91話 本当のお別れ
気がつくと、木材でできた天井が目に飛び込んできた。
「ここ………は?」
まだ思い出せない。
なにがあったのか………
「雷魚!気が付いたむしか!!」
ムッシー?
「よかったむし…………」
ムッシーが涙を浮かべて俺を見つめる。
何があったんだ?
俺は何で寝てるんだ?
「一週間………意識がなかったんむしよ……………他の皆はなんとか回復したむしけど…………」
すると、宝魚、小魚、晴魚、ノエルが押し掛けてきた。
「「「雷魚!!」」」
全員が涙目だった。
「なんだ?なにが……………!」
そうだ…………………全部思い出した………俺は氷の宮殿の決戦で…………ランスを倒し、シオンにボコボコにされ、シグザルを…………
しばらく沈黙が続いた。
「雷魚………ごめん……」
宝魚が謝る。
「なんで…謝るんだ?」
「………………………」
宝魚は俯いて黙っている。
みんなもだ。
シグザルと仲が良かったのは俺だけじゃない。
他の皆とも、すごく仲が良かった。
仲間そのものだった。
そんな人を亡くしたのだ。
だが、俺はシグザルに言われたことを忘れたわけではない。
「…………私が死んだからって落ち込んだりしないでね。そう、シグザル本人が言ったんだ。落ち込んでなんかいられないよ」
そう、自分に言い聞かせるように言うが、流石に悲しみがとれない。
悲しみと、自分の未熟さに打ちひしがれていた。
まだまだ俺はシグザルを守ると断言できるような実力ではなかった。
俺は……………もっと強くならなくてはならない。
これ以上、仲間につらい思いをさせるわけには………………
「そうだ!師匠は?」
「師匠は無事だよ。でも、活動休止になっちゃったんだ。」
小魚が暗い声で言う。
でも無事ならよかった。
よかったと思ったが、流石に心が晴れない。
シオン。
奴はたしか、魔王軍の2軍王とか言っていた。
2軍王を倒さなきゃ、魔王を倒すなんて無理に決まっている。
もっと強くならなくてはならない。
敗因はなんだ?
シグザルを守れなかった理由…………………
シオンだ………あいつがきたから………あいつさえいなければ………………………
いや、あのとき一番動けたのは…………………………宝魚か…………………………………だから謝ったんだ。
「…………………こういう時……どうやったら立ち直れるんだろうな……」
と呟いた俺にムッシーは明るい声で言う。
「飯むし!」
明るい声だが、どことなく元気がない。
ご飯か。
シグザルが作ってくれた飯………うまかったなー……………
涙がこぼれ出そうになったその時。
「ほら、泣かない!」
シグザルの声が聞こえてきた。
みんなも聞こえてきたのか、顔をあげる。
「横だよ。」
横をみると、シグザルが立っていた。
だが、半透明で光り輝いていた。
「シグザ……ル?」
「そう!私!言ったでしょ?落ち込むなって。みんななら大丈夫だよ!」
シグザル(?)は淡々としゃべりだす。
「私は、ほら!お空から見守ってるから!」
「シグザル……………なんで……」
という俺の質問にこたえた。
「ああ、これは…………死んでも一回だけ、5分だけここに戻ってこれるんだ。」
聞いたことがある気がする。
「落ち込まないでね。絶対に魔王を倒してね。」
「………………………シグザル。見守ってくれるのか?」
「うん!」
「………………なら、もう落ち込んでなんかいられない。シグザル。お前に心配をかかせるわけにはいかないからな。」
と俺が言うと、俺がはめた指輪からゼプト雷魚(もう一人の自分)がでてきた。
「ようやく成長したようだな。俺。」
「ゼプト雷魚!?」
「そう、もう一人のお前。まあ、俺は本来ここにいるべきではない。お前が成長したんで、もうそろそろ帰ろう。」
というゼプト雷魚にノエルはきく、
「帰るって幻覚の森に?」
「いいや、あの世だよ」
「「「!?」」」
「俺は本来、こういう姿だ。」
ゼプト雷魚はそう言うと。
光につつまれ、中年のおっさんになってしまった。
「「「な………」」」
