、くるりとトカゲのようなものが秀人の方を向いた。
大きな目玉をぎょろぎょろさせて、何かを探しているようだったが、秀人のいる辺りを真っ直ぐ見据えたかと思うと一気にそちらへと向かって駆けて来る。
「ええ! ま!」
そのままそのトカゲのようなものは、大きくワニのような口を開いた。
中には白く尖った歯がぎらぎらと輝いている。
ここでいきなりわけもわからず死ぬのかと秀人は思った。
けれど防御するように腕をかざし、目を瞑り、とっさに蹴りを入れる。
ずりゅ
キシャアアアアアアア
豆腐のような柔らかい感触を足と手に覚えて、秀人はおそるおそる目を開けると、そのトカゲのような生物は引き裂かれたような肉片になっていた。
……。
異世界決定。感触やら何やらが現実的過ぎる。
そして自分は特に頑丈な体を持っているらしい。ならば……。
「女の子を助けて、ていうのも主人公っぽくて良いよな……」
心の余裕を得た秀人は、そう、にいっと笑ったのだった。
突然現れた黒髪黒目のその人は、恐ろしいほどに強かったと、ノエル姫は思った。
美形ではないが清潔感のある男性で、現れた“賎しき者共”を、素手でいとも簡単に倒していくのである。
年齢は同じくらいだと思うのだが……その姿がノエルの瞳には酷く輝いて見えた。
そして、全てを倒してから振り返って、その人は言った。
「あの、大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとうございます。あの、貴方は?」
「桐山秀人と申します」
その名前に聞き覚えがあり、ノエルは少し黙ってから表情を消して、
「はじめまして、勇者、桐山秀人様。藁人形の勇者様」
そう、人形のような表情で、ノエルは事務的に告げたのだった。
助けた女の子は、ノエルというお姫様らしい。
そのお姫様は、助けた時は輝くばかりの笑顔だったのだが、秀人が名前を名乗った途端無表情になった。
なまじ美少女な分、表情を消したその姿は陶器の人形のようだった。
さらさらの銀髪に、新緑のような緑色の瞳。花柄のレースのついたドレスを着て、瞳と同じ色のアクセサリーをつけているお姫様。
普通、物語だと、助けたお姫様に惚れられるイベントがあったよな……と、秀人は思う。
それとも彼女はツンデレなのだろうか。
これからデレてくれるのだろうか。
それ以前に、助けたというのにこの態度だ。
名前を出した途端に対応が変わった事から、そこに何かヒントがあるはずだ。そういえば、
「藁人形の勇者様って、どういう意味だ? というかここは何処だ?」
「……そのうち分るわ。城に着けば、ね」
そうノエル姫に冷たく返される。
こちらの質問に彼女は答える気がまったく無いらしい。
こういう澄ました感じは嫌いなんだよなと、秀人は心の中で舌打ちした。
そこで、三つ網にした黒髪にピンク色の瞳をしたメイド少女が、秀人の顔を覗き込む。
「あ、あの、秀人様。勇者様、でしたね……先ほどはありがとうございました」
「いえ、当然の事をしたまでです」
「低級とはいえ、あれだけの“賎しき者共”を……しかも、音や匂いに敏感なので何処に隠れていても気付いて襲ってくるタイプでしたので助かりました」
その言葉に、そういえば隠れて様子を伺っていた時に、独り言を言っていたのを秀人は思い出した。
あの程度の音でもあの化け物には聞こえてしまうらしい。
それを考えると、結果的にどうあれ、あの化け物達と秀人は戦う羽目になったのは確かだろう。
「いえ、襲われているのを助けるのは、人として当然の事です」
と、秀人は隠れて様子見をしていた事はわざと伏せて、いかにも善良そうな答えを述べてみた。
メイド少女がきらきらとした眼で秀人を見る。
女の子に、凄い、素敵! といった目で見られるのは悪くないなと、秀人はささやかな幸せに浸っていると、何かに感づいたノエル姫が、
「……隠れて様子見をしていたくせによく言う」
「お姫様、根拠が無いだろう」
図星を指されて、秀人は焦りながらもノエル姫に答えると彼女は眉を寄せて、
「……貴方は魔法を使える?」
「魔法? そんなもの存在するのか? いや……ここは異世界だから……」
どうしてそんな事を聞かれているのだろうと思いながら、秀人は答える。
すると、ノエル姫は更に少し怒ったように、
「……体は、丈夫な方? 例えば石を割ったりとか、貴方は出来る?」
「流石にそれは出来ないだろう、人間だし」
何処のヒーローだと、秀人は笑い出したくなる。
