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お母様

 町に着くと、秀人達の馬車が兵に囲まれた。

 おのおのに武器を持ち、一糸乱れぬ統率感。

 馬車に乗っていたほかの乗客が怯える中、その人は現れた。


「ノエル? いるかしら?」

「お母様!」


 他の乗客がえっという顔で、ノエルを見た。

 ついでに秀人もノエル姫を見て、それからその、ノエル姫のお母様を見る。 

 ノエル姫と同じ艶やかな黒髪で、瞳の色は青。

 ノエル姫は髪の色は母譲り、瞳の色は父譲りらしいと秀人は思う。

 そしてノエル姫の母は、ノエルを成長させた美人の熟女といった感じで、これは将来安泰だなと秀人は思うも、きっとその頃にはこの世界には秀人はいないんだろうなと気づいて、もやもやした。

 それは良いとして、ノエル姫の母親が単身で秀人たちの方にやって来て、


「ノエル、元気にしていたかしら」

「はい、カミーユお母様」

「それで、彼氏が出来たんだって?」


 直球で来られて、秀人は噴いた。

 そんなごほごほと咳き込む秀人に、カミーユが見て、くすりと妖艶に微笑んだ。


「はじめまして。貴方が勇者秀人ね。噂は聞いていてよ?」

「……まだそれほど何かをしたわけではないのですが」


 ここに来て一週間もたっていない。けれど、


「安心させるための宣伝もかねているから、そこら中で話を流しているのよ。だから貴方の事はすでに知っているわ」

「は、はあ……」

「それで、ノエルはどう?」

「その……とても魅力的で可愛らしいお姫様だと思います」

「随分とじゃじゃ馬でしょう? そこいら辺はどうだったかしら」

「……この程度は普通な気がしますが」

「……ノエル、この子はゲットしておきなさい。貴方がアレだけなのに、この子それでも良いって言っているわよ!」


 実の母なのに酷い言われようのノエル姫だと秀人は思ったが、当のノエル姫はそれでかまわないらしい。

 大きく頷いて、秀人に腕を絡めて抱きついてくる。

 ああ、また柔らかい感触が……と秀人が思っていると、カミーユは、


「それで、こちらの話も伝えておきたいから場所を移動しましょう?」


 そう秀人達に告げたのだった。






 さて、宿に着いた秀人たちだったが。


「ミリーちゃんも相変わらず可愛いわね。またマサキをおきかけまわしているの?」

「ええ、だって私の人生の伴侶ですもの。ねー、正樹?」


 ミリーに腕を組まれて正樹が必死に放せぇぇええ、と逃げようとしている。

 かといって振り払う様子が無いあたりが、まあアレだなと秀人が見ていると、


「相変わらずね、そっちは。……所で勇者秀人だったかしら。あの魔道研究所に、ノエルを連れて行かないでもらえるかしら」

「え?」

「あと、ミリーも止めなさい、お姫様なんだから」


 さらっと、カミーユが告げた。それにミリーとノエルがカミーユを見て、きっと睨む。


「お断りしますわ、お母様。私、こう見えても秀人の役に立っていますから」

「カミーユ様、私とて魔族ですわ。その中で戦闘能力が強いのに、何故そのような事をおっしゃられるのか分りかねます」


 そんな二人の自分よりも幼い姫に、カミーユが嘆息して、


「……実戦経験の無い娘達を放り込むには、あそこは“賎しき者共”が強くて、多すぎる」

「大丈夫よ、秀人達が強いもの」

「他人任せにできないでしょう。それにその秀人達が負けても、彼らは死なないけれどあなた達は死ぬわよ」

「で、でも……」

「異世界人が強いからといって、何千匹も相手に一人で無双なんてできないでしょう」

「……秀人なら出来るもん」

「そうやって人任せにするのもいけないわ。迷惑がかかるし、守ってもらう事で、秀人達を危険に曝す事になるわ」

「で、でも……お母様」

