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元公爵家執事の俺は婚約破棄されたお嬢様を守りたい 第3章(魔力吸いの大森林)

元公爵家執事の俺は婚約破棄されたお嬢様を守りたい 第3章(2)ギロックたちの秘密

作者: 刻田みのり
掲載日:2025/05/12

「ダニーさん、もう止めて」


 俺に猫パンチのラッシュを放った黒猫が飛び退くと、ジュークがその首の後ろを掴んで持ち上げた。


 ぶらーんとなった黒猫がニャーニャー騒ぐ。


 しばしの間俺と睨み合うと黒猫はふっと笑んだ。やけにニヒルだ。


 もう、とジュークが頬を膨らませ、ニジュウがぺしっと黒猫の頭を叩く。


 黒猫が不服そうに「ニャア」と鳴いた。


「この子はダニーさん」

「ニジュウたちの家のお客さん」

「お客さん?」


 俺は黒猫から目を離さずに訊いた。


「お前らが飼ってるんじゃないのか?」

「飼い主、ジュークたちじゃない」

「ニジュウたち、そんな余裕ない」

「……」


 まあそうだな。


 お子様二人で生きているんだ。とても猫なんて飼える余裕なんかないか。


 となると、こいつは野良か?


「……」


 よく見ると黒猫の首の肉に埋もれるように首輪が填まっていた。


 あ、これフォレストワイヴァーンの皮でできてやがる。固定具の金具もミスリル製だ。高級品かよ、生意気な。


 とか俺が思っていたら黒猫がフフンと鼻で笑いやがった。うわっ、ムカつく。


 黒猫をぶら下げたままジュークがドアを開け、俺は家野中に入った。


 ニジュウが後に続きすぐに俺を追い抜いて家の奥に走って行く。


 外観はさして大きくないが家野中は案外広かった。


 入ってすぐに長方形の天板のついたテーブルがあり、四脚の椅子が二脚ずつ向かい合うように置かれている。


 左手には暖炉のような形をした石造りの箱。古代語で文字が掘られているが俺の立ち位置からだと詳しくは読めない。そこから少し離れた位置に照明用の魔道具が壁に据えられていた。ただし、俺のお嬢様が作った物よりサイズが二回りも大きい上に何だかごつい。センスよりも実用性重視って感じだ。


「珍しい?」


 俺がずっと見ていたからだろう、ジュークが黒猫をぶらーんとさせたまま照明用の魔道具に近づいた。


「これ、マムが作ったのをパクった」

「えっと、あれか」


 俺はちょっと迷ってから訊いた。


「マムや姉妹が亡くなってお前らが旅に出た時に持ち出したってことか?」

「うん」


 ジュークが照明用の魔道具に触れるとごつい照明が白く光った。室内にいるというのに外で陽光に照らされているかのような明るさだ。


「……」


 すげーな、これ。


 見た目はアレだが性能は充分なんじゃね?


「ジェイ、吃驚してる。ジューク、お腹いっぱい」

「それはあれか、満足って言いたいのか?」

「そうとも言う」

「……」


 めんどい。


 ま、喜んでいるならそれでいいか。


 ジュークが黒猫と共に奥野部屋に消える。代わりにニジュウが盆にコップを載せて戻ってきた。


 お、気が利くな。


「ジェイ、少し待ってて」


 ニジュウが腰の小袋から折り畳まれた紙包みを取り出した。


 どうやら粉薬だったようでそれを飲み始める。


 て。


 そのコップ、自分用かよ。


 ……じゃなくて。


「お前、どこか具合が悪いのか?」

「具合が悪いというか、生きるために飲んでる」

「……」


 どういうことだ?


 と、俺が思っていると中空から声がした。



『ああ、ようやく僕ちゃんの出番だねっ!』



「……」


 何か変な声が聞こえた。


 ニジュウが中空を見る。


「天使様だ」



『うんうん、そうだよ。僕ちゃんは天使。とってもとぉーっても可愛い天使なのっ♪』



「……」


 いやこの声。


 お前ファミマだろ。


 まあ精霊王な訳だし、ウィル教的には十天使って呼ばれているんだからあながち間違いでもないんだが。


「という訳で、僕ちゃん降臨でーすっ♪」


 空間から天使の格好をした黒髪の男の子が現れた。


 生命の精霊王ことファミマである。


「わぁ、天使様」


 テンションの上がったニジュウにファミマがうんうんとうなずく。


「はいはい、こんにちは。あ、いつものお願いねっ」

「はーい」


 元気良く返事をするとニジュウが奥の部屋に駆けていく。


 俺はそれを見送ってからファミマに言った。


「随分と気安いな」

「僕ちゃんいつもこんなもんだよ」

「と言うか、ここに来たの初めてじゃないな?」

「そだよ♪」


 俺は軽く目眩がしてきた。


 額を手で抑える。


「あれか? やっぱりジュークとニジュウがお子様だからか? そういうのが好きなのか?」


 確かシスター仮面二号もお子様っぽかったからな。


 あっちは……まあもうちょい歳が上だと思うが。


 むう、とファミマが頬を膨らませた。


「別に僕ちゃんはロリコンじゃないよ。リアじゃあるまいし」

「ああ、そうだな」


 あれ(リア)と一緒にはされたくないか。


 でも、かなりシスター仮面二号に入れ込んでなかったか?


