神は、世界を理解していない
世界が、軋んでいる。
それは数値としても、
感覚としても、はっきり分かった。
【世界安定度:低下傾向】
【局所補正:増加】
「……やっぱり、か」
小さく息を吐く。
予想はしていた。
だが、実際に“世界の反応”として突きつけられると、
胸の奥が少し重くなる。
⸻
「お前は、やりすぎだ」
神の声が、背後から響く。
振り返ると、
そこに“神”がいた。
以前よりも、
輪郭が曖昧だ。
存在が、少しずつ薄れている。
「……やりすぎ、ですか」
俺は、すぐに否定しなかった。
否定できるほど、
自分の選択に自信があるわけでもない。
⸻
「世界は、自分で回るものだ」
神は、そう言った。
「お前が手を入れれば入れるほど、
世界はお前に依存する」
「それは、正しい未来じゃない」
その言葉は、
一見すると正論だった。
だからこそ、
俺は一拍、考える。
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「……質問してもいいですか」
神は、黙って頷いた。
「この世界が“自分で回る”と、
本気で思っていますか」
神の表情が、わずかに歪む。
⸻
「勇者が生まれる前に戦争が起きる」
「倫理が未定義のまま、
力だけが先に配られている」
「それでも、
世界は“自然に”良くなると?」
声を荒げないよう、
言葉を選ぶ。
感情でぶつかれば、
議論にならない。
⸻
神は、少し困ったように笑った。
「……それが、世界だ」
その答えを聞いた瞬間、
理解してしまった。
ああ、なるほど。
⸻
「あなたは——」
俺は、言葉を探す。
失礼にならないように。
だが、誤魔化さないように。
「世界を、信じすぎている」
⸻
神は、否定しなかった。
それが、答えだった。
⸻
「あなたは、この世界を創った」
「でも……」
俺は、静かに続ける。
「設計したわけじゃない」
神の視線が、こちらを向く。
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「偶然と奇跡に任せて、
『きっと上手くいく』と祈っている」
「それは、
管理でも、導きでもない」
「——放置です」
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空気が、張り詰める。
神の存在が、
わずかに揺らいだ。
「……それでも」
神は、低く言う。
「お前の修正は、世界を壊す」
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「壊しますよ」
俺は、即答した。
だが、続ける。
「正確には——」
「壊れていることを、露呈させる」
⸻
世界を覗く。
修正を入れた地域では、
確かに混乱が起きている。
だが同時に——
人々は、考え始めている。
「なぜ、こうなったのか」
「どうすれば、繰り返さないのか」
⸻
「痛みのない成長は、ありません」
「あなたは、それを恐れている」
神は、何も言わない。
⸻
「……あなたは、神だ」
「でも」
俺は、静かに言った。
「世界を“理解”してはいない」
⸻
その瞬間、
ログが割り込む。
【世界防衛機構:観測】
【管理者干渉率:上昇】
神が、目を伏せる。
「……もう、戻れないな」
⸻
「ええ」
俺は、頷く。
「でも、戻る気はありません」
⸻
神は、消え際に言った。
「世界は、お前を許さない」
「やがて、
お前を排除しようとする」
⸻
「でしょうね」
俺は、静かに答える。
「それでも」
「誰かが、
“考える役”をやらないといけない」
⸻
神の姿が、完全に消える。
残されたのは、
静かに回り続ける世界だけだ。
⸻
俺は、世界を見下ろす。
英雄も、魔王も、
まだ“役割”に過ぎない。
「……さて」
小さく息を吸う。
「次は、どこから壊れ始める?」
⸻
世界は、答えない。
だが——
確実に、こちらを“見ている”。




