最弱転生者、触れられない
※本話は「白縫ユウト視点」です
「……あれ?」
最初に思ったのは、
拍子抜けだった。
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Sランク指定魔物《災厄の巨獣》。
街一つを壊滅させ、
勇者三人が撤退した存在。
その巨体が、
今、目の前にいる。
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咆哮。
空気が震え、
地面が割れる。
周囲の兵士たちは、
すでに逃げ腰だった。
「来るぞ!!」
誰かが叫ぶ。
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ユウトは、
一歩も動かなかった。
剣も抜かない。
魔法も詠唱しない。
ただ、立っている。
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——ズレた。
世界が、
ほんの一瞬、遅れた。
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巨獣の爪が、
ユウトを叩き潰す。
……はずだった。
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当たらない。
爪は、
確かにそこにあった。
だが——
“命中した”という結果だけが、
世界に登録されなかった。
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「……?」
巨獣が、首を傾げる。
兵士たちも、
目を見開く。
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「今……何が起きた?」
「回避した……のか?」
「いや、動いてないぞ……」
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二撃目。
今度は、
噛み砕く勢い。
空間が歪むほどの力。
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——また、ズレる。
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当たらない。
衝撃波だけが、
ユウトの後ろを吹き飛ばす。
本人は、無傷。
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「……ああ」
ユウトは、ようやく理解した。
「あ、これ……」
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三撃目。
四撃目。
五撃目。
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全部、
当たらない。
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「バ、バカな……!」
勇者の一人が、
声を震わせる。
「未来予知か!?」
「いや、反応速度が異常すぎる!」
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ユウトは、首を振る。
「違います」
静かな声だった。
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「避けてないです」
「——触れられてないだけです」
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その瞬間。
世界が、
軋む。
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【警告】
【優先度判定エラー】
【対象:白縫ユウト】
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巨獣が、
吼える。
本能が、
理解していた。
こいつは、危険だ。
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魔力砲撃。
災厄級の一撃。
街を消し飛ばす力。
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ユウトは、
少しだけ、前に出る。
「それ以上は、やめてください」
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——世界が、止まる。
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魔力が、
発動しない。
正確には——
発動したことにできない。
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「……は?」
勇者が、声を失う。
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ユウトは、
巨獣を見上げた。
「あなた、悪くないですよ」
「ただ、世界が……」
一拍置いて、
「今、あなたを許可してないだけです」
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巨獣が、
崩れ落ちる。
倒されたのではない。
存在が“終了処理”された。
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沈黙。
風の音だけが、残る。
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「……な、なんだよ……」
誰かが、呟く。
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ユウトは、
振り返る。
勇者たちと、
兵士たち。
全員が、
距離を取っていた。
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「……怖がらなくていいですよ」
少し、困ったように笑う。
「僕、攻撃できないので」
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——それが、
一番怖かった。
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その時。
ユウトの視界の端に、
文字が浮かぶ。
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【観測強化】
【管理者:接近中】
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「……あ」
ユウトは、
空を見上げる。
「やっと、気づきました?」
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誰もいないはずの場所。
だが、
確かに“誰か”がいる。
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ユウトは、
小さく手を振った。
「こんにちは」
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遠くで、
世界が悲鳴を上げた。




