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泣きつかれて

 流石に外で立ち話はなんなので、宿に戻る事にした。

 デートコースはあと二つ行きそこねたが、流石にこの状態の正樹を放っていくのも気が引けるので、秀人は宿に戻る。

 ちなみに正樹はミリーから逃げ出そうとして、縄でぐるぐる巻きにされて虜囚のように引きずられ、現在はベットの上に転がされていた。

 もっとも、その状態で正樹はミリーに縄の端を握られて転がされていたのだが。


 そこらへんに突っ込みを入れていても話は進まないので、秀人は先ほどのエル姫に聞いた魔王の娘という言葉について考える。

 魔族と聞いて、肌の色が変に緑色だったり、頭に角でも生えているのかと思っていたら。

 蜂蜜のように柔らかな金色の髪に、青い瞳。

 特に変な部分が見当たらない。

 それに秀人は首をかしげて、


「……普通じゃないか。魔族と人間て何処が違うんだ?」

「瞳が赤くて知能指数のようなものが異様に高いんだ。なので、この世界の魔族の技術が、異様に発達しているという……」


 と、その状態で正樹が説明した。けれど、


「ミリーさんの瞳、青色じゃないか?」

「カラーコンタクトよ。分らないの?」

「……この世界にカラーコンタクトがあるのか? 正樹」


 ミリーの答えに明らかに異世界の技術だろうと突っ込みを入れたかったのだが、そんな秀人に正樹が、


「……魔族の文明レベルって、魔法とか使っているから少し違うんだけれど、僕達の文明レベルと似ているんだ」

「ええ! そうなのか?」

「うん。お陰で、GPSモドキを仕込まれたり監視カメラモドキを仕込まれたり……魔族の国では大変だった。ちょっと女の子とお話しただけでも……ガクガクブルブル」


 震えだす正樹。よほど恐ろしい事が合ったらしい。

 随分と怖いお姫様だなと思いながら秀人はミリーを見ると、にっこりと正樹に微笑み、


「あら、貴方が私のものになるって頷いて、公的な文書にサインしてくれたら何時だって、心を広くそこそこ自由にさせてあげるわよ?」

「……僕、異世界人なんです。なのであんまり苛めると、異世界に帰ってしまいますよ?」

「あら、じゃあ次は、異世界貿易会社ゴランノスポンサーに幾らお金を積めばいいのかしら」

「え?」


 正樹が疑問符を浮かべてミリーを見た。

 そんな顔を蒼白にする正樹にミリーは微笑み、


「私から逃げられるとでも思っているの?」


 言い放ったミリーの言葉に、正樹は灰になってしまいそうなくらい真っ白になった。

 それを気の毒に思うも、恋愛は当事者同士の事なので放って置いて、正樹はミリーという魔王の姫気味に問いかけた。


「どうしてこちらにいらしたのですか? ミリー姫は」

「ミリーさんでお願い! そしてここに来たのは正樹に会いに、という理由だけでは駄目かしら」

「そうなんですか」

「そうそう」

「……」

「……」

「……冗談を鵜呑みにされると困るんだけれど」

「冗談だったのですか、すみません!」


 ミリーにじと目で言われて、秀人は慌てて謝る。

 そんな素直な秀人にミリーは少し好感を持って、くすりと微笑みながら、


「そもそも正樹の件だけなら、正樹を私の国に呼び寄せてしまえば問題ないわ。だって、国内であれば……色々できるでしょう?」


 色々の意味が凄く気になったが怖いので秀人は聞かないことにした。

 世の中には知らないほうが良い世界があると嘆息しつつ、


「は、はあ。では、どのようなご用件で?」

「“賎しき者共”が、魔法陣の誤作動によって呼び出されていると聞いて、こちらの世界の魔法、とりわけ魔方陣関係に詳しい私が呼ばれたの」

「……お姫様じきじきに、ですか?」

「魔族を人間と一緒にしないでくれる? こう見えても魔力戦闘能力、そして知識において、魔族の中でも優秀なのよ? それに、実際に現場に行ったほうが色々とお得だし」

「……それでもお姫様が来る理由が分らないのですが」

「……暇で」

「……」

「ノエルちゃんなら私の気持ち分るよね!」


 半眼になった秀人に、ミリーはノエル姫に助けを求めた。すると、


「わかるわかる! お城の中って退屈だものね!」

「さっすが親友! 話が早いわ! というわけで私もこれから一緒に旅をする事になるからよろしく!」


 その言葉に、正樹はひいいいと声を上げて、


「止めて下さいミリー。大体、この前言っていた、競争の無い社会での競争の激化、関連の問題はどうなったのですか!」

「ん? ああ、あれね。要は、問題がある事自体が分らなかっただけなのよ。例えば、aは本来五つの事をしないといけないのに、bは三つすれば良いと思っていれば……bはどうなると思う?」


 チラッと正樹にミリーは聞くと、


「……三つで完璧だと思うし、それ故に、やっていない事、できていない事が分らなくなる、かな」

「しかも注意されても、言っている意味が分らない。だって三つでbは完璧だと思うから」

「それで、何をなさったんですか?」

「疑問を持たせる訓練と、五つの事をしないといけないって教えておけば良いだけの話。お陰で、見かけというか、言葉だけの美麗字句が並んで聞こえは良い物が選ばれて、中身は問わない風潮になってしまっているのが少しは改善されたかも」

「でも、導き出される過程が異なれば、同じ出発点でも異なる解が出て来るでしょう? 五つ覚えさすだけじゃ問題があるでしょう? そこらへんの問題解決のために、ミリーは戻って別の人を……ぎゃああ!」

「ふふふ、それは思考の過程を学ばせるだけで終わり。そこもきちんと考えて手は打ったから……残念ね、正樹。貴方は私から逃げられないようね。本当に可哀想」


 くすくすと笑いながら、ミリーは正樹の頬を撫でる。

 その様子を見ながら、これは正樹はミリーから逃げるはと思いながら……秀人は話を変えた。


「所で、ミリーさんはどの程度強いのですか?」

「数十匹の“賎しき者共”なら、簡単に消し炭にできるくらいかしら。でも、ノエルを連れて行く程度に戦力に余裕があるなら、私がいても邪魔にならないと思うわ」

「ちょっとミリーちゃん、その言い草酷くない?」

「仕方がないわよ。私、こう見えてもミリーちゃんよりずっと魔力が強いし。でも、弓を貰ったんでしょう?」


 さらっと、持っていないのにノエル姫の武器を言い当てるミリーに、秀人たちがぎくりとしていると、ミリーは肩をすくめて、


「情報は私達にとっても重要なの。とりわけ貴方達の様子は注意深く観察されている」

「……怖いですよ」

「そう? でも悪い話ばかりではないわ。それ故に何時でもこちらは手出しできるし……人間よりも早く援護できるわ。特に、姫である私がいるから」


 つまり、彼女を受け入れる事で即急に魔族の援助を受けられるといっている。

 どうするんだと正樹を秀人が見ると、正樹がとても嫌そうな顔をして、


「……分ってます、それくらい。はあー、それでも嫌だから抵抗しただけです」

「そう! じゃあこれから私とホテルに行きましょう!」

「いやぁああああああ」


 正樹の悲鳴が木霊して、その日は結局、正樹に秀人はミリーと二人っきりにしないでくれと泣きつかれて、デートが中止になったのだった。

次回更新は未定ですがよろしくお願いします。

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