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静かになった家の中。これでヨシちゃんを自由に探すことができるだろう。レイストたちも呼び戻した。お手伝いさんたちも手伝ってくれるという。
ベルドは屋根裏にはいなかったと呟く。千代子ちゃんに身体を運んでもらって、殺されそうな感じで叫ぶだけのお仕事をした時に、彼は隠れるために屋根裏に上がっているから見てくれたんだね。演技力高くて本当に殺してないよねって迫真の断末魔だったけれど、それをこなしつつヨシちゃんをチェックするベルドは有能だ。石花はあんなにビビってたのに、ベルドの方は片手間なんだもんね。
「石花はどうしたの?」
わたしが尋ねると、フミさんとスミエさん、そして千代子ちゃんは明るい笑顔を浮かべた。
「私が軽く口づけをしたら壊れちゃったの」
「とても従順になりましたよ」
うん、ちょっと怖い。なんかイケナイものを伝授した気分なんだけど。
「宿の末裏に預けて来ました。何か察したようで、何も言われませんでしたよ」
そりゃそうだ。果てはこうなるのかと思えば、きっと何も言えないだろう。
「何か企んでも大丈夫よ! 石花に取り憑いてるから、私がいつでも楽しませてあげられるわ!」
幽霊ガチ勢の取り憑き方こわい。これぞ幽霊という感じだよねー。どこへ逃げても現れるタイプのやつじゃん。
しかし千代子ちゃんが楽しそうというか。ま、いいだろう。これで石花が大人しくなるのなら。千代子ちゃんはともかく、フミさんたちは生身があるもんなぁ。千代子ちゃんが殺されていることを考えたら、フミさんたちだって殺される可能性もあるんだから、彼女たちだって命懸けだ。
「でも石花を怖がらせてる間もヨシちゃんらしき人は見なかったわね」
マキヨ嬢が頷く。もしかしてヨシちゃん、ここには来てないじゃないか?
ベルドはマキヨ嬢とシャクヤ、フミちゃん、スミエさんを見比べる。
「どのくらいの身長だ?」
「ヨシちゃんの背丈はどれくらい?」
わたしが通訳する。
「小柄よ。シャクヤちゃんくらいかしら」
見たところ、シャクヤは150センチ前後に見える。この中だと一番小さいだろう。なら、大柄な人よりは隠しやすいかもしれないなぁ。
「では手分けして探せばいいですね」
レイストが提案して、千代子ちゃんフミちゃん組、スミエさんお手伝いさん組、レイストシャクヤ組と探偵組に分かれた。
とにかく行ってみようとベルドは部屋を出る。マキヨ嬢の部屋にはいないのは間違いないんだし。ベルドが押し入れを見てくれてるんだし。
一つ障子を開ける。和室。その向こうにも襖がある。ずっと千代子ちゃんに運んでもらったから楽してたけど、この家めっちゃ広いんだよね。
千代子ちゃんが見てて、と嬉しそうに手を合わせた。そして、ホイッという掛け声と共に手を開くようにすると、ぱぁんと襖が全て開いた。わぁ、すごい。マキヨ嬢が拍手をする。
「行きましょ! わたしたちはヨシちゃんの名前を呼びながらいきましょうか」
「そうですね。声が届けば、ヨシさんも出てくるでしょうから」
千代子ちゃんたちは奥から探すことを申し出てくれた。ヨシちゃんを呼びながら彼女たちは歩いていく。
じゃ、わたしたちは手近なとこから。覗き込むと部屋の奥に部屋。廊下を挟んでまた部屋。全部畳だ。一部屋一部屋も広い。
ベルドを先頭に、わたしたちは手前の部屋に入った。わたしはマキヨ嬢の肩に乗っかって部屋を捜索する。
床の間がある部屋は、やたら高そうな置物が置いてある。
「甲冑じゃん」
「重そうだな」
「刀ぁ」
「切れるのか?」
「抜いてみたらどうかしら?」
ベルドは慎重に刀を鞘から抜いた。急に出る海外の武士感。
「似合うじゃーん!」
「そうか? ……これ、本物だな。マキヨ君は触るなよ」
「でも持ってみたいわ」
鞘に刀を仕舞い、マキヨ嬢に渡す。
「思ったより軽いわ」
うん、肩にぬいぐるみを乗せた美少女侍が誕生した。いつものワンピースじゃなくて着物、袴だったらそれっぽくて完璧だっ……、いや、そうじゃなくて。
いかんいかん。気が抜けちゃってる。わたしも失敗しちゃいけないと思って、ちょっとは緊張してたみたいだ。やることは全部千代子ちゃんに丸投げとはいえ、一時でも石花に緩まれたらいけないと思ってたしね。あんまり楽しいこと考えてる場合じゃなかったもんね。
で、今ゆるゆるだけども。
えっと。ヨシちゃんだな。これ、考えて分かるのかな?
「ベルドー。ヨシちゃんって……いるかなぁ?」
「少なくともいたのは間違いない」
おや。相変わらずちゃんと分かってるぅ!
「なんで?」
「リルは考えないな……」
「わたしが考えるより早いじゃん。ベルドの方がさ」
ベルドはマキヨ嬢の隣をゆっくり歩きながら、そうだなと上を向いた。
「まず、ヨシさんがここにきているかどうかだが」
「分かんないんでしょ?」
ここに来てないか、殺されてるかもしれないってスミエさんが言ってたもんね。
「そうだな。少なくとも、普通に玄関から入ってくるヨシさんは誰も見てないわけだ。だが、お手伝いさんが話していたことが引っかかる」
「開く……襖ね……」
「そうだな。マキヨ君、怖がらなくても君が幽霊を見てないんだから、それは誰かが開けている。人だろう」
確かに千代子ちゃんもマキヨ嬢も幽霊を見てないんだから、勝手に開く訳がない。
「ということは、ヨシさんがその部屋に潜伏していたんじゃないか。さっきの甲冑みたいな置物の中に入るなりして、ここへ連れられてきたのかもな。もしくは自主的に来たのか……、それはないか」
「そうだね。石花相手ならなさそうだね」
「うん。詳しいことは分からない。だがいずれにしろ、この家に隠されて連れ込まれたのは間違いないんだろう。お手伝いさんにバレないようにしろと言われたのか、部屋にいろと言われたのか。香を炊いていろと言われたのかもしれないな。その時、石花は来ていないわけだから。でも夜は抜け出していたわけだ」
マキヨ嬢がホッとした顔をする。本気で怖かったらしい。




