管理者と、当たらない男
※本話は「管理者/白縫ユウト視点」
世界が、ざわついている。
数値ではない。
ログでもない。
——感覚だ。
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白縫ユウトの前に、
“人の形をした違和感”が立っていた。
兵士たちには見えない。
勇者たちにも、見えない。
だがユウトには、
はっきりと分かる。
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「……思ったより、近くまで来ましたね」
ユウトは、空に向かって話しかけた。
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管理者は、少し黙った。
本来、
“直接会話”は想定していない。
だが——
この個体は、想定外だ。
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「君は、俺が見えているのか」
管理者が問う。
声は、世界の裏側から響く。
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「ええ」
ユウトは、あっさり頷いた。
「正確には、“見えてる”というより……」
少し考えてから、言う。
「世界が、そこを避けてる感じです」
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沈黙。
世界が、息を止める。
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「……それを、いつから?」
管理者の問いは、
慎重だった。
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「最初からです」
ユウトは答える。
「転生した瞬間から、
ずっと“ズレて”ました」
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管理者は、内心で舌打ちした。
——やはり。
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「君は、怖くないのか」
「世界に触れられない」
「奇跡も、加護も、
運命も来ない」
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「怖いですよ」
ユウトは、即答した。
「普通なら」
一拍置いて、続ける。
「でも……」
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「期待されてないのは、楽です」
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その言葉に、
管理者の思考が一瞬止まる。
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「勇者だとか、
世界を救えとか」
ユウトは、肩をすくめた。
「そういうの、
一回も言われなかったので」
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管理者は、理解する。
この少年は——
世界に選ばれなかった。
だからこそ、
世界の外に立っている。
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「君は、俺を敵だと思っているか」
管理者が、核心を投げる。
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ユウトは、少しだけ困った顔をした。
「……分からないです」
正直な答えだった。
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「ただ」
視線を上げる。
「あなたがいなくなったら、
世界、壊れますよね」
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その瞬間、
世界防衛機構のログが跳ねる。
【警告】
【思考干渉レベル上昇】
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管理者は、笑った。
短く、乾いた笑い。
「……よく分かってる」
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「転生者たちは、
自分が正しいと信じている」
「世界も、
今は彼らを選んでいる」
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「でも」
管理者は続ける。
「それは、
一番危険な状態だ」
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ユウトは、頷いた。
「ですよね」
「正しい人しかいない世界って」
少し考えて、
「……息、詰まります」
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沈黙。
二人の間に、
奇妙な安心感が流れる。
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「君は、俺の味方か?」
管理者が、問う。
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ユウトは、首を振った。
「味方、じゃないです」
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「ただ」
少し笑って言う。
「あなたの言ってること、
分かるだけです」
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管理者は、理解した。
——それで、十分だ。
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「なら、頼みがある」
管理者が言う。
「これから、
世界は君を“異物”として排除しに来る」
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「はい」
ユウトは、落ち着いていた。
「さっき、もう来てました」
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「……」
管理者は、目を細める。
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「逃げる気は?」
「ないです」
「戦う?」
「しません」
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「じゃあ、どうする」
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ユウトは、静かに答える。
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「当たらない場所に、立ってます」
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管理者は、
初めて確信した。
この少年は——
武器じゃない。
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世界への“安全装置”だ。
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遠くで、
転生者たちが動き出している。
世界は、
静かに戦争の準備を始めていた。
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ユウトは、
最後にこう言った。
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「一つだけ、聞いていいですか」
「なんだ」
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「あなた、
この世界……好きですよね」
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管理者は、
少しだけ、答えに迷った。
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「嫌いなら、
とっくに壊している」
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ユウトは、満足そうに笑った。
「じゃあ、大丈夫です」
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世界が、
再び動き出す。
だがもう——
歯車は、元には戻らない。