「でもじゃありません。わがままを言うのは止めなさい!」


 そう叱られてノエル姫がしょぼんとしてしまう。それを秀人がどうなだめようかと思っているとミリーが、


「でも私の場合、魔法陣を検分する仕事がありますから」

「貴方以外の方も幾らでもいますよね? その程度には、魔族の力を熟知しておりますわ、こちらも」

「……そもそも、秀人や正樹の力を過小評価しすぎです、カミーユ様は」

「何ができて何ができないのかわかっているつもりよ?」

「つもりなだけで、貴方は本当に正樹や秀人の力を知っているの?」

「求められる事と出来る事の違いが分っていなのは、ミリー姫、貴方ではなくて? そもそもこの二人は戦闘に熟知している訳ではないのでしょう?」

「戦闘に熟知しているといった概念は、彼らには無意味だわ。彼らの力は圧倒的過ぎる。そうでしょう? ノエルちゃん」


 そう同意を求めるようにノエル姫にミリーが話を振る。それにノエル姫は頷き、


「秀人の力は、正樹のもの以上に強いです。多分正樹の力はお母様が知っているのと同程度ですから、比較したとしても桁違いに大きい」

「確かに力の強い異世界人の勇者を呼びましたが、だからといって素人でしょう?」

「……確かに、秀人は素人ですが、それを補うだけの力があります」

「話にならないわ。事態が一刻を争うというこの時期に、育てる時間も余裕もないから、初めから魔力の強いものをお願いしたけれど、それでどうにかなるのかしら」

「秀人の魔法は、山に一つ穴をあけました」

「……冗談でしょ?」

「秀人、そうだよね?」


 話を振られて、秀人は頷いた。それにカミーユは少し黙ってから、


「はい、その程度はできます」

「……信じられないわ」

「でも、事実ですから。俺も驚いています」


 その言葉に、カミーユは少し悩んでから正樹の方を見て、


「“賎しき者共”の探知できる装置で、ここ周辺の“賎しき者共”はどれくらい?」

「ざっと三十ですかね」


 今まででとくに多い量を言われて、秀人が正樹のほうを見ると正樹が肩をすくめて、


「ここ、魔道研究所が近いから。でも、この程度、秀人なら余裕だろう?」

「……強めんじゃないのか?」

「そうだね……じゃあ、カミーユ様に同行して貰って、“賎しき者共”の強さを確認してもらって、ついでにどう戦うかの参考にさせてもらおう。それに、その秀人の力を見せる事で、カミーユ様も含めて納得してもらえばいい。ミリーとノエル姫の二人が同行するかについてはね」

「そうだな……」

「それでいかがですか? カミーユ様」


 正樹に話を振られて、カミーユは嘆息した。


「いいわ。どうせ無理だとは思うけれど」


 ノエル姫とミリーが顔を合わせて、そして両手でお互いの手をパンとたたいた。

 そこでカミーユは、正樹を見てからにたっと笑い、


「そういえばミリー姫は、正樹をまだ追い掛け回しているようね」

「中々強情で折れてくれなくて。ただ力を与え続ければいつか折れるでしょう?」

「ただ反撃を食らう可能性も上がるけれどね?」

「あら、正樹が反撃してくるのなら、それはそれで私は満足ですわ?」


 ちらりと正樹をミリーが見ると、正樹が再び逃げ出した。

 何をやっているんだと思って秀人が見ていると、ノエル姫が秀人の腕にぎゅっと抱きついた。


「……ノエル姫」

「……秀人は強いし、私だって……あ、異世界貿易会社ゴランノスポンサー開発部に行って矢を補給しておかないと」

「じゃあ今から行っておいた方が良いな。正樹!」


 そう呼ぶと、正樹が秀人に振り返り、その油断を利用してミリーが正樹に抱きついたのだった。

次回更新は未定ですがよろしくお願いします。

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