「そりゃね、僕ちゃんもあのギロックたちには気を配っているよ。何せあの子たちは特別だからねっ。けど、アンゴラちゃんはもっと特別だからっ」

「……」


 こいつが特別とか言うとなーんかロリコンみたいに聞こえるんだよなぁ。


 見た目は子供なんだから別にお子様好きでもセーフそうなんだが。


 いや、こいつ実年齢は子供じゃないか。やっぱアウトだな。


 て、ちょい待て。


「ギロックたちは特別なのか? どう特別なんだ?」

「うーん」


 俺の質問にファミマが腕組みした。


 思案するかのように目を瞑る。


「これ言った方がいいのかなぁ。女神様のルールもあるしやたらなことして呼び出しとか調整なんて目に遭ったらアンゴラちゃんのところに遊びに行けなくなっちゃうかもしれないし……」

「……」


 アンゴラちゃん、ね。


 うん、いろいろつっこみたいけど止めておこう。


 面倒な事になっても困るし。


「まあいいや、たぶん必要な情報だろうし話しておこうっと♪」


 あ、決断した。


 でも何だか軽いなぁ。


「あの子たちはね、精霊とホムンクルスを半々に混ぜたキメラなの」

「はい?」


 思わず声が頓狂になった。


 だってそうだろ。


 精霊とホムンクルスを半々に混ぜたキメラだと?


 何だよそれ。


 あいつらは俺の知らない種族とかじゃなかったのかよ。


「ジェイ・ハミルトン」


 ファミマに名前で呼ばれた。


 俺と目を合わせると真面目なトーンで尋ねてくる。


「君は自分のこと人間だと思ってる?」

「……」


 俺は人間だ。


 精霊が身に宿っていたり左拳をぶっ放したりオールレンジ攻撃をしたりと正直常人からかなり離れてしまっているかもしれないが、それでもまだ人間なのだ。


 何よりもあの時お嬢様が俺を人間にしてくれたのだ。


 別の何かになんてならない。


 もちろん狂戦士にもならないぞ。


「俺は人間だ」

「そう」


 ファミマのこの態度。


 こいつ、俺のことを知っているな?


 ああ、そうだな。こんなんでも一応は精霊王か。それなら俺のことを知っていてもおかしくはない。


 しかもこいつが司っているのは「生命」だからな。


 はぁ、とファミマがため息をつく。


 彼は俺をじっと見つめると告げた。


「人造の魔法戦士を作ろうとしている馬鹿がいるんだ」

「……」


 俺の脳裏に一人の魔導師の顔が浮かんだ。


 ファミマが大きく首肯する。


「うん。たぶんそいつで合ってるよ」

「あいつが生きているのか?」

「生きている……と言えば生きていることになるのかな。僕ちゃん的には承服できないけど」

「……」


 どういうことだ?


 俺はファミマを睨みつけた。


「あいつは古代紫竜(エンシェントパープルドラゴン)の尻尾で吹っ飛ばされて炎の中に落ちたんだぞ。村の全てを焼き尽くした業火の中にだ。それで生きていられるはずがない」

「そうだね。けど……」


 ファミマが言いかけたその時、奥のドアが開いた。


 お盆にコップを載せたニジュウが戻ってくる。今度は俺の分もあるようだ。


「わーい、僕ちゃん待ってたよ♪」


 いつもの調子でファミマがコップを受け取る。


 一口飲んでから嬉しそうに笑った。


「やっぱり美味しい。これ、女神様が前に飲ませてくれたサイダーって飲み物に似ているんだよね。この口の中で弾けるような感じが楽しくてすごーく良いっ♪」

「……」


 女神様、か。


 何故かお嬢様の顔が思い浮かび、俺はぶんぶんと頭を振った。


「ジェイ、どした?」

「あーニジュウちゃん、彼のことは放っておいてあげて。人にはどうしても簡単には受け容れられないことがあるんだよ♪」

「なるほどー」


 こくこくと首肯するニジュウ。


 それより、とファミマが空間から拳大の水晶玉を取り出してニジュウにかざした。

「……うん、これといって異常はないみたいだね。お薬はきちんと飲んでるし、これならまだまだ血栓の心配はないかな?」

「ニジュウ、天使様のお薬ちゃんと飲んでる」


 ニジュウがえっへんと胸を張った。


 ファミマがニジュウにふわふわと近寄って頭を撫でる。


「よしよし、偉い偉い」

「えへへー」


 目を細めながらニジュウが嬉しそうに笑う。微笑ましいな。


 とか俺が思ってたら。


「この子たち僕ちゃんのお薬がないと死んじゃうんだ」

「はい?」



 **



「そもそも精霊とホムンクルスを混ぜ合わせようって考えから間違っているんだ」

「そうだそうだ」


 ファミマが賛同するニジュウに満足そうに微笑むとテーブルの上にふわふわと移動していく。


「世の中にはやっちゃいけないことがあってそれはちゃんと守らないといけないんだよ。ましてや命を玩具にするなんて言語道断ッ!」

「そうだそうだ」


 ニジュウが合いの手を入れる。


「……」


 ニジュウ。


 お前、ちゃんとわかってて賛同してるか?


