絹ごし豆腐
布団のぬくもりは気持ちよく、何故、この心地よい朝という眠りから目を覚まさなければならない時間が来るのかと秀人は思って、悲しく別れ難い思いに曝されながら目を覚ました。
まずは背伸びをして、それから靴を履いて……隣のベットを見ると田中正樹が気持ち良さそうに寝息を立てていた。
どうやら彼は、寝相が悪いらしい。
とはいえもうそろそろ起きていい時間なので、秀人は放っておく事にした。
そこで、以前正樹が持っていたスマートフォンもどきが、ぶるぶると震えだして、
「起きて起きて! 起きて起きて!」
「ふあーい……ぐぅう」
見知らぬ女の子の声で、起きて起きてと着信メロ?が鳴っている。
けれど正樹は寝ぼけた返事をしながら、再び布団に潜り込む。
だが相変わらずその音というか声は続いている。
「起きて起きて! 起きて起きて!」
「わかってるよ……純子ちゃん……は!」
そこで、秀人が半眼で見ている事に気づいたらしい。
正樹は慌ててその着メロ?を消した。
そして蒼白な顔で秀人を見た。
「……聞いたな」
「聞きたくて聞いたわけじゃない。聞かされたんだ」
「……はあ。さて、起きるか」
そうベットから起き上がって靴を履く。
そして昨日のうちに集めておいた……というか、田中正樹に手渡された荷物を確認して再び詰め直しただけだが。
中にはタオルや下着、この世界の貨幣のようなもの、食料(謎の肉を干した物)と水(普通の人間のふりをする関係上入れておいてください、と注意書きが書かれている)が入っていた。
わざと古ぼけたように作られているリュックサックを背中に背負う。
軽くて良かったと思いながら、そういえば……。
「正樹、移動は馬車か何かか?」
「そうだね。一応、異世界貿易会社ゴランノスポンサーの馬車風の車もあるけれど、そっちの方が目立たなくていいよね。後は徒歩かな」
「徒歩……ものすごく歩くんじゃないのか?」
そんな二つ先の駅まで歩きましょうとか、そんなレベルではすまないような気がして秀人は聞いた。
それに正樹は少し考えてから、
「……短い場所は徒歩。とはいえ野宿をする事もあるかな……」
「……ノエル姫はどうするんだ?」
「お外でお泊りって喜んでいたよ。結界張って寝ればいいかな。ただ、基本馬車で移動の方が、色々と都合がいいんだ。それも乗合馬車ね。それで戦闘に巻き込まれるのが目的かな」
「……何でだ? 民間人は巻き込まないようにした方が良いんじゃないか?」
「……この世界の人たちの感情やら何やらって、僕達の世界とあまり変わらないんだ。その内説明するよ」
ぼかして逃げた正樹だが、あまり知らない方がいい気がしてとりあえず秀人が黙る。
とりあえず知りたい事は聞けたので秀人は頷いた。
そして、城を出ると、門の所でノエル姫とメアという付き人と、王様が達が門の前にいた。
「もう、待ちくたびれたわ」
「ノエル姫は、随分と元気ですね」
「まあね。堂々と城を出れるし」
そんな嬉しそうなノエル姫のすぐ傍で、メアが、
「あ、あの……よろしくおねがいします」
「こちらこそ、よろしくおねがいします」
そう、秀人が答えると、メアが恥ずかしそうに微笑む。
確かに可愛い子だな、と、秀人が思っていると、
「……秀人。なんだか私に対してと感じが違う気がする」
「そうか? そういうつもりは無かったが……ごめん」
「べ、別に謝らないでよ。ただ、やっぱり女の子らしくないのかなって、私」
「これだけの美人さんを、男だと間違える方がおかしい。それにノエル姫の場合、活発なだけでしょう」
それに嬉しそうな顔をしたノエル姫だが、そこで王様が近寄って来て秀人を連れて少しはなれる。
「……勇者秀人。頼むから、ノエルを調子に乗らせるような言動は止めてくれ」
「でも、あれくらい普通ですよ? 女の子だって活発ですし」
