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4 — 8(秘書末裏さんのお仕事拝見:ホラーです)

ホラーが苦手な方は、次に投稿する分をどうぞ。

 末裏はせかせかと廊下を歩いていた。こんな時にお茶を淹れろだなんてとぼやきながら、お茶セットを乗せたおぼんを持って歩いていた。


 アコニの部下が交代すると言って消えた、その瞬間にお茶を淹れろだ。もう少し早く言えばアコニの部下に淹れさせたのに。いや、それ以前に女中を呼べばいいのだ。彼女たちはそのためにいるのだから。通訳なしでどうやってアコニと喋るつもりなのか。


 そう思いながら、廊下の角を曲がった時だ。ぼとり、と何かが降ってきた。末裏は足元を見る。きよの持っていたぬいぐるみだった。どこから降ってきたんだ?


 しかしきよの持ち物なら放っておくわけにはいかない。拾おうとおぼんを置いた、その瞬間に声が響いた。


「ねぇ、あそぼう」


 末裏は廊下を見回した。今のは子供の声だった。この家には子供なんていないはずだが。


「ねぇ、あそぼう」


 足元から声が聞こえて、末裏はほっとした。なんだ、ぬいぐるみか。喋るぬいぐるみだったのか。


 ぬいぐるみを掴み上げる。石花がきよに返せば、少しでも点数が上がるかもしれない。主人の言うことの気持ち悪さと言ったら、末裏でも嫌だと思うくらいだし。

 しかしこのぬいぐるみも不細工だ。石花の趣味も相当よくないが、きよの趣味もどうかしている。方向性はかなり違うが。


 石花の趣味ときたら。この家に置いてあるものは相当な価値のあるものばかりだ。だが趣味は良くないし、方向性はバラバラだ。

 甲冑を見てかっこいいからと床の間に飾るのはいい。これはかっこいいから理解できる。だが他だ。部屋の天井ギリギリの壺を買ったり、何を描いているかさっぱり分からないような絵画を飾ったり、謎の部族の装束を床の間に置いたりする。あの装束の不気味さと言ったら。挙句の果てには、気に入ったからと言って寝室に裸体の女性像を置いたりするのだ。よくあんな部屋で寝られるものだともはや感心する。

 あれに比べれば、そりゃあ、きよの方が何千倍もマシなのはマシだが。


「ねぇ、あそぼうよ」


 おぼんを持ち上げる。片手だと不安定だ。仕方なくぬいぐるみを腕に抱き、片手を添えた。これで。


「どうしてあそんでくれないの?」

「えっ?」


 ぬいぐるみを見下ろすと、ぬいぐるみの顔は末裏の方を向いている。


 ひっと思わずぬいぐるみを落とす。気味の悪いぬいぐるみは動かない。後ずさって離れた。その背中を冷気が包み込む。


「あら、遊んであげなさいよ」


 耳元で声がする。青ざめた指が末裏の手を這う。この声を知っている。末裏は凍りついた。


「遊んであげるでしょ?」


 有無を言わさないその言葉には覚えがある。けど、そんなはずはない。

 彼女は殺されたのだ。

 ありえない、ありえない!末裏が心の中で繰り返すのに、その声は笑って告げた。


「私、知ってるのよ」


 末裏は真っ青になって首を振る。違う、違う、そんなつもりじゃなかった!


「あなたよね。殺したらいいんじゃないですかって言ったでしょ」


 そうだ、言った。あの女がうるさいのだと石花が騒ぐから、殺したらいいんじゃないですかと軽い気持ちで言った。まさか本当に殺すなんて。


 震え出した末裏の腕を冷たい指はぎゅっと掴んだ。


「でも感謝してるのよ。埋葬しようと言ったのもあなたよね」


 末裏の肩に何かが乗った。末裏は首だと直感する。


「でもひどいわ。私をバラバラにするなんて」


 肩に乗っていたものは床に落ちて、ごとりと音を立てた。末裏は足元を見ずにはいられない。そして見たことを後悔する。

 あの時目を閉じていたはずのその首は、こちらをしっかり睨みつけていた。恨みのこもった視線で。青ざめた肌、乱れた髪。暗い色の唇が笑う。


「ねぇ、一緒に遊ぶでしょう?」


 末裏は狂ったような叫び声をあげて廊下を走り、玄関から飛び出した。そして気付く。誰かが首筋を掴んでいる。


 走り続け、止まれずに末裏は門扉に激突した。

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