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お姫様は不機嫌

 助けた女の子は、ノエルというお姫様らしい。

 そのお姫様は、助けた時は輝くばかりの笑顔だったのだが、秀人が名前を名乗った途端無表情になった。

 なまじ美少女な分、表情を消したその姿は陶器の人形のようだった。

 さらさらの銀髪に、新緑のような緑色の瞳。花柄のレースのついたドレスを着て、瞳と同じ色のアクセサリーをつけているお姫様。

 普通物語だと、助けたお姫様に惚れられるイベントがあったよな……と、秀人は思う。

 それとも彼女はツンデレなのだろうか。

 これからデレてくれるのだろうか。

 それ以前に、助けたというのにこの態度だ。 

 名前を出した途端に対応が変わった事から、そこに何かヒントがあるはずだ。そういえば、

 

「藁人形の勇者様って、どういう意味だ? というかここは何処だ?」

「……そのうち分るわ。城に着けば、ね」


 そうノエル姫に冷たく返される。

 こちらの質問に彼女は答える気がまったく無いらしい。

 こういう澄ました感じは嫌いなんだよなと、秀人は心の中で舌打ちした。

 そこで、三つ網にした黒髪にピンク色の瞳をしたメイド少女が、秀人の顔を覗き込む。


「あ、あの、秀人様。勇者様、でしたね……先ほどはありがとうございました」

「いえ、当然の事をしたまでです」

「低級とはいえ、あれだけの“賎しき者共”を……しかも、音や匂いに敏感なので何処に隠れていても気付いて襲ってくるタイプでしたので助かりました」


 その言葉に、そういえば隠れて様子を伺っていた時に、独り言を言っていたのを秀人は思い出した。

 あの程度の音でもあの化け物には聞こえてしまうらしい。

 それを考えると、結果的にどうあれ、あの化け物達と秀人は戦う羽目になったのは確かだろう。

 

「いえ、襲われているのを助けるのは、人として当然の事です」


 と、秀人は隠れて様子見をしていた事はわざと伏せて、いかにも善良そうな答えを述べてみた。

 メイド少女がきらきらとした眼で秀人を見る。

 女の子に、凄い、素敵! といった目で見られるのは悪くないなと、秀人はささやかな幸せに浸っていると、何かに感づいたノエル姫が、


「……隠れて様子見をしていたくせによく言う」

「お姫様、根拠が無いだろう」


 図星を指されて、秀人は焦りながらもノエル姫に答えると彼女は眉を寄せて、


「し、していないよ」

「……貴方は魔法を使える?」

「魔法? そんなもの存在するのか? いや……ここは異世界だから……」


 どうしてそんな事を聞かれているのだろうと思いながら、秀人は答える。

 すると、ノエル姫は更に少し怒ったように、


「……体は、丈夫な方? 例えば石を割ったりとか、貴方は出来る?」

「流石にそれは出来ないだろう、人間だし」


 何処のヒーローだと、秀人は笑い出したくなる。

 けれど彼女の機嫌が更に悪くなる。


「武術とかそういったものは?」

「武術? 授業で柔道を少しかじったくらいかな……」

「それなのに、状況が分らないまま突っ込んできたと? 私達を助けるために」

「……そういう事になるな」

「本当の話?」

「冗談に聞こえるか」

「ええ。それにもしそんな奴だったら、私、許せないわ」


 助けるために出て来たのに、その言い草は何だと秀人は思いながら、苛立ちでこわばった顔で、


「何が許せないだ。襲われていたくせに」

「だからって貴方が犠牲になる必要は無いでしょう! そうなる可能性だってあったわけじゃない!」

「……は?」


 間抜けな声が秀人から出た。

 けれど、ノエル姫は自分の言っている事の意味が、とてもとても秀人を心配している内容だと気づいて、顔を赤面させた。

 そのままノエル姫は必死で言い訳して、


「……いえ、なんでもないわ。別に、ちょっと貴方が私のせいで怪我したら許せないと思ったとか、そんなわけじゃなくて……もう嫌。お姫様っぽく装うの面倒くさい!」

「ひ、姫様。一応勇者様相手ですし、もう少し我慢して装った方が……」

「でも男はお姫様が大好きなのは分るけれど、その理想とするお姫様って、ああいう風に澄ましているお姫様でしょ! 私、そんな柄じゃないし、どうしよう……」


 そう嘆くノエルに、メアが必死になって応援している。

 だが、装うとか装わないとか……どうやら装うべき相手の秀人の前で言われても、どうなのかと思う。

 そしてどうも澄ましている姫が男は好きだと、勘違いしているらしい。

 何処の情報かは知らないが、明らかに間違っている。少なくとも秀人は、


「活発なお姫様が好きな男もいますよ? 少なくとも俺は、元気なお姫様の方が好きです」

「本当!」

「ええ、本当ですとも」


 ノエル姫が目をきらきらさせて微笑んだ。


「秀人、ありがとう」

「いえ……先ほどから様子がおかしかったのはそのせいですか?」

「それと、後は礼儀かな。あまり表情を公式の場で出すのは良くないから」

「……大変ですね、お姫様も。けれど、心配して頂けたんですね」

「な、何の事かしら」

「無力だから、危険かもって」

「……ええ、今まで何人もの勇者が、そういった自分の特性を知らないが故に、“賎しき者共”に倒されいるから。げーむ? だ、とか、夢の世界だと言って」


 秀人は何となく同じ世界からの住人の気がした。

 けれど、ノエル姫のあの言葉はそういった事を知っているから出た言葉で、秀人の身を案じてくれたのだ……。

 だから秀人も嘘をつくのはやめようと決めた。


「実は怖かったので隠れて様子を見ていたのですが襲われて……けれど簡単に倒せるから、お手伝いしようかと。格好が悪くてすみません」

「そんな事は無い! 格好良かったもん。でも、それならいいかな……。ごめんなさい、もしそうなら注意をしておきたかったから、引っ掛けるために貴方に『隠れて様子を見ていたんでしょう』と言ってしまって。不快な思いをさせてしまった」

「いえ、俺の方も、嘘をついていたのは事実ですから」


 そう笑う秀人のに、少しだけ頬を赤くしたノエル姫は、


「……だけど、よく助けにこようって思ったわね。初めてああいうものに遭遇して助かったからといって、すぐに動けるなんて」

「弱かったので」

「……低級とはいえそこそこ強かったはずなんだけれど……」


 うーんと悩み始めるノエル姫。

 その言葉に、逆にこの理性的な姫様がそういう状況になった事に秀人は気になった。

 だから、好奇心もあって試しに聞いてみる。


「ですが、お姫様だけであの集団がきついのでは? 護衛の方はいらっしゃらないのですか?」

「いつも、ああいった群れには遭遇しないの。それにあの種はそんなに群れを成さない種だし……色々異変が起こっているの」

「……それで俺が呼ばれたと?」

「それも含めてお城でするわ。同じ話を何度も聞くなんて、眠くなるでしょう?」

「そうですね」


 ペロッと可愛く舌を出した悪戯っぽいノエル姫様に、秀人は小さく笑って頷いたのだった。

次回更新は未定ですがよろしくお願いします。

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