 何となくノリで調子を合わせているようにしか見えないぞ。


 俺は訊いてみた。


「それならニジュウたちギロックは許されるのか? こいつらはその言語道断な真似をした結果なんだろ?」

「この子たちの命に罪はないよ」


 ファミマ。


「別にキメラとして生まれたくて生まれた訳じゃないんだからねっ。悪いのはこの子たちを作った奴。ニジュウちゃんもジュークちゃんも罪はないのッ!」

「てことはたぶんマムとかいう奴が悪、と?」

「そだね」


 ファミマがうなずいた。


「マムことマリコー・ギロックには以前から注意していたんだ。女神プログラムのルールもあるし僕ちゃんが直接断罪することはできなかったけどね」

「マリコー・ギロック」


 それがニジュウたちの生みの親か。


 てか、ギロックというのは種族名ではなくどっちかと言うとファミリーネームみたいなものなのかもな。


 ま、あいつがギロックたちを作ったなんてオチじゃなくて良かったよ。


 あーでもあいつどこかで人造魔法戦士を作っているんだよな。


 俺の手の届く場所にいるならぶちのめしてやるのに。


「……」


 ま、それはさておき。


「マリコー・ギロックはもう死んだんだろ? 断罪とはちょっと違うかもしれないが罰は下ってるんじゃないのか?」

「生きてるよ」


 めっちゃ悔しそうにファミマが言った。


「え」


 ニジュウが目を丸くする。やむなし。


「ニジュウちゃんたちが実験の事故で死んだと思っていたのも仕方ないんだよね。実際、あれは実験を失敗して起こした事故だし」

「じ、じゃあ他の皆は?」

「あ、それは死んでる。あの事故で生き残ったのはマリコーだけだよ」

「……残念」


 ニジュウが俯いた。


 奥のドアが開いて黒猫を抱いたジュークが現れる。


 彼女はファミマの姿を認めたからか小走りに近寄ってきた。


「わぁ、天使様」

「はいはい、ジュークちゃんこんにちは♪」

「ニャア」

「ダニーさんもこんにちは。どう? もうその身体には慣れた?」

「ニャ」


 黒猫が前足を上げて応じた。何だか態度がでかい。猫の癖に精霊王に対する態度じゃないぞ。


 俯いているニジュウニジュークが訊いた。


「ニジュウ、どうした? 腹でも痛い?」

「生きてた」

「?」

「マム、生きてた」

「はぁ?」


 ジュークがあんぐりと口を開けたまま固まってしまう。


 その腕から黒猫がするりと抜け出した。


 とんっとんっと床と椅子を蹴ってテーブルに上がる。


「……」

「……」


 黒猫がじっとりとした視線で俺を見つめてきた。


 それが何だか「おい小僧、お前自分のすべきことを放ってこんなところで何してやがる」と責めているように思えて俺は落ち着かない気分になった。


 ま、まああくまでもそう思えるだけだが。


 うん、やっぱりできるだけ早くノーゼアに帰ろう。


 きっとお嬢様の顔を見ればこの落ち着かない気分も消えてくれるはずだ。


「マリコー・ギロックは生きているんだけどね」


 ファミマの声にはっとすると俺は意識をそちらへと向けた。


「想像がつくかもだけど少し……いやかなりまずいことをしているんだ」


 ファミマの声が硬い。


「マム、何した?」

「……それよりジューシチたちは?」


 ファミマにニジュウが質問するが、それをジュークが遮った。


 ニジュウがかぶりを振る。


「死んでるって。生きてるのマムだけ」

「ガッデムッ!」


 ジュークが怒鳴った。


「いつもいつもいつもいつも、酷い目に遭うのジュークたちだけ。マム、実験実験てそればかり。ジュークたち、あの家で自由なかった」

「あ、うん。そだね」


 ファミマがやや引き気味に首肯した。つーか顔が引きつってるぞ。


「きっとジューシチたち、家から出たら自由になれた。なのにもうなれない。死んだら、自由も何もない。ただ不幸」

「……」


 そうだな。


 俺はうなずいた。


 ジュークたちの他の姉妹もマムから離れられたら自由になれたのだろう。


 子供だけの生活は楽ではないだろうがそれでもマムと一緒にいるよりはましなんじゃないかと俺も思うよ。


 なーんかマムからは加害者臭がプンプンするからな。聞いた話からの推測になってしまうけど。


「まあそういうことなんだけどね。マリコーは生き残ってギロックたちは死んだ。旧型のギロックはジュークちゃんとニジュウちゃんだけ。そこまではOK?」


 ふわふわとテーブルの上を漂うファミマが確認するように俺たちを見回した。


 俺たちがうなずくとファミマが続ける。


「で、そのマリコーは今この森に来ている」

「……」

