表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/193

4 — 5

 何もできないわたしはベルドの手に手を重ねた。どうせ落第点の幽霊だから、影響はない。


 あれ。ベルド、傷跡がある。右肩というか、右胸あたり。短い傷跡だ。怪我したんだな、昔。

 そっと傷跡に触れたら、言葉が返ってきた。


「昔、刺された痕。それ」

「さ、刺されたぁ? 大丈夫だったの?」

「深くない。それに今は元気だろ」


 いや、元気そうではなかったけど、さっき。

 ベルドはゆっくり起き上がった。少し頭をぐらつかせたけど、座ってはいられるようだ。


「具合どう?」

「今は、まぁ。さっきは最悪だった」

「そうだね、見てた……。アレ!?」


 わたしは立ち上がる。ベルドはわたしを()()


「なんでガワなしで会話してるの?」

「ガワ……? ぬいぐるみのことか?」

「そう、ガワ。あれなしだとベルドとはお話できないし、そもそもベルドは見えないじゃん」

「たまにしかな」


 ベルドは枕元に畳んであった服を着る。少々崩した緩い着方だ。


「水ないか。口をゆすぎたい」

「桶あっちへ持っていってたから、水道があるかも」


 しゃべらない方が入っていってた方へ。洗面所があって、水道と、タオルも一式あった。

 ベルドは口をゆすいで、顔も洗ってタオルで拭いた。


「飲める水ないか」

「うーん、それは分かんない」


 別の部屋で、食卓に瓶が一本とグラスが被せてあるのを見つけた。ベルドがおそるおそる水を口にする。


「飲めそう?」

「まぁ。水みたいだな」


 ゆっくりと水を飲むベルドを眺める。いつもと違うのはなんだろう。座椅子にもたれかかって、だるそうだなとは思うんだけど。

 彼が視線をわたしに向けた時、その違和感の正体に気付く。


「瞳孔めっちゃ開いてるよ、ベルド」

「薬の影響だろ。明るいところは眩しいかもな」

「本当に大丈夫?」

「多分な」


 不安だなぁ。


「マキヨ君は?」


 わたしは経緯を説明した。千代子ちゃんとスミエさん、そして石花の奥さんが潜入していることも。ベルドは黙って水を飲んで聞いていた。


「ねぇ、レイストの立ち位置ってなんだろう? 敵? 味方?」

「味方だろうな」

「……これで?」

「これで」


 瓶に絡んでいた針金を外しながらベルドは言った。


「そもそもあの男がマキヨ君の居場所を探してるのは知ってたんだ。そういう問合せは全部祖父と叔父が潰してたからな。だがあの女に直接問い合せられたら潰しようがない」

「あの女って」


 あの女、とベルドは繰り返した。ベルドのお兄さんのお母さんだというところまでしか、わたしは知らない。


「あの女は、できればマキヨ君と手を切らせたいと思ってるようだからな。喜んで情報を差し出すだろう。知られたかもしれないという情報は、叔父から回ってきてた。こうなったら罠にするしかないんだろう」

「罠?」

「うん。あの女に対する罠」


 わたしは少し瞬きして考えた。うーん、なるほど。分からん。どういうこと?


「ぜんっぜん意味分かんない」

「説明してないからな」


 ちょっと横になるわとベルドは寝転がった。座布団を枕にしている。


「あの女は元々、父の兄の妻だ。兄さんは連れ子でウォルダールの血は流れてない」


 寝そべって説明する探偵って斬新だな。わたしはその横に正座して聞いてるから、なかなか訳の分からない絵面になっているに違いない。


「父の兄は亡くなった。そのタイミングで正直追い出したかったんだが、しつこい女でね。父の兄の遺言で、父の愛人にしてくれと書いてあった」

「はーぁ?」


 わたしの表情を見上げて、ベルドは笑った。


「俺もそういう反応した。父の兄は当主だった。それが亡くなったから次の当主は俺の父になる。当主を譲る、ついでに愛人にしろと。祖父たちはそんな話はないと憤った。そりゃそうだ。いくら最期の頼みだと書かれていても、それが前当主の書いたものとは限らない」


 だが、とベルドは淡々と続けた。


「父の兄の処理のために一ヶ月、あの女は館にいた。その間に俺の母が離れで死ぬ事件が起きた。火が出てな。あの女の従者が巻き添えになって死んだとあの女は主張し、責任を取れと。そして母が死んだのをいいことに父の後妻に」

「それ、ベルドのお母さんは無実じゃないの?」


 どう考えても、邪魔だから消したって感じだよね。ものすごく物騒な発想だけど。

 しかしなかなかハードな内容だし、それってお母さん殺されてるかもしれないんじゃないの?めちゃくちゃ淡々と話してるんだけど。


「ま、そうだな。母は表向きは事故死、家の中ではあの女に犯罪者として扱われて、俺は家を出ることになった。出るというか、表向きは叔父の妻の親戚に預けてある扱いだ。実質、祖父さんたちが保護者の叔父預かりになった」

「カンパネルラってその親戚の名前?」

「そうだ。人殺しの息子がウォルダールを名乗るなとあの女は騒いだからな。そのくせ、何か起きればウォルダールの恥と言われるんだがな」


 それはあまりにも理不尽すぎる。どうあっても文句言いたいんだな。


「それでよかったの?」

「祖父さんたちが最もマシな形だと言ったからな。そこから考えるに、父は脅されて仕方なく結婚したんだろう。脅しのネタは母さんかもしれないが、そこははっきりしないな」

「ベルドのお母さんが犯人だと世間に発表されたくなかったら、私と結婚しろ、ってこと?」


 体裁としては困るか。ベルドのお家はどう見てもいいとこだもんね。その中から殺人の犯人が出る、しかもそれが亡くなったとはいえ当主の妻ともなれば、いろいろと困ることになるだろう。

 大変なんだなぁ。こういういいとこのお家って。


「さぁ。多分な。俺も全て知ってるわけじゃないんだ。分からないことの方が多いかもな。中でも一番不思議なのは、結婚する際に契約書を交わしていることだが」

「契約?」

「そう。俺に怪我させたり触れることは許さないと。あの女からしてみれば瑣末なことだったのかもしれないが、どうしてサインをしたのかは不明だし、サインさせる方も俺の親だから分からなくはないが、契約書まで作るのは大袈裟にも思える」


 それは……変わってるね。確かに大事な息子さんだから分かるは分かるけど、契約までするんだってことね。


 そう考えて、わたしはふと最初にあの女を見た時のことを思い出した。めっちゃ我慢したやつ。


「踏まれてたじゃん」

「怪我はしてない。血が出たらアウト」

「触れてたじゃん」


 あー、とベルドが言い淀む。何よ、はっきり言いなさいよ。


「そういう触れるじゃなくてだな。あの、アレだ。俺に手を出したらアウト」

「……えっ?」

「俺と不倫しようとしたらアウト」

※ お話の切れ目の関係で、今日は二話投稿します。これは一話目。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