俺達が驚いていると、ゼプト雷魚(?)は続けた。
「実は俺はあの幻覚の森に住んでいた極々普通の一般人でな。ある日、魔王の3軍王に殺されたのだよ。奴の固有魔法は幻覚を見せる。というシンプルながら最強の固有魔法だった。
俺は殺される寸前に奴に呪いをかけられた。 "ここに来る者に幻覚をみせろ" 奴はそう告げた。すると、体が半透明になったのだ。おそらく、幽霊になったのだろう。幽霊になる呪いをかけられたのだ。
使える能力は奴の補助もありながら、範囲内の人間に幻覚をみせる、変身できる。この2つだ。」
なるほど………
「それで、なんで雷魚に変身したまま指輪に入ったの?」
晴魚が聞くと、
「単純にこいつを気に入ったんだよ。指輪に入ったことで、なぜか呪いも解けたしな。もう、成仏できるってことだ。」
「じゃあ、いまはその指輪は空っぽってこと?」
シグザルがきくと、ゼプト雷魚(?)はゆっくりうなずいた。
その目はシグザルに何かを伝えているようだった。
シグザルは何かを感じ取ったようにうなずくと、俺に近づいてきた。
「私は………雷魚。貴方の力になりたい。」
シグザルはそう言うと、俺の指輪に魔力(?)を注ぎだした。
魔力とは少し違う気がする。
魔力より実態感がある。
「いざってときは、私の魔神力を想像して指輪をつけてるこっちの手で全力のパンチをお見舞いしてね。この指輪の魔力が開放されて私の魔神力がつかえるようになる。」
「まじで?」
「うん。一回きりだから本当にいざってときだけ」
すると、シグザルが発光しだした。
「……………もう時間みたい。ちょっとまってね。」
そしてシグザルは魔力を注ぎ終わると、俺達を見渡し、言った。
「これで本当にお別れ。もう、立ち直ったよね?」
「うん。この指輪にシグザルの思いがのってるから」
「よかった。」
すると、晴魚がシグザルに言った。
「シグザルちゃん…………ちょっとの間だったけど楽しかったよ。また、いっしょに筋トレできたらいいね!」
シグザルは笑った。
「フフ!うん!」
ノエルも言った。
「今までありがとうね!また料理食べてね!」
「もちろん!ノエちゃんの料理大好き!」
ムッシーが言った。
「シグザル。君だけは僕を悪く言わなかったむし。さらに、シグザルは強いむし!おまけにかわいいむし…………」
「ありがと!陽気なムッシー、好きだよ!」
宝魚も言う。
「また、剣術教えてやるからな!料理も食べてくれよ!ありがとな!」
「うん!楽しみ!」
小魚も言った。
「雷魚兄ちゃんを好きになってくれてありがとう。いっしょにまたどっか食べに行こうね!」
「うん!すごい食べっぷりだからみてて気持ちよかったよ!」
最後に俺はシグザルを見つめていった。
「……………シグザル………俺なんかを好きになってくれてありがとう。シグザルと旅をしたから……俺は成長できた気がする。シグザルと違う世界にいても、俺達の思いはつながってるよな!」
ここは力強く言おうと思ったが、つい、涙がこぼれ出てしまう。
シグザルも目に涙を浮かべて言った。
「うん!」
シグザルは強く発光していて、今すぐにでも帰ってしまいそうだ。
「じゃあ、これで本当にお別れだね。またね!みんな!」
シグザルが叫ぶと同時に、ゼプト雷魚(?)と共に消え去った。
俺達は見つめ合って笑みを浮かべた。
何も言わずに。
それから数日後……………俺達は完全復活し、4軍王を倒すため、新たな旅に出ることになった。
「そうか、みんな後遺症なしでよかったよ、」
ベットに寝転がっている師匠は言う。
「でも、俺がいなくて大丈夫か?もしよかったら他の聖魔軍に旅に同行してくれって伝えようか?」
という師匠に俺は
「いや!大丈夫!」
と言い切った。
「そうか………………成長したな、雷魚。」
「うん!」
「いってらっしゃい!」
「「「いってきまーす!!!!」」」
ここは、シュカルーネ王国。
師匠が最後の魔力を振り絞って氷の宮殿からワープ魔法を使ったそうだ。
そして、俺達は船に乗り込み、新たな目的地へ向かう。
目指すは、西の大陸……………