「ニジュウたち、追われてる?」

「マム、ジュークたち逃げたの怒ってる? でもジュークも怒ってる」


 俺、ニジュウ、ジューク。


 反応はそれぞれだがジュークがやけに熱くなってるな。


 俺は収納からウマイボーを取り出した。ハチミツ味です。


「ジューク、ちょっと冷製になれ。ほら、これやるから」

「むう、食べ物でご機嫌取ろうとしても……あ、これ美味しい」


 むすっとしつつもウマイボーを受け取ったジュークが一口食べて夢中になった。


 あっという間に食べ終えたジュークが無言で俺を見る。


 俺はさらにウマイボーを追加した。もちろんハチミツ味です。


 おかわりしたジュークをじいっと眺めていたニジュウに俺はウマイボーを差し出した。こちらはコーン味です。


「ねぇ、僕ちゃんのは?」

「こっちは食べてるから話を進めてくれ」

「ええっ、酷い。そんなの差別だ。僕ちゃん精霊王なのにいじめられるなんて可哀想。このこと女神様に言いつけてやるからねッ!」

「……」


 ブーブー文句垂れてきた。うざい。


 仕方ないのでチーズ味のウマイボーを渡した。


 そしたらもう片方の手を出してきたよ。おい。


「僕ちゃん、オレンジ味も所望するよ」

「……」


 このガキ。


 ついムカついた俺だが「それ」が囁いてくるより早く心をフラットにする。


 つーか、もう一匹いたんだよな。


 テーブルの上で黒猫が両前足をこちらに伸ばしていた。


「……」


 おねだりか? おねだりしているのか?


 お前もウマイボーが欲しいのか?


「ニャ」

「……」


 何だろう。


 今「小僧、俺の分はどうした?」て言われた気がする。


 俺、今日は早く寝た方がいいな。うん、そうしよう。


 とか思ってたら黒猫に跳び蹴りされたよ。めっちゃ痛いよ。


 何なのこの猫。


 普通の猫ではありえない攻撃力だよ。


 俺に一撃食らわせて床に降り立った黒猫をニジュウが拾い上げた。首の後ろを持ってぷらーんとさせています。


「ジェイ、大丈夫?」

「ああ。ニジュウ、すまないがそのままそいつを捕まえておいてくれ」

「わかった」


 黒猫はニャーニャー言っていたがそのうち諦めたのか大人しくなった。


 ちょい場が混乱したがまあいい。


 俺はファミマに向き直った。


「で、そのマリコーは何しにこの森に来たんだ?」

「……この一件に介入するの?」


 一瞬目を丸くしたファミマだったがすぐに余裕のある微笑みを浮かべて俺に尋ねてきた。おいおい、質問を質問で返すなよ。


 ま、いっか。


「さっさと片づけてノーゼアに帰るけどな。もちろんギロックたちも連れて行く」

「連れて行く? ノーゼアに?」


 ファミマの声が裏返ってる。


 いや、俺そこまで変なこと言ってないぞ。


「連れて行ってどうするのさ。まさか一緒に住むつもり? ロリに目覚めちゃった?」


 はっ、とファミマが何かに気づいたかのように目を見開き。


「まさかアンゴラちゃんまでノーゼアに呼び寄せようとか思ってないよね? まあそう思いたくなるのも無理はないけどさ。アンゴラちゃんは超絶可愛いし、僕ちゃんあんまりにも可愛いから永久保存にしたくなって不老不死にしちゃったくらいだし」

「……」

「でも駄目駄目駄目駄目ッ! アンゴラちゃんは僕ちゃんの物なんだからねっ。いくら君が女神様のお気に入りでもアンゴラちゃんは渡さないよッ!」

「……」


 ファミマ。


 お前本当にあのウサミミ少女ことシスター仮面二号が大好きなんだな。


 だが安心しろ。


 俺にそういう趣味はない。


「言っておくが俺はあんなちんちくりん……」


 俺が誤解を解こうとした時、外で爆音が轟いた。



 **



 突然の爆音に驚いた俺たちは建物の外に出た。


「……」

「ワーオ」

「ドッカーン」

「こりゃまた派手にやってくれたね♪」

「ニャ」


 俺、ジューク、ニジュウ、ファミマ、そして黒猫。


 黒猫はこのどさくさに紛れてちゃっかりニジュウの手から逃げ出していた。おのれ。


 俺たちの視線の先にもくもくと上がっている黒煙。集落の入口付近の小屋やら材木置き場やらが炭化して煙を立てている。燃え移ったらしき小屋が数軒炎に包まれているが当然それを消化してくれる住民はいない。


 今、この場にいるのは俺たちと爆発を起こした奴らだけだからな。


 銀髪の人物が四人視認できた。


 ジュークたちより明らかに年上、13から14歳くらいの少女たちだ。騎士服にも似た揃いの白い服を着ている。彼女たちの制服かどうかまでは知らん。


 てか、あの子たちジュークやニジュウと似てね?


