生易しいものなのか
さてさて、秀人が思いがけず自分がノエル姫に夢中になっていることで心なしか悩み始めたのはいいとして。
ふとノエル姫がそこで呟いた。
「そういえばメアを今日は見かけないけれどどうしたのかしら」
けれどその疑問に答えたのはカミーユだった。
「あの子には今ある事をお願いしているの」
「ある事? というより私のメイドを何でお母様が勝手に使っているの?」
「ん? だって娘のものは母親のものでしょう?」
「……意味が分らない。それよりもメアは……」
そこでカミーユがにまー、と笑って、
「実は、ちょっとしたものを城の魔法使いに届けてもらっているの」
「ちょっとしたもの?」
そこで周りを見回して、ミリーと正樹がいないのを確認してからカミーユは、
「“賎しき者共”を召喚する魔法陣のかけら。やや発動中」
「「……」」
ノエル姫と共に、秀人も何を言われたんだろうとしばし考えてから、秀人が、
「……“賎しき者共”を召喚していたのですか?」
「ええ。ただ残っていた魔力も弱いし欠片だったから、それほど強くて大量のものではなかったから」
「……じゃあ、その発動中の魔法陣がそこら中に散らばって、色々召喚している……」
「そうね、この国はそうらしいわ。そしてその魔法陣の破片だけれど、それほど仰々しく運ばないで、かつ“賎しき者共”に遭遇しても生き残れる程度に戦闘能力があって信頼できる者に預けたかったの」
「……カミーユさんの兵にはいらっしゃらなかったのですか?」
「その兵が急ぎで行ったら、いかにも何か特別なものが見つかりましたといっているようなものでしょう? その点メアであればノエルのメイドだから、ノエルがまたなんか無茶したんだろう……で、終わりでしょうからね」
「……お母様」
そこでノエル姫がはあっと嘆息するも、そんなノエル姫にカミーユが真剣な表情をした。
「……私は、異世界貿易会社ゴランノスポンサーをそこまで信頼していないのよ。それに、メアは異世界貿易会社ゴランノスポンサーがそれほど好きでないしね。だから彼らに渡す可能性が低いでしょう」
「……俺がいる前でそんな事を話しても良いのですか?」
「かまわないわ。急ぎの馬で別ルートで送ったから、今頃城の近くまで来ているだろうし。そこにいる、魔道研究所の魔法使い達に渡してもらえば終わりだし」
「……正樹とかいてもかまわないんじゃ」
「貴方の場合、遠距離の人間との連絡手段が無いようだから。そういったのは全部正樹に任せているのでしょう?」
言われてみれば、秀人は“賎しき者共”と戦っていただけで、“賎しき者共”に関する話などの連絡は全部正樹に任せきりだった。
けれどそれを見ていたとは思わず、秀人は驚きながらもカミーユに同意する。
「……確かにそうですね」
「それに貴方はノエルの味方だし」
「……味方だといっても、彼らに告げ口してしまうかも」
「それは無いわ。あなた、異世界貿易会社ゴランノスポンサーが黒幕の可能性を捨てきれないでしょう?」
そう言われて秀人は、先ほどのノエル姫の話や、援助してくれる異世界貿易会社ゴランノスポンサー開発部の方々を思い出して、
「……最近、異世界貿易会社ゴランノスポンサーが黒幕なんて生易しいものなのかなって思いました」
「あら、じゃあなんなのかしら?」
「現実的な競争相手。仲が悪くは無いけれどライバルのようなそんな関係かと」
黒幕で、裏で手を引くよりも厄介な、一方的に攻撃してくるわけでもなく、攻撃されるわけでもない。
けれど、彼らに完全に任せるのは難しく、こちらも情報や知識が欲しくて……それこそ、人間同士の駆け引きであり、武力を使わないある種の戦いである。
それを聞いたカミーユはしばし沈黙する。
「……」
「……あの、何か間違った事を言ってしまったでしょうか」
その沈黙に耐え切れず、秀人がカミーユに問いかけると、
「合格!」
「え? えっと……え?」
「わけの分らない陰謀論に行かなかったのは良いわ。だって物事は、そんな簡単に善と悪では分けきれないもの。黒幕などという前に、利害関係から考えていかないと。それで黒幕と決め付けていたら、貴方にはノエルは任せられないわね」
「は、はあ。……では異世界貿易会社ゴランノスポンサーに渡さずに、自分達で調べる理由は?」
「そんなもの、こちらで調べてから相手に渡すのよ。こちらは調べていないといってね。相手の実力も分るし、相手がどういった事に弱いのかも分るし。……どの道、異世界貿易会社ゴランノスポンサー側も、素直に出してくるとは思っていないわよ」
「……そうですか。……じゃあ別に俺が言うかどうか警戒する必要が初めから無いですね。つまり、俺が、そういった陰謀論にすぐに走るか、異世界貿易会社ゴランノスポンサーを黒幕だと思っているかを知りたかったと、そういう事ですか?」
「ええ。ある程度信頼関係がないと、こちらも信用できないわ」
「なるほど……。それに、異世界貿易会社ゴランノスポンサー、癖があるけれど、悪い人達ではないようなんですよね」
「そうなの。でもだからこそ、こういった関係が築けているわけ」
そこに人がいて、感情があって、だからこそこういった関わりが出来るのだろうと秀人は思う。そして一度言葉を切り、カミーユは、
「とまあそういうわけで、これから他の国とも交渉して、示し合わせて中断してみて個体数の変化を確認する必要があるからそっちもやらないといけない。暫く立て込んで私も忙しくなるから……ノエルの事をよろしく。秀人さん。貴方ならノエルを任せられるわ」
「はい」
その日、秀人はノエル姫の母親に認められたのだが……本人は後で気づくこととなる。
次回更新は未定ですがよろしくお願いします。




