英雄をやめられない理由
※本話は転生者視点を一部含みます。
夜の街は、静かすぎた。
人々は眠っている。
英雄がいるからだ。
内海都市国家の中央広場。
転生者——E-17は、石段に座り、膝に顔を埋めていた。
俺は、彼を“観測”している。
だが、介入はしない。
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(見える……)
彼の視界には、まだ残っている。
昼間、俺が追加した“表示”。
魔法を使った先に、
どこかの村が暗く沈む光景。
(使えば、誰かが苦しむ)
(使わなきゃ……)
背後から、足音が近づく。
「英雄様?」
少女だ。
怪我をしている。
足から血が流れている。
「お願い……治して……」
彼女は、震えている。
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E-17は、固まる。
(治せる)
(でも……)
彼の手が、わずかに震える。
俺には、数値が見えている。
【治療魔法使用時】
→ 周辺農村 魔力枯渇進行 +3%
たった、3%。
数字としては小さい。
だが、積み重なれば——。
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「……ごめん」
E-17は、目を逸らす。
少女は、意味が分からない。
「え……?」
「……できない」
次の瞬間、周囲がざわつく。
「どういうことだ?」
「英雄だろ?」
「見捨てるのか?」
言葉が、刃になる。
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(俺は……)
(何のために来たんだ?)
(人を助けるためだろ?)
彼は、歯を食いしばる。
そして——
手を伸ばした。
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治療魔法が発動する。
少女の傷は、癒える。
歓声が上がる。
「さすがだ!」
「やっぱり英雄様だ!」
E-17は、笑おうとする。
だが、視界の端で——
遠くの村が、さらに暗く沈んだ。
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俺は、静かにログを見る。
【世界安定度:微減】
予測通りだ。
だが、これは失敗ではない。
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その夜、E-17は眠れなかった。
助けた数と、
見捨てたかもしれない数。
両方が、頭から離れない。
(……知ってしまった)
(知らなければ、よかった)
彼は、理解してしまった。
英雄とは、
選ばれる存在ではない。
選び続けさせられる存在だ。
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翌日。
都市の評議会が、彼を呼び出す。
「英雄殿」
「最近、魔法の使用を控えていると聞く」
「不安が広がっている」
言葉は丁寧だ。
だが、意味は一つ。
——働け。
⸻
E-17は、静かに問う。
「俺が魔法を使うと、
他の場所が苦しむとしたら?」
評議員たちは、沈黙する。
やがて、一人が答えた。
「……それでも、我々は救われている」
「救われる者がいるなら、
犠牲も、やむを得ない」
その瞬間、
彼の中で、何かが音を立てて崩れた。
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俺は、神と並んでそれを見ている。
「……これが、転生者の末路だ」
神は、低く言う。
「お前が見せたからだ」
俺は、首を振る。
「いいえ」
「元から、こうなる仕様でした」
「ただ、早まっただけです」
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E-17は、街を出る。
英雄としてではなく、
一人の人間として。
人々は、口々に言う。
「裏切り者だ」
「逃げた」
「期待外れだ」
だが——
世界安定度は、わずかに回復していた。
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俺は、仕様書に新しい一行を書く。
【英雄は、
善ではなく役割である】
【役割は、
人を守らない】
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神が、静かに問う。
「それでも、転生者を呼ぶか?」
俺は、少し考えてから答える。
「……多分、やめられないでしょう」
「それも、仕様ですから」
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次の警告が、点灯する。
【予測:世界管理者への
敵対認識発生】
俺は、理解する。
「……俺が、
悪役になる番か」