 ちょい気になって彼女たちの首をよく見てみる。


「……」


 赤・緑・白・黒……四食のチョーカーがそれぞれに一色ずつ巻かれていた。それだけで判断するのは早計かもしれないがこっちのギロックの姉妹なのではないかと思ってしまう。


「あれ何? チビッコじゃないってどゆこと?」

「ずるい、ニジュウより大人」


 ジュークとニジュウが驚いているが何か驚きのポイントが違う。というかそこ?


 ファミマが心底嫌そうに眉を顰めた。


「人為的に生命の成長速度を速めたんだね。あの子たちは生まれてまだ一ヶ月ってところだよ」

「はい?」


 俺は耳を疑った。


 四人の少女たちはどう見ても生後一ヶ月ではない。


 人為的に生命の成長速度を速めた?


 魔法か何かでか?


 と、俺が信じられずにいるとどこからともなく槍のようなものが降ってきた。


 それも雨あられと。


「うおっ」

「わ・わ・わ・わ・わ」

水盾(アクアシールド)ッ!」

「ニャニャ(防御奥義、猛虎堅固拳(タイガーハードナックル)ッ!)」


 不意を突かれて慌てる俺とニジュウ。


 腰の小袋から灰色の魔石を取り出し万能銃にセットすると、叫びながら銃口を天に向けて引き金を引くジューク。


 軽い音と共に銃口から水色の何かが発射され、送れて白い煙が漂う。


 そして、ニャーニャー喚きながらとても猫とは思えぬ跳躍力でジャンプする黒猫。


 万能銃から撃ち出された水色の何かが俺たちの頭上で光り輝きうっすらと水色の膜をドーム状に展開した。


 その膜によって大部分の槍が防がれるが何本かは膜を突き抜け俺たちへと迫る。


 だが、跳躍した黒猫が前足を振ると巨大な虎のようなエフェクトが現れ咆哮だけで残り全ての槍を弾いた。さらに右前足を振って一瞬で弾いた槍を砕いていく。


「……」


 てか、何あれ?


 いや、ジュークの万能銃も凄いけどまあそっちは脇に置くとして。


 黒猫のあの技は何なの?


 どこかの元Sランク冒険者で今は公爵家筆頭執事の技にすごーくよく似てるんですけど。


 えっ、パクリ?


 猫の癖に親父の技パクったの?


 じゃなくて!


 あれ、おかしいよね?


 猫にできることじゃないよね?


 少なくとも俺は猫があんなことできるなんて聞いたことないんですけど。


 それとも最近の猫は奥義の一つくらい修得しているのが常識なの?


 いや仮にそうだとしてもあれって親父がカミュとかいう勇者から学んで修得した技だよ? そんなやたらに覚えられるような技じゃないよ?


 ああでもその勇者って変わり者だったそうだから猫に奥義とか教えたりしてるのかな?


「……」


 えっと。


 ちょい待って。今ウマイボー(ハチミツ味)を食べて落ち着くから。


 俺が収納からウマイボー(ハチミツ味)を出して食べようとするとふわふわと漂っていたファミマがその手を止めてふるふると首を振った。


「いちいちそんなんで食べてたらウマイボーが足りなくなるよ♪」「……」

「……」

「ニャ」

「「あ」」


 俺とファミマが見合っているうちに技を終えた黒猫がウマイボー(ハチミツ味)を掻っ攫っていく。


 酷い。


 ……じゃなくて!


 ジュークと黒猫の活躍(?)を見て反応したのか恐らくは敵かもしれない四人の少女たちがこっちへと駆けて来た。


 いや、もう敵と認識した方がいいか。


 向こうはやる気みたいだし。


 それぞれが槍(赤チョーカー)剣(緑チョーカー)メイス(黒チョーカー)杖(白チョーカー)を武器として所持している。


「……」


 俺の予想が外れていなければあれらの武器にも何かがある……んだろうなぁ。


 ウマイボーを食べ終えた黒猫がニヒルに笑った。


「ニャ、ニャ(ジュークはメイス、ニジュウは槍使いな)」

「わかった」

「ニジュウ、頑張る」

「ニャア(小僧は杖のをやれ)」

「……」


 どうしよう。


 俺、黒猫の言葉が理解できた気がする。


 つーか、ジュークたちも普通に返事してるし。


 これ、猫が俺たちにわかるように喋ってるのか?


 それとも俺たちが猫語を理解できるようになったのか?


