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気がつけば異世界?

 桐山秀人(16)は悩んでいた。

 ごく普通の高校生活を歩んでいた秀人だったが、友人の田中正樹が渡してきた変な走り書きに名前を書いたことがそもそもの間違いの始まりだったのだ。


「……空には、ドラゴンぽい物もさっき飛んで行ったし、周りは草とか木とかだし……夢か」


 現実逃避をしながら、桐山秀人はしばし悩んで、頬を引っ張る。

 むちゃくちゃ痛い。

 だがしかし、夢の中で痛いと思うこともありうるのではないだろうか。

 はっきり言って元気良く、よっしゃー、異世界に来たんだぜ、やりたいようにやるんだぜ! という気持ちが全然湧いてこない。

 むしろ怖くて体が震えている。

 それを考えると物語のヒーローは、よほどの精神力の持ち主なのだろう。


「でもいつまでも、ここにいるわけには行かないよな。まずは人の居る場所を探して……もしくは水を得られる場所を探さないと」

 

 この世界が本当に夢かどうかは分らないし、自分のもといた世界と同じ決まりというか、法則で動いているかは分らない。

 それでも、もしもの事を考えるなら動くほうが賢明かもしれない。

 何しろ、日本の山やら何やらで遭難すれば、ヘリで捜索等がなされるかもしれないが、ここはそんなものがあるかどうか分らない世界である。

 そう思いながら、秀人はそのまま真っ直ぐ歩いていくと、道に出た。

 そこそこ人の行き来があるのだろう、雑草があまり生えておらず、車輪の後が見て取れる。

 間違ってもタイヤの跡など無い。

 さて、次はどちらに行こうかと悩み、傍にあった木の棒を立てて、どちらに倒れるかを決める。

 パタンと倒れて山の上の方をさしたので、桐山秀人は反対の方向に歩き出した。

 単に山を登るのが嫌だったというだけでなく、わざわざ好き好んで山の上なんかに、皆住みたくないのだろう……とか色々考えたからである。

 決して面倒だったわけではない。

 そんなわけで、秀人は道を下っていた。

 代わり映えのしない風景所か、どんどん森が深くなっているような気がする。


 悲鳴が聞こえたのは、諦めて登るかと秀人が考え始めたそんな時だった。





「きゃー!」

「悲鳴を上げている暇があったら、持っている棒で叩きなさい! メア!」

「だ、だって、姫様……」

「もう、貸して!  馬車の御者のおじさんも隠れていて! 邪魔だから!」


 快活な少女の声がして、それと同時に幾つか何かが倒れる音がする。

 巻き込まれる危険もあって、秀人はこっそりと様子を見ながら歩いていく。

 その先で見たのは、豪奢な馬車と、その馬車に群がる二足歩行のトカゲのような生き物だった。

 それが数十匹も群がっており、それに向かってドレスを着た少女が突進していく。

 棒を振り回し、2、3匹同時に倒すだけでなく、同時に火の玉のようなものを呼び出して燃やしていく。

 アニメの魔法少女か何かを彷彿とさせるその姿に、秀人は魅入られる。


「本当に異世界なのかも……あっちが終わったら、話を聞こう。言語は何故か理解できるから」


 そう秀人が一人呟く。

 だがそこで、くるりとトカゲのようなものが秀人の方を向いた。

 大きな目玉をぎょろぎょろさせて、何かを探しているようだったが、秀人のいる辺りを真っ直ぐ見据えたかと思うと一気にそちらへと向かって駆けて来る。


「ええ! ま!」


 そのままそのトカゲのようなものは、大きくワニのような口を開いた。

 中には白く尖った歯がぎらぎらと輝いている。

 ここでいきなりわけもわからず死ぬのかと秀人は思った。

 けれど防御するように腕をかざし、目を瞑り、とっさに蹴りを入れる。


 ずりゅ


 キシャアアアアアアア


 豆腐のような柔らかい感触を足と手に覚えて、おそるおそる目を開けると、そのトカゲのような生物は引き裂かれたような肉片になっていた。


 ……。

 異世界決定。感触やら何やらが現実的過ぎる。

 そして自分は特に頑丈な体を持っているらしい。ならば……。


「女の子を助けて、ていうのも主人公っぽくていいよな……」


 心の余裕を得た秀人は、そう、にいっと笑ったのだった。





 突然現れた黒髪黒目のその人は、恐ろしいほどに強かったと、ノエル姫は思った。

 美形ではないが清潔感のある男性で、現れた“賎しき者共”を、素手でいとも簡単に倒していくのである。

 年齢は同じくらいだと思うのだが……その姿がノエルの瞳には酷く輝いて見えた。

 そして、全てを倒してから振り返って、その人は言った。


「あの、大丈夫ですか?」

「ええ、ありがとうございます。あの、貴方は?」

「桐山秀人と申します」


 その名前に聞き覚えがあり、ノエルは少し黙ってから表情を消して、


「はじめまして、勇者、桐山秀人様。藁人形の勇者様」


 そう、人形のような表情で、ノエルは事務的に告げたのだった。  


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