勇者は、選ばれたはずだった
※本話は「転生者視点」です
この世界に来た時、
俺は確信していた。
——自分は、勇者だ。
そう言われたわけじゃない。
だが、疑う理由もなかった。
スキルは揃っている。
知識もある。
神の声も、聞こえた。
「これで、役目は果たせる」
そう思っていた。
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最初の戦いは、
あまりにも順調だった。
強くなり、
勝ち、
人に感謝される。
世界は、
ちゃんと報いてくれる。
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だが——
最近、歯車が噛み合わない。
「……遅いな」
神託が、来ない。
遅れることはあっても、
消えることはなかったはずだ。
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別の転生者と、話をした。
「俺もだ」
「神、静かすぎないか?」
冗談めかした声の裏に、
不安が滲んでいる。
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戦争は、途中で止まった。
魔王軍が、撤退した。
理由は、分からない。
英雄の活躍でもない。
奇跡でもない。
「……誰が、止めた?」
答えは、ない。
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違和感が、積み重なる。
勇者なら、
俺たちが解決するはずだ。
なのに、
世界が先に動いている。
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「……なあ」
仲間が言った。
「俺たち、
本当に“必要”なのか?」
その言葉に、
胸がざわつく。
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神に、祈る。
だが返ってくるのは、
曖昧な感覚だけ。
はっきりした言葉は、ない。
「……どうなってる」
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古い神殿で、
記録を見つけた。
【勇者は、世界が必要とした時に現れる】
【例外が発生した場合、調整が入る】
調整。
その単語が、引っかかった。
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「……誰が?」
記録の続きは、
破れている。
だが、
別の頁に走り書きがあった。
【管理者】
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胸が、冷える。
神でも、魔王でもない。
世界を、
“仕組みとして見る存在”。
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「……待てよ」
思考を、止めない。
もし——
世界が、
俺たち転生者を
“勇者として使う必要がなくなった”なら?
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「それって……」
喉が、渇く。
「俺たちが、
余計な存在になったってことか?」
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答えは、出ない。
だが——
一つだけ、分かる。
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世界は、
俺たちを中心に回らなくなった。
それだけで、
十分に恐ろしい。
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夜、夢を見る。
神は、現れなかった。
代わりに——
誰かに、観察されている感覚。
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「……」
目を覚ます。
心臓が、速い。
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「俺は、勇者のはずだ」
「なのに……」
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その疑問は、
やがて形を変える。
不安は、
怒りに近いものへ。
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「……誰だ」
「誰が、
世界の主導権を奪った?」
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答えは、まだ名前を持たない。
だが——
物語は、そこへ向かっている。




