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『デイケアの武器と、おじさんの手』

作者: 遊ぶ人
掲載日:2026/08/01

『デイケアの武器と、おじさんの手』

『デイケアの武器と、おじさんの手』


 連日の猛暑のせいで、朝のラジオ体操は1ヶ月の休止に入った。


 おかげで今日の起床は午後14時30分。


 すっかり遅い目覚めだ。


 50歳、独身。俺がわざわざメンタルクリニックのデイケアに通う理由は、至ってシンプル。


 50歳のガールフレンドを探すためだ。


 今日も若い熱気に包まれた部屋で、SST(社会生活技能訓練)のプログラムが始まった。


 今回のお題は「地下で一人暮らしをする人に必要な、最小限の生活必需品」。


 メンバーたちが机を囲み、あれこれと意見を出し合う。


 その様子を、精神保健福祉士(PSW)の職員が鋭い目で観察していた。


 彼らは僕たちを支援しながらも、意見の中に潜む「心の病気の危険サイン」を決して見逃さない。彼らは

 健康なプロだ。


 自分の身をしっかり守りながら、実にしたたかにお仕事をしている。


 聞けば、ここで10年間のインターンシップを積み、将来は個人営業のカウンセリングで資産を増やすと

 いう明確な目標があるらしい。


 遊んでいるわけではないのだ。


 そんな頼れるPSWの鋭い一喝が、部屋に響いた。


「そこの、告白している一郎!」


 また始まった。


 メンバーの一郎が、プログラム中に女の子を口説いていたのだ。


「相手から返答がなければ、振られたのと同じです!しつこくしない!」


 言われた女の子は、恥ずかしそうにPSWへペコリと頭を下げた。


 だが、一郎はとにかく物分かりがいい。


 さっと気分を切り替えると、間髪入れずに別の女の子へターゲットを移して告白を始めた。


 PSWからこう伝えられた


「一郎は愛情が薄っぺらい!告白ばかりしてないで、プログラムに集中しなさい!」


 PSWの呆れた声が飛ぶ。


 バツが悪くなったのか、一郎は隣にいた俺——50歳の中年おじさんに小声で話しかけてきた。


「なあ、独身50歳おじさん」


「何でしょうか?」


 一郎は真剣な顔で、とんでもないことを訊いてきた。


「僕の武器って、何だか分からないよ。」


 50歳のおじさんは冗談ぽく


「……50歳のおじさんと手、つなげますか?」


「はっはっは」


 俺は思わず吹き出した。


 周りにいた女の子たちからも「くすり」と小さな笑い声が漏れる。


「一郎くん、君の最大の武器は『若さ』だよ」


 そう、実際の一郎はまだ若く、かなりの美男子だ。


 黙って座ってさえいれば、女の子の方からいくらでも寄ってくるだろうに、実にもったいない。


「一郎くん、とにかく今はプログラムに集中しよう」


 俺がそう宥めると、一郎は


「そっか」


 と素直に納得した様子で、再び女の子のことを考えていた。


 まったくしょうもない一郎君。プログラムに参加しない。


 どんな事に一郎君は向き合ったか分からない。


 困ったな。


 一郎君はやっとプログラムに考えを向けた


「一人暮らしに必要なもの、か……」


 若さという最強の武器を持った迷えるイケメンは、地下でのプログラム新生活に必要な物や手続きについ

 て考え始めた。


 一人暮らしに思いを馳せながら、真面目な顔で生活必需品を考え始めた。

気楽に読んで。

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