世界は、誰の味方でもない
最初に異変を感じたのは、祈りだった。
神への祈りではない。
俺への祈りだ。
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「どうか、あいつを止めてください」
辺境の村。
一人の女が、空に向かって頭を下げている。
俺は、その意味を理解するのに、少し時間がかかった。
「……俺?」
彼女の視線の先には、転生者がいる。
新たに召喚された存在。
魔力出力特化型。
村を守るため、
魔獣の群れを一人で押し返している。
英雄だ。
少なくとも、彼女にとっては。
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だが、数値は正直だった。
【魔力過剰消費】
【周辺地域:地脈不安定化】
このまま続けば、
数年以内に広範囲が死ぬ。
俺は、修正案を探す。
……だが、見つからない。
一行では足りない。
止めれば、村が滅ぶ。
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その瞬間、理解した。
「……選ばされてる」
世界が、俺に選択を強要している。
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俺は、最小限の介入を行った。
【変更】
魔力流出警告の
可視範囲を、一般知覚に反映
ただ、それだけ。
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戦っていた転生者が、突然、動きを止める。
彼の視界にも、
世界の“悲鳴”が見えた。
「……なんだよ、これ」
魔獣に一撃を入れるたび、
遠くで大地が割れる。
彼は、混乱する。
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村人たちは、状況を理解できない。
「どうした!?」
「早く倒してくれ!」
だが、転生者は、動けない。
「……無理だ」
「これ以上やったら……」
次の瞬間。
魔獣が、村に踏み込む。
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叫び声。
炎。
血。
村は、滅びた。
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世界安定度は、微増。
【世界安定度:+0.3】
俺は、その数字を見て、
何も感じなかった。
感じてはいけなかった。
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数日後。
噂が広がる。
「世界を操る存在がいる」
「英雄の力を奪った」
「神をも超える何かだ」
呼び名が、生まれる。
——世界喰らい。
俺は、初めて、
“恐れ”という感情を向けられた。
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神が、俺に告げる。
「お前は、行き過ぎた」
「一つの村が滅んだ」
俺は、静かに返す。
「止めなければ、
もっと多くが滅びました」
「……それでも」
神の声が、揺れる。
「人は、数字では生きない」
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俺は、世界を見渡す。
救われなかった村。
救われた都市。
知らないまま生きる人々。
そして——
俺を呪う者たち。
「ええ」
「だから、
俺は味方になれない」
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祈りが、変質する。
「助けて」
から
「消えてくれ」へ。
世界が、
俺を異物として認識し始めている。
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新たな警告が、点灯する。
【世界管理者への
排除行動 発生確率:36%】
俺は、理解する。
「……来るな」
「来るなよ」
だが、仕様は冷酷だ。
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俺は、仕様書に一行、書き足す。
【世界は、
常に正しい選択をしない】
【だが、
選択の責任は、
必ず誰かが負う】
その“誰か”が、
俺になっただけだ。
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世界は続く。
俺が、嫌われたまま。