けれど彼女の機嫌が更に悪くなる。
「武術とかそういったものは?」
「武術? 授業で柔道を少しかじったくらいかな……」
「それなのに、状況が分らないまま突っ込んできたと? 私達を助けるために」
「……そういう事になるな」
「本当の話?」
「冗談に聞こえるか」
「ええ。それにもしそんな奴だったら、私、許せないわ」
助けるために出て来たのに、その言い草は何だと秀人は思いながら、苛立ちでこわばった顔で、
「何が許せないだ。襲われていたくせに」
「だからって貴方が犠牲になる必要は無いでしょう! そうなる可能性だってあったわけじゃない!」
「……は?」
間抜けな声が秀人から出た。
けれど、ノエル姫は自分の言っている事の意味が、とてもとても秀人を心配している内容だと気づいて、顔を赤面させた。
そのままノエル姫は必死で言い訳して、
「……いえ、なんでもないわ。別に、ちょっと貴方が私のせいで怪我したら許せないと思ったとか、そんなわけじゃなくて……もう嫌。お姫様っぽく装うの面倒くさい!」
「ひ、姫様。一応勇者様相手ですし、もう少し我慢して装った方が……」
「でも男はお姫様が大好きなのは分るけれど、その理想とするお姫様って、ああいう風に澄ましているお姫様でしょ! 私、そんな柄じゃないし、どうしよう……」
そう嘆くノエルに、メアが必死になって応援している。
だが、装うとか装わないとか……どうやら装うべき相手の秀人の前で言われても、どうなのかと思う。
そしてどうも澄ましている姫が男は好きだと、勘違いしているらしい。
何処の情報かは知らないが、明らかに間違っている。少なくとも秀人は、
「活発なお姫様が好きな男もいますよ? 少なくとも俺は、元気なお姫様の方が好きです」
「本当!」
「ええ、本当ですとも」
ノエル姫が目をきらきらさせて微笑んだ。
「秀人、ありがとう」
「いえ……先ほどから様子がおかしかったのはそのせいですか?」
「それと、後は礼儀かな。あまり表情を公式の場で出すのは良くないから」
「……大変ですね、お姫様も。けれど、心配して頂けたんですね」
「な、何の事かしら」
「無力だから、危険かもって」
「……ええ、今まで何人もの勇者が、そういった自分の特性を知らないが故に、“賎しき者共”に倒されいるから。げーむ? だ、とか、夢の世界だと言って」
秀人は何となく同じ世界からの住人の気がした。
けれど、ノエル姫のあの言葉はそういった事を知っているから出た言葉で、秀人の身を案じてくれたのだ……。
だから秀人も嘘をつくのはやめようと決めた。
「実は怖かったので隠れて様子を見ていたのですが襲われて……けれど簡単に倒せるから、お手伝いしようかと。格好が悪くてすみません」
「そんな事は無いわ! 格好良かったもん。でも、それならいいかな……。ごめんなさい、もしそうなら注意をしておきたかったから、引っ掛けるために貴方に『隠れて様子を見ていたんでしょう』と言ってしまって。不快な思いをさせてしまった」
「いえ、俺の方も、嘘をついていたのは事実ですから」
そう笑う秀人のに、少しだけ頬を赤くしたノエル姫は、
「……だけど、よく助けにこようって思ったわね。初めてああいうものに遭遇して助かったからといって、すぐに動けるなんて」
「弱かったので」
「……低級とはいえそこそこ強かったはずなんだけれど……」
うーんと悩み始めるノエル姫。
その言葉に、逆にこの理性的な姫様がそういう状況になった事に秀人は気になった。
だから、好奇心もあって試しに聞いてみる。
「ですが、お姫様だけであの集団がきついのでは? 護衛の方はいらっしゃらないのですか?」
「いつも、ああいった群れには遭遇しないの。それにあの種はそんなに群れを成さない種だし……色々異変が起こっているの」
「……それで俺が呼ばれたと?」
「それも含めてお城でするわ。同じ話を何度も聞くなんて、眠くなるでしょう?」
「そうですね」
ペロッと可愛く舌を出した悪戯っぽいノエル姫様に、秀人は小さく笑って頷いたのだった。
お城に着きました。
そして現在、秀人は城の中を歩いていたわけだが。
「ゲームに出てきそうなお城、そのものだよな。装飾品とかも。赤い絨毯の敷いてあるし……」
「どれもとても高価なもの……という事になっているわ」
「なっている?」
「……私が通る場所は全部強化された偽物なのよ? 察して」
そう笑うノエル姫だが、今の話からもかなり活動的なお姫様に思える。
秀人は、好みのお姫様だな……と思っていた。
