転生者は、世界を見ていない
※本話では、初めて別の転生者が登場します。
警告の内容は、これまでと質が違っていた。
【予測:転生者介入による
世界安定度低下】
自然災害でも、戦争でもない。
意図的な介入。
「……やっぱり来たか」
俺は、ログを辿る。
⸻
場所は、内海に面した都市国家。
魔力濃度は平均。
本来なら、特別な力を持つ者は生まれない。
だが、例外が一つだけあった。
【転生者ID:E-17】
【付与能力:魔力効率無限化】
【影響範囲:局所】
「……また、雑なチートだな」
本人は、若い男の姿をしている。
剣も魔法も、特別に洗練されているわけじゃない。
だが、彼の周囲だけ、
魔力の消費概念が壊れていた。
⸻
彼は、英雄と呼ばれていた。
魔獣を倒し、
災害を防ぎ、
街を救う。
人々は喝采し、神話が生まれる。
「転生者様が来てくれた」
「この国は選ばれている」
……いつもの光景だ。
だが俺には、別のものが見えている。
⸻
【魔力流入量:急増】
【周辺地域:魔力枯渇傾向】
彼が一つ奇跡を起こすたび、
別の場所から、世界の基礎が削られていく。
「局所最適化の極致、か」
本人に悪意はない。
むしろ、善意しかない。
それが一番、厄介だった。
⸻
俺は、転生者の“思考”を観測する。
(俺、ラッキーだよな)
(チートもらって、感謝されて)
(これで世界、良くなるだろ)
彼は、本気でそう思っている。
世界を見ていない。
見える範囲だけを、世界だと思っている。
「……だから、失敗する」
⸻
神が、姿を現す。
「なぜ、止めぬ」
「止めれば、反発が起きます」
俺は淡々と答える。
「彼は、英雄です。
英雄を奪えば、国が壊れる」
神は言う。
「だが、放置すれば、世界が壊れる」
俺は、少しだけ間を置いた。
「ええ。だから——調整します」
⸻
修正対象は、能力そのものではない。
【魔力効率無限化】
これを消せば、即座に混乱が起きる。
俺が選んだのは、別の一行だった。
【魔力流入時、
周辺環境への影響を可視化する】
⸻
転生者の視界が、変わる。
魔法を使うたび、
遠くの村が暗く表示される。
川が細り、
畑が枯れる。
彼は、初めて戸惑う。
「……え?」
二度目の魔法で、
警告が赤くなる。
「な、なんだよこれ……」
⸻
彼は、魔法を止める。
世界が、わずかに安定する。
だが——
民衆がざわつく。
「なぜ助けない?」
「英雄だろ?」
彼は、震えながら言う。
「……使えないんだ」
嘘ではない。
だが、真実でもない。
⸻
世界安定度は、回復に向かう。
【世界安定度:微増】
だが、俺は知っている。
これは、解決ではない。
彼は、いずれ選ぶ。
それでも使うか。
英雄であることを、やめるか。
⸻
神が、静かに言う。
「残酷だな」
俺は、否定しない。
「仕様は、いつも残酷です」
「でも、選択肢を与えました」
⸻
転生者は、夜の街で一人、座り込む。
彼は初めて、
世界が“広い”ことを知った。
その背中を、俺は見つめる。
「……まだ、救える」
「でも、次は分からない」
仕様書に、新たな注意書きが追加される。
【転生者は、
世界を救う存在ではない】
【扱いを誤れば、
世界破壊因子となる】
俺は、静かに次の警告を見る。
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