 俺が悩んでいると杖使いが走りながら腰の小袋から何かを取り出した。


 南国ジェロームの特産品の一つでもあるパイナップルにもよく似た黄色い何かだ。


 ちなみに俺はまだ食べたことがありません。本からの知識です。


 少女の手には大きすぎるサイズだが杖使いは楽々とそれを投げた。マジか。


 あ、やばい。


 俺は咄嗟に叫んだ。


「親父、猛虎万里壁(タイガーグレートウォール)だっ!」

「ニャ?」

「……」


 あっ、やべっ。


 自分が防御結界を張る余裕もないからって黒猫につい頼っちゃったよ。


 しかも親父と間違えるなんてどうかしている。別人、いや別猫なのに。


 それに、黒猫が猛虎万里壁(タイガーグレートウォール)を使える訳ないのに。本当に俺としたことが……。


「ニャ(おう、任せろ)」


 俺が内心で猛省していると、俺の要請に応えるように黒猫が身構え、一気に力を放出するみたいに前足を天に伸ばした。


 魔力ではなく気合いとも呼べる何かが黒猫を何倍にも大きく肥大化させる。その力が前足を通して天へと向かっていった。


 白い光だ。


 それもとてつもなく白い光。


 その白い光がまるで生きているかのように形を変じ巨大な虎と化す。


 神々しい光に包まれたその巨大な虎が杖使いの投げた何かに特攻して光の中に飲み込んだ。爆発したような轟音が鳴り響いたが俺たちに何の余波もない。ただ大きな音がした、それだけだった。


 ちなみにこれ親父がやった技なら魔力ではなく気合いでやっています。親父曰く「一流の武人なら気合いで山の一つや二つ消し飛ばせないとな」だそうで。そんなもんできるのあんただけだっつーの。


 ま、それはそれとして。


 杖使いが驚愕の面持ちで立ち止まる。


 その口から漏れた言葉は俺にも聞こえた。


「ニジュークの手榴弾が……広範囲殲滅魔法(ニュークリアブラスト)の手榴弾が」

「……」


 おい。


 ちょっと待て。


 確か手榴弾って、投げる前に安全ピンを抜くんじゃないのかよ。


 ……じゃなくて!


 こいつらそんなやばいもん実戦投入してるのか。


 冗談じゃねぇぞ。


「おー、ダニーさん凄い」

「巨大な虎、格好良い」

「ま、まあ、僕ちゃんが本気出したらあんなもんじゃないけどね。アンゴラちゃんが見てないからしないけどさ♪」


 ジューク、ニジュウ、ファミマ。


 てか、ファミマ。


 お前、どうしてそんなに顔を引きつらせているんだ?


 つっこむ暇もなく剣使い……いや剣士が俺に肉迫して剣を振るってくる。細身で片刃の剣は昔お嬢様に教えてもらった刀に酷似していた。ニホンとかいう遠い国の剣だそうだ。


 素手でやり合うのは無謀なのでダーティワークを発動。黒い光のグローブが俺の拳を包んだ。


 俺の能力発現に剣士が頬を緩める。その目に宿るのは好敵手への期待。こいつに退く気はなさそうだ。


 ぶん、と横切りに刀を振るい俺に斬りかかる。


 俺はダーティワークの黒い光でその剣撃を受け止めた。ピクリと動く剣士の眉。次の瞬間には右膝蹴りが放たれる。


 すんでのところで飛び退いて躱し、すぐに飛び込みながらぶん殴った。


「ウダァッ!」


 剣士が刀で受け流す。滑かな動きで身体を後ろに引くと横からのスイングで斬ると見せかけて素早く切っ先を変えて突きを繰り出してきた。


 くっ。


 俺は身体を捻ってそれを回避する。


 剣士が突きを連発した。時折タイミングをずらしながら突いてくるので避けるこちらも気が抜けない。


 俺の中で「それ」が囁いてくる。


 怒れ。


 怒れ。


 怒れ。


 どくんどくんと脈打つ黒い光のグローブ。それを忌避するような目で睨みつけてくる剣士が俺と距離を取って呟く。


「気持ち悪い、絶対邪悪」

「……」


 敵対しているとは言え、こんな娘にそんなこと言われるとちょい傷つくなぁ。


「ニジューナナ、そのままそいつを生け捕りにしなさいっ」

「?」

「ラジャー」


 どこからか女の声がして俺の気が一瞬逸れた。


 ニジューナナと呼ばれた剣士が刀を横に構えて俺に迫る。


 また横振りと見せかけて他に変えるつもりか?