「……いやまあ、まだ出会ったばかりだからそう思うのだろう。ほどほどにしておいてくれ」
王様に秀人は釘を刺された。
そんなこんなで、乗合馬車の停留所まで行き、四人は乗り込んだのだった。
秀人は、“賎しき者共”と戦っていた。
それも魔法で一発ではなく、何故か剣を使って。
“賎しき者共”レーダーに、近くに巣があるなと呟いた正樹。
ここで途中下車するのかと思ったら、何やら変な装置を取り出した。
それをいじって暫くして、この乗合馬車は“賎しき者共”に囲まれたのだ。
すると、正樹が、
「勇者ヒデトの出番だと、さあ伝説の剣を使って打ち倒そう」
と、叫んだ。
そして現在、秀人はその“賎しき者共”に一人で立ち向かっていたのである。
後ろでは乗合馬車二一緒に乗っていた人たちが怯えながら、そして、ノエル姫にメア、正樹が傍観している。
敵の個体は三体なので、秀人一人で十分だった。
俊敏に動き回る、狐のような顔つきの、足が八本ある怪物だった。
この“賎しき者共”は、この前のトカゲもどきと同じく、ワニのように口が大きく裂けて牙がむき出しになりぼとぼととその歯の隙間から唾液が零れ落ちていた。
さっさと倒すかと、剣の玩具もどきに触れて力をこめると、秀人の背丈ほどの大きな剣になる。
持てるのかな、と不安に思いながら秀人は持ち上げると箸を手で持っているような軽さだった。
そうすると逆に強度に不安はあるが、大丈夫だろう、それにもしもこれが駄目なら素手で戦えばいいと思って、秀人はその“賎しき者共”に突進する。
走ってくる順番から、左端の一体に秀人は焦点を定める。
二番目に走りよる“賎しき者共”が右側にいるのを横目でちらりと確認して、秀人は左から右に剣を薙いだ。
相変わらず、豆腐の、それも絹ごし豆腐の感覚を手に感じる。
けれど、その秀人の剣は確実にその“賎しき者共”に一撃を加えていた。
ぼとぼとと音を立てて、足のやや上辺りを真っ二つにされて、その“賎しき者共”地面に転がる。
地面に転がってびくびくと痙攣しているのを秀人は確認して、すぐさま次の“賎しき者共”に目を移す。
その剣先を更に右側に薙ぐ。
一番目と二番目の位置から、すぐに二番目を攻撃できるよう、もしくは切り返せるようにと判断して左から横に薙いだのだ。
縦に真っ二つにした方が確実にとどめを刺せる気もしたが、その分持ち上げ、横に移動させる動作が必要になるため、初心者の秀人にはこちらの方が良いだろう自分で刹那に考えた。
そして、ざっと剣が風を切る音とともに、容易に二番目に襲ってきた“賎しき者共”を切り裂いた。
べちゃっと今度は音をたててその“賎しき者共”が地面へと転がる。
そこで、三匹目が急に臆したようにきびすを返すも、秀人は剣を放り投げて串刺しにする。
そのまま“賎しき者共”は動かなくなったのを見て、秀人は近寄り剣を抜く。
もしもの事も考えて、それぞれに一撃を与えて完全に止めを刺してから、秀人は振り返り、正樹達の元に戻り、未だに“賎しき者共”に怯えている一般人に気づいて、
「えっと、倒しましたから、もう大丈夫ですよ?」
そういうと、そこでようやく皆の顔に笑顔が戻る。
そして、そこで正樹が、
「この方は、“賎しき者共”が現れた異変を突き止めるために旅をしている、勇者ヒデトです!」
「そ、そうなのですか。ああ、ありがとうございます」
「今はまだ旅に出たばかりですが、いずれはこの、勇者ヒデトのお陰でこの異変が解決するでしょう!」
「「おおおおおお」」
何やら、羨望の眼差しで秀人は見られる。
それが気恥ずかしくて、けれど感謝されて慕われているのは分るので、
「……頑張らせていただきます。よろしくおねがいします」
そう、秀人は答えたのだった。
次回更新は未定ですがよろしくお願いします。




