感情論
その後、“賎しき者共”の巣を、計8個ほど戦うと書いて作業ゲーと読む……といった駆除作業をやった秀人達。
「後は方向が違うから、また後でにしよう。暗くなる前に戻った方がいい」
との正樹の提案で、秀人達は宿の戻る。が、
「何でお母様もこの宿に?」
「あら、娘の事が気にならない母親がいると思って?」
「いえ……うう。でも……ええいい、いいや。秀人!」
悩んでから、ノエル姫は秀人の傍に走っていって隣に座る。
そのままノエル姫は肩を寄せてきて、
「……お母様がいる前だから、どうしようかと思ったのだけれど……やっぱり秀人にくっ付いていていたいなって」
「えっと、そうですか……」
「何よ、嬉しくないの?」
「いえ、とっても嬉しいのですが、ちょっと恥ずかしいというか照れるというか……」
「恥ずかしくないわ。私は何時だってお母様に見せつけられてきたもの」
「そうなんですか……」
随分ラブラブなお妃様なんだなと、秀人はカミーユを見て、それからノエル姫を見る。
秀人にくっついてノエル姫は幸せそうに笑っていて……その表情に秀人はどきどきした。
そんな秀人達を羨ましそうにミリーが見て、正樹をちらりと見ると、正樹とミリーの目が合う。
ちょっと期待するようにミリーがじっと正樹を見ると、正樹が嘆息してから、ミリーの手を握った。
「これだけで、我慢してださ……え?」
別にただ正樹から、ミリーの手を握っただけである。
それだけでミリーは顔をかあっと赤くして、緊張したようにこわばらせて、そして正樹と繋がった手をじっと見て……そのまま俯いてしまう。
てっきり、正樹大好きとくっ付いてくるかと思ったのに、それどころか酷く大人しくなってしまった。
こんなミリーは正樹は初めてで、どうしようかと思っているとミリーが顔を上げた。
いつもの余裕がある感じではなく、何処か花が綻ぶような控えめな、けれど鮮やかな微笑で正樹をミリーは見て、
「初めてだね、正樹が自分から手を握ってくれたの」
「あ、え……そうだったっけ」
「そうだよ。でないと私、今日の日付を正樹が初めて手を握ってくれた記念日にしていないもの」
「……やっぱり手を放すわ」
「やーん、もう少し……だめ?」
お願いするように小首を傾げて可愛らしい仕草で、ミリーは正樹を見た。
その表情に、正樹はどきどきしてしまい……そんな感覚を覚えて逃げ出してしまったのだった。
「ちょ、酷いわ正樹ー!」
それをミリーが追いかけていく。
後には、秀人とノエル姫、カミーユが残される。
そんないつものような正樹達に秀人がふと疑問に思ってノエル姫に、
「いつもあんな感じだったのか? 正樹とミリーさんて」
「うん、そうよ? ミリーちゃん、正樹が大好きだから」
「そうか……というか、魔族は異世界貿易会社ゴランノスポンサーとの繋がりが随分強いように感じたけれど」
「そうだよ、魔族が異世界貿易会社ゴランノスポンサーとの繋がりが一番強いかも。ただ理由としては、魔族の知識レベルの高さによって、異世界貿易会社ゴランノスポンサーを許容出来た所が大きいの」
「……話を理解できる程度の知識を持ち合わせていたって事か?」
「それもあるけれど、異質なものをどの程度許容できるかという話。もっとも、魔族の場合も異世界貿易会社ゴランノスポンサーが現れたお陰でそういった方向に、話が持っていかれた部分があるらしいのよね」
異質なものの許容。
良く分らないが、それがあったから逆にこの世界では秀人のような異世界人も許容できたのかと思うが、
「でも、普通自分とは違うものは受け入れにくいんじゃないのか?」
「そうだね。同じは居心地が良いけれど……残念ながら、共通点があるだけで皆違うんだよ。でも、違う事に気づかなかったし、同じ事ばかりを求めていたのが、ついこの前までの魔族内での敗因だったの」
「同じものばかりか……変化に乏しいな」
「そう、同じであろうとするから異質なものが排除され、同じものがずっと続く事で、変化に対応できなくなってしまった。ようは同じであるって事は、進歩が無いってこと」
