浮気者
ノエル姫の母であるカミーユが、お城にそろそろ帰ろうかといっていた頃。
ようやく戻ってきたメアは、ノエル姫に抱きついた。
「姫様~、ようやく戻って来れました」
「……メア、どうしたの?」
「貴方様のお父様が大量に、雑用を……」
「……何やってるのかしら、お父様」
「しかもなんか機密という判子の付いている書類まで手渡されたんですよ! もっと違う相手に渡せと! 何で私なんですか……」
「……その場にいた中で一番信頼が出来て、一番その文書を持っていかなそうな相手がメアだったのでしょう」
「……なるほど。ですが止めて下さい。渡した後に確認しているのを見て、背筋が凍りつきかけましたよ!」
「……というのは冗談で、多分、便宜上押してあるだけだと思うの」
「そうですよね、そうですよね! うちの国、そんなに危機管理がなっていないはずありませんよね!」
そうメアが何処かほっとしたように涙ながらに言っていた。
それを聞いていた秀人が、何となく、メアの方がまだ信頼できる相手だったという前半の下りが本音のような気がして、お城は怖い所だなと思った。
さてさて、メアが戻ってきたはいいのだが、
「確かメアは、短剣を使うのが得意だったよな」
「ええ、そうですけれど……それで?」
「正樹、俺の持っているあの武器の一つ、短剣をメアに貸しても良いか?」
その秀人の問いに、正樹は顔を上げて、
「分った。一応確認を取ってみるわ……ぽちぽちぽちっと」
スマホもどきになにやら文書を入力をしている正樹に、断られなくて良かったと秀人が思っているとメアが、嘆息するように、
「私なんかにそんな武器を渡してしまって良いのかしら」
「かまわないですよ。だって貴方はノエル姫が大切でしょう?」
「ええ。我が主の姫ですから」
「俺にとっても、ノエル姫は大切な人だから、少しでも、もしもの時に備えておきたいのです」
「……そんな危険な場所にノエル姫を連れて行くのか?」
そんな何処か険しい表情のメアに、秀人は小さく笑って、
「じゃあ、メアが説得してくれるんだな」
「え?」
「いやー、そういう流れになっていてどうしようかと思っていた所だったんだ。かといって俺も、ノエル姫に嫌われたくないから、じゃあメアに説得を任せた」
「ま、待って。何で私が……」
「ん? ノエル姫を危険な場所に連れて行くのは嫌なんだろう?」
「そ、それは、まあ……」
「俺には無理だったし、カミーユさんからも、もし付いていったらよろしくって言われていたから」
「姫様……」
頭が痛くなったようにメアはカビに額をごんとつけた。
「それでもしも俺に何か合った時は正樹のサポートで全力で逃げ帰る事になっているから。でも、来ない方が危険が無いと思うだろう?」
「それは、まあ……」
「ミリーさんもいるし、ノエル姫の強力な弓もあるけれど、戦力が大いに越したことは無い。だからその場合も考えて、正樹に短剣をメアさんに使わせてもらえるようお願いしたんだ。もっとも、メアが、ノエル姫を説得できれば何の問題もないんだけれどね」
「く……いいだろう、私が、姫様を絶対に説得してみせる!」
それをぱちぱちと手を叩いて秀人が応援して、メアが、今までの話を聞いていてちょっとむすっとしたようなノエル姫に向かって説得する事、約5分。
「そんな事を言うメアなんてだいっ嫌い!」
「姫様!」
ノエル姫部屋にこもってしまった。
しかも鍵をかけられて、部屋の中に入ることも許してもらえなくなっている。
そして、メアは秀人をギロッと睨み付けてつかつかと傍までやってきてから、
「いいわ、貴方がのいうとおり、姫様を守ってやる。その短剣で」
「助かる。ありがとう」
「……別にお礼を言われるまでもない。私は姫様の従者なのだから」
「それでも、メアのその答えは嬉しい。その、俺、ノエル姫が大好きだから」
その言葉に、ほんの少しだけメアの瞳が揺れた。
もしや俺のモテ期! とかちょっとだけ秀人は思ってしまったが、そんな事を考えてしまった自分がなんか悲しかった。
そこで、との隙間からノエル姫が半眼で秀人を見ていた。そしてポツリと一言、
「……浮気者」
「! ち、違う、俺はノエル姫一筋……」
けれど再びその部屋の扉は硬く閉ざされ鍵がかけられてしまう。
焦った秀人が慌てて言い訳をしている頃、正樹が許可が出たよー、と言ってきて、それでメアに短剣を渡した後、ノエル姫を約一時間にわたり説得したのだった。
さて、次の日魔道研究所に行こうとした秀人達だが、言わずもがな、ありとあらゆる彼女の母親カミーユの罠を突破してノエル姫が合流してきた。
その道中でも、さくさく“賎しき者共”を秀人は倒し、これ以上は連れて行けないといわれて途中から徒歩になる。
現れた、巨大な灰色の建物。
周りは確かに整地されているが既に放置されて暫く経っている為か雑草が随分と生えている。
生命のたくましさにある種の感動を覚えながら、現れた“賎しき者共”を倒して。
「入り口は何処なんだ?」
「確か地図によると、こっちだね……。でも、カミーユさんが入り口を塞いだような事を言っていたからな」
「“賎しき者共”が外に出ないようにか……」
「まあ、蹴破って、現れる奴らを片っ端から倒していくという作業ゲーというか、駆除していって、魔法陣の欠片をミリーに見てもらえばいい……ミリー?」
ミリーは少し眉を寄せて、その建物を見つめている。
「ミリー?」
「……まずいわね?」
「え?」
「今までの比じゃない位大きくて強いものを呼び出そうとしている気がする」
そう、呟いたのだった。
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