 フェイントを警戒した俺にニジューナナがニヤリとする。


「ムラサメブレードのムラちゃん、冷やしてッ!」


 ニジューナナの声に呼応するように刀の刀身が淡く光る。薄青い光はまわりの空気を冷やしてぼんやりと白く濁らせた。それがだんだんと霧のようになっていく。


「……」


 やばい、視界が。


 焦る俺を嘲笑うようにニジューナナの姿が霧の中に消えた。



 **



 ニジューナナの持つ刀「ムラサメブレードのムラちゃん」によって発生した霧が彼女の姿を消した。


 白く塗り潰された視界の奥でニジューナナの嘲笑が響く。その声は妙に反響していてどこから聞こえているのか判別できなかった。


 明らかに普通ではない状況だ。


 まあ怪しげな刀が作った霧だ。何らかの効果があっても不思議ではない。


 俺は身構えながら神経を研ぎ澄ませた。


 集中、集中。


 ニジューナナの存在を捉えようと意識を集中する。だが、彼女の所在がどうしてもわからなかった。俺を嘲る笑い声が集中を乱しているのかもしれない。


 いや、それ以上に俺の探知や気配察知が役に立っていないのだろう。少なくとも探知はもう駄目だ。使い物になってない。


 打撃。


 斬るのではなく打撃が俺の右膝を襲う。その衝撃と痛みに俺は低く呻くが、どうにか小さく態勢を崩しただけにとどめることができた。


 軽い空気の音とともに今度は左膝を強打される。


 俺はすぐさま攻撃してきた方に拳を放つが当たらない。


 ちっ、めんどい。


 俺がそう毒づき拳の先を睨んでいるとそちらとは反対方向から声がした。


「あれれ? 凍ってない?」

「……」


 ん?


 何のことだ?


 そう疑問を抱きつつ声のした方をぶん殴る。


 しかし手応えはない。


 俺は再び身構えた。


 やっぱりめんどい。


 それに「凍ってない」とはどういうことだ?


 俺は適当にラッシュを放ち牽制する。


 連続でラッシュを繰り返していると耳元でニジューナナが囁いた。


「こっちだよ」


 俺がはっとするよりも早く右肩に衝撃が走る。こちらも打撃だ。


 俺が左拳で打ち込んだ位置にはもうニジューナナはいなかった。


 本当にめんどい。


 つーか、この霧どうにかならないか?


 ニジューナナの動きさえわかればこっちだってどうとでも反撃できるのに。


「……」


 俺はふとあることを思い出した。


 これ、いけるか?


 ニジューナナの剣撃が俺の左肩を打ち据える。


 斬ろうとすれば斬れる間合いのはずなのにニジューナナは斬るのではなく打つ攻撃を繰り返している。


 どういう狙いがあるのか……まあ俺を生け捕りにしろという命令があるから殺せないのだろうが、それにしてもこの攻撃には意味があるはずだ。


 でも、そんなのどうでもいいか。


 とにかくぶちのめす。


 それだけだ。


 俺は独りごちた。


「霧で見えないのなら」


 収納を発動してあたりの霧を全て回収する。


 一瞬で晴れた視界の端でニジューナナが余裕の笑みを浮かべて俺を狙っていた。


 それが驚きの表情に変じて動きが止まる。


 俺は一歩で距離を詰めて拳を叩き込んだ。


「ウダァッ!」


 慌ててニジューナナが刀でガードしてくるが俺の拳の方が速い。


 だが。


 ニジューナナの左頬を捉えかけた俺の拳が見えない膜に阻まれた。金属音のような音が響き、スパークが明滅する。


 俺はニジューナナから飛び退き彼女を睨みつけた。


 声。


「ニジューナナ、無事か?」

「ニジューク、助かった」

「あいつ危険。油断、駄目」


 ニジューナナの隣にニジュークが駆け寄って並ぶ。


 その手には杖。


 先端に赤い魔石が填まったいかにもな感じの杖だ。その魔石が妖しく赤く光る。


「賢者の杖のケンちゃん。達成値倍加でお願い」


 杖の魔石が了承するように明滅する。


 俺はいつでも反応できるよう気持ちを引き締めた。


 視界内ではニジュウが槍使いと攻防を繰り広げている。


 ジュークは距離をとりながらもう一人と睨み合ってるし、ファミマはふわふわと漂って戦況を見守っている。


「……」


 ん?


 黒猫は?


 と、ちょい首を横にするとへばってる黒猫がいた。ぐでーっとなってる。


 ファミマが黒猫に声をかけた。


「わぁ、ダニーさん寝てたら駄目でしょ。まだ僕ちゃんたち戦ってる最中なんだからねっ!」

「ニャ、ニャーニャー(この身体はすぐ疲れるんだよ。でなきゃ年のせいだな)」

「だから寝ないでってば。寝たらやばいんだって」

「ニャー(後は任せた)」

「ダニーさぁーんッ!」

「……」


 うん。


 見なかったことにして集中しようっと。


 そう決意しながらニジューナナの振るう刀を躱していく。


 杖を握るニジュークがぶつぶつとつぶやいているがひとまず放置。これ同時は無理。


 俺へと刀で突いてくるニジューナナが叫ぶ。


「凍れぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」

「……」


 俺はひょっとして、と思いつつ黒い光のグローブで受け止めた。


 すかさず収納を発動。


 ニジューナナの手から刀が消えた。おおっ、うまくいったぞ。


「なッ!」


 驚愕するニジューナナの顔に拳を放つ。今度は防げまい。


「ちっ」


 またも見えない膜に攻撃を阻まれる。


 俺は収納から銀玉を取り出した。


 サウザンドナックルは使えない。


 ニジューナナたちがいろいろやっているがそれはそれのようだ。俺の方は魔力吸いの影響のせいでオールレンジ攻撃を発動できなくなっている。


 ま、遠隔操作じゃなくてただの投擲アイテムとして用いればいいだけの話なんだけどな。


 ただ、これの欠点は投げた銀玉を後で回収しないといけないってことだ。何しろ俺専用に調整されたミスリル製の魔道具だからな。使い捨てにはできない。


 ……てことで。


 てめぇは寝てろッ!


