【魔菓匠】の新作は名前の通り天使の甘味で心の声を涙に変える
よろしくお願いします!
「どう?【ミカエルの涙】の味は?」
「ん、んん。美味しい……」
私は友人のヘレナがわざわざ並んで買ってきてくれた虹色に光るチョコレートケーキを口に運んだ。
そのケーキは大聖堂通りに出来た今話題の【魔菓匠】と謳われる『偉大な魔導師でありカリスマ的パティシエ』であるマジェリナ・ショコラの専門店『グラン=ショコラ』の新作らしい。
「ちょっとぉ。も少〜し喜んでくれても良いんじゃない?結構並んだんですけどぉ」
素材の為に危険な森や洞窟を周り、甘みの為に大聖堂図書館の文献を読み漁ったという話は有名で、今やどの菓子職人も魔術を必死に覚えているらしく【魔菓匠】という【個性職】が【一般職】になる快挙をなすかもしれないと町の掲示板の一つで見た事がある。
そうすれば【魔王】と恐れられた『廃都の魔女』を滅ぼした【伝説級の勇者】として【大聖堂】に名を連ね殿堂入りする事になると黄色い色の掲示板にーーー私は魔菓匠を長年担当している記者カリーナさんが好きだったーーー書いてあった。
そんな偉大な魔菓匠にあやかってーーーカリーナさんの影響も合ったと思うーーー人々は女の子が生まれると、挙って『マジェリナ』という女性名をつけた。
あまりに同じ名前が増えた次の世代は、似せた名前をつけるのが大流行り。
マジェリア、マジュニカ、マシェリノ、Etc…。
私のマジョルカもその一つだった。
「マジョリカ、聞いてる?」
だからヘレナにはよく名前を間違えられた。
「あ、ごめんごめん!」とヘレナは謝った。
妹さんがマジュリサっていう名前だから。
もう慣れたけどね。
「そうそう、聞いて!店の前に並んでいた【人形使い】の独り言がうるさ過ぎて心が折れそうになるのを、マジョルカの為と思って二時間頑張ったんだから」
ヘレナは手で口の形を作りパクパクさせて見せた。
【手人形】を使い、【一般技能】の【役割】で、詠唱を複数同時にできたり、分割詠唱をして時間の掛かる大魔法を短時間で行ったり、動物型や人型の人形を使い、一般技能の【傀儡】を使って、攻撃や防御をする人達の事らしい。
きっとヘレナの前に並んでた人は前者。
変わった人とか人と喋るのが苦手な人が多いって聞いたけど、どうやらそうみたいね。
「だから、ほら。元気出して。涙が出るほど美味しいっていうのが名前の由来なんだって」
「うん、ありがとう…、ホントね。とっても美味しいわ……」
そう言って私はもう一口、ミカエルの涙を頬張った。「うぅ、ふぐぅぅ…」と、今の私を解き放つような天使の甘みがだった。
「うわぁぁぁん!!!」
「マジョルカ…」
一気に涙が流れてくる。
ヘレナは無言で手を握ってくれた。
ただその味は絶品で、心だけは虹色に彩ってくれた。
ヘレナの手は温かかった。
そんな風にヘレナが元気づけてくれてるのには訳があった。
夫のセバスが家に帰らない事が増えたから。
元々セバスは一介の【石匠】だった。
少し良い加減で、大雑把なところがあったけれど、私は彼の明るく人懐っこいところに惹かれた。
私たちは永遠を誓い、小さな幸せを噛み締めていた。
そんなある日。
セバスが帰ってくると、とても興奮したように私に駆け寄って来た。
『聞いてくれ、マジョルカ!俺の【個性技能】が【モノリス鉱】、あぁ、えっと無茶苦茶硬い鉱石なんだが、それを砕くのに、適性発揮したんだ!俺らの石匠ギルド【ロスト・シンボル】じゃ俺以外にその石を砕ける奴はいないんだ!だから明日から【職人】から【職長】に格上げになった!その採石のプロジェクトを任される事になったんだ!』
キラキラした瞳で話す彼に私まで嬉しくなっちゃったのを思い出す。
だけど、それからセバスの帰りは遅くなった。
『親方はやる事が多い』とか『他の職人より早く帰るなんてできない』。
お酒くさく、赤い顔した彼は、フラフラとベッドに倒れ込む。
そんな毎日になった。
◯
【ミカエルの涙】のおかげで、私は心が洗われるように涙を流して、少しすっきりとした。
「絶対嘘よ!仕事が終わって酒場で馬鹿騒ぎしてるだけよ。あんな遊び人、別れちゃいなさい!!」
「うん、でも……、仕事に慣れる為だって言ってたし。今だけだと思うし」
ヘレナは煮え切らない私に、代わりに腹を立ててくれた。
ヘレナはいつもそうだった。
気を紛らわすための初級魔法教室に一緒に通ってくれたり、一人ぼっちで夜を待つ私に、覚えたての【伝達魔法】で話しかけてくれて気を紛らわしてくれたり。
「実はね。魔法教室で聞いた話なんだけど」
教室で知り合った人の知り合いが、私と同じようにご主人さんが遊び人だったらしい。
しかし最近、そのご主人が家に帰るようになったという話だった。
「なにやら【リリン】のおかげなんだって」
こんなお菓子食べてみたい。。
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