夢中
「ここは……」
『ここは夢の中です』
頭の中に不思議な声がとどいた。優しい声だった。
『何を探しにきたの』
そう言われて、初めて目をひらいた。今まで目を開けることを忘れていた。
ふわふわしている。意識だけあるような感覚。
「なんだろう」
そう言って、何かを探そうとして、手があることに気づいた。
手があることに気づくと、腕があることに気づいた。
手を伸ばしても、周りは白い空間だけでした。
『動かないの』
僕はそこで、足に気づいた。
地面に力をいれると、軽く煙のように立ち上がれた。そのまま宙に浮かべそうだ。
歩いてみる。
でも、ここには何もない。
『上を見ないの』
僕は翼があることに気づいた。
羽ばたくことなくエレベーターのように上がった。浮遊感もない。まるで水中にいる気分だ。空気の膜に包まれているような。
「何もない」
『何でそう思うの』
だって、何もないから。
ただの白い空間だよ。
『そこで、あなたは成長したよ』
僕は時間が動いていることに気づいた。
目覚ましの音で、目を覚ました。
何かあったような、何もなかったような。
忘れているのは――――
時計の針を見る。遅刻の時間だった。
今日も何もないつまらない日だ。記憶にも残らない。
僕は手を伸ばして、時計の音を止めた。
布団から足を出した。
顔をこすり、カバンを取って、リビングに降りた。
「お母さん、なんで起こしてくれないの」
「んー、気持ちよさそうに寝てたから。寝る子は育つって」