「同じままで維持は出来るのか?」
「もちろん出来ないわ。同じことの繰り返しだから、それがどうやって出来たのか見直さずに同じ作業を繰り返して、結果として色々な必要な知識やら技術やらが欠けていく現象が起こったらしいわ。なんでも、伝言ゲームってあるでしょう?」
「えっと一つの文章を伝言していって、最終的にどうなるかって奴か」
「そうそう、大抵それをやった場合、最後に伝えられる話は、途中幾つか抜けているか、違う話になっているでしょう?」
確かにと秀人は思う。
以前にやった伝言ゲームでは『花畑を摘みに行きました』が、『花畑で蜂蜜を取ってきたぜ』といったまったく違う話になっていたりする。となると、
「なるほど。それじゃあ、何度もはじめの文章を見直さないといけないな」
「ええ、見直して、そうするとその時はまだ出来なかったものや新たに分った事で、その改善が出来るようになる……んだけど、そこに別の問題もあったらしい」
「どんな問題だ?」
「a→bと暗記していただけでは、それ以外のことが起こるって考えられない。違うものが存在する事自体が考えられないの」
以前正樹が、そんなような事を言っていた事を思い出しながら秀人は、
「……要するに、aという町から馬車に乗って出発してbの町に行く場合、その方角が違えば、cの町についてしまうって事か」
「そう、方角という要因が変わっただけで別の結果が導き出せる。確かに覚えないといけない事があって、それが大切なのも分るけれど……更に考えるならば、その知識に上乗せする形でこういう要因があると変わってきますよという事を学ぶ必要がある。そこまで考えないと、行きたい場所にもいけなくなるわね」
「でも同じ事だけやっているのは楽だよな」
ロボットのように同じ作業をする。
別の意味で疲れるが、深く考えなくてすむという点では気楽で良いかもしれないが……ノエル姫はその言葉に頷きつつも、
「ただ、その余裕があると、今度は相手をどう蹴落とすか考える時間が出来ちゃうのよね」
「……となると真面目に色々考えてやっていたら、そいつらに蹴落とされるんじゃないのか?」
「だから進歩が止まるのよ。でもまあ、異世界貿易会社ゴランノスポンサーがはいってきて、でもさ、蹴落とす事に時間を割いたやつは結局話についていけないわけ」
「自然淘汰される、か」
「という効果があったんだって。そして、それを切欠に人間の方の国も、異世界貿易会社ゴランノスポンサーと関係を持つようになり、結果として秀人達を召喚する協力を取り付けられた部分もあるかな」
「……面白い関係だな」
「ただの侵略者じゃないからね。お陰で双方怪我もせずにすんでいるわ」
そんな肩をすくめるノエル姫に、面白い関係だなと思って秀人は聞いている。
しかし今の話を聞いていて思うことといえば、
「感情論であまり話さないんですね。あ、いや、女性だからとかそういう意味でなく……結構男女共に感情論で話す事が多いから……」
「楽だしね。ようは好きか嫌いか、聞こえが良いか悪いかだから。現実でどうするかというと、利害関係がぶつかるから、綺麗事だけじゃやっていけないのよ。本当は私だって、もっと感情だけでやっていきたいわ。それこそ……秀人を元の世界に返したくないくらいに、好きなんだよ?」
いきなりそう告白されて、ノエル姫がじっと見つめてきて、その緑色の瞳に吸い込まれてしまいそうな感覚に秀人は陥る。
頷いてしまいたい。
ずっとここにいると、そう答えたい感情が湧き上がって……そこで、カミーユが、
「ノエル、あまり秀人を困らせてはいけないわ」
「……わかっています。お母様」
「あと、ノエルは感情的に色々やっていると、私は思うけれど?」
「私だって考えています! ぷう!」
頬をノエル姫が膨らました。
それでその時は笑って話は終わったが……秀人は思いがけず、ノエル姫が自分が思う以上に好きになっていることに気づいたのだった。
次回更新は未定ですがよろしくお願いします。




