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お弁当は恋の味

作者: 青空爽

「よし、出来た!」


 私は出来上がったお弁当を見て、満足げに微笑んだ。

 卵焼きに梅干しのおにぎり。それに、大きな唐揚げを二つ。野菜はほうれん草のバター炒め。

 それらを手早くナフキンで包み、お弁当用の巾着袋にしまう。

 時計を見ると、朝の六時だ。

 私は巾着袋を手に持つと、急いで外に向かった。


 外に出ると、ちょうど隣に住むネグも家から出てきたところだった。


「ネグ! おはよう!」


 私が元気よく挨拶をすると、鎧に身を包んだネグがニコリと微笑んだ。


「おはよう。ポーネリア」


 ネグは隣の家に住む幼馴染だ。職業は、素材集め。モンスターの皮や牙を集めてそれを武器屋に卸す仕事をしている。

 毎朝六時に家を出て西の森に向かうので、その時間に合わせて私は毎朝ネグにあるものを渡している。

 私は胸に抱いていた巾着袋をネグに差し出す。


「これ、お弁当。今日もお仕事頑張ってね!」


 そう、お弁当だ。

 私は毎朝ネグにお弁当を渡しているのだ。

 なぜそんなことをしているのかと言うと、ネグにお仕事を頑張って欲しいからだ。それと……それと、図々しいかもしれないけど、私の作った食べ物でネグに元気になって欲しいからだ。

 つまり、私はネグに恋をしているのだ。


 ネグは私のお弁当を受け取ると、ニコリと笑った。


「ポーネリア。いつも悪いな。ありがとう」

「う、ううん! このくらい全然平気よ!」


 ネグはお弁当を仕舞うと西の森に向かって歩き始めた。私はそんなネグに一生懸命手を振り見送ったのだった。


※※※※


 家に帰ると、いつも通り家族の分の朝ご飯を作った。そのあとお洗濯やお掃除をして一通り家事を済ませると、私は居間へ行き、お弁当のレシピが書いてある手作りのノートを開いた。

 今日は唐揚げだったから、明日はハンバーグにしようかしら? ワクワクした気持ちで明日ネグに渡すお弁当のレシピを考える。

 すると、姉のメルムが後ろから、ひょいと私のレシピノートを覗き込んだ。


「ポーネリア。何を見ているの?」

「あ、お姉ちゃん」


 メルムお姉ちゃんは、私の二つ上の姉だ。

 すっごく綺麗で自慢のお姉ちゃんだけど、性格がキツいので私は話しかけられるとちょっとビクビクしてしまう。


「な、なんでもないの」

「ふふ。なんでもないじゃないでしょう? あんたがなにを見ているのか当ててあげようか? あんた、明日ネグ君に作ってあげるお弁当レシピを見てたんでしょう?」


 バレてしまって気恥ずかしくなった私は、えへへと笑う。


「う、うん。ネグに明日もお弁当作ろうと思って」


 私の言葉を聞いて、お姉ちゃんはバカにしたように笑った。


「あはは! あんたネグくんのこと大好きなのねー! でもね、ちょっとは相手の気持ち考えてあげなさいよ!」


 お姉ちゃんの言葉の意味が分からなくて、私はこてんと首を傾けた。


「他人の手作り弁当なんて、嬉しい訳ないじゃない! しかもたいして美味しそうじゃないし! 料理上手でもないくせに手作り弁当なんて作ってんじゃないわよ! あぁ、そうすればネグ君の好感度が稼げると思ってるの? あざとい女ねぇ、あんたは本当」

「……」


 お姉ちゃんは私のレシピ本を取り上げると、それをビリビリと破いた。


「あんたみたいなぶりっ子見てるとイライラすんのよ! ネグ君も、きっとそう思っていると思うわ。あんたのお弁当なんて、本当は食べてないわよ! 多分捨ててるわよ? でも、ネグ君優しいから言えないのよ! あんたが察しなさいよ! 本当、迷惑な妹ねぇ」


