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口をつぐんだ

 その大きさは低く浮かんでいる雲と同じくらいの高さだった。

 特撮物の怪獣を連想するような怪物に、秀人も含めて全員が唖然とした。

 その足が、ただの平らに見えていたが、それが現れてから少し経つと無数の口が開いた。

 次いで目玉らしきものがぎょろぎょろと、周りを見回している。

 それにノエル姫が悲鳴を上げて秀人に抱きついた。

 けれどそんな事を気にする余裕はその時の秀人にはなく、想像を超えた何かに呆然と見上げていた。

 そこでミリーが雄叫びを上げながら炎の塊を打ち込んだ。

 その狂ったような様子に、正樹は慌てて、


「ミリー、落ち着いて!」

「正樹は、アレがわからないの! あんな怪物かい……ぁあああああ、がく」


 そこでミリーがぐたっと正樹の腕の中に倒れこんだ。


「……スタンガンのようなものを持っていて良かった」


 そんな正樹に、秀人が今一危機感が分らず、


「でも、ミリーのあの様子から考えると、あれ、相当危険なんじゃないか?」

「だね。とりあえず測定数値は……あ……ええっと」


 表示された数値に目を落として、正樹は引きつった笑みを浮かべた。


「100万だって」

「じゃあさっきの奴百匹分か」

「……実は言っていなかったけれど、このレーダー100万以上は表示できないんだ」


 つまり、それ以上あれは強い事になって……そんな未知の生物を睨み付ける秀人。

 まだそれは動く様子はないようだった。と、


「……ああもう、なにするのよ正樹」

「……復活が早い……」

「この程度、私の着ている服の防御力で多少はどうにかなるわよ。私とした事が取り乱してしまったわ」

「でも全部魔方陣は解除したはずなのに……」

「呼び出しの魔法陣が発動してから、呼び出すまでに時間差があるのかも。これだけ凄いものだし……」


 蒼白な顔をして、ミリーは見上げて、


「しかも魔法攻撃しても気にしない程度の相手か、まだ動けないのか」

「……だったら今のうちに攻撃して倒すか、弱らせた方が良いかもしれないな」


 今の台詞を聞いて秀人はそう判断して、ノエル姫にまず視線を移す。


「矢をとりあえず、10発ほどお願いします」

「わ、分ったわ」


 ミリーの魔法程度ではどうにもならない事は分っている。

 では、この矢ではどの程度だろう?。

 次々と放出される猫の攻撃に、その巨大な“賎しき者共”の足に小さな穴が開く。けれど、みていたノエル姫が、


「穴が、ふさがっていく?」

「……俺がさっき戦った強めの“賎しき者共”は、確か再生していたとなると……正樹」

「なに?」

「ノエル姫達を連れて、今すぐここから去ってくれ」

「……そうだね、これは僕達ではてに負えないから。残念だけれど」

「俺が倒されても、藁人形に戻るだけだから、そんなにノエル姫は心配そうな顔をしないでください」


 秀人は、そんな不安そうな顔をしたノエル姫に微笑むと、ノエル姫はちょっと考えてから、つかつかと秀人に歩み寄り……そのままキスをした。

 ノエル姫の顔が近づいてきて、ふにょっと柔らかくて温かい感触を覚えて……甘酸っぱいような、けれどほろ苦いような、切ない感覚を覚える。

 その触れた唇はすぐに離されて、ノエル姫は秀人ににこっと微笑んだ。


「デート、楽しみにしているから。そうしたら今度は、秀人の方からキスしてね」

「え……あ、う……はい……」


 そんな事を言われてしまい顔を赤くして、秀人は頷いた。

 駄々をこねないあたり、ノエル姫らしいと思う。

 秀人の戦闘の邪魔になる事も分っているのだろう。

 そう思いながら秀人は“賎しき者共”に視線を戻し、槍を取り出す。

 ひび割ればだいぶ深くなっていた。

 気づかれると心配されそうなので、現状ではどうにもならないので、わざと手で握って隠して“賎しき者共”を倒していた。

 先ほどの最上階にいたもの以外はいつもの雑魚であったため、それほど問題はなかったが……。


「まずは使えそうな魔法を片っ端からいくか。余裕のある状況じゃなさそうだし」


 そう秀人は呟いて、装置に触れて魔法を使う。まずは一箇所を重点的に潰す事にした。


『神殺しの風の刃による圧殺』

『竜神の凍れる咆哮による凍結』

『雷神の槌による雷』

『冥府の王の業火による焦土』


 威力の強いものを探して、一通り打ち込んでいく。

