エピローグ
秀人は、はっと目を覚ました。
周りを見渡すと見慣れた自分の部屋が見える。
「ノエル姫達はどうなったんだろう。俺はあの怪物を倒せたのか?」
そこで秀人は一瞬のはずなのに、記憶がある事に気づく。
もしや戻ってきたのは一瞬ではなくて……そう思いながら傍にある携帯電話の日付を見ると、確かに当日だった。時間の変化もない。そして、
「この紙に名前を書いたら、あの世界に連れて行かれたんだよな。そしてアルバイト代無し……まあそれは良いんだけれど、どうなったんだろう」
もしもアレで秀人が倒せなかったとしたら?。
そう思うといてもたってのいられず、秀人はアドレス帳から正樹を探してメールする。
返信はすぐに帰ってきた。
「『あのでっかいやつは倒されてくるから大丈夫。あともう寝かせてくれ、疲れた……』か。良かった……」
どうやら上手く倒せたようで、秀人はほっとする。
これでノエル姫達は安全だ。
そう思って、安堵したからか、別の感情がわいてくる。
「ノエル姫か。良い子だったよな……見かけも含めて凄く好みだったし」
異世界人だからいずれ別れる事が分っていて、そうして付き合った関係だった。
一緒に過ごした時間は短かったけれど、秀人には、忘れられそうに無い思い出というか……。
「キス、したんだよな」
初めてのキスを異世界で経験した。
確かに体は藁人形だったがあの時の感触は暫く忘れられそうに無い。それに、
「デートの約束、破っちゃったな」
実の所、秀人もほんの少し楽しみにしていたのだ。
もっと一緒にいたかった。けれど……。
「……これで良かったのかもしれないな。もっとお互い深みにはまる前に別れられたわけだし。きっと良い思い出になったし、だから……」
そう自分で秀人は呟いて見るも、悲しい気持ちが湧いてきてそれを必死で誤魔化そうとする。
けれどその思いを抑えきれず涙が目から零れてくる。
秀人は必死になって目をごしごしと擦る。
これで良いんだと繰り返す。何度も何度も繰り返す。
だが涙は止まらなくなって、秀人はたまらずベットに飛び込んで枕に顔を埋めて声が出ないようにないた。
確かに守りたいと思ったのは事実だし、けれど、今回も大丈夫だという根拠の無い自信があった。
ほんの少しの恋人同士で良かったと思っていた。
そして、自分が夢中になりかけている自覚も少し秀人にはあった。
けれど、いざその時になったら、こんなに辛いとは思わなかった。
会いたい。
ノエル姫に会いたい。
そこで秀人ははたと気づいた。
「もう一度あの契約書に名前を書けば、あちらの世界に行けないのか?」
秀人はベットから飛び起きた。
乱暴に椅子を引いて座り、焦ったようにカチカチと押してシャープペンシルの芯を出す。
そして、急いで秀人はその契約書に名前を書いた。
けれど、何も起らない。
「何でだよ……前は出来たじゃないか。何でだよ……」
そう繰り返し呟きながら名前を書いていく。
けれど、何も起らない。
延々とその紙の隙間に秀人は自分の名前を書いて、隙間の全てを埋め尽くしてようやく書くのをやめた。
そのままふらふらとした足取りで、ベットへ向かう。
そして倒れ込むようにベットに秀人は転がり、絶望的な気持ちになりながら瞳を閉じたのだった。
母親に起こされて、秀人は目を覚ました。
あのまま眠っていたらしいと思って鏡を見ると、寝ている間もないていたらしい。
そう思いながら洗面所に向かい顔を洗って歯を磨く。
机の上に並んでいる朝食を心あらずといった感じで食べる秀人。
父親は、先ほど焦ったように出社していた。
そう思いながらご飯を食べていると、いつものようにニュースがやっている。
どうやらこのあと緊急のニュースがあるらしいのだが、それを見ていると高校に遅刻してしまうので見れないなとぼんやりと思った。
「本日の天気は……」
そう流れてくるテレビに興味なく、食べ終わった食器を片付けて、再び歯を磨く。
そしてかばんを掴み、秀人は家を出た。
テレビは天気を流しそして緊急のニュースが流れる。
「本日より、異世界との国交を我が国は開始する事になりました。それに交換留学生を……」
高校に来ると、妙に生徒達がざわめいていた。
なんでも季節はずれの転校生が来るという。
確かに席が二つほど追加されていた。
「しかも美人の女の子が二人らしいぞ!」
との前情報だが、秀人は心が動かない。
そこで正樹がどんよりとした重い空気を背負い教室に入ってくる。
「おはよう、正樹。……正樹?」
やけに顔色の悪い正樹がふらふらとした足取りで自分の席につく。
そのまま正樹は深々と溜息をついた。
「……どうしよう」
「何がどうしようなんだ?」
「……すぐに分るさ」
何を言っているんだと聞き返そうとして……そこで教師が入ってきた。
そのまま教壇の前に教師が立ち、
「えー、本日は転校生を紹介する。二人とも入って」
何故かその声と共にすぐ傍の正樹がプルプルと震え始めたが、その理由はすぐに分った。
「はじめまして。ノエルです」
「はじめまして、ミリーです」
秀人は固まった。
そして視線がノエル……ノエル姫と秀人が合うと、彼女はにっこりと微笑んだ。
それに秀人は顔を赤くして俯いてしまう。
というよりもまさかまた会えるなんてという思いと、好きという感情が湧き上がってきて、恥ずかしくなりさらに俯いた。
「えー、今朝のニュースで知っている人もいるかもしれないが、異世界との交換留学生が彼女達だ。席はあそこに座ってくれ」
そう指差すと二人はその席に向かって歩いていくが、ミリーが傍を通るとき正樹はさらにプルプルと震えていて……そしてノエル姫といえば。
「デートの約束守ってね」
そう、小声で囁く。
その声を聞いただけで秀人は顔がかあっと熱くなってしまう。
昨日の今日で、まさかこんな展開になるとは思わなかった。
後から聞いた話によると、ノエル姫の母であるカミーユがもともとこれを画策していたらしい。
昨日悩んでいた俺はなんだったんだろうと秀人は思い、少しの間悩んでいたのだが、それでもまた会えたからそれで秀人はどうでも良くなってしまった。
現金な自覚はあるが、それでも終わりよければ全てよし。
そう思いながらノエル姫と秀人は穏やかな時間を過ごし……なわけが無かった。
「いやぁあああああ」
正樹が悲鳴を上げてミリーが逃げていて、そしって秀人を盾にした。
「……何で俺を盾にする」
「……ノエル姫だと引き渡されるから」
といったように巻き込まれてしまう。
それにノエル姫が、私と秀人の時間を邪魔しないでよ、と怒っていたりするのだが、暫くすれば日常になってしまった。
まだまだ恋人同士というには少し幼い四人が、その後付き合うことになるのはもう少し後のお話。
秀人の新しい“恋愛”という冒険は、まだ始まったばかりだった。
[END]
ここまで読んで頂きありがとうございました。異世界に飛ばされるタイプで、けれど戻ってくるようなお話を書いてみました。今回は主人公を、どちらかというと常識人といいますか普通の人に設定し、チートっぽい能力を付加させまみました。色々と試している最中ですので、感想を頂けると嬉しいです。
次回は、ファンタジー・ハーレムコメディ物、現代ファンタジー男性主人公のラブコメ物、男性も楽しめるような女性向けの恋愛ラブコメ物に挑戦してみたいと思います。
それでは、次回もローストビーフで投稿しますので、よろしくお願いします。




