世界は、修正者を許さない
※本話では、世界からの“反撃”が始まります
違和感は、いつも小さなところから始まる。
俺は、世界全体を俯瞰している。
だからこそ、ほんのわずかな“ノイズ”にも気づく。
それは数値の異常でも、警告でもなかった。
——祈りだ。
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辺境の集落。
年老いた男が、畑の前で膝をついている。
「どうか……世界を、元に戻してください」
誰に向けた言葉か、本人も分かっていない。
神ではない。
英雄でもない。
それでも、祈りは確かに——
俺に向けられていた。
「……来たか」
俺は、静かに理解する。
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次に表示されたログが、それを裏付けた。
【世界管理者への認識変化】
【分類:災厄/干渉者】
「災厄……ね」
思ったより、直接的だ。
勇者でも、魔王でもなく、
“存在そのものが害”。
世界が、
俺をそう定義し始めている。
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奇妙なのは、
俺が何もしていない場所でも、異変が起きていることだった。
修正していない。
干渉していない。
ただ、存在しているだけだ。
それでも——
【世界防衛機構:部分起動】
「……免疫反応か」
異物が入ったとき、
身体が勝手に排除を始めるように。
世界は今、
俺を“治すべき異常”として扱っている。
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神が、姿を現す。
光は、以前よりも不安定だった。
「ここまでだ」
珍しく、感情を抑えきれていない声。
「これ以上は、戻れない」
俺は、否定しない。
「ええ」
「もう、理解しています」
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「世界は、お前を敵と認識した」
神は、静かに告げる。
「排除のための“役割”が、生まれ始めている」
その言葉の意味は、すぐに証明された。
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最初の排除者は、英雄でも、転生者でもなかった。
ただの人間。
名もなき剣士。
彼は、祈りの延長線上に立っている。
「……あなたが、世界を歪めている存在ですね」
声は、震えていた。
憎しみではない。
恐怖だ。
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彼の剣に、奇妙な感触がある。
【世界補正:付与】
俺にとって——
触れられる存在。
「……なるほど」
世界は、
俺を“殺せる形”を作り始めている。
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剣士は、言う。
「あなたが現れてから、
多くのことが変わりました」
「救われた人もいる。
でも……」
言葉が、詰まる。
「苦しんだ人も、確かにいる」
それは、事実だ。
俺は、何も言えない。
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剣が振るわれる。
触れた瞬間、
意識に強烈なノイズが走る。
【管理権限:一部遮断】
「……っ」
初めて感じる、明確な“痛み”。
世界が、
俺を削っている。
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俺は、反撃しない。
できないのではない。
しない。
排除者を消せば、
世界はさらに強い拒絶反応を起こす。
「……詰み、か」
思わず、そう思ってしまった。
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神が、低く言う。
「お前は、正しすぎた」
「世界は、正しさを望まない」
俺は、かすかに笑う。
「知っています」
「仕様書にも、そう書いてありました」
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そのとき、
別の力が割り込んでくる。
——転生者。
剣士の前に、立ち塞がる。
「待て」
「そいつは……敵じゃない」
世界補正が、一気に移動する。
【転生者:守護対象】
【管理者:排除対象】
二つの“正義”が、並び立つ。
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転生者が、俺を見る。
「……あんたが、世界の中枢か?」
俺は、少し考えてから答える。
「そう見えるなら、
多分、それで合っています」
彼は、苦笑した。
「ややこしいな」
そして、剣を構える。
「でも」
「世界があんたを消そうとしてるなら——」
「俺は、世界と戦う」
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数値が、激しく揺れる。
【世界安定度:急降下】
【世界防衛機構:過負荷】
神が、叫ぶ。
「やめろ!!」
だが、もう止まらない。
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俺は、理解する。
「……そうか」
「世界は、修正者を許さない」
「でも」
「修正者がいない世界も、
長くは持たない」
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仕様書の、最後のページが開く。
【世界の存続条件】
【管理者の存在は、
世界の幸福と無関係である】
俺は、静かに思う。
「……なら、なおさらだ」
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世界が、
本気で俺を殺しに来ている。
それでも、
修正は、やめない。