 けれど撃ち込まれて幾度となく、以前使った火竜砲とは比べ物にならない攻撃なのに、色々な場所を吹き飛ばしながらもすぐに再生する。

 時間差があるのかも、とミリーは言っていたが、その分再生されるための力が供給され続けているのだろうか?。だとすれば、


「その供給元……まさか、あの最上階にいた時の魔物の中にあった、今までと違う石みたいなやつか?」


 こう何度も攻撃して再生されたのではかなわない秀人は、今度は一つの場所ではなく全体的に攻撃していく。

 頭から足まで、狙いを定めて満遍なく連続して魔法を使っていくと、目の前の足の上の部分にそれがあることに気づく。

 めり込んだ粘土のような部分につるつると光る黄色い大きな石が入っていた。

 それが再生されていくのを見て、見失って堪るかとそこを重点的に秀人は攻撃する。

 けれど、幾度となく爆砕しても、一向に傷つく気配がない。

 このままだと無理ではと思った秀人は、直接攻撃する事にした。

 ひび割れた槍を掴んで、駆け出して飛び上がる。

 高い場所はそれほど得意ではないが、秀人はそんな事を気にしている余裕はなかった。

 見る見る小さくなっていく眼下の景色を見ることなく、その石に向かって秀人は飛び上がり、槍を打ち込んだ。

 ピキッ


 そんな音を出して石に亀裂が入る。

 ぐらぐらとその巨大な“賎しき者共”は揺れるも、すぐに収まる。

 先ほどと違う感触に、秀人はそれが正解だったと気づく。

 ただ撃ち込んだ槍は途中で折れてしまい、折れた柄の部分は地面に落ちていく。

 しかし、槍は突き刺さったままなのは、秀人には都合が良かった。


「ここを足場にしてっと……結局は、剣で攻撃するのが一番無難か」

 

 単純で確実な方法が、一番効果が高いんだなと思いつつも、秀人は剣に魔法をかける。

 炎が揺らめく剣を持って、その石の部分に攻撃を加えていく。

 何度も何度も打ち込んで、同じ場所に少しずつ削り落とすように刻みを入れていく。

 それがある程度深くなってから、そこで石の周辺の肉体が再生しにくくなっていることに気づいた。

 だいぶ弱らせられたと思って、あとはもう一息という所で、剣が自分の手から零れ落ちた。

 秀人が放したわけではない。

 秀人の手の部分が綺麗になくなっていた。


「確か、この世界の俺の体は魔法で出来ているんだよな」


 そうなってくるとこれは、秀人自身の魔力がなくなってきている事を示す。

 デートの約束は守れそうにないなと思いながら、片腕をその魔法の使える装置に触れさせて自分の存在全てを魔法へと変換し、攻撃にまわすよう念じる。


 そして、秀人が覚えていたのはそこまでだった。






 遠くで、あの巨大な“賎しき者共”の足の辺りで爆発が起きる。

 それと同時に、大きな巨体が悲鳴のような音を上げて、さらさらと崩れ落ちて消えていく。


「秀人! 倒せたんだ」


 そうノエル姫は声を上げる。

 そしてそのまま駆け出そうとするノエル姫だが、そこで正樹のスマホもどきが音を立てて鳴り、それを正樹が確認して嘆息した。


「えっと、連絡が二つ。とりあえず巨大な“賎しき者共”は倒せました」

「見れば分るわよ! だから秀人に……」

「あと秀人は元の世界に帰りました。理由は魔力を使い果たしたから」

「……え?」

「流石に異様に魔力が高い秀人といえど、あれはどうにもならなかったらしい」


 ノエル姫は黙ってしまう。

 随分と仲が良かったから当然と言えそうだが……かといって、“賎しき者共”の弱い者達がまだ沢山ここにはいる。


「ノエル姫、秀人はノエル姫達を救っていったんです」

「そうです姫様、素敵な方だったと思います」

「ノエルちゃん、別にまた会えるって、そうでしょ正樹?」


 慰めるミリーとメア。

 そしてミリーがそう正樹に問いかけるが、


「……実は、あちらの世界では魔力ってそんなに貯まらないんです」

「え?」

「秀人はたまたまそういったものを溜める力が大きくて器も大きかったのですが……それでも、それはヒデトが生まれた時から溜め続けたもので、かなり時間がかからないと、こちらの人形に召喚が出来ません」

「じゃあ私はもう、二度と秀人に会えないの?」


 正樹は答えなかった。

 それにノエル姫は泣き出して、それをミリーとメアは慰めていたのだが……正樹は幾つか言わなかった事がある。

 まだそれは内々の話だったからだ。けれど、今はまだ話すべきではないと、正樹は口をつぐんだのだった。


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