一応、秀人は健全な男子高校生なので、尽くしてくれる女性もハーレムも魅力的だ。
但し、現実で考えるならば、そんな従うだけの存在はつまらないように思う。
とはいえお姫様が現実的に考えて、異世界のぽっと出の自分みたいな人間を相手に出来るのかと考えると、やはり高嶺の花だなと思った。そこで、
「どうしたの? 私の顔を見て」
「いや、さっきのお付の子は来ないんだなって」
「メアの事? あの子なら、貴方が泊まる客室の用意に行っているわ」
「そうなのですか」
「何? 貴方もメアの事が気になるの?」
そう何処か拗ねたように口を尖らすノエル姫に、秀人は首をかしげる。
「いや、居なかったから聞いただけですが……彼女、人気があるのですか?」
「そうよ。可愛くて女の子っぽくて、少しおどおどしているのが小動物ぽくって守ってあげたくなるそうよ」
「……そういう趣味の人なだけなのでは?」
「……でもちょっといいかなって、私が思う相手は皆メア目当てだから。なによ、私が女と思えない、よ」
「……一体お姫様は何をやっていたのか、そちらの方が俺は気になるのですが」
「……言いたくない」
ぷいっとそっぽを向いてしまうノエル姫。
けれどその様子を見ると、膨れた表情で美少女が台無しだが、逆に愛嬌があるように秀人は思う。なので、
「そうかな、見る目が無いのでしょう、ノエル姫は可愛いし」
と、フォローのつもりで恥ずかしいのだが秀人はノエル姫を褒めた。
随分と気に病んでいたようだったので、という単純な気持ちだった。
けれど次の瞬間、一緒に案内してくれていた兵?の人も含めて、ノエル姫が驚愕の表情で秀人を見る。
「……今なんて言った」
そんなに特別な事を言っただろうかと秀人は不安になりながら、
「えっと、あの……ノエル姫が可愛いと」
「……可愛い、だと?」
「……はい」
「この、羊の皮をかぶった狼どころかドラゴンだ! と言われる私を可愛いですって!」
「は、はい」
若干押され気味な秀人はノエルのその言葉に、この子本当に何やっていたんだろうと不安になりながらも、美人だから許すと思った。
というかこんな綺麗なお姫様に、そういう悪口を言う奴の方が酷いなと秀人は心の中で思う。
それに先ほどから秀人を見るたびに、ノエル姫が顔を赤らめていて……もしやこれは人生初の恋愛フラグという奴ではなかろうかと秀人は思い、よっしゃー、と心の中で叫んだ。
そこで大きな扉の前にやってくる。
いかにも王様が座っていそうな雰囲気のある部屋だった。
「あー、ちょっと待ってまだ準備が……」
入った早々王様らしき人が慌てたように偉そうな服を着て、玉座に着いた。
その父を秀人に紹介するように、ノエル姫が、
「あれが私の父、ミース王です」
「ミース王だ。すまない、突然の事に用意に手間取って……まさか本当に勇者が来るとは思わなかったから」
そう笑うミース王は、確かにノエル姫に似ている。
けれど勇者が来るとは思わなかった、の下りに秀人は疑問を覚えて、
「どういう事ですか?」
「いや、勇者召喚に使う藁人形が、魔道研究所が襲撃された際に随分と破壊されてしまって。一応何体かはこの世界の何処かに放り出す形で保護していたのだが、まだ回収はできていないし、それを作る研究所の復旧にも時間がかかりそうだから当分無理だなと諦めていたのだよ」
「そうなのですか……俺が藁人形……」
なんだか変な設定が出て来たなと秀人は冷静に思ったが、しかし藁人形とは思わなかった。
そうか、俺は藁人形なのか。
藁人形と聞いて真っ先に思い浮かべるものといえば、呪いの藁人形だがあれなのか。
……。
「……冗談が面白くないです。どう考えても俺は藁人形なんかではないでしょう」
「いや、本当なんだ。きちんと彼らに見せてもらったし、彼らの説明ではこの世界の君は藁人形だ。でもって勇者だ」
「……夢ですね。異世界に来た気がしましたがこの展開のおかしさは、どう考えても夢だ」
「いや、本当だって……ああそうだ。彼はまだ来てくれないのかね?」
そう傍の衛兵に聞く王様に、衛兵は首を横に振る。
そんな王様に、秀人は夢だと思ったので不躾に聞く事にした。
「彼とは誰ですか?」
「そうですね、異界の貿易会社の方です」
「は?」
「何でしたっけ名前は……タナカマサキだったような気が」
「……夢確定だこれは」
そう、秀人はあの変な紙を渡してきたクラスメイトを思い出す。
同時に、部屋のドアが勢いよく開かれたのだった。