 私はスカートの裾を握りしめ、うつむいた。

 泣いてしまわないように、ギュッと唇を噛む。


「そ、そうよね! 私ったらネグの気持ち、全然考えてなかったわ!」


 そんなことを言いながら涙を飲みこみ、うつむいていた顔を上げた。

 なるべく気にしていない風を装いながら笑顔を作る。


「お姉ちゃん。教えてくれてありがとう。私、もうお弁当作るのやめるね!」


 お姉ちゃんは、ふんっと鼻を鳴らした。


「そうしなさい。ネグ君に迷惑かけるんじゃないわよ!」

「……うん」


 私は力無くうつむいたのだった。


※※※※


 それから一週間が経った。

 私は姉に言われた日からぱったりお弁当を作るのをやめてしまった。

 それどころかネグに申し訳ない気持ちでいっぱいになり、必死に会うのを避けていた。


 そんな時だった。

 ある晩、母と一緒に夕飯の準備をしていたら、玄関のベルが鳴った。


「ポーネリア。出てくれる?」

「うん」


 私はジャガイモの皮剥きをやめて玄関に向かった。

 玄関を開けると、そこにはネグが立っていたのでギョッとした。

 慌てて扉を閉めようと思ったのだが、ドアの隙間に足を挟まれて閉められなかった。


「なんで閉めようとするの?」

「ご、ごめんなさい」


 私はネグの顔がまともに見れなくてうつむいた。


「母さんがパン作ったんだ。その、お裾分(すそわ)け」


 そう言って、ネグは手に持つバスケットを私に差し出した。

 バスケットの中には、ホカホカ湯気を立てた美味しそうなパンが入っていた。


「そ、そう。ありがとう」


 お礼を言って慌ててドアを閉めようと思ったのだが、ネグの足はずっとドアを押さえたままだった。


「あ、あのさ……」


 ネグは気まずそうに私から目を逸らした。


「最近、忙しいの?」

「え? 別に?」

「そ、そっか。じゃあさ、その……」


 ネグは気まずそうにモゴモゴと口を動かした。


「その……。なんで弁当作ってくれないのかな? とか思ったりして……」

「!!」


 私はその瞬間、姉の言葉を思い出して泣きそうになった。慌ててブンブン首を振ると、ネグに向かってニコリと微笑んだ。


「えへへ。ごめんね。今まで迷惑だったよね。他人からお弁当なんて貰いたくないよね。私ったら空気読めなくて毎日作っちゃって……。本当ごめんね、ネグ」


 ネグはびっくりした表情をした。


「嬉しくない訳ないじゃん!」

「で、でも……」


 ネグはブンブン首を横に振ると、力を込めて言った。

 

「ポーネリアの弁当食べると、凄く元気になるし!」

「でも……手作りって、迷惑じゃない? ネグも本当は迷惑だったんだけど、言えなかったんじゃないかなと思って……」

「そんなことないよ! 好きな子が作ってくれる弁当なら、めちゃくちゃ嬉しいよ! ……あ」

 

 言いながらネグは真っ赤になった。

 それを聞いた私も、みるみる赤面していった。


 え……。今の言葉って……。

 顔が熱い。恥ずかしくてうつむきそうになったが、ネグの表情が見たかったので、恐る恐る顔を覗き込む。


 ネグは照れ臭さを誤魔化すように、ゴホンと咳払いをした。


「と、兎に角、全然嫌じゃないから!」

「……」


 ネグがこんなことを言ってくれるなんて……。

 私は照れる気持ちを抑え、勇気を出してニコッと笑った。


「良かった。私も、好きな人に自分の作ったお弁当食べてもらいたかったの」

「え……」


 私たちは真っ赤になった。

 それからお互い顔を見合わせ、えへへと笑い合ったのだった。

読んでくださりありがとうございました。

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