「ウダァッ!」


 俺が投げつけた銀玉がニジュークにヒット。


 昏倒するニジュークとともにパリーンと何かが割れる音が響く。


「……」


 俺は無言でニジューナナに向き直った。


 防御を失ったと思しきニジューナナが顔を引きつらせる。


 そこにあるのは恐怖の色。


 俺はぐっと拳を握った。


 煽るように「それ」が囁く。


 怒れ。


 怒れ。


 怒れ。


 俺は殴った。


 拳のラッシュだ。


「ウダダダダダダダダダダダダダダダダ……ウダァッ!」


 最後の一発を振り抜くように放つとズタボロになったニジューナナが後方に吹っ飛ぶ。


 動かなくなったのを目で確認すると俺はジュークと睨み合っているメイス使いへと足を向けた。


 走りながら収納から銀玉を取り出す。


 既に一発使っているのだし拾って回るのは面倒だが使っていくことにしよう。


 銀玉のダメージはそこいらの小石なんて比じゃないくらい強力だぞ。


 ま、まあ当たればだがな。


 思いっきり腕を振って投擲。


 銀玉が一直線に飛んでメイス使いに当たった。ワォ、これ案外いけるかも。


 調子こいてもう一個手にする。


 頭に銀玉を食らってぶっ倒れていたメイス使いがゆっくりと起き上がった。


 こいつ、しぶといな。


 ぶつぶつとメイス使いが何か唱えるとメイスが赤々と輝きだす。


 俺の耳元で声がした。


「ニジューハチの持つメイスも特別製よ。あの子を怒らせたあなたの負けね」

「……」


 この声、すぐ近くから聞こえるのだがどうして声の主はいないんだ?


 立ち止まってまわりを見るがやはり誰か増えた様子はない。


 まあたぶんニジューナナたちの仲間なんだろうが、見えないってのは気味が悪いな。


「ジュークより大人、ずるい奴許さないッ!」


 俺が次の投擲をする前にジュークが万能銃のバンちゃんで発砲した。


 銃口から放たれた何かがニジューハチを襲うがひとりでにメイスがそれを防ぐ。


 メイス自身が生き物のようにニジューハチとは無関係に動いた……そう、俺には見えた。


「あれは自立型ウェポンでスピリチュアルメイスのスピーちゃん。散々実験した甲斐があったわ。でも他の武器も調整と追加のデータが必要ね。また実験しないと」

「……」


 実験、実験て。


 この声、もしやこいつがマリコー・ギロックか?


 訊いてみた。


「あんた、マリコー・ギロックか?」

「正解♪」

「……」


 何だか嬉しそうに返されちゃったよ。


「なあ、声だけ聞こえるんだがあんたはどこにいる? 姿を見せてくれよ」


 見せた瞬間銀玉で仕留めてやるけどな。


「ふふっ、それはお断りするわ」

「そいつは残念」

「そもそも私そこにいないのよ。でも、こうして私にはあなたのことが見えるし声も聞こえる。あなたは私の声が聞こえるのよね? この実験は成功だわ」

「……」


 いろいろ話を聞いた推測ではあるんだが、俺はマリコーがぶっ飛んだやばい加害者女というイメージを抱いていた。


 でも、今話している相手からはそんなにやばさは感じられない。


 何というか、普通だ。ただの実験好きな女としか思えない。


「ところで、あなた私のラボに来ない? その拳を包んでいる黒い光も興味あるし面白そうな実験も思いついちゃったのよね。もし来てくれるなら歓迎するわよ」

「面白そうな実験?」


 何だか嫌な予感しかしない。


「うふふ、雷発生装置の中でどれくらい耐えられるかとか圧力発生装置の中でどれくらい耐えられるかとか真空発生装置の中でどれくらい耐えられるかとか、でなければその黒い光のある状態でのあなたの拳の沸点と融点が何度かとか……ああ、様々な実験が楽しめそうでわくわくしてきたわ」

「……」


 前言撤回。


 こいつ、やばい奴だ。


 いや、やばいとかのレベルじゃないな。


 こいつに捕まったら何をされるかわかったもんじゃないぞ。


 ふふふ、と笑い声を漏らしてマリコーが付け加えた。


「ちなみにこの会話をしている間に次の実験の準備も完了したのよねぇ」

「!」

「それじゃ、ラボで会いましょう」


 ブツッと音がしてそれきりマリコーの声がしなくなった。


 次の実験って何だ?


 俺は警戒を強めながらメイス使いへと近づく。ある程度傍にいないと収納できないからな。


 あのメイスがどんな物であれ、奪ってしまえば脅威にはなるまい。


 さっさとメイス使いを片づけてニジュウの援護に向かうぞ。


 そう思っていると足下に青白い文様が浮かんだ。

 

 

 


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