戦争は仕様で起きる
警告は、予言ではなかった。
計算結果だ。
【予測:魔力過剰地域における
人為的戦争発生確率 68%】
その数値は、時間の経過とともに、静かに上昇していく。
俺は理解していた。
これは「起きるかどうか」ではない。
「……いつ起きるか、だ」
原因は明確だった。
大陸中央部。
魔力が異常に濃く、魔法の行使効率が高い地域。
作物はよく育ち、資源は枯れない。
そこに国が集まり、富と軍事力が集中する。
一方、周縁部。
魔力は薄く、魔法は不安定で、土地は痩せている。
同じ世界、同じ時代。
だが、埋まらない差。
それを固定しているのが——仕様だ。
⸻
俺は、関連する項目を展開する。
【魔力濃度分布:固定】
【魔法適性:出生時決定】
【国家間移動制限:高】
「……生まれた場所で、ほぼ決まる」
努力では覆せない。
才能でもない。
ただ、座標の問題。
「これは……争えと言っているようなものだ」
誰かが悪意をもって設計したわけじゃない。
ただ、直されなかった。
⸻
最初の衝突は、小さかった。
国境沿いの村で、資源を巡る略奪。
それへの報復。
だが、どちらも「正義」を名乗った。
「我々は奪われた」
「我々は守った」
言葉は違っても、
行動は仕様通りだった。
俺には、全部が見えている。
誰が恐怖で動いたか。
誰が煽られたか。
誰が、仕組みに押されたか。
⸻
修正案を考える。
魔力分布を均等にする。
魔法適性を後天成長型にする。
国家の概念を弱める。
どれも、正しい。
だが——
【シミュレーション結果】
→ 生態系崩壊
→ 国家解体
→ 文明後退
「……一行じゃ足りない」
そして俺は、一度に一行しか直せない。
⸻
数値が跳ね上がる。
【戦争発生確率 92%】
ついに、軍が動いた。
魔法兵団が国境を越え、
空が焼け、地面が割れる。
人が、簡単に死ぬ。
俺は、何もできない。
いや、正確には——
下手に動けば、もっと死ぬ。
⸻
そのとき、一つの仕様に目が止まった。
【魔法行使時反動:魔力量に比例】
数値が、低すぎる。
「……これなら」
直接、戦争の原因は触らない。
だが、戦争の“勢い”は削げる。
小さな修正。
局所的で、影響範囲も読める。
俺は、意識を集中させた。
【変更】
魔法行使時反動:× 1.08
たった、8%。
⸻
戦場が、変わる。
魔法を連続で放っていた兵士が、膝をつく。
次の詠唱に、時間がかかる。
魔法は依然として強力だ。
だが、乱発すれば自分が倒れる。
戦争のテンポが、確実に落ちた。
「……効いてる」
撤退が始まる。
全面衝突は、避けられた。
⸻
だが、警告が鳴る。
【副作用:非戦闘地域における
医療魔法成功率 -15%】
治療が失敗する。
助かるはずだった命が、失われる。
俺は、目を逸らせない。
「……それでも」
戦場では、死者数が減っていた。
⸻
神の声が、再び響く。
「お前は、多くを犠牲にした」
俺は、否定しない。
「はい」
「でも、止めました」
神は、沈黙する。
俺は続ける。
「戦争は、人のせいじゃない」
「仕様が、そうさせた」
「だから、直しました」
⸻
数値が、ゆっくりと下がっていく。
【戦争発生確率:41%】
完全には消えない。
また、別の理由で起きるだろう。
それでも、修正ログは積み上がる。
一行ずつ。
⸻
俺は、初めて思った。
「……この役割、
誰かがやらなきゃいけなかった」
誰にも称賛されない。
誰にも感謝されない。
それでも、世界は続いている。
次の警告が表示された。
【予測:転生者介入による
世界安定度低下】
俺は、静かに理解する。
「……次は、転生者か」
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