悪魔の契約
ノエル姫がご機嫌だった。
その理由が良く分らず、秀人はノエル姫に問いかけると、
「だって私の事守ってくれるって言ったし、私が一緒に戦いたいって言ったらそうさせてくれるでしょう? 秀人は私の味方だもん」
秀人としては、好きな相手を危険な場所に連れて行くような酷い人間ではないと、言い返しただけのつもりだったのだが……このように好意的に取られてしまった。
ここまで好意的に取られてしまうと、逆に秀人としてもこう……愛おしくて堪らなくなる。
こんな可愛いくて、良い子が俺の彼女。
そう思うと、何が何でも守ってあげたいと思ってしまう。
一方ノエル姫も、秀人好き好き状態で、とろんとしながら頬を染めて秀人の腕に抱きついている。
そんな二人を羨ましそうにミリーは指を咥えながらじっと見て、くるりと正樹の方を振り返る。
その気配を察知し、正樹は警戒するようにミリーを見た。そして、
「正樹~、私疲れちゃった。おんぶ~」
そう抱きついてくるミリーをささっと、正樹は避けるも、それすらも計算のうちとミリーは笑って正樹の腕に抱きつく。
「しまったぁあ、放せぇえ」
「良いじゃないたまには素直にやらせてくれても。ノエルちゃん達はあんな感じなのに、何で私に正樹はデレてくれないの?」
「……だから、恋人にはなりませんと僕は言っているでしょう」
「ハニートラップだと思っているの?」
「え?」
その言葉に正樹はえっと声を上げて、少し黙ってから、
「そうだね。その可能性も……」
「考えていなかったって事ね。じゃあこの美少女でお姫様の私の何処に、正樹が嫌な要素があるわけ?」
「だから尻に敷かれそうな所だって言っているじゃないですか!」
「世の既婚男性で、尻に敷かれていない男性の方が珍しいと思うけれど」
「でも、もっとこう……守ってあげたくなるような、そんな大人しくて清楚な女の子が良いです」
「……そんな人形みたいな都合のいい相手が良いの? 正樹は」
珍しく真剣な瞳で、ミリーが正樹に問いかける。
それに、正樹のほうも珍しく戸惑ったように顔を背けて、
「いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあ、なってあげようか。正樹の、清楚で大人しい……貴方に都合の良い女に」
そう、ミリーが何処か優しげな微笑を浮かべて、正樹の手を掴み、自分の手を重ねた。
そんなミリーに、正樹は少したじたじしながらも、困ったように頬をかいて、
「別に、わざわざそうなるように、女の子に理想を押し付けたりはしないよ」
「そうなの? 残念。頷いたら、すぐにでも既成事実を作ってやったところだったのに」
悪戯っぽく笑うミリーとは対照的に、正樹は引きつった笑いを浮かべて、
「……なんで?」
「あら、この私のそこまでの演技をさせるのだから、伴侶人なって当然でしょう?」
「……悪魔の契約に、サインする所だったのか。危なかった……」
「仕方がないから今のまま、押していく事にするわ。……正樹が私に落ちるまで」
「ひいっ」
最後のミリーの言葉は、正樹の耳元で病んだようにミリーが告げたため、正樹は悲鳴を上げた。
と、そこでひと段落した正樹の元に、カミーユが近づいてきて、
「ちょっと、うちのノエルがあの勇者の男にべた惚れしているんだけれど」
「ああ、はい。なんだか、ものすごく好きですよね、ノエル姫」
「どうするのよ。異世界人でしょう? 彼」
「下手すると追って来かねませんね」
「気楽に言ってくれるわね。でもまあ秀人の方もノエルの方も、期間限定だと割り切っているみたいだから仕方がないか」
「別れがあるからこそ恋の炎は燃え上がる、みたいな感じですかね」
そんな人事のような台詞に、カミーユは半眼になり、
「それで、貴方の方もミリー姫をどうするの?」
「……いざとなれば逃げ帰りますから、大丈夫です」
「そう? じゃあ逃げ帰る前に色々と事を運んでおかないとまずいわね」
「何をする気なんですか?」
「女の子の秘密」
正樹は、暫くこの世界にいるふりをして、逃げ帰ろうとこの時決意したのだった。
さて、それから少し歩いた所で、“賎しき者共”を呼び寄せた。
今回は先ほどの兎のようなものではなく、蛇やトカゲもどきが混在している。
ただ個体数が多い。
今まで一番多いのではないかという量で、レーダーで368体と表示されていた。
面倒くさいと思いながらも、ノエル姫の母親を説得するためなので、秀人は“賎しき者共”に向かって目を向ける。
そして、それに向かって凍らせる魔法を使い、足止めをしておいてから剣を取り出して秀人は突進していく。
“賎しき者共”が攻撃しようとする前に、秀人は切り裂き、取りこぼしが内容に気をつけて倒していく。
その時、速く走りたいと望めば異様に動く速度が上がって、周りの動きがスローモーションのようになる。
動体視力も上がっているのかもしれない。
なんにせよ、敵と戦うには素人である秀人では、これくらいの力がないとといてもではないがやっていけない。
そして、秀人はいつものように“賎しき者共”を倒して、残った肉片を炎で焼いて処分する。
一応これで実力は見せられただろうと思って振り返ると、カミーユが呆然としてその様子を見ていた。
近づいていっても、彼女は秀人に気付かない。なので秀人は、
「すみません、終わったのですが……」
「え? ええ、そうですか。ああうん。確かにいなくなったわね……」
カミーユは、そう呟いて、少し考え込んでから、
「……秀人。まさか貴方がこれほどまで強いとは思わなかったわ」
「それは……そうですね。俺も驚いています」
「でもね、私も一人の親として、ノエルの事が心配なの」
「つまり、ノエル姫はお留守番だと?」
「できればそうして欲しいけれど……でもあの子の事だから抜け出して付いていくわね」
カミーユは、親なりにノエル姫の性格を熟知しているらしい。
それで悩んで、嘆息してからカミーユは、
「出来るだけこっちに引き止めるようにはするけれど、それでも無理で付いて行ってしまった時は娘をよろしく」
「はい。全力で守らせていただきます!」
秀人の言葉にカミーユが微笑み、そしてそれを聞いていたノエル姫が、カミーユに怒ったように文句を言っていたのだった。
次回更新は未定ですがよろしくお願いします。




