物理法則を操る
ホクホク顔のノエル姫だが、ふとおじさん達は不安を覚えたのか、二人ほどのおじさんがノエル姫に、
「ノエル姫、使い方の説明もありますので隣の部屋で、試し射ちをしましょう」
「……こう見えても弓の使いっぷりはそれなりなんだからね」
「それはぜひ拝見したいですね。それにデータも取りたいし」
「別にこの弓に魔力を通しながら矢を放てばいいだけでしょう?」
「そうですが、威力がどの程度可の確認もさせていただきたいので……」
「……これ、異世界人用なの?」
「はい。ですから確認を」
「……まあいいわ」
そうノエル姫が頷いて隣の部屋に入っていった。
そんな彼らを見送りつつ、秀人は正樹に視線を移した。
「それで、どうなんだそのレーダー」
「今確認中。ただその“賎しき者共”の巣の数を記録しているんだけれど、どんどん増えている気がするんだよな……」
「……故障したか」
「というか、秀人の魔法の影響では増えていないよ。この試作品を送ってくれた人のデータを見直していて、やっぱり増えている気がするよなって」
「測定している場所が違うんじゃないか?」
「そうだね。でも大体数は似ていてね……特に、魔道研究所周辺が多いんだよな……」
「それって、意図的にそこを狙ってきているって事か?」
「さあ。他の国でも、そういった研究所周辺に“賎しき者共”の巣が多いんだよね。ただ、それは僕達にはそういう風に見えているだけで、まったく別の理由があるのかもしれない。現状ではまだ、魔道研究所周辺に多いとしかいえないな」
そこまで秀人と話して、正樹は紙に何やら文字を記入しておじさんに渡した。
それを見ておじさんは、すぐに何やら書いて、考え始める。
それをぼんやりと見ていた秀人だが、せっかくの暇な時間なので先ほど言われた魔法の使い方の説明を見ることにした。
ズボンの端につけておいたキーホルダーもどきのうち、魔法を使うための箱に手を触れると、以前見たようなゲームのような攻撃魔法の選択肢が頭に浮かぶ。
よく見ると、選択肢を数秒それに決めようかどうしようかと迷った、他よりも白く輝いた状態にしておくと、その下に魔法の説明について現れる。
この前使った、火竜砲なる魔法を調べて見る事にした。
以前と同じように選択して、発動させずにそのままにしておく。と、
『火竜砲:前方直線型攻撃魔法。有効射程範囲、術者の半径30m未満。術者の手を中心に、直系10cmほどの魔法陣が出現し、その中心の円と同じ幅の炎が一直線状に相手を攻撃します』
その説明を読みながら、秀人は先ほどの事を思いだす。
自分の背丈ほどある魔法陣に、だんだんと広がるように真っ直ぐに放出される炎、そして遠くの山をも貫く射程。
流石にこれは無い。
どう考えてもパワーアップとかを超えていて、これはアレだ、チートという奴だ。
俺、最強、世界を手中に収める事もできるんだぜ! と、秀人は心の中で考えてみたのだが、何でそんなラスボスみたいな生き物にならないといけないんだと思い、興味が無いなと一蹴した。
さて、そんなわけで流石にあれは嫌なので、他の魔法は無いかなと探していくと、あった。
『小さき炎は胸を焦がし、やがてその想いはかの想い人へと燃え上がり、向かっていく求めるしかないかわいそうな恋という檻に囚われた虜囚達の叫び!“恋人達の炎”:この魔法は、マッチに火をつける程度の効果があります。さあ君も大きな声で技名を叫びましょう。ちなみに、技名を叫ばないと発動しないぞ☆』
ちなみに、“恋人達の炎”にラバーズ・ファイアーなる振り仮名が振られている。
その呪文というのは、どうやら、小さき炎は~ “恋人達の炎”までらしい。
それをしばし無言で考えてから、何で威力が弱い魔法はこんなに恥ずかしい事になっているんだ? いや、たまたま作った人が遊び心で入れただけだと、秀人は何に対してか言い訳をする。
というよりも、このおじさん達が考えたのだろうかと、この文章を考えている彼らを想像して……世の中には考えてはいけない世界があると秀人は理解した。
なので次に行こうと、次の弱そうな呪文を探す。
『お前は一つ勘違いをしている。そう、自分が目の前の相手よりも強い、という事だ。そんなお前は、我が冷気の前に朽ち果てるしかないのだ!“氷結の結晶”:この魔法は、ジュースに入れる氷を一つ作り上げる魔法です。格好良く片目を手で隠して、片方の手を前にして叫ぶのだ! ちなみに、技名を叫ばないと発動しないぞ☆]
今度の魔法は、フリーズ・クリスタルと読むらしい。
何だこの罰ゲーム、と思いつつ、もしも戦いで、ノエル姫の前でやるとか……酷い、酷すぎる、そう涙ながらに秀人は思った。
確かに戦闘だからと割り切って、使っていれば慣れるかもしれない。
そして昔の自分であれば、おお、格好良いとなったかもしれない。
だが今の自分は、男子高校生なのだ。
いいか、小学生やら何やらではなく、高校生なのだ。
そんな絶望的な思いにかられながらも、秀人は必死になって他のまともそうな呪文を探す。
けれど、そのどれもが先ほどと同じようなものだった。
だから全てを見終り秀人は顔を蒼白にさせて、傍にいたここのおじさんに、
「あの、あの呪文を口に出して叫ばないといけないのですか?」
「? 呪文? 何の話だ?」
「いえ、ですから……」
「その魔法を選択して、発動させようとすれば終わりだぞ?」
「……技名は?」
「技名って、ああ、登録された名前か? アレは分類上付けられただけだから。そういった説明文はうちの若い者がやっていたはずだが、何か変な事を書いてあったのか?」
「えっと……はい」
「仕方のないやつらだな……」
そう嘆息するおじさんに、秀人は良かったと胸をなでおろす。
これを叫ぶのは恥ずかしすぎるのだ。
というか、どうしてこんな使えなさそうな呪文ばかり……と考えて、あまり使わないだろうから、こう遊び心を入れたのだろう。
あまり驚かせないで欲しいと、秀人は嘆息した。
そこで、ノエル姫が現れる。
ノエル姫はにこにこ笑っているのとは対称的に、おじさん達は真っ青だった。
そんなおじさん達がポツリと呟く。
「物理法則を操る人だった」
意味が分らないが、そこでノエル姫は、
「ね、何処をうっても的の中心に当るでしょう?」
「……良かった、ホーミング機能付けておいて。これで敵だけに当る……」
「……なんだ、弓の機能なのか」
と、ちょっと残念そうなノエル姫。
そんな彼女の言葉と、おじさん達の言葉の意味がよく分らずに秀人は、正樹に小さな声で聞く。
「物理法則を操る人だった、ってどういう意味だ?」
「……うちの世界でもいるだろ? 物理法則を操る人」
そんな超能力者みたいな人間がいるのかと秀人が納得しかけたところで、正樹が嘆息するように付け加えた。
「出来る事と出来ない事が分っていないんだ」
「……なるほど」
どうやらノエル姫の弓は、壊滅的らしい。
そんなノエル姫は、新しい弓という玩具を手に入れて、可愛くはしゃいでいたのだった。
そして秀人達は、次の日に出発することから、その場を後にしたのだった。
次回更新は未定ですがよろしくお願いします。




